2019.05.28
休日は「持ち込み企画」をつくり続けた。あるコピーライターが打破した、キャリアの壁

休日は「持ち込み企画」をつくり続けた。あるコピーライターが打破した、キャリアの壁

誰に頼まれたわけでも、仕事でもない。それでも、休日に企画書をつくり続け、チャンスを掴んだ人がいる。コピーライターの阿部広太郎さん。林修先生の「今でしょ!」が話題になった東進ハイスクールのCMの制作に携わった後も、数々の実績を残してきた彼。だが、あるとき、キャリアの壁にぶちあたった。突破口になったのは「持ち込み企画」だったーー。

※本記事は、大人のための街のシェアスペース・BUKATSUDOにて開催されている連続講座、「企画でメシを食っていく」(通称・企画メシ)の講義内容と、阿部広太郎さんの著書『待っていても、はじまらない』を参考にキャリアハック編集部にて構成・編集したものです。

作詞活動にもチカラを注ぐ、阿部広太郎さん。最近では、10代に爆発的な人気を集める、さくらしめじの作詞を手がけた。

終電間際のオフィスで、急に虚しさに襲われた

阿部広太郎さん(33)の仕事は、「コピーライター」という肩書からは想像もつかないくらい幅広い。広告のコピーライティングはもちろん、映画プロデュース、音楽アーティストの作詞、TV番組の企画、舞台のプロデュース...。「言葉」を軸にさまざまな企画を生み出し続けている。

そんな彼のキャリアの分岐点は、二十代中盤。寝食忘れて仕事に打ち込む日々を送り、ふと「自分はなにがしたいんだろう?」と思い悩んだ。


コピーライターになって4年目。登竜門でもある東京コピーライターズクラブの新人賞を頂いたり、CMを機に話題となった「今でしょ!」が流行語大賞になる過程を目撃できたり。仕事で少しずつ実績を残せるようになり、任せてもらえる領域も増えていきました。

でも、ある日、終電の時間が近づくオフィスで、ふと思ったんです。「朝早く起きて、夜遅く帰る日々で、僕は何のために頑張っているんだろう?」と。もちろん充実感はあるんです。でも、この生活がずっと続くのかなと、なんとも言えない虚しさがこみ上げてきてしまって…

広告が世の中に広まっていくことはうれしい。なにごとにも代えがたい喜びがある。でも、ピストルの号砲が絶え間なく鳴り、目先のゴールに向かって短距離走を繰り返しているような感覚がありました。

自分が賞を獲って、社内の500人を超えるコピーライターやプランナーの中で、すこしだけ目立って、いつの日か大御所と呼ばれる人に見つけられて、結果を出せるか、出せないか…そんな「壮大な順番待ち」に並んでいるのと同じなのかもしれないと思ったんです。

「おもしろい仕事、こないかな」

「この案件仕事は派手な仕事につながるかな」

当時の僕は、気づけばそんなことで頭がいっぱいでした。いい仕事が巡ってくるのを待つ。いわば「受身の自分」

突破口を探して、ビジネス本を読み漁りました。世の中で何かを成し遂げている人たちは何を考えているのかなと。読んでいく中で気づいたのは、どの本も抽象化すると「動け、考えろ、続けろ」というメッセージ。極論、この3つしか言ってないなと。

人は環境に適応していく天才です。反応して、反応して、順応していく力がすごく強い。でも、僕はそのまま反応するだけで終わりたくない。ああ、今こそ大切なのは、リアクションではなくアクションなんだ。打席に呼ばれるのを待つのではなく、打席は自分でつくってもいい。本当に実現したいことを改めて思い出せたんです。「世の中に一体感をつくりたい」という思いで広告の仕事に就いた。だから、そこに向けて自分からもっと社会に働きかけようと心に決めました。

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Facebookで贈った、一通のラブレター

阿部さんがはじめたのは、仕事とは別に「持ち込み企画」をつくること。

誰に頼まれたわけでもなく、仕事でもない。平日の仕事終わりと休日の時間を使って、自分が本気でやりたいと思うことを企画書に込めた。


持ち込み企画にはじめて手応えを感じたのは、居酒屋「甘太郎」に送った企画書でした。

当時、「名前に『太郎』と名の付く人を割引する」という甘太郎のニュースを見つけたとき、とてもうれしかったんです。世界で最も心地よく響くのは自分の名前という話を聞いたことがあって、「広太郎」という名前を呼びかけてもらえたような気持ちがしました。

思わず、「甘太郎」を応援したいと思い立ちました。太郎の広告をするのは僕だと、勝手な使命感です。嬉しい気持ちになったこのニュースを純粋に広めたい。

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友人のデザイナーと仕事終わりに夜な夜な集合して、企画書をつくっていきました。甘太郎とのツテはなく、見てもらえるかもわからない。それでも一言一句、自分が感じた嬉しさを閉じ込めるように、まるでラブレターのような企画書を1週間で書き上げました。

Facebookの甘太郎のアカウントに、企画書のPDFを添付してメッセージを送って、2日後。「愛あふれる企画書、ありがとうございます」と返信が来たときは、手が震えました。

最初は「甘太郎の店頭にポスターを掲載する」という話になり、そこからなんと企画書が一人歩きして、役員の方にも届き、「グループ全店で行う全国キャンペーン」に展開することに。キャンペーンのためにつくったウェブサイトは瞬く間に広がり、キャンペーンは延長するほど大反響になりました。この仕事をきっかけに関係ができて、新しいキャンペーンの仕事まで担当させていただいたんです。

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自由で、予算の小さな仕事にこそ、チャンスがある

居酒屋「甘太郎」をきっかけに、阿部さんの思いの火種は「持ち込み企画」を通じてどんどん広がっていく。好きなロックバンド「クリープハイプ」に向けて企画書をつくり、CDのジャケットの制作や宣伝に携わったり。住んでいる恵比寿の力になりたいと、恵比寿の魅力の発信するプロジェクトを立ち上げた。

キャリアに悩んだとき、阿部さんがはじめた「持ち込み企画」。そのやり方で良かったと思えたのは、会社の先輩に教えてもらった「4つの仕事」という考え方だった。


以前、先輩に教えてもらった「仕事は4つに分けられる」という考え方に「自分がしてきたのはまさにこれだ!」と思えたんです。

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■不自由で予算が大きい仕事(義務の仕事)

義務として果たさなければいけない仕事。大型案件ゆえに調整に追われることもしばしば。

■自由で予算の大きい仕事(大御所の仕事)

自由度が高く予算が潤沢にある仕事。大御所に相談がいくことが多い。

■不自由で予算が少ない仕事(毒の仕事)

仕事への耐性を高めるワクチンでもある。やりすぎには注意したい仕事。

■自由で予算が少ない仕事(チャンスを広げる自分の仕事)

予算は少ないけれど自由度は高い。チャンスを広げる可能性のある仕事。

この中で若手の狙い目は「自由で予算が少ない仕事」。「仕事だから」とか「お金になるから」とかを抜きに、シンプルに面白いことをしたいと思う人はたくさんいると思うんです。でも、その人たちは同じように面白いことをしたいと思っている自分の存在を知らない。

だとしたら、「自分はこんなことができると思うので、一緒にやりませんか?」と会いにいく必要がある。チャンスに会いに行く。

もし、「不自由な仕事」ばかりなら、いきなり「大御所の仕事」にいくのは難しいから、まずは「自由で予算の少ない仕事」をやるといいかもしれません。

自分で行動を起こしさえすれば、自由は獲得できるはず。

この先輩の話を聞けて、自分の行動してきた意味を納得できたんです。頼まれた仕事をしながらも、誰かに頼まれたわけでもない企画書を書き、面白いと信じる人に会い、かたちにしていく。そのことを発信することで、誰かが僕を見つけてくれて、チャンスが広がり、右上のエリアまでもが「自分の仕事」になり得ると感じています。

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企画書を相手に贈る3つのポイント

気持ちの動く方に、企画書を作り続けた阿部さん。ただ闇雲に企画書をつくっていたわけではない。企画を提案するときに、心がけていたことが3つあるという。


まず、「自分は本気か?」。自分が提案しようとしている企画にどれだけ思いをこめられているか。持ち込み企画は、義務じゃないんです。自分がやりたいからやりたい、0円でもやる。本当に好きな気持ちを一語一句に込めていく。熱の伝わる企画書は、無視はされません。

次に、「相手は喜ぶか?」。大切なのは相手が欲していたことを言っているか。独りよがりの考えを相手に贈っても迷惑なだけです。「届ける相手がこんなことやりたいんじゃないかな」と、想像しながら考える。そうすると、企画書は一人歩きしていきます。

最後に、「ほんとに出来るか?」。書かれている内容を責任もって遂行できるか。夢だけを語ってないか。無責任なことを言ってないか。本当に企画を遂行できれば、そこに信頼関係がうまれていきます。

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あなたは、あなたになるんです

これから企画をしていきたい。こう考える人に向けて、5年前から、企画の連続講座「企画でメシを食っていく」をスタートした阿部さん。今後のキャリアに悩む参加者が多くいるなか、最後にこんなメッセージを伝えてくれた。

ここ5年くらいで、誰もが何かを目指す時代になりました。SNSを見ていても、「何者かにならなきゃ」と焦っている人が多い印象です。でも人は何者かになることはできない。あなたは、あなたになるんです


これまで僕は、周りと自分を比較していました。誰かと自分を比べるということは、自分が弱ってる証拠。社内にいる500人のコピーライターやプランナーの中から一番になることよりも、まずは自分がどうしたいか。1/500より1/1を目指していきたい。

大切なことは、「自分が何をしたくて、何のために今頑張ってるのか」を自分なりの大義名分を言葉にすること。それができなければ、スタートラインにも立てないと思うんです。

僕がコピーライターになったのも、さまざまな活動をしているのも、世の中に一体感をつくりたいから。その結果、自分を肯定できる人を増やしたいんです。出会う人、物、事に、自分の面白いを信じながらできることをしていきたい。自分がどう動きべきかをとことん考えられたことで、働く意義を言葉にできて、潔く前に進む力が増したような気がします。

だからみなさんも、「自分が何のために働くか」をぜひ考えてほしいと思います。

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撮影:加藤潤、小田周介


文 = 田尻亨太
編集 = 野村愛


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