ロボアドバイザーが自動で資産運用してくれるTHEO[テオ]。運用者数は3万人を突破し、誰もが資産運用できる世界を目指す。彼らが力を入れてきたのが「デザイン」。インフォグラフィックスでユーザーの資産運用モデルを紹介したり、ユニークな特設ページで自社紹介したり。彼らがつくる金融サービスの新常識とは?
[記事ハイライト]
・THEO[テオ]躍進の秘密は、デザインにあった?
・お金に対する「気になる」を解消。資産運用について考えるきっかけづくりを。
・すべてのフェーズ、すべてのユーザーに合った「体験」を。
・「ちゃんと許諾を読んでもらう」ための工夫とは?
・デザイナー自身がMeetupで「ユーザーの熱量」を感じ取っていく。
・デザインには「金融」をアップデートしていく力がある。
2018年2月に2周年を迎えたTHEO[テオ]*が、ポップなインフォグラフィックス『数字でみるロボアドバイザー』を公開した。
彼らは、定期的にユニークな自社紹介ページやPR動画を公開してきたことでも知られるFintechスタートアップ。過去には、社員たち自身がTHEO[テオ]でどのように資産が変化したか赤裸々に公開。運用状況をオープンにすることで、資産運用が身近なものであることを訴求し、話題となった。
「ユーザーファーストに関わる行為の全てがデザインだと捉えています」
こう語ってくれたのが、THEO[テオ]におけるUI/UXデザインを担う山下あか理さんと、サービス立ち上げ当初からCS業務をリードする森山裕之さんだ。
特設ページ(LP)はもちろん、THEO[テオ]ではサービスページ、UI… すべてのおいてデザインに力を入れている。なぜ彼らはデザインにこだわるのか? そこから見えてきたのは、サービス運営において果たすべき重要な「デザイン」の役割だった。
ー 今回の特設ページをはじめ、THEO[テオ]はデザインにすごく力を入れていますよね。大手金融機関などとは全く違うアプローチで、斬新だと思いました。
山下:
ありがとうございます。ただ、あまり斬新なことをやろうと思ってやっているわけではないんですよね。どうすればユーザーさんに安心してサービスを使ってもらえるか。ここを考え、さまざまな情報をページやサイト、サービスに落とし込んでいるというだけで。
THEO[テオ]ってわかりやすくお伝えすると「お金を預けることで、ロボアドバイザーが自動で資産運用してくれる」というサービスです。ただ、実際に資産運用を開始していただくまでにはいくつかの多くのプロセスを踏まなければなりません。アカウント登録、書類送付、口座開設、入金と…。
まずは入り口、「登録」というフェーズでどれだけTHEO[テオ]が安心に足るサービスか知ってほしいし、興味をもってほしい。そのために専門家の方々に監修をしていただき、出すことのできる情報は可能な限りユーザーに伝えていく。ここが重要だと捉えています。
― もうひとつユニークだと思ったのが、登録画面において資産運用のモデルが、イラスト付きで紹介されていること。ここの狙いは?
山下:
はじめて投資をする方であれば、自分と同じ年代、職業の人たちが、どれくらいの額を積み立てたり、口座にいれたりしているか、気になるものですよね。それをヴィジュアル化しています。
「お金」の話ってリアルな場だとタブー視される風潮がありますよね。ただ、みんな隣の人の財布事情が気になってるはず(笑)
山下:
これはあくまでも参考にしてもらえれば、という情報です。最終的にはどのくらいの金額を投資するかユーザー自らに決めていただく必要があります。ただそう言われても、「いくら投資するべきなのか」ってよくわからない。
いま、日本の義務教育で「お金」や「投資」の授業ってほとんどないですよね。将来のためにお金を用意する手段は銀行預金だけじゃない。投資という選択肢があるし、投資にもたくさんの種類がある。投資に対して「よくわからない」「怖い」というイメージを持ってしまうのはもったいないので、正しい知識を身に着けて欲しい。特に若い方々をはじめ、投資に馴染みがなかった方に知っていただくためにも、私たちが積極的に情報を提供していくべきだと考えています。
例えば、昨年実装した機能で、「ユーザー登録時に同世代の貯蓄額、10年後の貯蓄額を表示する」というものがあります。自分の年収、貯蓄額を入力し、将来どうお金と向き合うべきか、考えてもらうきっかけをつくりたいと考えました。また「自分と同世代の人がいくらくらい資産を持っているのか」を知ることで、ある程度資産形成への指標もできる。投資を始める際の理解や納得感につながれば、と思っています。
ー ご紹介いただいた機能や訴求ってユーザーとしての立場だとありがたいですが、開発する側としては実装が難しいこともありますよね。そもそも「ユーザーにとって痒いところ」に気づけなかったり、ホントに必要?工数をかけてまで実装する?という声が社内で出たり。
山下:
THEO[テオ]でも、もちろん全てユーザーファーストな開発をできているかというと、そうでない部分は多く、これからの課題であると思っています。ただ、「誰もが手軽に資産運用できるサービスに」というブレないコンセプトがあるため、そこに都度立ち返ることで文化を作っていけるのではないか、と思っています。
ブランドデザイナー、カスタマーサポート業務も担うデザイナー、UI/UXデザイナーが同じ目線で協力していく。特にユーザー体験って「どのような情報を、どのタイミングで提供するか。どう伝えるか」で大きく変わってくるもの。どうクリエイティブへと落とし込むか、全員がその重要性を理解できるような組織づくりを目指しています。
その為、ユーザーと直にやり取りをしお客さまの要望や何を感じているのかなどをまとめ数値に落とし込んでくれるCX(カスタマーエクスペリエンス)チームを作り、連携を取りながら開発を進めています。
― いかにユーザーファーストがサービス全体で体現できるか?というところですよね。
森山:
そうですね。わかりやすい例でお伝えすると、アカウント登録から口座開設まで、お客さまの状況毎にあわせ、届ける情報も変えています。
例えば、お客さまの状況に合わせて下記のようなメールをお送りしています。
更にそれらをパターン分けし、「Marketo」でメール配信しています。図解するとこのようになります。
― 使っているツールまでオープンにお話いただけるとは…参考にしたい他サービスも多いと思います(笑)
森山:
ありがとうございます。とくにFintechはまだまだ新しい領域。業界でノウハウは展開していったほうがいいと思うので、私たちの事例でよければ(笑)
― 他にも工夫されているポイントはありますか?
たとえば、口座開設の書類提出において、「壁」になりやすいのがマイナンバーの登録だと思います。
THEO[テオ]も口座開設の際にマイナンバーを登録して頂く必要があるのですが、まだ制度として新しく、概要を深く理解していない方も多くいらっしゃいます。「マイナンバーカードを持っていない」というお問い合わせや、間違った書類を添付してしまう、というケースも多数ありますね。
どうすれば正しく伝わるのか。誤送を防げるか。こういった「登録のネックとなっている部分」を数字で判断し、UIで改善するという施策はたくさん行っています。
まず持っている書類の種類でルートを選択させる。それまで一気に登録させていた書類を、1つずつ次の行動を選択させることで「次に何をしたらいいのか」を理解しやすいUIに変更しました。
また、書類の見本画像を出したりアイコンを表示したり、誘導という細かい改善を繰り返した結果、登録コンバージョン率が上がりました。本当に細かい改善ですが、こういった積み重ねでユーザーの疑問や迷いをなくしていくことがデザイナーの仕事の一つですね。
森山:中には、マイナンバーについてあまり理解をしていない方も多い。ありがたいことに「THEO[テオ]は使ってみたいが、マイナンバーのことがよくわからない」という問い合わせもあって。そういった方々には助け舟となるようなメールをピンポイントで送るということもやっています。
ー リアルで書類を準備してもらい、正しく送ってもらう....オンラインだけで完結しない難しさがあるんですね。
山下:
そうなんですよね。THEO[テオ]が大事にしている「シンプルさ」を失わず、ユーザーにとってほしい行動を適切にナビゲートしていく。ユーザーが簡単に、しかし疑問が残らないようにするUXを最優先においています。
ーもうひとつ「金融 × デザイン」という観点から伺いたかったのが、「許諾」についてです。とくに資産運用系のサービスだと、無数の許諾をユーザーに確認し、取らないといけないですよね。THEO[テオ]ではどのように捉えているのでしょうか。
山下:
私達がスマホで新しいアプリをダウンロードするときもそうだと思うのですが、利用規約とか許諾が必要なものって注意して見ていないですよね。ただ、「お金」に関わるサービスを提供している以上、どのようなサービスなのかを理解した上で利用していただく必要があります。
そこで、できるだけ金融の人たちが使うような難しい表現をつかわず、消費者やユーザーの立場でもわかるような表現をつかうようにしています。たとえば、
(変更前)
「特定口座・源泉徴収あり」
(変更後)
「確定申告の必要のない口座(特定口座・源泉徴収あり)」
ただ、「許諾」の内容の一部には、どうしても金融や証券会社の専門用語を使わざるをえない場合があります。
そういった場合には、必ず補足で説明をいれていく。すでに知っている人のためにも、事細かに全ての説明を見せることはせず、必要であれば確認できるようにしています。ストレスなく許諾は進めつつ、わからないところはすぐ調べられる、ここはデザインする上で特に気をつけている部分です。
ー ユーザーにとってのわかりやすいかどうか、ここはどのようにして検証されているのでしょうか。
森山:
とにかくユーザーの意見を聞くという部分は重視しています。ユーザーサーベイ、アンケート、インタビューから定量的な傾向を掴む。ここは必ず行なってきました。
加えて、2017年からはMeetupも開催していて。ユーザーがどんな感情でサービスを使っていくか、直接ご意見をいただくようにしています。
山下:デザイナーである私をはじめ、エンジニアなど開発に携わる社員も多く参加していて、直接ユーザーさんから声をいただけるのは、本当に収穫が多いんですよね。ネガティブ意見だけではなく、ポジティブな意見も多い。モチベーションにもなるし、貴重な経験だと思っています。
どういう人が、どういう感情で使っているのか。ユーザーにとって何がよくて、何がわるいのか。開発に携わる全員がミートアップに参加することで「あのユーザーさんならこう使ってくれそう」といった共通言語や認識が生まれていく。たとえば、ひとつの機能にしても、開発するかどうか、意思決定をスムーズにするためにも、オフラインでお客さまに会えるのは大きなメリットだと感じています。
ー 「ユーザーに寄り添ったサービスです」と言うだけなら簡単だと思うのですが、なかなか徹底するのはむずかしいもの。THEO[テオ]がそこを実現できているのはなぜなのでしょう。
森山:
いえいえ…私たちもまだまだやれていないことのほうが多い。ユーザーファーストは、これができれば終わりということではなく、常に考え続けるものだと思っています。同時に、私個人としては「IT出身者が多い会社が“金融サービス”をやるからこそ、ユーザーファーストに徹するべき」だと考えていて。
これまでの金融業界って少し閉じたところ、ユーザーさんが何を期待しているのか、求めているのかが不明瞭なままサービス展開していくという部分も少なからずあったと思うんです。消費者からすると「よくわからないまま、良さそうだから買っていた」というケースもあって。そういった状況をユーザー視点で変えていく。これこそFintechの役目ですし、目指していくべきところだと思っています。
ー 山下さんはいかがでしょうか?
山下:
私はユーザーファーストに関わる行為の全てが「デザイン」だと思っているんですよね。チームのみんなが目線をあわせていくこともそうだし、CXチームがユーザーの声を、デザイナーやエンジニアに届けていくのもそう。デザイナーやエンジニアが、得られた声をサービスに落とし込んでいくのもそう。役割がすこし違うだけで、向かっていく方向は同じ。
デザイナーが果たすべき役目も「ユーザーに寄り添うこと全般」と言ってもいいのかもしれません。私はもともとフリーランスで、さまざまなプロジェクトに関わってきたのですが、表面的にきれいなだけのデザインは勉強すれば誰でもすぐに作れます。でも、本当に大切なのはユーザーが抱えている問題や悩み、その声をしっかり聞いてUIに反映していくこと、その結果まで追うことだと思っています。
着実にユーザー数を伸ばす、その裏側にあった「問題を乗り越えるためのUI/UXの改善」について知ることができた。Fintechサービスだけではなく、プロダクト開発に活かせる話も多かったはず。ぜひ参考にしてみてほしい。
文 = まっさん
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