2019.04.23
「アート作品の共同保有を根付かせたい」日本初アートプラットフォーム『ARTGATE』に込めた思い

「アート作品の共同保有を根付かせたい」日本初アートプラットフォーム『ARTGATE』に込めた思い

「アート作品をみんなで共同保有する」。ユニークなコンセプトを打ち出した『ARTGATE』。オーナー権は5万円から購入可能。オーナーになれば、クローズな作品鑑賞など「レアな体験」も。日本初*アートプラットフォーム『ARTGATE』は、次時代のアート作品との接点に?仕掛け人の松園詩織さんに伺った。

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*同社調べ

「ARTGATE」とは?

・複数人でアート作品を共同保有できるプラットフォーム

・オーナー権は5万円から購入可能

・オーナーになると作品鑑賞など優待あり

・オーナー権はユーザー間で売買することが可能(機能開発中)

・作品は、プロの監修のもと国内外から選定

・専門家による作品解説や市場評価の情報を提供

・作品は安全な倉庫や、社会的意義のあるパブリックな場で保管予定

+++『ARTGATE』

着想は、作品購入を諦めた実体験

ー「アート作品を共同保有する」これまでにない新しいアイデアですね。まずは着想のきっかけから教えてください。

私自身すごく気に入った作品の購入を諦めてしまったことがあり、とても残念な記憶として残っていて。

国内外から評価されているような人気アーティストはやはり作品価格も高く、とても予算に見合わなかったし、家の雰囲気やスペースと作品がマッチしないことも。

真のコレクターは無理をしてでも環境を整えて作品をコレクションするもの。ただ、当時の私のようにまだそこまでアートに対して馴染みがなかったり、知見がない人からすると最初は特にハードルが高い。

でも何かのきっかけがあれば、自分のようにアートの世界に魅せられていく人は多いのではと感じました。

今はシェアリングという概念やクラウドファンディング関連のサービスが世の中に浸透していますよね。一人だと難しいことでも人が集まれば実現できるし、長く楽しめる良質なものをシェアするという考え方はアートでも応用できると思うんです。

一人では手が届かなかった本物のアートへのアクセス権をつくりたい。そしてその結果、日本のアートコレクターがもっと増えてくれたらいいなと。

アート業界に新しい経済圏を創りたい

ーアートへの関心はもとから高かったんですか?

いえ、数年前までは、美術館やギャラリーには足を運ぶけどそこまで詳しくない…というレベルだったんです。仕事の関係でアートフェアに携わる機会があってアートに興味を持ちはじめ、業界の中の人の話を聞いていくうちに、のめりこんでいきました。

印象的だったのは、アート業界の”中の人”と一般的な”外の人”の距離感ですね。

アートコレクターやグローバルな教養のある方、売り手であるギャラリーや画廊の方々からすると「アートを買う、飾る」という行為は人生を豊かにするごく自然な行為であり、資産投資としての魅力も当然理解している。そしてニッチで強固なコミュニティーとなっているように見えました。

一方、アートは本当に好きだし憧れる。美術館も大きな展示イベントも行く。それでもさまざまな理由で、買うことには踏み込めていない”という層もたくさんいて。

彼らの中にある不安やハードルとなっている要素を解決して、まずは背中を押してあげるような仕組みやコミュニケーションが不足していると感じました。

私たちARTGATEは、オンラインを活用してより多くの人がもう少し気軽にコレクションできる機会をつくることで、新たな顧客層も巻き込みながら経済圏を創ることにチャレンジしたいんです。

事業の可能性を見極める「5つの軸」

ーアイデアを事業化にしていくにあったって、「これはいける!」と決め手になったポイントはあったのでしょうか?

着想だけあってもうまくいくかわからない。なので、サイバーエージェント時代に叩き込まれた市場分析、項目で検証をしていきました。大きく5つのポイントから立ち上げを決めました。

【1】市場に余白がある

世界のアート市場における、日本のシェアは2.8%*。アートにお金が全然落ちていないのが現状です。もっと市場規模を広げられる余白があると捉えました。

※ UBS調べThe Art Market 2018、一般社団法人アート東京調べ日本のアート産業に関する市場レポート 2018より引用

【2】市場に成長のポテンシャルがある

アートにお金が落ちていないとはいえ、日本の展示会、美術館の来場者数は、世界でみてもトップクラスなんです。アートに興味関心のある日本人だからこそ、市場に成長のポテンシャルがあると思いました。

【3】イノベーションが起きていない

アートは世界的マーケットであるにも関わらずかなりアナログなんです。例えば、真贋証明とか、所有の契約、口頭でのコミュニケーションとかすべて紙。たとえば1億円のアート作品があって、紙一枚の証明書をなくしたら、価値を証明するものがなくなってしまう。アート業界においてデジタルを掛け合わせることで可能性は拡がると思います。

【4】グローバルマーケットである

特に日本はアートは趣味にような認識をされることが多いんですけど、例えば、欧米だと信頼性の高い資産として認識されている。海外のマーケット市場が大きいからこそ、展開の可能性も考えられる。

【5】時流が来ている

国内外でアート系のスタートアップがどんどん出てきているんです。私たちのサービス軸になっている「分散保有」という考えでいくと、海外ではすでに事例が生まれています。ここからアートに対して様々なイノベーションが起こっていくんだろうなっていう時代の流れを感じました。

世の中のニーズに合った「アート体験」とは

ー開発にあたってユーザー調査なども?

 

そうですね。特にユーザーとしている「アートに関心のある人」を対象に、友人、親含め幅広い世代の人たちに100名以上ヒアリングと調査をした結果、ニーズは確実にあるなと。

調査資料にあるアートの非購入理由データでは、「所有することに魅力を感じない」という回答が想像以上に多かったのはおもしろかったです。

それに加え、費用、維持管理や物理的なスペースのハードルがかなり影響している。

展示会の来場者数が多いという事実からも、「所有」よりも今は「体験」に価値を見出している人が増えているのではという仮説を立てました。

それなら、私たちのサービスとしてもこれまでの「所有」とは違う形でメリットを残しながら「体験」を届けることがユーザーにとっての価値になるかもしれない。

たとえば、超有名作家であるピカソの作品の1%も部分保有できたら、単純にすごいし、誇らしいし、ちょっと自慢になると思うんです。

加えて「優待」を使ってもらうことで、普通だったら混雑した会場で作品を鑑賞しないといけないところを、家族や友人、限られたコニュニティーの人たちと質の高い鑑賞体験ができる。

しかもその優待券(サービス内「オーナー権」)はオンラインで他のユーザーへ販売することもでき、作品価値の向上と連動した経済的リターンも副次的に生まれるかもしれない。

共同保有という新しい仕組みを、ひとつのアートの楽しみ方として確立していきたいです。

アートをもっとオープンに

ー保有できる作品も一級品とのこと。すごいですね。

一級品の定義はかなり難しいのですが…アポすら取れない状況からスタートし、アートコレクターの方や、ギャラリーを地道に訪問して少しづつ会話を重ねた結果、国内外で評価を受けるトップクラスのアーティストたちの作品取り扱いを決める事が出来ました。

新しいサービスを仕掛けるといっても、既存アートマーケットを作り上げてきた既存プレイヤーの方々のご協力は必須です。

私たちはIT業界から来た人間ですが、アート業界ではほとんどの方が美大出身や長年アート系キャリアを重ねられてきた方々で構成されているのでかなり珍しいというか、いないんですね。

となると、歴史あるアート市場に新参者が突然やってきて一体何ができるんだだと思う方がいても無理ありませんよね。なので、背景やマーケットルールをしっかりと心得た上で、アート系キャリアがない私たちだからこそ気づく視点があることや、今のアート業界を活性させる一端を担いたいという想いを真摯に伝え続けました。

結果的に少しずつアート界の中でご理解いただける方、ご協力いただける方やパートナーを広げていくことができ、改めて実感したのは、「人間として誠実に向き合い続ける」ことの重要性。株主であり、経営者として尊敬している見城徹さんの価値観からも学んでいたことがここで活きた気がします。

ー最後に、今後の展望について教えてください。

アートと社会的接点を増やしていきたいです。たとえば、ARTGATEで集まった作品をパブリックな場所に展示すること。保管倉庫はあるのですが、ずっと保管しておくのはもったいないと思うんです。例えば、過疎地域の地方に展示したら地方創生に貢献できるかもしれないし、パブリックアートとして設置できればその地域にとって重要な役割を担うかもしれない。アートが社会的意義を持ちながら多くの人の目に触れていく事例をつくりたいです。

(おわり)


文 = 野村愛
編集 = 木村翠


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