2019.01.10
雑用からのスタートだった。『LINE ポコパン』ヒットの立役者になるまで

雑用からのスタートだった。『LINE ポコパン』ヒットの立役者になるまで

『LINE ポコパン』ヒットの立役者、奥井麻矢さん。LINEに勤めており、31歳という若さで100名を超えるメンバーを統括、ゲーム事業を牽引するプロデューサーだ。「やりたいことはなかった」と語る彼女。それがコンプレックスでもあったという。そんな彼女が大切にしてきたのは、まっすぐに「目の前の仕事」に全力で向き合うことだった。

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「2時間前」出社を続けた3年半。ライバルは先輩たちだった。

LINE GAMEでヒット作品をぞくぞくと手がける、LINEの執行役員でありゲーム事業本部 事業本部長を務める奥井麻矢さん(31)。めずらしいタイプのゲームプロデューサーでもある。ファーストキャリアは営業。新人時代には、広告代理店で営業数字を追う日々を過ごしていた。

意外だと言われることも多いのですが、もともとは営業として働いていました。50人くらいの広告代理店だったのですが、はじめての新卒採用で入社して。新人は私ひとり。

先輩たちはみんなすごく可愛がってくれて、ありがたい環境だったのですが…不安もありました。このままだとレベルアップしないんじゃないか、と。

この環境に甘えちゃいけないなって。ちゃんと戦力になろう、と。ただ、先輩たちとは営業として経験にすごく差があった。

そして考えたのが、とにかく先輩たち以上に「量」をこなすこと。まずは肩を並べるために、みんなより2時間早く出社して、勉強をしていました。とにかくわからないことを自分なりに調べてなくしていく。

…じつは早起きはニガテなタイプなんですけど(笑)これだけは入社当初から3年半続けてきました。

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【プロフィール】奥井麻矢さん LINE株式会社 執行役員/ゲーム事業本部 事業本部長
1987年生まれ。インターネット広告代理店に営業職として新卒入社した後、2011年、NHN Japan株式会社(現LINE株式会社)に転職。ハンゲームのアライアンス営業業務を経て、LINE GAMEの立ち上げに携わる。プロデューサーとして『LINE ポコパン』など多数のタイトルを手がけ、メンバーを率いた後、現在は執行役員 兼 ゲーム事業本部長として、現職に至る。

「やりたいことがない」がコンプレックスだった。

彼女を突き動かした原動力とは?

「やりたいことがない」「何がしたいかわからない」というコンプレックスがあったのだと思います。就職活動って自己分析したりするじゃないですか。でも、「絶対にこれ!」というものがなかった。「何が好きなのか」「何を成し遂げたいのか」がわからなかったんです。

じつは、幼い頃から習い事やスポーツはたくさんしてきたし、どれも人並みにはできたんです。…周りからちやほやされてきたという自覚はあって(笑)。

根拠の無い自信だけはあったんですけどね。「自分は何者かになるんだ」って。でも、肝心な「何者になるのか」はわからないままでした。もしかしたら、そんな自分でも「これ!」と言えるものが働く中で見つかるかもしれない。そう思って、新卒ではめいっぱい経験とチャレンジができて競争が激しい会社を選びました。

ちゃんと自分が納得できるような社会人になりたかったんだと思います。あとは他の人よりも一歩リードしたかった。もともと負けず嫌いな性格もあるかもしれません(笑)

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雑用こそが突破口に。

26歳のときにNHN JAPAN(現:LINE)に転職した奥井さん。営業から「LINE GAME」の立ち上げへの抜擢がターニングポイントとなった。

もともと営業としてNHN JAPAN(現:LINE)に入社したのですが、ホントにたまたま「LINE GAME」の立ち上げにアサインしてもらえたんですよね。その理由がおもしろくて。

「ゲームに興味のない人がほしい」

と言われたんです。それなら私にぴったりだなって(笑)。当時のプロジェクトリーダーによれば「LINE GAMEはゲームに興味のない人にも遊んでもらえる大衆的なものにしたい」と。だから、とくに私になにか秀でた能力があって、評価されて選ばれたわけではなかったんです。

当然、できることもないし、ゲームプロデュースはおろか、企画書も書いたことがない。だから、はじめはとにかく雑用係をすすんでやっていました。会議の事前準備とか、議事録とか、ユーザーに対するアンケート回収とか。

当時のボスの子分みたいな感じ(笑)とにかくずっと横について、やれることを全部先回りしてやる。みんながやりたくない、めんどくさいことを率先してやることで自分の価値を見い出せたらと思っていました。

もう一つ、徹底していたのが、誰よりもゲームの担当数を持つことです。人の2~3倍、「私にやらせてください!」といって、まず手を挙げる。

わかんないながらにとりあえず全部引き受けちゃって、それをやるっていう状況に身を置いちゃう。そうすると、情報も全部来るし、実践のなかで知識を習得していくことができました。

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『LINE ポコパン』大ヒットへの戸惑い

そして奥井さんが初めて担当した『LINE ポコパン』は大ヒット。ただ、その裏側で彼女は人知れず悩んでいたともいう。

自分の実力以上のヒットにすごいスピードでなってしまったんです。持っている知識、スキルと成果に乖離を感じました。一緒に組んでいた開発会社が優秀だったし、タイミングも良く。ホントに運がよかったとしか言いようがなくて。

ただ、事実、私の担当しているタイトルが一番売れているから、全然分からないのにいろいろ聞かれる立場になってしまった(笑)

それ以上に、何百万人が遊ぶゲームの運命を日々選択し決断することへの必死さで、「運が良かった」なんて言っていられない状況になっていきました。だから、とにかく社内外問わずいろんな人に聞きまくる。頼りまくる。ここを徹底しました。

海外にいる担当者に毎日電話したり、他事業部の人にお菓子持って何度も聞きに行ったり、他に詳しい人紹介してもらったり、色々助けてもらいました。

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今できることを全力で

『LINE ポコパン』に続き、『LINE バブル2』など、「LINE GAME」のタイトルを次々にヒットさせ、世に送り出している奥井さん。なぜ、彼女は最前線で輝き続けられるのか。そこには「今できることを全力で取り組む」というシンプルな仕事哲学があった。

運がよかった…というのは感じているんです。ただ、運なんだけれども、運が巡ってくるかどうか。その土壌を自分なりに作るっていうことはできるはず。ずっと大切にしているのは「常に今できることをやり切ること」。結果論ではありますが、やれることをその時々でやりきってなかったら多分成果は出てない。

私は「やりたいことがない」というコンプレックスからはじまっていて。メンバーたちとも話すのですが、「好きなことや、やりたいことが明確じゃなくてもいいよって。その一瞬一瞬に夢中になれればいいよ」っていう話をよくしています。確固たるビジョンや、明確な将来設計がなくたっていいんじゃないかなと。好きなことを見つけてのめり込める人は素敵だけど、できない人のほうが多い。

どんな役割が心地いいか。ふわっとした曖昧なことでも、自分にとって大事ならば仕事はがんばれるし、やりがいも感じられるはずで。今、私は自分が責任を持つ組織が、たとえ、何をやっても価値を出せるようになることを目指していて。そこに夢中なんです。好きなことを仕事にしている人と同等か、それ以上に努力できるし、馬力を持って仕事ができているんじゃないかとも思います。

何をしたいか?じゃなくて、何をしているときがイキイキできるか。その時、その時を楽しんでいい。気づいたら自分が想像もつかないような場所にたどり着いていたら、すごくおもしろいと思うんです。

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文 = 野村愛


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