「WEB上で展開されている情報やサービスは、今後どのようにしてリアルな世界に出ていくべきか考えるフェーズに入った」モノづくりとWEBの新しい関係性が見えてくる必読のインタビュー第二弾。ソフトとハード、両方のエンジニアリング経験を持つユカイ工学代表の青木さんが語った、MAKERS時代の未来図。
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チームラボCTOが選んだモノづくりの道―MAKERS時代におけるITエンジニアのキャリアの行方[1]
― 「一家に一台、ユカイ製のロボットを」という目標に向けて、どんなロボットを作っているのでしょう?
水木しげる記念館の実験イベントで開発した『目玉おやじロボット』は、持ち運べるパートナーロボットというコンセプトをもとに製作しました。記念館の来場者が目玉おやじロボットを首から下げて、館内に隠れた妖怪を見つけ出す、という体験型のゲームイベントです。
館内のあちこちに発信機が設置されていて、それを感知すると目玉おやじの首が縦に動く。そうでないときは首を横に振っていたりする。で、縦に首を振った場所の周辺で「怪しそうだ」と思う展示物にスマートフォンを向けて写真を撮影する。当たっていれば、隠れていた妖怪が画面に浮かび上がる…というような遊びです。
これ、実用においてはどうなるかというと、たとえばナビゲーション機能。歩きながらスマートフォンでルートを検索したり、店舗検索するのって難しいじゃないですか。危ないですし。それを、持ち運べるパートナーロボットがいろいろと教えてくれる、みたいなことです。
自ら検索しなくても、持ち主の趣味嗜好を把握して、関係ありそうなお店の近くを通ると勝手にレコメンドをくれたりとか。
もしこれがスマートフォンで、店の前を通るたびに機械音が鳴ったり、バイブが起こったりするだけだったら、楽しくないし、鬱陶しくなってしまうかもしれない。その機能をオフにしてしまうかもしれません。でもお気に入りの可愛いキャラクターが一生懸命首を振ったりしたら、鬱陶しくは感じないと思うんです。
― 機能的価値だけでなく、情緒的な価値を付加する、というのがポイントということでしょうか。
その通りです。Amazonなどで販売を始めたソーシャルコミュニケーションロボット『ココナッチ』も、そういう意味合いを持っています。
メールやtwitterのリプライなどがくると、ココナッチが動いたり光ったり、声を発したりと、かわいらしい動作で教えてくれます。
メールが届いたということを、メーラーの“未読マーク”で知るのではなく、ココナッチの物理的な動きで知る。メール相手とのコミュニケーションを、身体的な体験として捉えることができます。そうすることによって、メール相手との“繋がり”をより感じられるんです。
― ロボット以外にも活かせそうな考え方です。コンピューターに向かい合うときのインターフェースを、もっと情緒的、身体的なものに変えていくというか。
そうですね。『siri』の次に来るようなイメージですかね。その選択肢の一つが、ロボットということです。
でもおっしゃるとおり、それはロボットじゃなくても言えることで、たとえば僕らがチームラボと共同開発した『チームラボハンガー』も、情報を身体的に捉えられるツールです。店舗に並んだハンガーを手に取ると、その商品を使ったコーディネートや商品情報が目の前のディスプレイに映し出されます。行動と結び付けることで、デジタルな情報がリアルな体験になるわけです。
いま、WEB上で展開されている情報やサービスは、今後どのようにしてリアルな世界に出ていくべきかを考えるフェーズに入ってきていると思います。
― WEBとリアルの融合、ということでしょうか。
そう言えるかもしれません。ユカイ工学が作っているのは、先にもお話ししたとおり「コミュニケーションロボット」なんですが、コミュニケーションをとるためには、“相手の情報”が欠かせないですよね。
じゃあその情報をどこから入手するか、と考えたとき、「WEBを通じて」というのは真っ先に考えられることです。
その日どこに行って何をしてきたか、といった情報は、たとえばFacebookのようなソーシャルネットワークを通せば簡単に把握できます。
飲んで帰るとロボットが「おかえりなさい。飲み過ぎてませんか?」「二日酔い防止には水を多めに摂ってください」と教えてくれたり、次の日の予定をWEBスケジュールから把握して「明日は7時起きですよ」と念押ししてくれたり。
趣味嗜好といったことも、たとえばAmazonの購買履歴やTVの録画履歴などを辿れば、把握できる。また、センサーを使えば、本人のバイタルデータの取得なんかもできます。体調が悪いとか眠りが浅いといった情報を、フィードバックしてくれるようになるわけです。
― 映画の世界に現実が近づいている感じがします。
もちろん実現には、ロボットを賢くするためのソフトウェア、Wi-FiやBluetoothといった無線技術、センサーなどの電子部品が必要になります。また、スマートハウスといった枠組みの整備も欠かせません。
そういう意味で、ソフトとハードは常にセットで考えられるべきものだと言えます。
ただ、技術革新によって、いろいろなことがどんどん実現可能になっています。たとえばチームラボハンガーで使用している最新規格のBluetooth4.0(Bluetooth Low Energy)は、超省電力仕様になっていて、コイン型リチウム電池1つで約1年半稼働します。だからこそ店舗に置きっぱなしでも機能する。
スマートハウスについても、ユカイ工学では今まさに大手住宅メーカーと共同して、ロボットをUIとして使用する研究を進めているところです。
センサーなどの電子部品についても、コストダウンが進んで、モノづくりがしやすくなっています。
昨年、シリコンバレーで行なわれた『Haxlr8r』というプログラムにメンターとして参加させてもらったんですが、それは、各国から集まったハードウェアのスタートアップの人たちを支援するプログラムなんです。
で、プログラムの一環として、中国のシンセンに3ヶ月間合宿に行くんですが今やそこには、秋葉原の何十倍という規模の電子部品マーケットがあるんです。部品調達や試作は、シンセンで安価に実現できる。そこで作ってネットで売る、というカタチを、スタートアップに勧めているわけですね。
― WEBサービスやIT技術の利用範囲が広がっていく、と言えますね?
今までコンピュータやネットが入っていかなかった領域にも、これからはどんどん入っていくことになる。たとえばNIKEの『FuelBand』といった実用例がすでにありますが、フィットネスの分野ではいち早く盛り上がりを見せそうです。あとは、高齢者向けサービスなどにも相性が良いんじゃないかと考えています。
(つづく)
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ロボット開発の担い手はITエンジニア?―MAKERS時代におけるITエンジニアのキャリアの行方[3]
編集 = CAREER HACK
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