2015.08.03
会社は「社員を囲う牢屋」でなく、クリエイティブな場であるべき。dot by dot富永勇亮×衣袋宏輝

会社は「社員を囲う牢屋」でなく、クリエイティブな場であるべき。dot by dot富永勇亮×衣袋宏輝

業界初!?あえて正社員採用せず、チームに所属してもらう「所属メンバー制」を導入したのがdot by dot inc.だ。この制度をつかって同社にジョインしたのは面白法人カヤックを経てフリーで活躍する衣袋宏輝さん。「雇用」でもなく「業務委託」でもない。企業とクリエイターの新しい関係って?

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優秀なクリエイター同士でチームを組む「第三の選択肢」

あえて正社員採用はせず、チームに所属してもらう『所属メンバー制』をdot by dot inc.が考案し、導入した。かいつまんで説明すると、正社員採用と業務委託のハイブリット型。「個人での表現活動にも重きを置きたい」というクリエイターが“組織に所属できる”という形態。その概要がユニークだと話題だ。

・dot by dot inc.名義で活動
・水玉名刺を持つ ※水玉の服は特に着なくても良いです。
(水玉模様はdot by dot inc.企業モチーフ)
・一緒のオフィスで働く ※フルフレックス、用事のあるときに来る感じ。
・社内の諸々の行事に参加
・興味のある案件にプロジェクト単位で参加
・個人名義のプロジェクトは、必要に応じて、dot by dot inc.がマネジメント
 ※スケジューリング、ギャラ交渉、契約関係の代行、進行管理、PR業務など
・必要があれば、法務、経理関係の代行


特に面白いのが会社側が個人名義プロジェクトをマネジメントし、法務・経理業務のサポートを約束していること。この制度を取り入れた背景をdot by dot inc.代表の富永勇亮さんはブログにこう記していた。

「せっかくの才能ある人材に無駄な時間を使わせたくない、自分の好きな事になるべくチャレンジして欲しい、その両方を両立させるために、クリエイターのマネジメントを始めることにした」
「これからの時代、才能ある人は、一つの会社に所属する時代じゃなくなる」
(ブログ「水玉共和国通信」より)


この珍しい制度を取り入れた背景、そして会社とクリエイター、双方にとってのベストな「チームのあり方」を探るべく、制度を導入したdot by dot inc.富永さんと、メンバーとして加わった衣袋宏輝さんにお話を伺った。

フリーランスと会社員、働き方のハイブリッドスタイル

dot by dot inc.富永勇亮さん

dot by dot inc. 代表 富永勇亮さん


― 改めて今回の「所属メンバー制度」を導入した背景から教えてください。


富永:
個人の進化に、会社の制度が追いついていないのではないか?そう感じたからです。今って個人がカンタンに情報に接触でき、仕事を取ってこれる。能力もすごく進化していますよね。作ったものを発表するのも簡単。会社が仕事をとってきて個人にわたすのではなく、個々で情報を取ってきて仕事につなげる、そういった時代になってくるのかな、と。

プロ意識、実力がある人はいろんなところから声がかかるし、複数の企業やチームに所属するのも当たり前になって。会社は社員を囲う「牢屋」ではなくて、クリエイティブが加速する「場」としてあるべきだと考えています。

会社って人数が増えたり社歴が長くなると、どこかの部分で管理ツール的なものの導入が必要になってきたり、業務時間や案件数みたいな分かりやすい評価基準が必要になったりしますよね..。僕らはまだ小さな会社なので、それ以外のやり方を試してみたいなーっと。フリーランスの働き方と会社員のハイブリッドスタイルを模索しています。

…なんて偉そうに話していますが、まだ僕らは会社を立ち上げたばかりで。会社をつくろうと思った時に読んだ本(※)からの受け売りも多いんですけどね(笑)


― ただ、富永さんのなかにも問題意識があったということですよね。よく言われることですが、「従業員」って「従う」と書くわけで…雇用主との主従関係を示していて。


富永:
そうですね。その主従関係ってこれまでは結構正しかったんですよね。「会社が社員を守る」という契約でもあったわけで。ただ、どんどん時代が変わっていくなかで、会社は社員を守り続けることができるか?正しい情報を社員に供給し続けられるのか?ここはすごく懐疑的です。

昔…といっても、ここ20年くらいですが、大きなシフトが起こっているのは明白じゃないですか。昔は分業だった仕事もテクノロジーの進化でマルチタスクになっていたり、個人でできる仕事の領域もむちゃくちゃ広がっていたり。

そう思うと会社側が仕事を取ってきて、社員を従わせて、労働させるという概念そのものが変わっていくんじゃないかと思っています。個人に対して仕事の依頼がきて集合体に還元されるとか。だからもう「主従関係」に意味はないんじゃないですかね。


(※)富永さんが制度導入にあたって参考にした本一覧
『アグリゲーター 知られざる職種 5年後に主役になる働き方』著/柴沼俊一、瀬川明秀 日経BP社
『だから、僕らはこの働き方を選んだ 東京R不動産のフリーエージェント・スタイル』
 著/馬場正尊、林厚見、吉里裕也 ダイヤモンド社
『社畜もフリーもイヤな僕たちが目指す第三の働き方』著/佐藤達郎 あさ出版

個人と会社、それぞれにメリットがある「所属メンバー制度」

― この「所属メンバー制」がもたらす好影響について伺いたいのですが、会社側のメリットとしてはどういうことがあげられるのでしょうか?


富永:
シンプルに「よいキャスティングができる」ということ。この業界では、今、優秀な人がどんどんフリーになっていますよね。なぜ会社を辞めるのか?「創作への高い熱量」と「自由への渇望」があるからだと思っていて。で、僕らはそこを担保できる。お互いにメリットがある形ですよね。

もう1個、既存の会社経営から考えると、いい人材を集めた時のジレンマがあって。「優秀な人材がコスト化する」というもの。その人たちを食べさせていくために仕事をどんどん入れないといけない。スケールだけデカくて全然面白くない仕事もやらなきゃいけない。…そしてみんな疲弊し、離れていく。こういう悪い連鎖が待っています。だから、個人の仕事と、会社の仕事で按分していけば、お互いのリスクを軽減することができます。


― 衣袋さんにも伺いたいのですが、あえてフリーランスでありながらチームにも所属するというメリットはどこにあるのでしょうか?


衣袋:
わかりやすいところでいうと、僕はフロントエンジニアなのでサーバーまわりができないとか、デザインでも紙ができないとか。そういう意味で「チーム」があるだけで急にできることが増える、参加できるプロジェクトの幅が広がるというのが理由の1つですね。

衣袋宏輝さん

dot by dot inc.の所属メンバーとなった衣袋宏輝さん


衣袋:
もうひとつ、チームで仕事を請けられることのメリットは「つくる」ということに集中できること。フリーランスになる時、すごく怖かったのは「辞めたら、ただの下請けみたいな仕事しかこないんじゃないか」ということでした。ただ、意外とそんなこともなく、大きい仕事もやらせてもらえて…逆にそういう仕事って契約書まわりの事務処理だったり、法務まわりの調整だったり、けっこう大変で。全部自分でやらなきゃいけない。メール打ったり、雑務をやったりで、すごいストレスなんですよ。もっとプログラミングして、ものをつくりたかったのに。そこに集中させてもらえるのは大きなメリットだと思います。

あと僕、寂しがり屋だし、サボりぐせがあって(笑)家でひとりだけだと、多分、一日中、TumblrとFacebookをダラっと見てるだけになっちゃう…それくらいネットサーファーなんですけど。

まわりにまじめにやっている人がいると頑張れると言うか。今まで100人ぐらいの会社にいたのに、急に「家で1人でやれ」と言われても、なかなかできないですよ。やっぱり心がそこまで強くないんで。

富永:
ノマドワークスタイルっていい面もあるけど、「チームで作業するという一体感がない」というのが欠点ですよね。やっぱり人って「会う」とか「話す」って大事で。ただ、毎週飲み会があるとか大っ嫌いですけど(笑)

朝礼って週1回ですが、話し合う会とかはあって。もちろん完全なフリーランスで、自分自身を管理できる人はいるし、それはすばらしいこと。同時に人が集まって、人とつながって何か生まれるみたいなところもあると思う。そんな居場所がつくれればと「HOLSTER」 っていうクリエイティブシェアオフィスを共同運営しているのも、そういう背景があります。

コストの概念が、クリエイティブを殺す

dot by dot inc.

― フリーランスになるって「自由になれる」というイメージがありますけど、やってみるまで実感のできない大変さもあるんですね。


富永:
そうですね。なにより衣袋くんの話を聞いていても思ったんですけど、すごい創作への熱量が高いじゃないですか。あと自由への渇望がある(笑)僕はこの両方が好循環を生み出すと思っています。

会社が大きくなると致し方ない部分はありますが、管理ツールみたいなやつを入れて、工数やコストを管理しますよね。結局、「働いた時間」で見積り出すしかない。クリエイティブを人件費として換算する。まあすごく当たり前だし、コストという側面を見れば大切なこと。法定の8時間労働を基準にして、それ以外の作業は「追加コスト」という概念で処理するしかない。

でも、クリエイターである当人からすると、そういった時間での管理って不満しか出てこないんですよ。時間=コストという意識を作り手に植えつけてしまうと、創作の熱量に悪影響がある。話し合いの中で「もうちょっとやりたい」という時だってあるじゃないですか。単価換算×時間みたいな単純式では語れない。もの作りの場所というものに窮屈さみたいなものを導入したくないんですよね。


― ただ、どのようなプロジェクトでも、無限に時間が掛けられるわけではないですよね。ある程度の管理は必要なのかなぁとも…。


富永:
プロジェクトの管理と、働き方の管理はまた別の話ですよね。

「チームのコンセプト」「ゴールに向かう気持ちを共有できる仲間」「自分たちが面白いと思えること」そのコンセンサスさえがあれば、頑張らない人っていないはずなんですよ。一緒に立てたゴールに向かって走るだけ。走るペースはそれぞれ違っていい。

つまり雇用形態は関係なくて「個々が輝く会社にしたい」ということなんです。社名の「dot by dot」は映像の用語で「ピクセル単位が等倍」という意味で「点」が等間隔・等倍で並んでいることを指します。クリエイターってそれぞれ個性のかたまりで「点」だと思っていて、その価値は等倍であってほしい。その「点」が重なった時、柄になって時に新しいものが生み出される…という意味を込めています。

すごい性善説ですけど、プロ意識があるというのが前提ですね。「何となく8時間会社に居て、何となく何かが作れたらいいな」と思っている人なら、大きな組織に行ったほうがいい。「もっと作りたい」というチームに合ったワークスタイルにしていきたいんです。

衣袋:
そういう意味で言うと…さぼると平気でクビになるので(笑)そこがまたすごい緊張感があっていい気はします。結局、結果出せないと次に仕事をもらえないかもしれないし。社員だったら結果が出せなくても何とかやっていけるとは思うんですけど。

富永:
逆に僕らのほうも面白い仕事を持ってこれないと衣袋くんに受けてもらえないわけですよ。社員だったら半ば強制で「これは業務だからやって」って言えばいいだけなので。だから、ある意味これは戦いですね(笑)

衣袋:
そうですね(笑)その緊張感があるからこそいい関係になれるし。

これが正解だとも全然思ってない

― こういった取り組みによって、新しい働き方も増えていきそうですね。


富永:
そうですね。ただ、これって相思相愛の関係で「僕らの作品性と合うかどうか?」も大事で。合わなかったら続かないだろうし、一緒にやっても制度だけが立派で、内実が伴わないということにもなりますよね。

だから「この取り組みをむちゃくちゃ増やすぞ」みたいな気持ちはありません。これが正解だとも全然思ってないんですよ。衣袋くんもやってみて「やっぱ大きな会社へ行くぜ」と言うかもしれないし(笑)やっぱフリーランスのほうがよかったと言うかもしれないし、わからない。

ただ、いろんな働き方があってケースが増えて、当然合う人もいれば、合わない人もいているだろうけど、私たちの制度も、クリエイターにとって、選択肢の1個にはなり得るんじゃないかなと思います。なので、この記事を読んで、我々の活動に興味を持ってくれる方々には、ぜひ会ってみたいですね。


― やらない理由を考えるより、やってみて、どんどん変えていけばいいということですね。今の時代だからこそ「まずはやってみる」ができるわけで。これからの取り組みや挑戦、楽しみにしています。本日はありがとうございました。



▼お二人が関わった最近のdot by dot inc.の作品はコチラ

【Rock 'n' Roll Panty | SPACE SHOWER TV】(※8/4追記)
音楽専門チャンネル スペースシャワーTVのイメージ映像。パンティはロックだ!!ロックンロールの爆音でスカートをめくる装置を開発。映像とスマートフォンで遊べるブラウザゲームを制作。

【Lyric Speaker】
SIXがプロデュースする音楽と同期して歌詞が表示される次世代型スピーカー。歌詞のモーショングラフィックの演出プログラムを中心としたソフトウェアの開発とテクニカルディレクションをSaqooshaと共に担当。第7回SXSWアクセラレーター・コンペティションで「Best Bootstrap Company」を受賞。

【Namie Amuro ”Anything” for Google Chrome】
安室奈美恵のニューアルバム収録曲「Anything」のミュージックビデオ、Google Chromeの拡張機能を使った世界初の作品。

【「進撃の巨人展」360°体感シアター “哮”】
Oculus Riftを使ったバーチャルリアリティコンテンツ。進撃の巨人のアニメーションの世界に入り込む体験できる。上野の森美術館で開催された美術展は26万人が来場し、10万人が“哮”を体験した。大分、大阪、台湾で開催予定。


文 = 白石勝也


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