デザイナー/プロダクトマネージャーでありながら、FP(ファイナンシャルプランナー)資格を取得! 日比谷すみれさんが働くのは、資産運用サービスを運営する『クラウドポート』。じつは彼女、もともとは「金融」は全くのシロウト。26歳にして未知の世界に飛び込んだ彼女を待っていたものとは…!?
CAREER HACKが、毎月お届けしている『ぼくらの新人時代』。
今回取材したのは、26歳で初めてフィンテックの世界に飛び込んだ、日比谷すみれさん(28)です。
UIデザインカンパニー『グッドパッチ』を経て、資産運用サービスを運営する『クラウドポート』へ。フィンテックにおいては、全くのシロウトだった彼女。
「転職してすぐの頃はワイヤーも用語もちんぷんかんぷん…」
「ただただ、言われたことしかできていませんでした…」
転職当初は、ほとんど新人と同じだったという彼女。
そこから2年。貸付ファンドのオンラインマーケット『Funds(ファンズ)』のデザイナー/プロダクトマネージャーとして活躍するまでに。そこまでには、どんな道のりが!?
ーまず、なぜフィンテックの世界に?
もともとグッドパッチというUIデザインの会社で働いていました。在籍中は様々なクライアントとお仕事をさせてもらい、その経験が何よりも今の私の財産です。
ただ、たくさんのクライアントとプロダクトを作るうちに「自分も当事者としてプロダクトづくりに関わりたい」という気持ちが芽生えたんですよね。
フィンテックを選んだ理由としては、まだまだ課題が山積みだと思ったからです。
お金ってすごく身近なものなのに、インターフェースが使いにくいものが多く、そもそものコンセプトも難解でとっつきにくい。そういう意味でまだまだデザイナーが介入する余地があるように感じました。
ーこれまでとは全く異なる世界だと思うんですが……そのあたりの不安はなかったんですか?
もちろん不安はありました。でも、完全に通用しないとも思っていなかったのが正直なところです。
どんな題材でも問題を解く方法は一緒なのではと思っていたのと、自分のデザイナーとしての特性として「膨大な情報を整理してわかりやすく伝える」ことが得意だと思っていたためです。
特にソーシャルレンディングという資産運用の領域で事業をはじめるにあたり、信頼感や真面目さ、分かりやすさといった要素をまずは大事にしていきたいということでした。そのあたりの相性の良さみたいなところはあると思っていたし、自分の強みや特性も活かせるんじゃないかと期待も入り混じった転職でした。
ー実際にフィンテックに飛び込んでみていかがでしたか?
それが…全然ダメでしたね。最初に関わったプロジェクトはデザインとコーディングを終わらせるまで2ヶ月もなかったのに、最初に上司から渡されたワイヤーフレームに書いてある言葉の意味や取り扱う情報の概念が理解できなくて。グッドパッチで経験を積んできた自負もあったんですが、一瞬で崩壊してしまいましたね。
本来であれば、デザイナーとしてどのようにしたらもっとオンボーディングがスムーズになるかなど提案や意見を伝えることで価値を発揮したかったのに、全然それどころじゃない。
時間もなかったので、とにかく上司が書いたワイヤーフレームをベースに作るしかなくて。この頃は、やりたいことと実力のギャップの大きさに衝撃を受け続ける毎日でしたね。
ーそうだったんですね・・・これまでの活躍を拝見していたのでびっくりです。
この2年間は、ひとりのデザイナーとしてもアウトプットを何も出せない焦りがありました。同世代のデザイナー仲間が、どんどんかっこよくて良いサービスをリリースしていくなか、何も成し遂げられていないし、価値も発揮できていない。
周りから受ける期待とのギャップを感じて、「わたし全然ダメなのにな...」って。
どうにかリリースにこぎつけはしましたが、実力不足は明らか。まずやってみたのが「自分でちゃんと投資をすること」。まずは自分がこのサービスのユーザーになろう、ということで投資をはじめました。
社内にはソーシャルレンディングや資産運用のプロがいましたが教えてもらったら意味がないので、全部自分で調べて。とはいえ、まずはスモールスタートで1、2万円から投資をはじめました。
実はそれまで毎月お給料の3割を定期預金に入れていたのですが、ソーシャルレンディングの勝手が分かってから思い切ってその定期預金に新たな資金を入れるのを止めました。以降はお給料の3割を上限としてソーシャルレンディングやロボアドバイザーの投資資金として使うことに。資産運用を本格的に開始しました。
ー実際、変化や手応えってありました?
めちゃめちゃありました。自分のなけなしのお金でも、投資するとなるとファンドの情報を細かくチェックするようになるんですよね。
ソーシャルレンディングって満期になると投資した元本と利益が戻ってくるんですが、一度元本割れしたファンドに当たってしまったことがあって……でも、サイトを見るとちゃんと元本割れのリスクも細かに記載されていたんですよね。ユーザーがどういうところを見ていて、どういう情報を欲しているのかといった視点は、身銭を切ることで徹底的に叩き込みましたね。
すると、少しずつ社内のプロたちともより深く会話ができるようになって。最初は上司に言われた通りしかできなかったけど、だんだんと「こういう見せ方ができるのでは?」といったデザイン上の提案ができるようになりました。
Fundsではコンセプトの伝え方やトップページのデザインは当初から20回ほどバージョンアップを繰り返していて。ユーザーインタビューなどでの試行錯誤の末、現状のデザインに落ち着きました。領域への理解が深まったことや実体験によりユーザー視点が身につき、自分の意思を伝えられるようになったんだと思います。
ーすごく貪欲に学ぶ姿勢がうかがえるエピソードでしたが、学ぶといえばファイナンシャルプランナーや証券外務員資格も取得されたと聞きました。
資格の取得は資産運用の全体像を知るための手段でした。クラウドポートが戦っていくのはソーシャルレンディングのマーケットではなく、資産運用全体のマーケットなので。資産運用だけではなく社会保険や年金制度についても知っておくと、自分たちの商品の立ち位置がわかるし、ユーザーさんにも自分の言葉で説明できると思って。
ただ、試験はめちゃめちゃ緊張しました。不合格だったら恥ずかしいなと(笑)。
ーめでたく合格し資格取得されて、日比谷さんの仕事に変化ってありました?
ユーザーさんがすごく信頼してくれるようになった感覚はありますね。「日比谷さんってデザイナーなのにFP取得したんでしょ?」とか「投資もして資格もとってすごいね」と言って頂くことが増え、コミュニケーションをしていても相手の懐に飛び込みやすくなったと思います。
ーあらためて学ぶことへの意識の高さ、強さを感じるのですが、仕事と並行してそこまでインプットに力を注げる理由は何なんでしょう?
うーん……答えになっているかはわかりませんが、以前からずっと意識しているのはどんな些細なことでも日々の気付きや課題感を必ずメモにとることです。ある仕事をやっている時に、ふと関連する何かの疑問が湧いてきたらメモを取って後で調べる。そうやってメモをとってインプットしてきたことが自分の学習の大きな手助けになっています。
ーFundsのプロダクトマネージャーとして活躍する日比谷さんですが、デザイナーではなくプロダクトマネージャーとして意識していることがあったら教えてください。
やはり最低限UXの最後の砦である意識を持っています。ただ、これはデザイナーとしての意識が強いかもしれません……。
現在はエンジニア3名、デザイナが私1名という少数のチームで開発を行っています。そのため、課題設定の着眼点を間違えるとサービスが停滞してしまうことになるという重圧はあります。「この2週間が無駄になってしまった……」ということが起きないように自分がどうすればいいのかは常に考えていますね。
ー最近フィンテックに限らずデザイナー出身のプロダクトマネージャーが増えてきています。プロダクトマネージャーがデザイナー出身であることのメリットって何でしょう?
2つあると思います。1つは、ユーザーをゴールに連れて行くためのデザインの検証というのを、自らデザインを作って主導できることかなと思います。2つめは、ビジネスサイドやユーザーの要求を「要はこういうことでしょ」と噛み砕いてプロダクトに落とし込めること。すぐにプロトタイピングを作って試しリリースできるスピード感と、その際のコミュニケーションが大事だと感じています。
ーいずれはキャリアとしてデザインを手放す可能性もあると思うのですが、そのあたりへの葛藤はないんですか?
そうですね。ただ、私は「デザインはいつでもできる」と思っているんです。日々の生活のなかでも課題ってたくさんあるじゃないですか。だから、デザインをする機会ってすごく多いんです。そういう意味では葛藤はありません。
単純に手を動かしたい欲求に関してはWebサイトをつくることが好きなので、趣味としてやればいいやと思っています。そうやってデザインと共に生きていけたら幸せですね。
「この2年間は潜伏期間だった」と振り返ってくれた日比谷さん。Fundsに関わっていることをオープンにできないこと、そのサービスのブラッシュアップに時間が割けないこと、そして自分自身の実力不足に苦しみ続けた2年間だったといいます。
それでも持ち前の学習意欲とインプット術で「自分のサービスです」と胸を張れるまでになりました。彼女の貪欲に取り組む姿勢が、彼女と同じように悩む方たちのヒントになれば幸いです。
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