新刊『コピーライターじゃなくても知っておきたい心をつかむ超言葉術』。発売を記念し、「はじめに」の内容をお届けいたします。*
※コピーライター・阿部広太郎さんが主宰する連続講座「言葉の企画」の模様を、これまでキャリアハックでは再編集してお届けしてきました(記事はこちら)。「I LOVE YOU」を訳してみたり、伝わる自己紹介を考えてみたり。小手先のテクニックではなく、「どうすれば伝わるのか」をあらゆる方法で考える姿勢を阿部さんに教えてもらった気がします。毎回白熱の講座をベースにした今回の書籍。ぜひ「はじめに」から読んでみてください。
コピーライターじゃなくても知っておきたい 心をつかむ超言葉術
「月が綺麗ですね」とでも訳しておけ。
英語の教師をしていた夏目漱石。
「I LOVE YOU」を「我君を愛す」と訳した教え子に対して、そう言ったとされる都市伝説がある。
僕はこの話が大好きだ。
コピーライター養成講座はもちろん、全国各地の学校で、コピーの書き方の講義をする時に、「今のあなたなら何と訳しますか?」とお題を出す。
すると、さっきまで言葉を考えるなんて僕には関係ない、コピーを書くなんて私には自信がないという顔をしていた人も、どうしようと言いつつ、目に力を持って、いきいきと考えはじめるのだ。
愛と無関係な人はいない。
恋愛だけではない。親子愛も夫婦愛もあるだろうし、友情にだって愛はあるだろう。これまでに愛を感じた経験、映画やドラマで見聞きしたエピソード、あなたの中にきっとある。
特別な技術が必要なわけではない。まずは、その愛を感じた何かを思い出して、10分で、A4の白紙に1本書いてみようと伝えている。
それでも中には手が止まってしまう人がいる。
僕は机をまわりながら、一人ひとりの書く背中を押したくて声を掛ける。
照れなくていい。恥ずかしがらなくていい。最初からうまく書ける人なんていない。まずは何かを書くことではじまるんです、と。
その言葉は全部、かつての自分が言ってほしかったことだ。
駆け出しの頃、僕はこんな訳し方をした。
「あ、消しゴム落ちたよ」
こんな情景を思い浮かべていた。
学校の教室。隣の席に気になる子がいる。気軽に話し掛けられるほど僕は積極的でもない。その子の動きをちらちらと目で追い掛けてしまうし、少しでも異変があればすぐに気づく。
愛とは「あ、」だ。
気づくことではないか。
消しゴムが落ちたら、いち早く拾う、そしてすぐその子に渡す。その情景を思い浮かべて、慣れないながらもそう訳したことを今でもよく覚えている。
今のあなたなら何と訳すだろうか?
「I LOVE YOU」の訳し方には、その人の「らしさ」がにじみ出る。
これまで僕はこんな訳し方をする人に出会ってきた。
「半分こにしようか」
「卒業したから、生徒じゃないです」
「全部あなたに出会うためだったんだ」
「今、会えない?」
「あなたのこと、もっと知りたいんですけど」
「小さいころよく遊んでいた場所、見てみたい」
そこには情景や、温かい気持ち、浮かび上がってくる思いがある。
「愛する」とあえて書かずに伝えることで、キャッチフレーズという言葉通り、僕たちの心はどうしようもなくつかまれてしまう。
書かずに伝えること。
一見矛盾しているようにも感じるこのことこそ、心をつかむ言葉の秘密なのではないか。僕は決して大袈裟ではなくそう思っている。
「I LOVE YOU」
「I」私とは何か? つまり、自分を知るということ。
「LOVE」愛とは何か? つまり、人と人との関係を考えること。
「YOU」あなたとは何か? つまり、自分から見た相手を知るということ。
訳し方のお題に留まらず、言葉とともに生きていく限り、言葉をあつかうすべての仕事の根幹は「I LOVE YOU」にあると僕は思う。
2015年から、コピーライター養成講座「先輩コース」の講師に加え、テレビ、音楽、映画、編集、お笑いなど、あらゆる業界の最前線で活躍するゲスト講師の方をお招きし、企画する力を育む連続講座「企画でメシを食っていく(通称:企画メシ)」を横浜みなとみらいのBUKATSUDOではじめた。
その中で僕自身が「言葉の企画」と題して行ってきた講義、そして2018年からは「言葉の企画」のみの連続講座も立ち上げ、延べ400人近くの参加者と向き合い、確信したことがある。
それは、コピーライターじゃなくても、この本に綴る「言葉術」を知ることで、人生は大きく変わっていくということだ。
自己紹介の仕方から、言葉の正体を知ること、言葉を企画する方法、感動を贈る大切さ、名付けの力、SNSでの発信方法、企画書の書き方と贈り方まで。
「伝える」と「伝わる」の境界で、僕が10年以上の月日を掛けてあがきもがいてつかんできた、そのすべてをここに記したい。
僕自身の恥ずかしい過去の事例も含めて、正直に書いていく。
書くこと、話すこと、歌うことなど、伝える仕事をしているあなたへ。
言葉のせいで逃げ出したくなるほどつらいことがあったり、一方で、言葉のおかげで泣きたくなるほど幸せを噛みしめたりしたことがあるあなたへ。
お笑い、音楽、映画などのエンタメが好きで、創作する仕事に興味はあるし、本当はそういう感動をつくる仕事をしてみたいけど、それは特別な人がするもので、自分には無縁の世界だと思い込んでいたかつての僕みたいなあなたへ。
断言する。心をつかむ言葉はつくることができる。
さあ、今ここからはじめよう。
心をつかむ言葉の作り方について、より深く知りたい方はこちら!
コピーライターじゃなくても知っておきたい 心をつかむ超言葉術
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編集 = 野村愛
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