2017.12.27
高木新平、リアルプロダクトで世界を狙う。ITから政治まで“企み”続けるクリエイターが選ぶ道なき道

高木新平、リアルプロダクトで世界を狙う。ITから政治まで“企み”続けるクリエイターが選ぶ道なき道

変化の波にさらされ続ける時代。クリエイターは世の中に何を問い、何を仕掛けるのか。こんなテーマをNEWPEACE代表の高木新平さん(30)にぶつけた。社会を覆う空気、価値観の変化を鋭く感じ取り、先鋭的なクリエイティブを仕掛けてきた高木さん。彼が次に手がけるのはリアルビジネス? 一体何を企んでいる?

0 0 32 5

[プロフィール] 高木 新平/NEWPEACE CEO
1987年、富山生まれ。早稲田大学卒業後、2010年、(株)博報堂に入社。SNSなどを活用したクリエイティブ開発に携わった後、独立。『よるヒルズ』や『リバ邸』などコンセプト型シェアハウスを各地に立ち上げ、ムーブメントを牽引する。またネット選挙運動解禁を実現した『ONE VOICE CAMPAIGN』などを主導。そのライフスタイルが、NHKなど様々なメディアに取り上げられる。2014年、多様なクリエイターを集め、NEWPEACE Inc.を創業、代表に就任。社会課題からストーリーを組み立てることで、新しい形のブランディングを実践している。

肩書きにおさまらない“高木新平”という存在

ある時は、「自動運転」が日本の高齢化を救うムービーをつくり、現在の交通システムに問題提起する。

ある時は、「卓球」のイメージを塗り替えるために、日本代表ユニフォームデザインから、卓球カフェまでプロデュースする。

ある時は、シェアリングエコノミーを日本に普及させるべく、協会団体からシェアビルの立ち上げまで行う。

これらはすべて、高木新平さん率いるクリエイティブチーム『NEWPEACE』の仕事である。「20世紀をぶち壊す」というビジョンを掲げ、パートナー企業の事業構想・ビジョンから入り込み、社会に問いを投げかけるクリエイティブをつくる。それが、彼らのクライアントワークのやり方だ。

Robot_Taxi

VICTAS

VICTAS

さらに自民党の小泉進次郎氏が中心となり、発足した『経済財政構想小委員会』のビジョンメッセージ「レールからの解放」のライティングも高木新平さんが携わった仕事の一部だ。ITから政治まで、『NEWPEACE』が関わる領域は広い。

VICTAS ※小泉進次郎氏 Facebook投稿より

クライアントワークから、自社事業へ。

2014年の創業以来、クライアントワークを通じて仕掛け続けてきた『NEWPEACE』。しかし、2017年には2つの自社事業をスタートさせた。

第一弾は、日本発のプロダクトブランド『ONFAdd(オンファッド)』。

Of No Fixed Address(=住所不定)というコンセプトのもと、日本の布団や風呂敷、懐などにインスパイアされた独自構造のバッグなどを展開している。

onfaddの説明 「木造家屋が密集していた江戸のまちでは、火事が頻発し人々は家財一式を背負って移動することを余儀なくされたが、そのような環境が日本独自のライフスタイルを発達させた。ONFAddは日本人が築いてきたモビリティカルチャーを、現代的なプロダクトへと再構築するブランドである。」※『note』より引用


onfaddの説明 西洋とは異なり、収納や持ち運びを前提とした「布団」を現代的にアップデートした『PORTABLE SLEEPING PACK』


特にユニークなのが、最初から海外マーケットを狙っている点。

販売は『Shopify』によるECでグローバルに最適化されている。表記も全て英語だ。実際に注文も、アメリカや、ヨーロッパ各国、イスラエルなど様々だという。現在もクラウドファンディング『kickstarter』にてグローバルでの資金調達にチャレンジ中だ。

onfaddの説明 Rain Socks - The world's best rainwear for sneakers (kickstarter)


第二弾は『6curry(シックスカレー)』。

こちらは2017年12月にスタートしたばかりの「カレーブランド」だ。サラダとカレーが混ざったような、カップスタイルの新しいスパイスカレー。女性がオフィスや街中で、サラダ感覚で食べられる。これも最終的に、海外のストリートで食べられる新しい日本食を目指している。

6curry まずは「UberEATS専門店」としてスタート。ケータリング・イベント出店も行なっている(過去、ソニーミュージック主催『TDME』、CAMPFIRE、外資系証券会社の社内デリバリーなどケータリングの実績がある)


ここでひとつの疑問が湧いてくる。

なぜ、いまこのタイミングで「ファッション」と「食」なのか。

ネットはもちろん、AIやIoTがインフラ化するといわれる時代。彼ら自身、ロボアドバイザーや自動運転車など、テクノロジーを軸とした事業にも深くコミットしてきた。

あえて、リアルビジネスを自社で仕掛ける理由とは?

そこには高木さん自身の原体験から得たモチベーション、そして「世界にとって当たり前じゃないものを提案し、世界の多様性に貢献したい」という志があった。

100メートルを早く走るよりも、道なき道を走りたい。

ー 今回、どうしても高木さんに伺いたかったのが、なぜ自社事業は、ネットサービスなどではなく、リアルプロダクトなのか?ということです。日本文化の再構築を掲げられてますよね。


まず前提として、リアルかネットかなんて境目は気にしていません。何であれば、この大きな世界の中で、小さな自分たちが面白い提案をできるか。その視点で考えたら「バッグ」と「カレー」になりました。

日本が世界で戦えているのって、食、ゲーム、ファッション…などのコンテンツじゃないですか。日本に文化資産があり、コピペしづらいもの。その中でも、自分がこだわれるものを選んでいきました。

また、価値観が「所有からシェアへ」と移り変わり、あらゆる境界線が曖昧になっていく中で、「モビリティ」が一つのキーワードになると考えていて。その視点から今まで当たり前だったものを再構築しよう、と。

それをプロダクトデザインのアプローチでやっているのが『ONFAdd(オンファッド)』で、食べ物でやっているのが『6curry(シックスカレー)』です。


ー しかし、ビジネスとしての参入障壁は高く、スケールさせるのも容易ではないと感じます。


逆じゃないですか。日本発で世界に展開したいと考えると、サービス系の事業をやるよりも、世界中に入り込みやすく、そしてその分、マーケットは広いと思っています。もちろん在庫や流通など大変なことは色々ありますが、業界を知らない素人だからこそ自由な発想でやれるとも思っています。6curryの「UberEATS専門店」としてスタートさせることなんて、まさにネット的なアイデアでしょ。


ー ちなみに、いわゆる「ネットビジネス」でなかった理由はあるのでしょうか?


僕がエンジニアじゃないから、ですね。発明の現場で手を動かせないのが悔しい。普通に経営者としてやると「スマホがくる」「VRがくる」「仮想通貨がくる」ってテクノロジートレンドのなかで、“誰が仕掛けるか”の勝負になってしまう。

それって100m走のように「走るコース」が決まっているなか、いかに早く走れるかという勝負だと思うんです。当然、然るべきタイミングで、然るべき資本を投下できる人たちのほうが勝つ可能性は高い。それは個人的にあまりテンション上がらないなと。

僕は、どっちかというと100m走よりも、コースのない競争、道なき道を走ってみたい。そのためには自分が1mmの差をこだわれる必要があるし、マーケットの潮流に流されないものをつくっていかなければならないと思っています。

フラットになった「世界」で、クリエイティブができること。

高木さん


ー もうひとつ、『NEWPEACE』の事業がおもしろいと感じたのは、はじめから「海外マーケットを狙いたい」と宣言されていること。なぜでしょう?


クリエイティブってなんだろう?と考えると、“思考を体験に変える技術”だと思っています。だから本質的には、言語などの国境を超えていけるはずです。

特に「食」や「ファッション」って文化的に異なる背景を持った人たちとも共有できるもの。たとえば、30歳である僕は、日本の田舎で暮らしている70歳の人より、ロンドンに住む30歳のイギリス人とのほうが絶対的に「近い」わけですよね。価値観や感性もそうですし、ダイレクトにつながれるし。そんな風にフラットになった世界でつながりたい。

たとえば、日本では東京の1万人にしか刺さらないものも、世界100都市に広げられたら100万人に届けられる。Instagramは国境を越えはじめているし、これだけ流通が進化しているのだから「モノ」も国境を越えやすい。それは非言語だから。

世界中の人たちが「俺たちがつくったコレ、おもしろいでしょ」をプレゼンしまくっている。そんな風にして生まれた多様性が世界を豊かにしているし、僕らも一端に加われたらいいなと思っています。

わずか1ヶ月間で、YouTubeで230万回以上再生されているロボアドバイザー『THEO』のプロモーション映像。これも『NEWPEACE』が企画・制作した動画。SNS上で大きな反響を呼び、中国などの海外でも再生回数を伸ばしつづけている。

クリエイターは“事業を創り出す存在”に。

― 20代の早いタイミングで個人として注目された高木さんですが、現在では会社をつくり、事業も仕掛けていて…どういった心境の変化があったのでしょう。


正直、フリーランス3年目くらいには「このままじゃ自分がつまらない人間になる」という危機感があったんですよね。メディアやイベントに出ても過去にやってきたことを繰り返し話すばかり、三流文化人みたいになっていく自分がイヤで。

フリーランスって、立ち上がりやすいんですよ。基本的に自由だし、収入も努力が反映されやすいし、バイネームだから承認欲求も満たされる。でも、40歳になった時に何を成し遂げられているか。40歳になった時には、大企業で「1000億円のプロジェクト」を主導している同世代がいるかもしれない。そのときに、個人の成長レベルで何かやっていたらヤバイなと。だから組織をつくって、事業という大きなクリエーションをやり始めようと思いました。

もちろん、すべてがうまくいくとは思っていません。しかし、ニッチでもいいから、世界相手にアウトプットしていくことが大事で。いわゆる国内の企業相手にクライアントワークをやってきた商業クリエイターが、世界がユーザーになる事業を立ち上げることで、「ビジネスそのものもつくれるんだ」「小さいところからもグローバルブランドをつくれるんだ」といった事例になりたいんですよね。

なぜなら今は、ブランド体験がビジネスの成否を決める時代。プロダクトをつくる、事業をつくる、クリエイターがそこまで担っていくのは、じつはすごく自然なことだと思います。そして近い将来、クリエイターがつくった事業を大企業が買う、といったこれまでとは逆の潮流も出てくるでしょう。

来たる、問いの時代。「これもありだよね」を提案し続けたい。

高木さん


「私は偉大な問いになりたい」これは寺山修司の言葉なんですが、これからは、問題提起した者がかっこいい社会になっていくと思っています。みんな、自分を不自由にする古い価値観を壊してほしい。

たとえば、アメリカの雑誌『TIME』の「今年の人」は、#metooムーブメントに代表される、セクハラや性的被害を告発した「沈黙を破った人々」でした。「問い」を投げかけた人たちにフォーカスがあたっていく、SNS文化の特徴ですよね。

最近だと、サイボウズの社長である青野慶久さんが、「選択的夫婦別姓」が認められない現状に対し、国を提訴するというニュースもありました。あれは確実に支持されます。新しいブランドのつくり方だと思いました。

機能やデザインは飽和しきっているから、ただの美しいデザインや便利な機能、ましてや広告では商品やサービスのブランドはつくれないんです。そうではなく、「これって問題じゃないですか?」と声を上げて自ら解決していくことが、他にはない存在感をつくっていく。そういう思考が、クリエイターや起業家に求められていくはずです。

結局、僕は「こういう選択肢もありだよね」「こういう生き方もいいよね」って世の中に提案したいだけなんですよ。人と違っていいんだよ、と。それを僕は「(普通に囚われた)20世紀をぶち壊す」と言っています。だからアウトプットはITでも、政治でも、ファッションでも、食でも、何でもいい。ユーザーから見れば、クライアントワークでも自社事業でもどちらでもいい。体験した人が、それまでの経験、固定観念から解放されるようなことを仕掛けたいんです。


― なぜ、「多様性」や「価値観を覆す」にこだわるんですか?


コンプレックスがあるんですよ。僕は生まれつき左手に障害があって、人とは違う姿で生きてきました。ずっと隠しながら、でも、一生懸命、自己肯定しながら生きてきた。

中学生のときはピークでしたね。青春時代だったから。だから同級生に自分の左手を見られるのがイヤで、夏でもずっと長袖を着ていたんです。でも中学生ってピュアだから、「なんで長袖なの?」と言ってくる。みんな同じ格好が当たり前だったから。このままだと、クラスで浮いた存在になってしまう。

ただ、その状況が一変することが起こったんです。ちょうどストリートブランドが流行ってた時期で、『Supreme』がかっこいいロンTを売っていて、それを着ていったら「めっちゃかっこいいな」って言って、みんなに受け入れられるようになっていきました。

自分では隠したかった違い、人とは違うスタイルが、価値に変換された。ファッションとして「これもありだよね」って言えることで救われる人がいる。ちょっとしたことで新しい体験が世の中に生み出され、価値観も変わっていく。そう肌で感じたんですよね。

むしろ僕のアイデンティティはそこにしかない。人とは違う自分。それがスタイルだったり、新しい価値として提案できたとき、世界の多様性に貢献できる。

だから、『ONFAdd』も『6curry』も世界に向けて、そんな問いのような提案をしていけるブランドに育てていきたいと思っています。元々、素人だし門外漢だから、怖いものは何もないですよ。2020年には、ニューヨークかどこかで取材受けていたいですね。

高木さん

― クリエイターという役割がどう変化するか。そして自身がどのようなテーマに人生を捧げるか。多くの示唆と勇気をいただきました。今後のさらなる展開、楽しみにしています。本日はありがとうございました!


文 = 白石勝也
編集 = まっさん


特集記事

お問い合わせ
取材のご依頼やサイトに関する
お問い合わせはこちらから