「I love you」を訳してみる―― じつはこれ『企画でメシを食っていく』という講座の課題のひとつ。参加者たちが最も共感した回答と、その理由は? 心を掴む言葉の作り方、そして「いい企画」についてコピーライターである阿部広太郎さんと考えていきたいと思います。
「I love you」の訳について、みなさんは、どのような回答を思い浮かべたでしょう。講座の当日に出てきた言葉としては、
「今、会えない?」「あなたのこと、もっと知りたいんですけど」「卒業したから、生徒じゃないです」「半分こにしようか」「小さいころよく遊んでいた場所、みてみたい」などなど…
特に多くの共感を集めたのが「半分こにしようか」。
不思議と「愛」という言葉をつかわなくても、情景だったり、関係性だったり、あたたかいキモチだったり、浮かんでくるすてきな表現ですよね。
このようなユニークな課題に答えつつ、“企画”について掘りさげていく『企画でメシを食っていく(通称:企画メシ)』。その内容を通じ、相手にちゃんと伝わる言葉の作り方について、コピーライターである阿部広太郎さんと一緒に考えていきたいと思います。
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最初に伺ったのは、コピーライターである阿部さんが普段扱う「コピー」について。私たちが何気なく使っている「言葉」との違いとはなんなのでしょう――。
少し抽象的な話になるので、まずは例からお伝えします。2013年、ワールドカップ出場を決めて盛り上がっている渋谷のスクランブル交差点。ユーモアを混じえた話術でルールを守るように呼びかけた警察官が「DJポリス」として話題になりました。
単に「サポーターのみなさん!」と呼びかけるのではなく、「12番目の選手のみなさん」と呼びかける。さらに「ルールとマナーを守ってフェアプレーで今日の喜びを分かち合いましょう」と伝えることで、この日、大きなトラブルはおきなかったそうです。
コピーとは「言葉にヤジルシ(=企て)を加えていくこと」だと考えています。言葉を通して、人や社会、未来に新たな行動をつくる。DJポリスは、「サポーター→12番目の選手」と定義を変えた。単に注意するのではなく、12番目の選手として呼び掛けることで、もしも騒動を起こしたら日本代表のイレブンに迷惑をかけてしまうと意識が変化する。ヤジルシをつくり、サポーターの行動を変えた好例だと思います。
たとえコピーライターではないとしても、言葉を上手に使えると、いいことってたくさんあるんですよね。友達付き合いだったり、仲間集めだったり、ときには弱った自分自身を勇気付けられたり。企画する人には「ヤジルシの使い手」になってほしいと思っています。
では、どうしたら心を掴む言葉の使い手になることができるのでしょう?阿部さんは、”言葉に疑問を持つ姿勢”が大事だといいます。
まずどう言えば「伝わる」のかな?と言葉に疑問を持つことです。ここを地道に考え抜いて、繰り返していくしかありません。
普段の生活の中にも、たくさんのヒントがあります。振り返ってみたときに、「あの先輩のあの伝え方うまいな」とか、「すごくピンチだったけど、こういう伝え方で乗り切れたな」とか。言葉を上手く使えたと思う瞬間を、忘れないでちゃんとメモしておく。
気になるコマーシャルや街中の看板をみて、「どういうことが意図としてあるのか」を考えてみる。僕は常日頃、気になる広告の写真を撮って、Twitterで「#広告空論」をつけて言語化をすることを習慣にしています。
心惹かれるコピーを日々ストックするだけでなく、自分自身でも活かす。そのために阿部さんは“考えるフレーム”をつくっています。
僕は、考え方のフレームに「2つの接続詞でコピーを考える」というのがあります。
枕詞を疑うことが大切です。「いわゆる」の先に行くために。ある問い掛けに対して、「たとえば」で経験を探して、「つまり」で「おお!」と思う本質を見つけます。そこを起点に、コピー、企画にしていく。イメージとしてはカメラのピントの合う範囲を広げたり絞ったりするように、交互に連想しながら発想を広げていく。「たとえば」は自由に無責任にどんどん広げて、「つまり」で責任と覚悟を持って見つけていくことを意識してもらいたいと思います。
冒頭でご紹介した、「I love you」の訳し方。投票をしたとき、バラつきがあるのではなく、選ばれるコピーと選ばれないコピーがキッパリと分れていたのに驚きました。選ばれるコピーの共通項とは――。
ポイントは、「言外の情報」です。
「何か、自分もそういう事があったな」とか、「自分もそういう事、ドラマで見聞きしたな」とか、「なんだかグッとくるな」みたいな。そういうような言外の情報が、ワンフレーズの中に内包されてるコピーは多くの人に共有されていきます。言い換えるなら、「情景が思い浮かぶ文章」。「半分」じゃなくて「半分こ」。「こ」が一字入るだけでも変わりますよね。限られた文字数でも記憶をかき立てられる言葉があります。
それから、「これって本当かな」って自問自答すること。コピーを書こう書こうとすると人は嘘をついてしまう。「◯◯は、□□だ」とか、それっぽくはなるけど本当の思いや考えからだんだん離れてしまいがちです。しかもその嘘は、他の人が見たらすぐばれます。
「夢という言葉をつかわずに夢を語れ」と先輩に言われた言葉がとても心に残っています。言わないけど言える言葉がきっとあるはずだと「言外」を考え続けています。
より具体的な言葉で、コピーを考えてみる。これは職種にかかわらず、たとえば企画書などにも活かすことができるもの。
ご自身もコピーライターとしてだけではなく、映画プロデューサーとして活躍の場を広げている阿部さん。多くの企画書をつくり、人に会いに行く日々を重ねてきたといいます。
最後に、企画書をつくるときに心がけていることについて、ご紹介したいと思います。
1. 言葉の定義からはじめる
たとえば、今回のお題「I love you」であれば、「I」とは、「you」とは、「love」とは何なのか。いちいち私はこう捉えるというのをまず決める。やみくもに考えて出した答えよりも、そのほうが自分自身の納得度の高い答えが出せると思います。
言葉を定義するときに手がかりになるのが、「ヒストリー」です。お題が商品だとしたら、なぜそれが世の中に誕生したのか。そのヒストリーにはストーリーがあって、絶対にヒントが眠っています。なので必ず調べてほしいです。
そしてもうひとつ、自分の中の「経験」という名の辞書をたくさん引くこと。企画するというのは、「あなたは、どういう風にこの問題を解きますか」と試されていること。だからこそ、自分の中に引き出しがないと、ありきたりな答えしかでてきません。本を読んだり、人の話を聞いたり、取材に行ったり。自分で一次情報を獲得する経験が、言葉の感度を高めてくれると思います。
2. みんなと同じことを書かない
相手がいくつもの企画書を読む場合、同じことを書いてかぶると即座に埋もれていきます。同じことを書かないというスタンスでいる。表紙のタイトルから、すべてのページ目の一言目から、相手の心を掴みにいくつもりで書いてほしいと思います。
3. 1ページに、1つの役割がある
50枚にしろ、5枚にしろ、もちろん1枚の企画書にしろ、1ページに1つの役割があります。ただ闇雲に枚数を増やすことは、相手に対してストレスを与えるだけです。「ドレスを一枚ずつ脱いでいくように企画書を書く」と教わったことがあります。ページをめくりたくて仕方がなくなることを理想にしています。
4. ここで勝負したい、という本質を見つける
まず太い幹である「What to say(何を言うか)」を意識。そこから枝葉の「How to say(どう伝えるのか)を考えます。幹がちゃんとあると、プレゼンをした時も立ち戻れます。相手と、「ここに目をつけてるのはすごいわかるんですけど、もっと違う言い方ないですか」と立ち戻って前向きな議論をできるんです。
5. 好きなフォントを見つける。
企画書を作る上で、テンションの上がる書体とか、あると思うんです。そういう所までちゃんと意識してほしいんです。もし企画書をつくる人が自分の使ってるフォントの名前を言えないんだとしたら惜しいと思ってて。好きな文字で、思いを読んでほしいんですよね。僕は、A1明朝っていうのがすごい好きで、ずっと使ってます。
「才能とは、掛けた時間です」
最後に、阿部さんがおっしゃっていたこの言葉が印象的でした。相手にちゃんと伝わる言葉とはどういうものだろう?ここをどれほど考え抜けるか。確かな自分の考えを持って、諦めることなく探し続けていく。言葉で心に火をつけるために、近道はないのかもしれません。
※本記事は、大人のための街のシェアスペース・BUKATSUDOにて開催されている連続講座、「企画でメシを食っていく」(通称・企画メシ)の講義内容をCAREER HACKにて再編集したものです。
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撮影:八木伸司
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