2019.10.31
「ノンフィクション作品は、社会を写し出す鏡」川内有緒の取材術

「ノンフィクション作品は、社会を写し出す鏡」川内有緒の取材術

第33回『新田次郎文学賞』を受賞するなど、ノンフィクション作家として活動する川内有緒さん。ノンフィクション作品を作る上で大切なことについて、語られた。

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[全3回の連載でお送りいたします]
[1]国連を辞めて見つけた「ノンフィクション作家」という生き方|川内有緒
[2]「ノンフィクション作品は、社会を写し出す鏡」川内有緒の取材術
[3]「心を揺さぶる物語」の法則。ノンフィクション作家、川内有緒の文章術

ノンフィクションは、社会を写す鏡

文学作品でもない、ドキュメンタリーでもない。一体、ノンフィクションとはどのような作品のことを指すのだろうか。川内さんの回答はこうだ。

ノンフィクションとは、言葉通り「フィクションではないもの」です。ただ、エッセイとも違います。エッセイが自分の内面にあるものを表現するのに対して、ノンフィクションはいわば、社会を写す鏡。

なにかしらの取材やリサーチを基にして書かれています。社会の暗部をあぶり出すイメージがあるようですが、その限りではありません。ジャンルも幅広いです。

では、良質なノンフィクションとは何を指すのか。

わたしの考える条件は、3つあります。

まず、テレビや雑誌などのような細切れではない情報を届けられるものであること。次に、声なき人の声を拾うものであること。最後に、ステレオタイプではない形で人間の複雑さや矛盾などを描くものであること。

時として世の中に問いを投げかけたり、法制度を変えたりする。ノンフィクションは事件を解決する足がかりになることもあります。

【プロフィール】川内有緒(かわうち・ありお)/1972年、東京都生まれ。日本大学芸術学部卒業後、米国ジョージタウン大学で修士号を取得。米国企業、日本のシンクタンク、仏の国連機関などに勤務後、フリーのライターとして評伝、旅行記、エッセイなどを執筆。その傍ら小さなギャラリーも運営。『バウルを探して 地球の片隅に伝わる秘密の歌』で、第33回新田次郎文学賞を受賞。著書に『パリでメシを食う。』、『パリの国連で夢を食う。』、『晴れたら空に骨まいて』など

私が言葉にしたくなる人は、私の大好きな人

ノンフィクション作品を生み出す上で肝となるのが「取材力」だと川内さんは語る。日頃、どのように取材を行なっているのか。

ノンフィクションを作る上で、大切なのは、

「企画力」
「取材力」
「構成・編集力」
「文章力」
「見せ方」

この5つの項目です。その中でも、とくに意識するべきなのは取材力。聞き出せなかった話は原稿にはならないですからね。

とはいえ、わたしの場合は、取材対象者との関係構築を意識的に行なっているわけではありません。むしろ、あえて「書くぞ」と意気込まないようにしているんです。

なぜなら、私が言葉にしたくなる人は、私の大好きな人だから。この感覚は、熱狂に近いですね。自分の人生をかけてその人に付いていきたいと思えるから、書き続けられているので。取材する・しないに関係なく、人間同士がつながる感覚で取材しているような気がします。

あとは、一度の取材ですべてを聞き切ろうと思わずに話を聞くのもコツかも知れません。回数を重ねる毎に、自然な形でおしゃべりが続くのが理想形です。

わたし自身もインタビューを受けているからこそ思うのですが、質問リストがあって、それに沿って次々と質問され取材ってなんだか情報を収奪されているような気持ちになるんですよ。

取材者が聞きたいことを聞いておしまいではなく、対話を通して見えてくる小さな会話にこそ、その人らしさが見えていたりする。だから、許可を得た上でですが、対面しているときにはずっとボイスレコーダーで音声を録り続けています。

「読者も、未来の自分も楽しめる」と感じる企画を

川内さんが、ノンフィクションを企画するときに4つの視点を持っている、と語る。本として世の中に出版するためには、自分の希望を語るだけに留まってはならないからだ。

「他の人が目をつけていないこと」
「実現できること」
「本として成立すること」
「自分の情熱が続くこと」

この4つを大切にしています。本を出版することは、知らない誰かにお金を払ってもらって作品を購入してもらうことにほかなりません。そのときに、単行本の場合は、本そのもののテーマが独立的で強い力を持っていなければならないんです。

しっかりと読者が付いてくることが重要。そのための要素のひとつとして、他者が目を付けていないテーマを選ぶことがあるのではと思っています。

あとは、実現可能性があることはもちろん必要ですし、なによりも情熱を注げることが重要で。ノンフィクション作品を作るときは、2〜3年ほど、ひとつの企画と付き合っていくことが必要になります。

ですから、未来の自分も楽しめると感じる企画を進めるのが良いのではないかなと思います。まあ、とはいえ、先のことなんてわからない(笑)。始めてみてから自分の気持ちが盛り上がるのか萎えるのか、判断していくのが良いと思います。

「社会の常識から少し離れた人」を取材する

ノンフィクションは、取材対象者がいてこそ成立する作品だ。川内さんは、どのような基準で取材対象者を選んでいるのか。

「取材対象者」を決めるとき、わたしは社会の常識から少し離れたところにいる人を選ぶことが多いです。自分の中の自由さを持っている人と言いますか。自分の中にブレない意思のある人と出会うと、共鳴して、追いかけてみたいって思うんです。

『空をゆく巨人』で取材させてもらった志賀忠重さん(*)の場合も、同じような動機で追いかけさせてもらうようになったんです。彼の場合はエピソードがあまりに豊富で。だから、取材をするときは、その人の言葉が盛っているものではないことを見極める必要もあるなと思います。

(*)志賀忠重さん…東日本大震災での原発事故のあと、美しい桜の里山を残すため、250年かけて9万9,000本の桜を植樹するプロジェクト『いわき万本桜プロジェクト』を率いる代表。

たとえば、見極めるための方法のひとつが、裏を取ること。その人の言葉を補強してくれる人はいるのかどうか、事実を確認するための記録はあるのかどうか。記録や他者の記憶とをつなぎ合わせながら、本当のことを見極めていく作業を日々行なっています。

あとは、最終的に本を作ることを考えると、追いかける人のテーマが、他の人も関心のあるものかどうかは重要です。

誰も関心の持たないテーマだとすると、本として成立しませんから。『空をゆく巨人』は、現代美術がテーマですが、東日本大震災の原発の問題や被災地の問題などが登場します。

特に現代美術はノンフィクションとしてあまり書かれてこなかったテーマでしたし、他者の視点から見ても面白いだろうと感じました。

[第3回はこちらから]
>>>[3]「心を揺さぶる物語」の法則。ノンフィクション作家、川内有緒の文章術


※本記事は、大人のための街のシェアスペース・BUKATSUDOにて開催されている連続講座、「企画でメシを食っていく」(通称・企画メシ)の講義内容をキャリアハックにて再編集したものです。

*「企画メシ」の記事一覧はこちら

撮影:加藤潤


文 = 鈴木しの
編集 = 野村愛


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時代は平成から令和へ。そして訪れる「2020年以降」の世界。2020年からの「10年」をいかに生きていくか。より具体的に起こすべきアクションのヒントを探る連載企画です。お話を伺うのは、常に時代・社会の変化を捉え、スタートアップと共に"一歩先”を見据えて歩まれてきた投資家のみなさんや、未来を切り拓く有志者のみなさん。それぞれが抱く「これから10年間で現実的に起こり得ること」と「新しい生き方」の思索に

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