「MAKERムーブメント」によって、IT・WEBの世界とモノづくりの世界は近づいていく。近い将来、ITエンジニアがハードウェア製品を企画・開発することに?ソフトとハード、両方のエンジニアリング経験を持つユカイ工学代表の青木さんに、ITエンジニアの未来に広がる可能性について伺ったインタビュー、第三弾。
▼インタビュー第1回はこちら
チームラボCTOが選んだモノづくりの道―MAKERS時代におけるITエンジニアのキャリアの行方[1]
▼インタビュー第2回はこちら
WEBが“リアル”を求め始めた―MAKERS時代におけるITエンジニアのキャリアの行方[2]
― 「MAKERムーブメント」では、“IT分野で起こったイノベーションが、ハードの世界でも起こっている”というような言われ方がされますが、そのあたり、青木さんはどう捉えていらっしゃいますか?
確かにそういう言い方はできると思います。ひと昔前は、WEBサービスの事業計画書を作ろうと思ったら、オラクルのライセンス料が全体予算の半分、とか、そういう世界でした。僕が起業をした頃なんかがそうです。
当時も、たとえばLinuxといったオープンソースはありましたが、実用に使うというという発想はまだなくて、Solarisなどの商用UNIXを買うというのが一般的。でもあっという間に、LinuxやMySQLといったオープンソースが実用でも使われるようになって、サービス開発コストって劇的に下がりましたよね。
ハードの世界で今起こっていることも、非常に似ています。
CADソフトは以前は数百万円したけれど、今は値段も随分下がり、フリーのソフトなんかも出てきています。そもそもCADがノートPCで動くこと自体、昔からすると想像もつかないような進歩だと思います。以前はワークステーションと呼ばれる、専用の高性能のコンピュータがないと動かないものでしたから。
また、オープンソース・ハードウェアなんて呼ばれてますが、手軽にハードウェアプロトタイピングができる『Arduino』などのツールが安価に手に入るようになっていますよね。3Dプリンタやレーザーカッターも、最近は価格が随分こなれてきました。
機械部品に関しても中国で安く簡単に調達できますし、電子基板を作るにしても、中国や韓国の専門業者にデータを送れば3日ぐらいで仕上がってくる。電子基板に部品を実装する工程についてもインターネットでデータを送るだけで、マシンがやってくれるようになりました。
ハードウェアを作るためのハードルが、下がってきているわけです。「こういうものがあったらいいな」というものが、気軽に作れる時代が来ていることは間違いないですね。
― モノづくりの現場はどのように変わるのでしょうか。
インターネットの無い時代は、社内もしくは近い場所に各生産工程ごとのスペシャリストを置き、多額の設備投資のもとに生産ラインを整え、 それから初めてモノづくりができる、というものでしたよね。
ですがインターネットの出現によって、世界中の人たちの手を簡単に借りられるようになり、人的・物的資源の必要量はグッと少なくて済むようになった。 優れたアイデアがあれば、すぐにカタチにできます。
― そうすると、どんなことが起こるのでしょう?
既存のメーカー企業が行なってきたような大ロットでの生産においては、グローバル化のあり方が変化していくのではないかと考えています。
分かりやすくいえば、近年アップルがやってきたようなことです。各国に生産拠点を設け、国ごとにローカライズされたモノづくりをする、というのではなく、グローバルで通用するユニバーサルなものを1ヵ所で作り、世界に展開するというやり方。ある意味、WEBサービス的な発想ですよね。そうすることによって出荷台数を増やせ、コスト的にも競争力を得られます。大きなメーカーが生き残っていくには、こちらの方向性を突き詰めていくしかないと思います。
一方、小ロットの生産においては、ものすごくニッチなニーズに対して、満足度の高い製品を提供する、といったことが可能になります。従来型の製造においては、大量生産を基本としなければ採算があわないわけですが、今は金型も作らずに成形が可能な時代ですから。量産をベースに考えなくても済むので、より個別性の高い要望を満たすモノづくりができるようになります。
簡単にいえばいろいろな製品を生み出しやすくなるわけで、これからはインターネットとリアルをつなぐデバイスも次々に出てくるんじゃないでしょうか。
― ということは、IT・WEBエンジニアがモノづくりの現場に関わっていく可能性も広がる、と。
FacebookやTwitterが広まった背景の一つに、スマートフォンの存在というのがあると思うんです。より正確に言えば、ノーティフィケーション、つまりプッシュ通知機能のおかげ、ということですね。
もしPCの中だけのサービスであれば、これほど急速には広まらなかったんじゃないかと。なぜなら四六時中PCの前にいるわけにはいかないし、PCの前にいるときでさえ、FacebookやTwitterのサイト内に留まって更新ボタンを押し続ける、なんてことはありえないですから。どこでも持ち運べて、プッシュ通知してくれるスマートフォンがあったから利用が促進されたと考えられます。
なのでWEBサービスというのは、リアルにおけるユーザーとの関わり方というのが非常に重要であり、これから一層そこを考えなければならないんだと思います。
今でいえば、LINEがケータイを作ったり、pixivが絵描きさん用のタブレットを作ったとしても、全然違和感がないですよね。AmazonがKindleを作ったみたいに。つまり、WEBのエンジニアもユーザーに近いところでサービスづくりやモノづくりに関わっていける時代なんだと思います。
逆に、WEBサービスの会社がハードメーカーのエンジニアを雇い入れて、まったく新しいモノを生み出す、というのもあり得ますね。
― IT・WEBエンジニアがハードの世界に近づいていくにあたって、スキル的な壁というのは問題になりませんか?
問題というほどのことはないと思います。MAKERムーブメントというのがまさにそれで、ハードウェアの側が、ITエンジニアに近づいていっていると言えますから。言わば、“モノづくりのインターネット化”です。
たとえば、ちょっと宣伝みたいになっちゃうんですけど、ユカイ工学が開発して先日リリースした『konashi』というツールがあります。これは、アプリ開発をしている人が簡単にハードウェアをいじれるようにしたキットなんです。
使用するのに特殊なライセンスはいらず、iOS SDKとObjective-Cだけでいじれます。マイコンボードのほうにはプログラミングは不要です。これを使えば、iPhoneアプリからBluetoothを使って、モーターやセンサーを直接動かすことができます。
― iPhoneアプリで操作するロボットなんかも作れると!実に面白いことになりそうです。今、ハードの側にいる青木さんから見て、こういうIT・WEBエンジニアだったら一緒にやりたいなとか、求めることとかってありますか?
求めるというとすごく上から目線で恐縮なんですが…。先ほどの「LINEがケータイをつくる」という喩え話のように、WEBサービスが、モノづくりや生活スタイルをリードできる時代が来ていると思います。
皆が四六時中インターネットに繋がっている現代においては、現実の世界をWEBに持ち込むのではなく、WEBの世界を現実に持ち込むという発想に価値があると思うんです。
そこまでを自分で考えて、ハードの世界の人たちを巻き込み、モノづくりを引っ張っていけるような人材がいれば素晴らしいですよね。ちょっと望み過ぎでしょうか(笑)
― でもそれができれば、ITエンジニアにとってはまた一つ新たなキャリアが築けますよね。MAKERムーブメントの行方、今後も注視していきたいと思います。本日はありがとうございました!
ありがとうございました。
(おわり)
編集 = CAREER HACK
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