2018.04.10
ちょっとクセのある明朝体がトレンド、2018年のフォント事情

ちょっとクセのある明朝体がトレンド、2018年のフォント事情

2018年、最近のフォント事情について解説。特に明朝体に関して「ちょっとクセのあるもの」がトレンドに。富田哲良さん(モリサワ)、細川絵理さん(DMM.comラボ)によるトークセッションの模様をお届けする。

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みなさん、どれだけフォントのことを意識できていますか?

※2018年2月に開催された「Creative X #1 session 5C × 文字『デザイナに知ってほしい文字のこと』」よりレポート記事としてお届けします。

「Webデザインの95%はタイポグラフィである」

東京、ベルリン、チューリッヒに拠点を構えるデザインエージェンシー「Information Architectsm(iA)」は、2006年10月に公開した記事「Web Design is 95% Typograpy」でWebデザインにおけるタイポグラフィの重要性を説いた。

Webの世界でユーザーとテキストコミュニケーションを成立させる。そのために、どのフォントを選び、どう文字を配置するか。タイポグラフィ、ひいてはフォント、文字の知識はWebデザインに携わるものであれば、確実に身につけておくべき知識のひとつ。

そんな文字について、熱く語られたセッションをレポート。モリサワフォントデザイン部の富田哲良氏、DMM.comラボの細川絵理氏が語った内容を書き起こし形式でお届けする。

「ちょっとクセのある明朝体」とは?

細川
近年、多くのデザイナーが仕事を進めていくにあたって『Adobe Creative Cloud』とともに、フォントライブラリサービス『Typekit』を活用していると思います。

『Typekit』は『Adobe Creative Cloud』の有償ユーザーであれば、数多くのフォントを無料で使用できる非常に便利なサービスでして、私自身も重宝しています。

富田
モリサワからもTypekitからフォントをリリースしていますが、いま、細川さんが一番気に入っている書体がTypekitから最近リリースされたアドビさんの「貂明朝(テンミンチョウ)」とのことですが、どのへんがお好きなんですか?

細川
すこし棘のあるフリですね(笑)まず自ら規格を無視して、ある意味実験的にリリースされたところが面白いと思いました。あとは欧文と和文の組み合わせ方がすごくシームレス。昔から使っているような日本語フォントは、英数字は欧文フォントに変更する方がしっくりくる事が多かったのですが、『貂明朝』にそのイメージはない。加えて、最近の流行りもあると思うんですが、ちょっとクセのある明朝体というのがかわいさも感じられて好きですね。

DMM.comラボ 細川さん DMM.comラボ アートディレクター 細川絵理氏/新規サービスのデザインなどを担当する

オールドとモダン、良いとこどりのフォントがデザイナーにウケる

富田
なるほど、伝統的な書体は業界的には定義があり、オールドスタイルと呼ばれていまして、「クセがあって古めかしいものがかわいい」という声をよく聞きます。

その逆で現代的な書体もあり、こちらはモダンスタイルと呼ばれていて。モダンスタイルは四角四面を意識してで文字が設計されていて、あまり情緒があるような作風でありません。幾何学的なデザインを採用し、あえて無感情な風合いに仕上げることで、情報を素早くストレートに伝達したい。これがモダンなスタイルの考え方です。

たとえばモリサワからリリースされている「きざはし金陵」はオールドスタイルの明朝体で、文字のサイズも結構バラバラに見えます。全体的に字面を小さめに設計することで、流麗で大胆なはらいを持たせたりと、気品のあるデザインに仕上げている。ひらがなも割と手書きの運筆に近いものを採用しています。

一方でモダンスタイルの「黎ミン」(モリサワの明朝体)はひらがなでも正方形な感じになっている。簡単に説明すると、これがオールドスタイルとモダンスタイルの違いですかね。

フォントの説明

フォントの説明

富田
このオールドスタイルとモダンスタイルの特徴を踏まえ、『貂明朝』のひらがなを見ていくと、オールドスタイルと言ってもいいかもしれません。ただ、意外と字面は大きく、漢字のバランスの取り方はどちらかと言えば、黎ミンに近いが、一方で横線と縦線のコントラストは控えめでオールドスタイルの要素もあり、両方のいいとこどりみたいになっている。そういった点がデザイナーの気持ちを掴むってことなんですかね。

明朝体のトレンドは、時代と共に変わる

富田
次に貂明朝とその他の明朝体を一緒に見ていきたいのですが、見ていただく表には、モリサワから出している書体以外も載せています。

フォントの説明

富田
『A1明朝』と『秀英明朝』がモリサワから出ていますが、それ以外は違います。この中だったら、『筑紫オールド明朝』は多くの人がよく使っているのではないでしょうか。

細川
『筑紫オールド明朝』以外にも、『ZENオールド明朝』も使いやすいですよね。個人的には『A1明朝』もすごく好きです。

富田
ここではよく使われているオールドスタイルの明朝体と並べてみましたが、こうしてみると『貂明朝』は他の明朝体と少し雰囲気が違う。

で、次の表を見てみましょう。

フォントの説明

こちらの並びのほうが、雰囲気が近いと思います。最初の表と今の表の何が違うのか。最初の表の書体は本文を組むために作られたものです。こちらの表は、ちょうど良いところを狙っていて、ディスプレイ向けの書体だけど本文でも使えるように設計された書体ですね。

細川
用途の違いは比べると良くわかりますね。

富田
貂明朝を書籍等の本文組で使おうと思うと縦横のコントラストが低く、仮名の運筆も独特で、どうしても目で文章の流れを追いにくく、長文になるほど読んでいて疲れやすくなるかなと。なので、たとえば、『解ミン 宙』や『丸ミン』は見出しや、短めの文章などでよく使われていると思いますが、その2つと同じような用途で『貂明朝』はどんどん広がってくんじゃないかなと思ってます。

ちなみに、書体にもトレンドのようなものがあります。

もともと1940年ぐらいだと“オールドスタイル”という認識があったわけではなく、古いものが当たり前だった時代からスタートし、そのあたりからどんどん中庸な作風が増え、1970年〜2000年の間には“モダンスタイル”と呼ばれるものが多く作られるようになり、一気に均一的でパリッとした風合いのフォントがサインシステム等で多様されるようになりました。

その後、1990年代後半に『小塚明朝・ゴシック』がリリースされた後くらいから、またオールドスタイルの方が盛り上がり、『筑紫オールド明朝』、『游明朝』が出て、そこから『筑紫アンティーク』、『みちくさ』や『貂明朝』など、本文組以外も意識したグラフィックユースで映える書体が出てくるようになった。

そういう意味で、いま流行りのど真ん中にある書体の一つが『貂明朝』なのかな、と思っています。

モリサワフォントデザイン部 モリサワ フォントデザイン部 富田哲良氏/デジタルフォント製品「モリサワフォント」の開発、監修を手がける

細川
最近、『源ノ明朝』も賞を獲っていましたし、フォント業界自体が盛り上がりを見せることで、使う側も最近の流行りが分かりやすくなってきているのかな、と思います。

昔の欧文は、他の書体に差し替えてみるのも良い

富田
フォントのトレンドの波はすごく穏やかで10年〜20年の単位で来ているので、DTP市場ではもう少しオールドスタイルが流行りそうな気がしています、Web業界の皆さんもそこ意識してみると面白いんじゃないかと思います。さきほど『貂明朝』の欧文についても褒められていましたが、実際のところどうですか?

細川
逆に聞いてみたいんですが、どう思われますか?

富田
確かに良くできているなと思います。1900年代にリリースされた多くの書体はモリサワも含めて「力を入れて欧文をつくろう」という意識が今ほどなかったと思うんです。

今みたいにデジタルでのワークフローが確立されていたわけでは無い環境で、まずは一万文字以上の漢字や仮名を手作業で作ることに注力する必要があったと思うので、和文書体に搭載される欧文(以下、従属欧文)は当時、海外でよく使われている作風で、かつ権利が一般に公開されているものをリファレンスにして、簡易的に作らざるを得なかったという事情もあるのかなと。

アドビさんの場合は、海外に欧文書体をつくるチームがあって、日本の和文チームと連携して貂明朝の従属欧文がつくられているみたいです。

ちなみにモリサワの話になるんですが、昨年末に出した『A1ゴシック』という書体は従属欧文もきちんとつくられていると思っています。

たとえば、この表の上下段では同じ書体のように見えるかもしれませんが実は違う書体。上段が『A1ゴシック』という和文書体に搭載されている従属欧文で、下段はそのベースとなった欧文書体の『Citrine(シトリン)』です。

フォントの説明

富田:
この違い分かりますか?

細川
角や曲線など、細かい違いですが特に数字を見るとわかりやすいですね。丸い部分はかなり丸いですよね。少し広めになっていて。読みやすい。

富田
そうなんですよね。あとアンパサンドの形など違いますよね。

さらに細かく見ていくと『A1ゴシック』の従属欧文の方が、ひらがな、漢字の設計に合わせる為に、少し字面が大きく作られていて、Xハイト(小文字の高さ)も高めに設計されています。あと、文字の幅やスペースも広めに作られていますね。

フォントの説明 赤:A1ゴシック  青:Citrine

こういったちょっとした細かいテクニックを使うことで、従属欧文でも欧文としての品質を保ちながら和欧文のバランスを上手に確保していこう、という動きが業界的にもできるようになってきました。ここ10年くらいでリリースされた和文書体は従属欧文の品質が良いものも増えてきているように感じます。

逆に言えば、それより前にリリースされた和文書体の従属欧文で気になる部分があれば、Typekitからは多くの高品質な欧文書体がリリースされているので、欧文エリアをそれらに差し替えて使ってみてもいいんじゃないかなと思います。

(おわり)


文 = 新國翔大
編集 = CAREER HACK


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