まるでアーティストの特設ページのようなクリエイティブが話題の『hey』。デザイン/クリエイティブディレクションを松本隆応さんが担当する。今でこそ活躍するデザイナーである彼。雑用こそ丁寧にー彼の新人時代を振り返る。
【連載】僕らの新人時代
「新人時代をどう過ごしていましたか?」テック業界のトップランナーたちに、こんな質問を投げかけてみる新企画がスタート。その名も、「僕らの新人時代」。知識もスキルも経験も、なにもない新人時代。彼ら彼女らは”何者でもない自分”とどう向き合い、いかにして自分の現状と未来を定め、どんなスタンスで学んできたのか。そこには私たちにとって重要な学びが詰まっていた。
今回フォーカスしたのはhey社のデザイナー 松本隆応さん。
元フリークアウト社長の佐藤裕介さん率いる新会社「hey」 で、松本さんはデザイン/クリエイティブディレクションを担当している。経営メンバーたちと対話を重ねながら、彼らが描いているビジョンをデザインへと落とし込んでいく。松本さんは、その中枢の役割を担っている人物だ。
▼前回インタビューはこちら
カルチャーをつくるデザインーー佐藤裕介氏率いる『hey』クリエイティブ誕生秘話
新卒で広告制作会社に入社し、デザイナーとしてのキャリアをスタートした松本さん。新人時代をこう振り返る。
「最初は雑用ばかりでした。おつかい・掃除・電話対応・資料探し…デザインとは程遠い業務ばかりで葛藤もありました」
彼はいかにしてデザイナーとして成長できたのか。そこで得たのは「雑用こそていねいに」という仕事哲学だった。
ー 新人のときには、どんな仕事を?
入社して1~2年目のときは、おつかい・掃除・電話対応・資料探しなど、雑務だらけでした。
でも、なにもできない新人にいきなり仕事を任せてもらえないのは、当たり前なんですよね。どうしたら仕事を任せてもらえるか。こう考えたときに、まずはとにかく信頼される、信用できる存在になろうと思っていました。
ちょっとした雑務こそ、確実に丁寧にこなしていく。「信頼の蓄積」こそが、次の機会につながっていく。たとえば、広告制作のアイデア探しやラフイメージに合う写真の素材集め。自主的に会社の資料室にこもって、徹夜で朝まで過ごすことがよくありました。
目的に近いものを、誰よりも早く出す。そのために、ただやみくもに資料集めをするのではなくて、どういうものが必要なのか、自分のなかできちんと咀嚼するように意識していました。
ー とくに雑務だと、真面目に丁寧にすることって、自分のプライドが許さなかったり、恥ずかしいなって思う人も多そう。
真面目はむしろ得だと思うんです。僕自身も、もともと真面目にやるのってちょっとダサいなって思う人間でした。だからとくに高校生のときは信頼も期待すらもしてもらえず...親には「やる気ないなら学校でたらすぐ就職しなさい」と言われてしまっていました。
でも、就職先リストを見たときに、自分の理想とはかけ離れた求人ばかりで愕然として...。デザイナーになるという夢を追いかけるにはこのままの自分じゃだめだ。変わらなきゃいけないって強く思っていました。
新聞配達をして奨学金をもらいながら学校に通いはじめたとき、とにかく真面目に仕事をしてみようと心を入れ替えたんです。そしたら、職場の人も良くしてくれるし、両親もデザイナーへの道を応援してくれるようになって。どんな仕事をするにしても、ベースになるのは信頼なんだと学びました。
ー 新人時代にやっていてよかったなと思うことなんですか?
どんな仕事であっても「やらされている」という感覚を持たないことですね。遊んでやってると思ってやるくらいの気持ちでやる。
資料探しひとつとってもそう。宝物を探しをするように、色々な発見を楽しんでいくと得られるものが全然違ってきます。新聞広告のスクラップ、雑誌のレイアウト、お店のフライヤー...日常に溢れているいろんなデザインが教材になる。ポジティブな視点に切り替えることで、自分の中にアイデアの引き出しを増やしていました。
ー ただ、どうしても興味の持てない仕事も...。
もちろん、自分の興味分野とは必ずしも重ならない仕事もあります。でも、どんな仕事であっても、絶対楽しみは見つけられると思うんですよね。
新人の頃に、こういったら失礼ですけど、本当に聞いたこともないような会社のIR資料を作成したことがあって。テキストを打ち変えたり、グラフを差し替えたり、やるべきこととが決まっていて、正直誰がやっても同じクオリティーになる。
でも、その中でも、いかにもっとよりよくできるか。より磨き上げるための工夫をしていこうという気持ちで取り組むと、楽しむことができると思うんです。指示通りに文字を打ち変えるだけじゃなくて、「この文字詰めのバランス悪いから、いい感じにできないかな」とか。「このグラフ、もっと読みやすいカタチに整理できないかな」とか。せっかく自分が関わるなら、少しでも良くしていきたい。
ー新人時代に「これはコテンパンにされた」という失敗経験ってありましたか?
たくさんありますね(笑)
ちょうど4年目の時、「君の考えはロジカルじゃない。何言ってるのか全然わからない」って言われたんです。当時勤めていた会社のコーポレートサイトのリニューアルを担当していて、そのデザイン案を社長にプレゼンした時でした。
社長に「これとこれってどういう関係なの?」って聞かれても、納得させられるような答えが出せず、手ごたえなんてなんにもない、本当に苦しかった30分間でした。もう4年目だったし、ある程度の実績や経験もあったので、「きっとできる」ってちょっと高を括っていたところもあったのかもしれません。このプレゼンをきっかけに、これまで築いてきた自信は一気に打ち砕かれました。
当時のプレゼンは、会社のなにが強みで、それをどういう表現に落としていくべきか。自分なりに整理していたつもりだったんですけど、全然構造化されていなかったんです。同じデザイナー同士だと、あえて言葉にせずともなんとなくの感覚を共有できてしまっていたんですよね。
僕に足りなかったのは、ロジカルに考えて言葉で伝えるチカラ。自分がつくったものが他の人にも理解してもらえるためには、言葉の橋渡しがすごく重要なんだと学びました。そこから、ロジカルシンキングを鍛えようと本を読んだり、雑でもいいからちゃんと書き出して要素を整理するのが習慣になりました。
ー 会社にいる以外の時間はどう過ごしていましたか?
制作会社時代の僕は終電まで仕事をやっていて。会社の空き時間や休日を利用して、ブログを書いたり、無料の素材を作ってオープンソースに貢献したり、ボランティアで友達の仕事の手伝いをしていました。
いま振り返ると、知識もスキルも全部自分から「与えていく」ことで、結果的に自分の糧になっていたと思います。「こいつ面白いな」って思いもよらないところから気づいてもらえたり、新たにつながりができたりする。実際に、今の職場、コイニーに入社するにあたって佐俣に声をかけられたのも、ブログがきっかけです。自分からどんどん与えていく。そうすることで、自分の糧になっていくことってたくさんあるように思います。
私がまっつに声をかけたのは2011年にこの記事を見て頭おかしいやつがいるなーってうっすら思ってたら、いつの間にか本家GIZMODEに転載されていて、すごく興味わいてHPからコンタクトしたのがきっかけ。https://t.co/DsHcYanUYn
— naoko (@adwarf) 2018年6月4日
最後に、もし新人時代に戻れるとしたらやることを伺いました。
①違う異業種異分野の人たちとつながる
当時はデザイン年鑑にのるような、いわゆる「デザイン業界」にいる人同士で評価されるようなものだけが良いと思っていました。でも、本当は日常のいたるところに「デザイン」がある。きっとデザインのチカラを必要としている人たちや、デザインによってポジティブな変化を生み出せる分野はたくさんあるはずです。
②デザインとは関係のないことをする
デザイナーだから、デザインのことばっかり考えていて...正直デザイン以外のことはやりたくないって思っていました。でも、良いアイデアや強い説得力をもつロジックは、異なる分野から模倣したり応用することの方が多い。デザイナーという肩書きに固執せずに、もっと柔軟に幅広い分野のインプットをすることが大事だと思います。
③働く環境を自ら作り変える
業界的にも慢性的な長時間労働で、時間に対する意識が低く、生産性があまり高くありませんでした。もっと効率的に働くことを積極的に会社に提案したり、実践してみたりして、環境のせいにするのではなく、能動的に自分の力で環境を作り変えていくぐらいの行動力を持つことが大事だなと思っています。
(おわり)
文 = 野村愛
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