まるでアパレルブランドやアーティストの特設ページのようなビジュアル。じつは、元フリークアウト社長 佐藤裕介氏率いる新会社『hey』のウェブサイトだ。このクールなビジュアルはいかにして生まれた? クリエイティブ全般を担う松本隆応さんのもとを訪ねた。
STORES.jp代表(hey取締役) 塚原文奈
Coiney代表(hey代表取締役副社長) 佐俣奈緒子
hey代表 佐藤裕介
CASH(バンク代表・hey取締役) 光本勇介 ※画像左より
ベンチャー界隈で名の知れた彼らが、取締役として集結した『hey』。決済サービス『Coiney』、オンラインショップ開設『STORES.jp』の2サービスを軸に、新サービスにも期待が集まるスタートアップ。
2018年2月に設立され、瞬く間に増員。社員数100名規模へ。すでに2018年5月に開催された採用イベントでは200名を集め、エンジニア採用も進む。好調なすべり出しを見せているhey社。アパレルやアーティストの特設ページのようなエンジニア採用ページも話題となった。
『hey』における一貫したアートワーク、クリエイティブにおけるディレクション、デザインを手がけているのが松本隆応さん。
CI(コーポレートアイデンティティ)ができ上がるまでのプロセスを自身のnoteで公開。インサイドストーリーとしてSNS上でも話題となった。
CIデザインにとって大切な考え方とは?松本さんはどのような役割を果たしたのか?
そこには経営メンバーと対話し、ビジョンを具現化する、新たなデザイナーの役割があった―。
heyとbankのイベント、いずれの会社もトップがクリエイティブの力を強く信じている特異な会社で刺激的だった。僕もビジネス的・連続的成長だけでなく、遊び心を持ったプロダクトづくりをしていきたく思う。#heybanknight pic.twitter.com/a7u2QuX04f
— Teruyuki Okumoto(@okuteru) 2018年5月29日
「クールかどうか」もしかしたらスタートアップにおいて、この“見られ方”も大切な要素なのかもしれない。そのような中、カジュアルでアナログライクなロゴ、経営陣たちのラフなファッション、オリジナルTシャツの販売…『hey』のビジュアル戦略は一線を画す。その狙いとは?
ビジュアルにこだわり抜いてスタートできた大きな理由として、経営陣が「コーポレートアイデンティティ(以下、CI)」は妥協すべきではない、といった共通の認識があったからだと思います。
CIは、会社のスタンスやアイデンティティをロゴやビジュアルとして表現するもの。経営層の理解がないとなかなか注力することが難しい領域でもあります。もともとあった話としては、
「CoineyとSTORES.jpが統合する」
「heyという新会社を立ち上げる」
「商取引事業をやる」
というもの。そこからコイニー代表の佐俣から「CIを体現したロゴをつくってほしい」とオーダーがありました。
ただ、いきなりうまくいったわけではなくて(笑)経営陣のお題から、自分なりに解釈を定義した「決め」のロゴをつくってしまっていました。初回のプレゼンで3つの案を提案したのですが、振り出しに。アウトプットは出ているし、ロジックもわかる。でも「なんとなくそうじゃない...」と。
つまり、提案した3つには、彼らのイメージに近いものがなかったということ。そこから再度仕切り直して、対話的なアプローチでイメージや視点の違いを認識するところからはじめました。
まず最初に取り掛かったのは「ビジョンを可視化する」ということです。2社が合同でつくる会社がどのように見えるべきなのか。そのときに大事だなと思うのは、「みんなで一緒につくった」という感覚。対話こそが重要なポイントでした。
イケてる採用ページが作れる能力はスタートアップにおいて必須になりつつある / heyエンジニア! - Code for Fun. https://t.co/wf20XaQgpa
— 坪田 朋 / Basecamp (@tsubotax) 2018年5月24日
経営陣と二人三脚で、対話的なアプローチでビジョンをデザインに落とし込んでいった松本さん。なぜ対話を重視していたのだろう?
デザイナーの中には、デザインの答えはありません。ユーザーや経営者の中にあるもの。そういった意味では、オーダーに対して、デザイナーが自分自身の中に答えを求めるのは、ちょっと過信しすぎているのかもしれないですね。
成果物に対して、経営陣たちに決裁や承認をもらうアプローチも違うと思っています。人生を掛けて会社を経営していくのは経営者ですよね。彼らの思いやビジョンが世の中にうまく伝わるように一緒に考えていく。いかに解像度高く、ストレートに伝えることができるか。
ただ…あたり前ですが、すぐにうまく進むわけではなくて。
デザイナーと経営者は見ている景色が違う。だから彼らの言っている言葉って最初はよくわからない(笑)触れている情報の量と質にも雲泥の差もあって。
heyのロゴにしても、代表の佐藤裕介からイメージをもらったのですが、なんのことかさっぱり分りませんでした(笑)
映画『WILD STYLE』のゾロが、バスキアとかもうちょっと若いとkawsみたいなグラフィティーから現代美術にいった感じではなくて、普通にそこらへんのデザイナーとかそんな感じで。固い仕事もそうじゃない仕事も受けて、みたいな人生を送って50代になった今「Hey」っていうふざけた名前の会社のロゴやってよ、みたいに頼んだらどんな雰囲気になるのかな的な。
※引用 note 『heyインサイドストーリー~heyのCIデザインプロセス全記録~』
一旦は受け止め、彼らの考えていることを吸収する。それを基点に関連する情報をひたすらインプットしていく。そうすることで自分のなかにも全然違うものの見方が生まれ、イメージを共有できるようになりました。
特にCIは、会社として使い続けていくもの。だからこそ「自分たちが好きだ」と思えるものにする。それが会社全体のモチベーションにもつながっていく。これがCIデザインをする上で、デザイナーが担う役割だと思っています。
併せて具体的なプロセスについても伺えた。キーワードを書き出していくつくり方をしたという。そこにあった狙いは概念の抽出だ。
詳しくはnoteにも書いているのですが、私がやったのは、『hey』のキーワードを探していくという作業。そもそも社会がどう変化しているか?どうなっていくか?概念的に考えていきました。
言葉をつくってみたり、アウトプットをつくってみたり。これじゃない。これじゃないって。どんどん形にしていく。そうすることで経営陣と自分のなかにある「差」を埋めていきました。
個人的によくやるのは、裏紙やノートに、とにかく頭に浮かんだ言葉やイメージを書き出していくという作業。書ける場所があればあるだけ書く。すべて書き出していく。
僕の場合、3段階くらいに分けて書き足していって。
・まず最初に黒ペンでバーっと書く
・今度は赤色でつながりそうなところをつなげていく
・最後に青ペンではずしちゃいけないキーワードに印
この3つのレイヤーで考えていくと、なにが核なのかが抽出できますし、階層にして構造化できます。紙一面にちらばったキーワードやラフスケッチを俯瞰して見返すと、ある時、ふっと星座のようにストーリーがつながっていく。その瞬間がすごくおもしろいんですよね。
(つづく)
文 = 野村愛
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