創業当初からシステム内製化に取り組んだスタートトゥデイ。ZOZOTOWNのサービス開始時からエンジニアとして同社に在籍し、現在、開発・物流部門を統括する取締役の大蔵峰樹氏にインタビュー。システム内製化を決断した背景やそのメリットについてお伺いした。
パッケージの導入、もしくはシステム開発は外注に投げ、運営側はサイトの拡充に注力する。
そんな業界のスタンダードに疑問を唱え、創業当初からシステム内製化に取り組んだスタートトゥデイ。日本最大級のファッションECサイト『ZOZOTOWN』やファッションコーディネート検索サービス『WEAR』だけでなく、物流システムや社内システムの多くを内製しているという。
今回は、ZOZOTOWNのサービス開始時にエンジニアとして同社に入社し、現在、創造開発本部(開発エンジニア・WEBデザイナーが所属する部署)とフルフィルメント本部(物流を担当する部署・システムエンジニアが所属する部署)を統括する取締役の大蔵峰樹氏にインタビュー。システムを内製化している背景やそのメリットについてお伺いした。
― 創業初期からスタートトゥデイがシステムの内製を志向している背景を教えてください。
実は創業当初、『ZOZOTOWN』の前身となるサイトは当社代表の前澤自身の手によって誕生していたんです。しかし規模拡大に伴って一人での開発は困難となり、外注に出したんですよ。
外注というか、僕になんですけど(笑)。当時、前澤が依頼をかけた外注先は、僕が在籍していたシステム開発会社なんです。
前澤は、「あれやりたい」「これやりたい」それも「明日までに」という考えが明確にあり、スピード優先なので、普通の外注のスピードではとても間に合わなかった。それで、社内にもエンジニアを置いて、内製の道を選んだんです。
だから、「何が何でも内製化しよう!」というワケではなく、対応スピードという点で外注という選択肢が選べなかったんです。気になる部分があれば、オープン2時間前にシステムを変えることだってあるんです。ありえないと思われるかもしれませんが、スタートトゥデイでは「気づいているけど、仕方ない」は通用しないんです。
― 一般的にはシステム開発を外注している企業が多いですが、それについてはどう思われますか?
最初に誤解のないようにお伝えすると、なるべく自社で作ろうとはしていますが、現在も一部は外部に委託しています。100%内製というわけではないんですね。
ただ、システム開発をすべて外部に依頼すると、多くの場合、既成のパッケージをそのまま導入したり、カスタマイズして導入することになりますよね。でも既成のパッケージは当社のためだけにイチから作られたものではないので、業務フローや、やり方を変えなければいけなくなるんですよ。
つまり、“システムに業務を合わせる”ことになる。完成された分野はそれでいいですが、新しい分野であれば、“業務にシステムを合わせる”べき。もちろん当社では、すべてにおいて「こうやりたい」という考えに基づいて、業務にシステムを合わせています。
― スタートトゥデイにはWEBサイトから業務システム、物流システム、アプリなど、様々な領域を担当するエンジニアが在籍されていると思います。新しい技術の導入や社内での技術的な勉強会などの取り組みは積極的にされているんですか?
社内外の勉強会に参加しているエンジニアも多くいます。でも、「新しい言語やシステムの勉強をしろ」と強く言ったりはしていません。もちろん勉強したい人は積極的にやってほしいと思っていますが。
外部から当社を見ると、スタートトゥデイって大規模サイトやアプリを手がけていて、高い技術力を駆使するエンジニアがたくさん在籍していて、みんながプロとしてITを突きつめているように見えますか?
だとしたら、私たち社員から見るスタートトゥデイと、多少なりともギャップがあるかと思います。
そもそも、自分たちがIT企業であるという認識があまりないのかもしれません。社内にITリテラシーが高くない社員も多いんですよ。電源コードとLANケーブルの違いが分からないとかね(笑)。それに在籍するエンジニアのうち約半数が経験5年以内のローキャリアなんです。
もちろん、高い技術を持ったエンジニアも在籍しています。でも、職人気質な超プロフェッショナルという感じではないかもしれません。ある程度の経験は積んでいて、外に出しても恥ずかしくないスキルは持っているけど、めちゃくちゃITを突き詰めてる人はあんまりいない。
だからエンジニアは、サービスのアイデアや業務システムの要望などを「どうしたら実現できるのか?」と柔軟に考え、同じ方向を向いて開発に取り組めています。その分、調和が取れるし、仕事がやりやすいのかもしれません。
― サイトの運営だけでなく、決済や物流、他サイトとの連携など、拡大に伴いシステムはどんどん複雑化していると思います。“技術的負債”に悩む企業も多い中、スタートトゥデイではどのような視点を持ってシステムを内製してらっしゃるんですか?
創業当初から長期的な視点を大事にしてきましたね。一時的な効率の良さやメリットではなく、常に将来を見据えて開発をしてきました。当初から同じ視点に基づいて設計をしているので、規模が大きくなった今でも、紐解いていけば一つひとつはキチンと分かれる構造になっているんです。
もし外注に頼んでいたら、今頃とんでもないことになっていたと思います(笑)。外注に出して一時的な効率の良さやメリットを求めてしまうと、継ぎ接ぎだらけで後からはもうどうにもならないシステムになりかねないですから。
― 長期的な視点を実際のシステムに落とし込む上で、大事にしていることはありますか?
「シンプルである」ことですね。よく言っているのは、「一つ条件分岐を増やしたら、一つ条件分岐を減らせ」ということ。複雑にシステムを構築する方が簡単だし、正直そうした方が早い場合が多い。でも中長期的に見ると効率は悪いし、ミスも増える。
だから、今年の標語にもこの考えをを取り入れています。“Keep it simple, stupid.”「シンプルにしておけ!この間抜け」っていう意味。額に入れて、メンバー皆が見えるところに掲げています。ちなみに去年までは、“Simple is the best.”。
シンプルであることにこだわって内製してきたので、サイト規模が拡大し、サービスが多岐にわたっても、システム構成がデッドロック状態にならずにすみました。先の先まで考えてシステムを開発することがいかに大事かってことを再確認していますね。
― 外注の弊害や内製のメリット、さらには開発思想まで、これからシステム内製化を考える企業やエンジニアにとって、参考になるお話しをお伺いできたと思います。
▼スタートトゥデイ・大蔵氏のインタビュー第2弾
なぜスタートトゥデイはエンジニア用の評価基準を持たないのか?
[取材] 松尾彰大 [文] 磯田優里亜
編集 = 松尾彰大
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