異色な2人が手を組んだ! もともとAIエンジニアだった海鋒健太さん、インスタグラマー高橋ゆきさんらによって運営される『PATRA』。10〜20代向けD2Cファッションサイトだ。目指すのは、ファッションビジネスのムダ撲滅だ。
東大出身のAIエンジニアと、インスタグラマー。
一見、全く別属性の二人が手を組んだ。
もともとAIエンジニアだった海鋒健太(かいほこけんた)さんは、女性向けファッションECプラットフォームサイト『PATRA(パトラ)』を運営する株式会社PATRAを創業。インスタグラマーの高橋ゆきさんはその中で自社のアパレルブランド「powanto lune」を展開している。
そんな二人の出会いの背景にあったのが、「ファッションビジネスのムダをなくしたい」という共通の思いだった。
ーーさっそく、お二人が手を組んだきっかけから教えてください。
海鋒さん:
きっかけは、僕が声をかけたことです。
もともと僕は学生時代(2014年)に起業して。動画メディア「PATRA magazine」を運用するなかで、Instagram経由で商品が売れていく様子を目の当たりにしていた。自社ブランド事業に舵を切るなかで、強いブランドマネージャーの存在が欠かせないと考えていました。
その当時、高橋は別のIT系スタートアップでオリジナルのアパレルブランドを手がけていた。本来の力を発揮できていないような気がしていて。ちょうど退職するという話を聞いて、声をかけました。
高橋さん:
べつに前職に不満があったわけではないんです。ただ、会社の方針が変わってアパレルブランドの取り扱いをやめることになってしまって……もともと「一緒に洋服をつくりませんか?」と誘われて入社していたので、アパレルに関われなくなるのであればいる意味もないな、と。
ーーでは、なぜ高橋さんはPATRAに?
高橋さん:
もちろん、いくつか選択肢はありました。別の会社に転職するか、独立するか、それとも辞めてしまうか……辞める選択は考えなかったけど、独立にはやはりリスクが伴う。どうしようか悩んでいたときに声をかけてもらえたので、すごく嬉しかったですね。
最大の理由としては、友人のインスタグラマーが働いていたことが大きいですね。話はよく聞いていて、羨ましく感じる部分も多かったので。
ーー羨ましいというと?
高橋さん:
商品の企画やPRに専念できる点です。
アパレルブランドって一見華やかかもしれませんが、裏側はすごく地味なんです。たとえば、発送手続きや在庫管理のようなミスの許されない細かな仕事がたくさんある。それはそれで大事だけど、あまり気を取られてしまうと商品の企画やPRに力を注げないんです。
でも、PATRAには配送の効率化や在庫の最適化を実現するシステムがある。本来やりたかった仕事に専念できる点がすごく魅力的だと感じていました。
ーー少し話題が出ましたが、今回聞きたいテーマのひとつが「インスタグラマーのキャリア」についてです。お二人が課題に感じていることを詳しく教えていただけますか?
海鋒さん:
高橋のように「インスタグラマーが本来の仕事に専念できない」って結構いろんなところで起きているんです。
高橋さん:
今は自分のブランドを立ち上げるインスタグラマーがすごく増えているんですが、活躍……というか、生活できているのはほんの一握りですね。
オリジナルブランドをつくるとなると、資金が必要だったり工場とのやり取りが発生したりするため、会社に所属する方が効率的です。会社側も歓迎してくれる。でも、そうなると私のように会社の方針変更などでブランド自体が突然ストップになる可能性とも隣り合わせになるわけです。
要は、インスタグラマーのアパレルブランドって始めるのはカンタンだけど、続けるのが難しい仕事なんですよね。実際に、インスタグラマーとして頑張りたいのに辞めていった仲間たちを何人も見てきました。
海鋒さん:
基本的にインスタグラマーの収入源は広告収益です。案件数によって変動するので、月100万円稼げるときもあれば、15万円の月もある。
でも、それだと職業としては成立しづらいですよね。それどころか、創造力や発信力が求められる仕事に専念できないばかりに、生活のためのステマに巻き込まれて自分の価値をおとしめてしまうケースもある。伸び悩むインスタグラマーたちを目の当たりにしていると、すごくもったいなくて。この状況をどうにかしたいという想いが強くありました。
ーーだから、PATRAでインスタグラマーを社員として採用しよう、と。
海鋒さん:
おっしゃる通りです。僕らが声をかけてインスタグラマーに提案したのが、固定給の導入です。そして、3〜4ヶ月に一度給与改定して、売上に応じて給料が上がっていく仕組みを取り入れました。
自分の得意分野だけに集中できて収入面も安定できれば、インスタグラマーが職業として成立するのではないか、と。
ーー高橋さんはPATRA入社前後で生活に変化ってありましたか?
高橋さん:
ある程度自分の世界観を大事にしながらInstagramに投稿できている感覚はあります。
誤解を恐れずにいうと、インスタグラマーの広告案件ってフォロワーからの信頼の切り売りだと思っているんですね。広告の投稿ばかりが続くとフォロワーからの信頼も薄れていってしまう。クライアントからの文章や写真への指示があるとなるべく自分の世界観に寄せようとはするんですが、どうしても限界があるので。
やりたくないけど、生きていくためには広告案件で稼がなくてはいけない……といった葛藤はなくなったように思いますね。
ーー海鋒さんにお聞きしたいんですが、なぜファッションビジネスやインスタグラマーにそれほどまでに情熱を注げるのでしょうか。
海鋒さん:
確かに、原体験としてはないですね。
ただ、根本として僕は「トレンドが変わる瞬間」をつくりたいんです。ファッションや広告の業界って、ブランドとインスタグラマーが出会うまでの間に、広告代理店、レップ、芸能事務所などなどが入る。コレってすごい無駄じゃないですか。
こういう無駄、不和、軋轢が顕在化しているってことは、トレンドが変わる潮目がすぐそこまできているってことだと思っていて。だったら自社でブランドを持って、PRまでできれば最強じゃないか、と。
「トレンドを最初に変えられる存在でありたい」という気持ちを叶えるために、ファッションビジネスというフィールドでインスタグラマーたちと一緒に戦っている感覚です。
ーーとはいえ、苦労もあったのでは?
海鋒さん:
ECを始めて半年ぐらいは全然うまくいかなかったです。配送がトラブったり、カスタマーサポートがパンクしたり……それでも、ユーザーの反応は非常に良かったので、そのとき「イケる」と確信しましたね。
ーーそこからどうやって軌道に乗せていったんですか?Instagramで商品を売るコツがあったら教えてください。
高橋さん:
シンプルだけど「あきらめないこと」ですね。
インスタグラマーの世界では、「フォロワーが多いのに売れない」ことも起こり得るんです。結局、あきらめてしまっているんですよね。インスタグラマーでプライドが高い人は、売れていない服をいつまでもPRし続けたくないんです。
でも、私はPRをやめるような服だったらつくらないほうがいいと思っていますし、そもそも流行が変わっても着まわししやすい服をつくっているので。販売開始すぐに売れなかったとしても、数ヶ月、半年、1年……と時間をかけてPRしていくようにしています。
海鋒さん:
InstagramもTwitterも、毎日投稿し続ければフォロワーが増えるんですが、みんな途中で心が折れてしまうんですよね。同じことをコツコツ続けることの難しさというか。そのあたりは僕らがデータを活用してバックアップしたいと思っています。
ーーありがとうございます。では、最後に今後の目標について教えてください。
海鋒さん:
今はPATRAのプラットフォーム化を進めているところです。既存のブランドも成長させつつ、いずれは「ある程度のインスタグラマーであればPATRAに出品したら絶対に失敗しない」状況をつくりたいですね。
あとは、オフラインのコミュニティも強化させたいと考えています。2019年3月には大阪の梅田に10日間限定のショップを出店する予定です。そこでインスタグラマーとファンの子たちが話をしながら洋服を選べるような購入体験を創出していきたいと思っています。
取材後、「ときどき、高橋には恋愛の相談もするんです(笑)」とはにかみながら話してくれた海鋒さん。恋バナに花を咲かせる様子は、どこにでもいる20代の日常そのものだ。ファッション業界、広告業界の構造に一石を投じるPATRA。いい意味で肩の力が抜けた彼らの挑戦をこれからも追いかけたい。
4月から新社会人となるみなさんに、仕事にとって大切なこと、役立つ体験談などをお届けします。どんなに活躍している人もはじめはみんな新人。新たなスタートラインに立つ時、壁にぶつかったとき、ぜひこれらの記事を参考にしてみてください!
経営者たちの「現在に至るまでの困難=ハードシングス」をテーマにした連載特集。HARD THINGS STORY(リーダーたちの迷いと決断)と題し、経営者たちが経験したさまざまな壁、困難、そして試練に迫ります。
Notionナシでは生きられない!そんなNotionを愛する人々、チームのケースをお届け。