銭湯に若者たちを呼び込みたいーーそんな思いで活動する日野祥太郎さん。デザイナーとして働きつつ、銭湯メディア『東京銭湯』を運営。さらに銭湯経営、リブランディング、音楽レーベル、物件紹介サイト(銭湯近くのみ)まで活動を広げる。デザインが銭湯を救う!? その可能性とは。
山手線田端駅から徒歩10分、住宅街を抜けると、その銭湯にたどり着く。
『梅の湯』はデザインのチカラも加わり、進化し続ける「今どきの銭湯」といっていい。いま、若者たちの来店がにわかに増えているそうだ。
1951年に創業し、2017年にリノベーション。このときグラフィックデザイン周りを担当したのが、日野祥太郎さんだ。
暖簾や看板、ロゴのデザインを担当した。普段はDSCL inc.という会社で取締役を務め、デザイナーとして働いている。
なんで銭湯?
どんな活動をしている?
彼が見出したデザインの力とは?
「デザイナーによる銭湯救出大作戦」ともいえる日野さんの活動を追った。
日野祥太郎 / DSCL Inc. 取締役
多摩美術大学卒業。いくつかの会社を経て、2012年に「Superposition Inc.」を設立。2015年に「株式会社東京銭湯」を立ち上げる。並行して銭湯特化型のウェブメディア「東京銭湯-TOKYO SENTO-」をローンチ。2016年4月、埼玉県川口市で銭湯「喜楽湯」の経営を開始。
幼い頃から銭湯が大好きで、足を運んだ銭湯のレビューを書くメディア「東京銭湯-TOKYO SENTO-」を始めたんです。趣味感覚や仕事の息抜きとして、数人の仲間とゆるくやっていました。
僕らが取材をはじめた2015年当時、銭湯を取り巻く状況はあんまりよろしくなくて。潰れていく銭湯が週1軒くらいありました。
そうした状況を目の当たりにしたとき、もどかしさがあったんです。僕らはメディアを運営し、情報発信してきたけれど、もっと業界全体をポジティブにしていくためにできることがあるんじゃないかって。そこで、新たな取り組みとして実際に「喜楽湯」の運営をはじめました。
写真左:銭湯情報を発信するメディア「東京銭湯-TOKYO SENTO-」写真右:埼玉県川口市にある銭湯「喜楽湯」
特徴の乏しい銭湯でしたが、お金が無いので設備などのハード面は変えられない。なので見え方、ようするにデザインなどのソフト面を変えていきました。外装や看板ロゴはもちろん、暖簾や浴場の壁、アメニティまで、銭湯にはデザインが介入できるところはたくさんあります。
デザインのチカラを活かして、課題を整理し、解決していく。銭湯に限らず、 デザインによってポジティブな変化を生み出せる分野はたくさんあるはずです。
僕らが手がけた「喜楽湯」 は、デザインにこだわったことで、20~30代のお客さんが全体の50%に増えました。これまで若者への銭湯ニーズやマーケットはすごく小さいものでしたが、少しずつ銭湯へのイメージが変わってきていると思っています。
マーケットが大きくなってきたことで、そこから様々な業界とコラボレーションさせていくこともできるようになってきたと思っています。例えば最近だと、音楽レーベル「ゆざめレーベル」を東京銭湯にジョインしてもらい、アルバムを出したりもして。
2018年4月にサウナをテーマにしたコンピレーションアルバム『MEiSTER(マイスター)』がリリース。サウナ好きとしても知られるトラックメーカー・PandaBoYやYunomiの楽曲が収録。視聴はこちらから。「ゆざめレーベル」は活動の幅を広げており、7月に開催された100BANCH「ナナナナ祭」では音楽イベントを主催。フロアを大いに沸かせた。
銭湯のメディアから、リアル店舗の経営など。活動を始めて今年で4年目になりますが、実際そんなに儲かりません(笑)
最初から儲けようと思ってたらはじめからやってないですよ。メディアだけでやってたころはもちろん赤字。いまは「喜楽湯」の収入や銭湯のイベントプロデュースのおかげで脱却することができていますけど。
直近、経営が厳しい銭湯さんからお金をもらうよりも長い目でみたときに自分にとっても大きく返ってくるかもしれないし…むしろいまは楽しかったいいじゃんという感じなんです。
もちろん「お金をもらって仕事としてやったほういい」という意見もあります。ただ、僕は経験の幅を広げることでマーケット開発の経験になるし、何よりも自分が入れる銭湯を減らしたくないと思っているだけで(笑)
事業って続けてみないと何が起こるかわからない、これは大きな学びでした。何でも続けることで意外な発見ができたりする。僕はそれが闇雲にはじめたことでもいいと思っていて。何か気になるものがあるなら小さく始めて、とりあえず続けてみるのはありかもしれません。
新しく作った「東京銭湯ふ動産」というサービスは、いろんな人の協力もあって大きな困難もなく完成させることができました。僕はデザインを担当しただけ。不動産サービスというと難しそうに思えるかもしれませんが、チームを作ればなんとでもなる。必要な資格や手続きは本業で不動産の仕事をしているメンバーに全て任せました。
それぞれ得意分野があると個人プロジェクトもスムーズに進みますよね。本業で培ったスキルは強みになると思います。何かをやろうと思いついた時に具体的なアクションも考えやすい。
2018年7月12日から始まった、銭湯近隣の風呂なし物件の不動産仲介サービス。人気のない風呂なし物件に、銭湯の情報と一緒に提示する。部屋の写真はなく、近くの銭湯の写真が掲載されているのがユニーク。物件数は100個以上。
僕がここまで「東京銭湯」の活動を続けられたのは、自分で手を動かせたというのが大きかったと思います。具体的なアウトプットは机上の空論だけではなくプロジェクトを前に進めることができるというのがいいところですよね。
これからは、不動産にしろメディアにしろ、いち運営者としてはちゃんと経済をまわしてこそ持続可能だと思っているので、いろいろなことに挑戦したいと思っています。考えているのは、銭湯を中心とした「衣食住」のライフスタイルを提案すること。今回の不動産は「住」の部分をカバーするものだったんです。銭湯を通じて、暖かい人々のつながりをデザインし続けていきたいですね。
文 = まっさん
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