第33回『新田次郎文学賞』を受賞するなど、ノンフィクション作家として活動する川内有緒さん。いかにして、人の心を動かす「物語」がつくれるのか?川内さんのこだわりが語られた。
[全3回の連載でお送りいたします]
[1]国連を辞めて見つけた「ノンフィクション作家」という生き方|川内有緒
[2]「ノンフィクション作品は、社会を写し出す鏡」川内有緒の取材術
[3]「心を揺さぶる物語」の法則。ノンフィクション作家、川内有緒の文章術
物書きとしての大仕事、原稿の執筆について、川内さんは構成力と文章力の視点から意識するべきことを語る。
いざ記事を書くぞとなったとき、構成力や文章力は極めて大切なポイントになります。まず、構成に関して強く感じているのは「聞いた話をすべて盛り込まないこと」。聞いた話をすべて入れようとすると、必ず物語はのっぺりしますから。
話を聞く中で「ここはすごい!」と感じたポイントを中心にまとめていくのが良いと思います。反対に、それが出てこない取材は失敗だと考えたほうが良いです。
その人への取材をやめるか、再度取材するかなど、改善案を出すべきだと思います。
それに、物語を構成しているので、いかに人とは違う視点で組み立てられるのか、も大事。よくあるパターンの原稿には「人生を前から順に深堀りする」「好きなものについて聞く」などありますが、ありきたりだと読まれないんです。
構成は個性を出せるところだと思うので、人とは違う視点で組み立てることを意識してみてください。
文章っていろいろな書き方があります。わたしの場合は、たぶん特殊なのですが「めちゃくちゃ面白いと感じたエピソードから書き始める」のがセオリーです。
前から順番に書き進めるのではなく、強度が出ると感じたところから拾い上げて組み立てるんです。ただ並べるだけだと、どうしても盛り上がりに欠けてしまう作品になるので。
あとは、聞いた素材をどう調理するのかも大事な要素ですね。たとえば、話の中に自分の知らない歌が出てきたら、それを徹底的に調べて、自分なりに深堀りしていくんです。そうすることで、書き手の中にひとつのドラマができあがっていくのだろうなと思っています。
文章力自体は、書いているうちに鍛えられるので数をこなしたら良いと思うのですが……そのときに「ディテール」と「リズム」を意識して書いてみるのがおすすめです。
話を繊細に描写しつつ、読み進めやすいようにテンポを作るんです。具体的に書きながらも、サッと読めてしまう文章を目指したり、あえて生っぽい言葉を使ってリアリティを作ったり。具体的な方法はいろいろですね。
誰かの人生をなぞるように書き、テキストコンテンツとして書籍にしても誰の心にも届かない。大切なのは、いかに物語性を持たせるか、だという。
たとえ書籍になったとしても、その中に情報しか織り混ざっていなかったら人の心はどうしても動きません。人の心が動くためには、ある程度のセオリーがあるんです。たとえば「逆境→成功→カタルシス」とか「抑圧→解放→爽快感」とか。
ただ単純に聞いた話を羅列するのではなく、物語を意識しながら構成することで、大切なポイントがぐっと引き立って伝わるようになります。私たちって日々生きている中で、何かしら抑圧されていたりストレスを感じていたりすると思うんです。そういうとき、ノンフィクション作品でスッキリしてもらうのも良いと思います。
たとえば『下町ロケット』は「物語」の構成を学ぶ上でわかりやすい作品だと思います。ひとりで借金に立ち向かう男性の姿と、相対するように登場する悪役の存在、そして、チーム一丸で課題と向き合う様子。ディズニー作品にも多い物語の作り方ですね。
他にも、小さな物語から普遍的なテーマを生み出す構成方法もあります。人それぞれのストーリーを聞いているのだけど、そこには、人間が抱えている同様の悩みが隠されているなんてことがよくあるんです。移民の話を聞いたフィクション作品であれば、そこには世界に何百万人といる移民全体の問題、課題、ジレンマなどがあるはずなので。そういったものを見つけて訴えかけるよう構成する場合もあります。
川内さんにとって、ノンフィクションの存在とはどのようなものか。仕事と人生観を話してくれた。
ノンフィクションに出会う流れもそうですが、比較的出会ったものに流されて生きている節があるんです。出会ったのだから挑戦してみるか、みたいな。それによって、実際に面白い人生を歩めるようになりましたしね。今では、人生が終わるときに「面白い人生だった」と言える人間でありたいと思いながら日々を生きています。
その中でも、誰かの人生を追体験できる今の仕事はすごく面白い。とくに、パリで出会ったアーティストのみんなは、ものづくりに対して貪欲に向き合っていたんですよね。彼らの姿を見て、わたしもシンプルに良いと思うものを追求して生きていたいのだと気がついたんです。
そして、人の生活や価値観に触れていくうちに、表現する出口を求めて常に取材を続ける自分の姿も見つかりました。自分が面白いと感じたものを、共に面白いと言ってくれる人の存在を探しているんです。たとえ書籍がヒットしなかったとしても、誰かの元に届いて、わたしの言葉に価値を見出してくれたのだとしたら十分続ける価値はあるように思いますね。
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[1]国連を辞めて見つけた「ノンフィクション作家」という生き方
[2]「ノンフィクション作品は、社会を写し出す鏡」
[3]「心を揺さぶる物語」の法則。ノンフィクション作家、川内有緒の文章術
※本記事は、大人のための街のシェアスペース・BUKATSUDOにて開催されている連続講座、「企画でメシを食っていく」(通称・企画メシ)の講義内容をキャリアハックにて再編集したものです。
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撮影:加藤潤
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