孫正義氏にプレゼンし続け、ソフトバンクアカデミアで年間1位の成績を修めたーーそれがYahoo!アカデミア学長の伊藤羊一さんだ。いわば「学びのプロフェッショナル」といっていい。彼は「ビジネスの世界でも日々の“練習”が必要だ」と語ってくれた。伊藤さんと共に「学びの本質」に迫っていこう。
目次
・孫正義氏を唸らせた学びのプロ|Yahoo!アカデミア学長 伊藤羊一
・ビジネスの世界でも「練習」が必要
・「とにかく本を読む」は不毛な学び方
・20代はキャリアに悩んで当然。目の前にあることをやればいい
・マインドをつくれば、アクションが生まれ、スキルが身につく
「とにかくたくさん本を読む、ただそれを繰り返すだけでは不毛な学び方です」
そう語るのは。Yahoo!アカデミアで責任者・学長を務める伊藤羊一さん。
かつて、孫正義氏の後継者を育てるスクール「ソフトバンクアカデミア」に参加。国内CEOコースで年間1位の成績を修めた。
現在、Yahoo!アカデミアの学長として、次世代リーダー育成を担い、グロービズ経営大学院では「ビジネスリーダーに必要な学び」について教鞭をとる。
さらに2018年11月には、アウトドアと学びをかけあわせた新たなプログラム「KARUIZAWA LEARNING FEST.」を打ち立てるなどユニークな取り組みも行なっている。まさに「学び」のプロといえる。
どんな学び方をすれば、ビジネスシーンで活かせるものになるのか。
「楽しさは学びを加速させるための補足でしかない」
「日々学び続けることはビジネスの世界で戦うための基礎体力づくり」
学びの本質を突く話が伺えた。
[プロフィール] 伊藤羊一 Yahoo!アカデミア学長
ヤフー株式会社 コーポレートエバンジェリスト。次世代リーダーの育成を行なう。グロービズ経営大学院客員教授としてリーダーシップ科目の教団に立つ。多くの大企業やスタートアップ育成プログラムでメンター、アドバイザーを務める。かつてソフトバンクアカデミア(孫正義氏の後継者を見出し、育てる学校)に所属。孫正義氏にプレゼンし続け、国内CEOコースで年間1位の成績を修めた。
近著に「1分で話せ-世界のトップが絶賛した大事なことだけシンプルに伝える技術-」がある。
― 学びの場を提供されている伊藤さん。「学び」についてなにか課題感をお持ちなのでしょうか?
よくバッターボックスに立った回数が重要だって話があると思います。
それは半分正しいけど半分間違っている。たしかに実際にチカラを身につけるのは実践の場だと思います。
半分間違っているのは、例えばプロ野球選手のなかに練習しないでバッターボックスに立つ人はいない。試合ばかりではなく、練習の期間も当然あります。
スポーツ選手の練習に値する、ユーザーやお客様に見せる以外のところでの「学び」がビジネスの世界では蔑ろにされがち。もう少し「学び」に対して真摯に向き合おうよってことを世の中に訴えかけたいんです。
もうひとつ、「学ぶことは楽しい」ということを知ってもらいたいです。
先日、イベントに登壇する機会があって。気づいたことは、学びをネガティブに捉えている人が意外と多い。
プレゼンするのが怖いとか、人前で発言して、それに対して何か言われるのが怖いとか。ちょっと構えちゃう人が結構いる。
怖がる気持ちはわかるんですよ。でも「なぜ怖いと思ってしまうのか」というところをどうにかしなきゃいけないと思っています。
― 学び方にコツはありますか?
人から学ぶことが大事です。
僕は、本をほとんど読みません。ただ、学びを得ている自信はある(笑)手当たり次第に本を読むことってほとんどないですよ。
例えばAIの本を読むより、AIをやっている人と直接話をした方が間違いなく学びは大きい。量子コンピューターの事業をやっているスタートアップを紹介してもらって、その人に直接話しを聞く。
イベント登壇するときは僕にとってチャンスなんですよね。自分が話すことも大事ですが、他の登壇者である専門家の話を生で聞ける。
― 手当たり次第、大量にインプットすればいいわけじゃないってことですよね。
そのとおりだと思います。どこで必要なのか、どうなりたいのかを強くイメージするのがいいですよね。すると、読む本も変わってくる。自分の中に足りない知識だけを埋めていく意識です。
本を読むなら、必ずアウトプットもセットで考えるといいですよ。
例えば量子コンピューターについて勉強するとします。どこかで名前を見たことがあるくらいの知識でした。普段だったら絶対読まない様な本を読んで、狂ったように勉強するんです。難しいことも諦めずに理解しようとする。
次は量子コンピューターに関する一連のことをインプットします。AIの話や、これまで何となく聞いていたようなことをもう1回整理して勉強したり。AIを勉強してみると、データ分析はどんなふうにやっていたのかとか、ヤフーはどうなっているのか調べたり。IoTのことに触れてみたり。
また、「リーダーシップ開発」について学ぶときは、コミュニケーションについて知らないといけない。人とコミュニケーションする上で重要なスキルって、コーチングなどがあるよね。コーチングって言葉は知っているけど、実際に何をやっているのかよく分からない。
さっきの人から学ぶという話を応用すれば、コーチングの第一人者みたいな人の話を聞きに行ったり。
やらなきゃいけないから勉強する。本やウェブから調べるだけじゃなくて、人と話をして、実際やってみる。それが学びのコツですね。
― 20代の若い世代話をされる機会が多いと思います。どんな悩みを持っているのでしょう?
20代の人たちと1on1をよくやるのですが、キャリアについて悩む人が多いですよね。今自分がいるところは現実じゃないと思っている。ここではないどこかに自分が本来行くべき場所がある。ここから抜け出してそこへ行きたいと思っている。
20代の人に「目の前にあるものをガンガンやりきるしかない」と伝えています。人生の大逆転を数年後にならっていたとしても、今日この瞬間からの経験を変えて逆転に向いていくしかないんですよね。
足元のスキルを身につけたり、結果が出るようなノウハウを身につける。それをひたすらやり続けるっていうことでしか、未来を築くことはできない。
今の自分を形成しているのは、過去の人生の積み重ねです。だから、人それぞれに異なる価値観を持っていたり、違う信念を持っていたりする。未来をどう生きているかは、「現在の積み重ね」の延長線上にある。
― 目の前の仕事と向き合っていても、本当にこれで大丈夫かな?と不安になることも……。
1週間に1回とか2週間に1回とか、定期的に振り返る。向き合い続けることがとても大事だと思います。
でも、毎日不安に思うのはダメです。
いま取り組んでいることは一体何の意味があるんだろう、どう未来に繋がるんだろう、という考える聞かうを物理的につくる。10回20回と繰り返していくうちに、進むべき方向感みたいなものが見えてきます。「自分はどうやったら会社や社会で評価されるんだろう」っていうのが段々分かってくるはずです
足元をやることプラス振り返りをすることが凄い大事。
― モチベーションの迷子になっていたりとか、やりたい事がないとき、どうしたらいいでしょう。
なにをモチベーションにしていいかわからない状態。めっちゃ分かりますよ…。明確にやりたいことが決まっていなくても良いと思います。
学びの場を提供することが自分のミッションだと気づいたのは、50歳超えてからですよ。それまでは経営者として流通で世の中に貢献していくんだと信じていました。
事業をやりたいのかもしれないと、思ったりすることもありました。でも本当にやりたいことかどうか分からない。自分との対話のなかで譲れないものを見出して、それを軸に選択していく。そしてはじめて「これだ」と思うものに出会いました。
やりたい事が見つからないことを不安に思う必要はないと思います。やっている内に段々プロになっていきますから。目の前のことを一生懸命取り組み。そして、向き合い続けることがとても大事です。
― Yahoo!アカデミアではどのようなことをされているんですか?
主にマインドの育て方を教えています。
マインドを鍛えたらアクションするし、アクションしたら振り返って自分のスキルがレベルアップする。またマインドを燃やしてアクションにつなげていく……。この繰り返しが大事。
マインドを強めるためには、まず内省と対話をして、自分の譲れないことはなにかを明らかにする。
それだけやっていると自分のことばかりにこもってしまうので、他の人と触れ合う必要があります。Yahoo!アカデミアでは色んな有識者のを招いて、直に話を聞いてもらう機会を用意しています。人の話から刺激を受けることで、マインドが燃える。
突き動かされる信念に目覚めることは、難しいことではありません。みんなそれなりに持っています。ただ普段は気づかないだけ。草の中に埋もれているものを嗅ぎ分けながら、自分の中から探し出すような行為です。
― 最後に、これから伊藤さんが挑戦していきたいことについて教えてください。
人と人が繋がる場所をつくっていきたいです。
「自らの思いを伝え合うことが大事だ」と考える人が増えるほど、色んな人と出会えるようになります。世代も広がっていきます。
その次にあるのは、自然発生的なコミュニティです。発起人や運営者が離れても勝手につながりが発生して、うようようごめいている状態。色んなコミュニティがぶつかりながら発展していけば面白いですよね。
僕はそこにコンテンツを投入していきながら、それを中心にコミュニティが賑わっていく。そして、参加者自身がコミュニティを育てていく。
いつか、「学ぶって大事だね」ということが、僕の声が直接届かない所にも伝わっていけば嬉しいですね。
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