『企画でメシを食っていく』という講座が人気だ。発起人はコピーライター阿部広太郎さん。林修先生の「今でしょ!」を広めた立役者の一人。彼が通称『企画メシ』で行なうのは、トップランナーたちを巻き込み「良い企画」を掘りさげていくこと。そこには「企画仲間を増やしたい」という想いが込められていた。
林修先生の「今でしょ!」を広めた立役者のひとり、コピーライターの阿部広太郎さん(31)。最近では、広告やCMにおけるコピーワークに加え、シンガーソングライター向井太一さんとの共作詞、2018年3月公開の映画『アイスと雨音』で初めて映画プロデューサーに挑戦するなど活躍の場を広げている。
そんな彼が2015年から続けている、いわばライフワークが、横浜・みなとみらいにあるシェアスペース「BUKATSUDO」で開かれる「企画でメシを食っていく」という企画と向き合う講座だ。発起人となり、少人数の事務局で運営されている。半年間で12回ほど開催される学びの場(ちなみに課題の難易度も高く、本気度が試されるストイックな講座としても知られる)。参加できるのは半年間で30名のみだが、2017年には200名以上の応募が集まるほどの人気ぶりだ。
ユニークなのは、そのプログラム。講師は業界のトップランナーたち。2017年は、ピースの又吉直樹さん、ライゾマティクスの真鍋大度さん、ジモコロ編集長の徳谷柿次郎さんなど、2016年には、ロックバンド・クリープハイプの尾崎世界観さんも名を連ねる。1回あたり3時間の講義に加え、受講生が事前に作成した「企画書」にフィードバックをしていく。それも30名分に目を通して…だ。
どうすればいい企画が考えられるのか。そもそも「いい企画」とは何か。トップランナーたちを巻き込み、「企画」を掘りさげ、思考を深めていく。
そんな通称『企画メシ』には「世の中をポジティブなものへと変えていくために、企画仲間を増やしたい」という阿部広太郎さんの想いが込められていた。「企画で食べていきたい」と考える全ての人たちに贈る「企画者としてのあり方」に迫る。
【プロフィール】
阿部広太郎 コピーライター/企画プロデューサー
1986年生まれ。2008年、電通入社。「世の中に一体感をつくる」という信念のもと、言葉の力を軸にコンテンツ開発を担う。映画『アイスと雨音』『君が君で君だ』プロデューサー、シンガーソングライター向井太一『FLY』『空 feat. SALU』『Blue』共作詞。世の中に企画する人を増やすべく、2015年から、BUKATSUDO講座「企画でメシを食っていく」を立ち上げる。初の著書『待っていても、はじまらない。―潔く前に進め』(弘文堂)を出版。
― まず『企画メシ』は、トップクリエイターの方々が講師陣として参加しており、とても驚きました。
ありがとうございます。じつは講師のみなさんからも「この場に来られてよかった」と声を掛けていただけることも多くて、とてもうれしいんですよね。もしかしたら、「何かを成し遂げたい」と強く願う参加者たちから逆に刺激をもらったり、学びがあったりするのかもしれません。
僕は『企画メシ』のことを「キャンプファイヤー」のようなものだと思っていて。講師の方は真ん中で燃えている火。その火種が、まわりで聞いている受講生たちに伝播し、それぞれが持ち帰る。真ん中の大きな火から、熱をもらうだけでなく、僕たちが薪をくべる。講師のみなさんに、参加者たちの『企画書』を見ていただき、フィードバックをもらうのも、そのためだったりするんですよね。お越しいただく講師の方にとっても「学び」や「発見」を持って帰っていただける場にしたいんです。
― 確かに「企画」って答えがないですし、「学びあう」はとても大切になりそうです。
そうですね。教える側、教えられる側という関係ではなく、刺激しあっていけたらいいなと思ってます。じつは今年の講義の中で、参加者の一人から『「受講生」のことを「企画生」と呼びましょう!』と提案があり、呼び方を変えたのもそのためなんです。言葉ひとつで意識が変わります。
…とはいえ、講師のみなさんは最前線で活躍されている方ばかりだから、まだまだ自分にはできないような企画ができる方ばかり。ただ、「そんな風にモノゴトを捉えているんだ」っていうまなざしに触れられるだけでも、視野が開けるんですよね。僕もそうなんですよ。
― もうひとつ、講師の方々が多ジャンルにわたっていますよね。人選はどのように?
事務局メンバー4人のブレストで決めています。軸やルールを特別に設けている訳ではないのですが「お会いしたことがある人」「直接お話を伺って刺激を感じる方」を中心にオファーさせていただいています。
ジャンルが多岐にわたっているのは、いろんな角度から受講生の好奇心を刺激したいという思いもあって。そもそも人って多面的な生き物ですよね。一つのことに限らず、色んなことに関心をもっているはず。だけど、社会人になると「やらなければならいこと」に迫られて、どんどん視野が狭くなってしまう。予想外の角度から人の話を聞く機会はとても貴重ですよね。
以前、小学校の先生をしている「ぬまっち」こと沼田晶弘先生に授業をしていただいたとき、「企画メシって大人の義務教育みたいだね」っておっしゃってくださって。僕もまさにそうだなと思いました。
小学校に「英語」「算数」「理科」「社会」って色んな科目があったように、「企画メシ」ではいろんなジャンルの人たちから話を聞ける。あまり興味のなかった分野に発見があったり、共通点を見いだせたり。全く未知の「点」を見つけてほしいし、僕自身、1期から3期を通じて見つけた点を辿って、今コンテンツの仕事をしているんです。
― 「企画メシ」のプログラムも、とてもユニークですよね。ちなみに第1回目の講義を「言葉の企画」からはじめている理由とは?
僕のなかでは一貫して「自分で考え、自分で言葉にしていく」ということが大切だと思っていて。自分で導き出した言葉には、リーダーシップがあり、未来を導き出す力があると思うんです。
たとえば、いつも初回の講義で「あなたにとって企画書とは何ですか?」という問いを投げかけているんです。「ラブレター」とか、「宝の地図」とか、「傘連番(からかされんばん)」とか。回答は人それぞれ。ひとつの答えがある訳ではありません。
ただ、ちょうど真ん中である6回目を迎えたあたりで、こんな風に問いかけるんです。「あなたが今出してくれている企画書は、ちゃんと最初に言ってくれたものになってますか?」と。
そうするとハッとする人たちがいて。「あれ…自分の企画書はラブレターとはほど遠いな」とか。言葉って約束でもあると思います。その約束が果たせているか。そう思うと背筋が伸びますよね。
― 最終回は「自分の企画」が課題ですよね。その意図も伺ってみたいです。
やることとしてはシンプルで、一人ひとりが前に出て「これから自分はこういうことをしていきたい」「こういうことを目指していると」と3分で発表をしてもらうだけ。意図にしてもそこまで大げさなものではありません。
ただ、その答え合わせは、未来に行われます。自分で発信して、約束することで、自分との「答え合わせ」ができる状態にしておく。自問自答した先にある言葉を持つことがとても大事だと思っているんです。誰かから言わされた言葉ではなく、自分の中から出た言葉。その人にとってとても重みのある言葉になるはず。
― しかも自主参加である「企画メシ」で話すということにも意味がありそうですね。
そうなんですよね。仕事でもなければ義務でもない。自分が参加したくて参加した場で、自分が発している言葉だからこそピュアなものですよね。これからの未来に向って進む大きな力を持った言葉だと思うんですよね。
半年後、1年後、5年後、10年後、みんながどうなっていくのか。宣言してくれた場に立ち会った一人として「ホントに実現したね」ってお互い近況報告できたらすごくステキだなって思うんです。
― 正直、阿部さんにお話を伺えるとなったとき、「企画力があげられるヒントがもらえるんじゃないか」と近道を考えていたんです(笑)でも、伺ううちに、自分自身の言葉で考えること、大げさかもしれないですが「生き方」そのものが企画に表れるのかなと感じます。
たしかに企画力って「考える方法論」であったり、「考え方の技術」だったりもあるのだと思います。ただそれぞれ違う環境にいるなか、教わったノウハウをそのまま活かせるかというとそうではないと思うんです。
昨今、変化が激しい時代の中で、どのような職種であれ、どのような仕事であれ、より一層、企画が求められていると思いますし、普遍的に企画していけるようになるために何が大切になんだろうっていうのは企画メシを立ち上げた当初から考えていたことでした。
そのときに辿り着いた考えとして、『企画メシ』では取り組み方、向き合い方、「姿勢」を伝えていく場所にしたいなっていうことでした。「姿勢」さえあれば、自分の中に「技術」が根付いていきます。もちろん「技術」の話も伝えますよ(笑)。でも、一人の企画者として、自分の「姿勢」からまず言葉で生み出して欲しいんです。
参加してくださっているみなさんってものすごく個性豊かなんですよね。ライター、編集者、プランナー、エンジニアから、みかん農家の方、看護師の方だっている。みんなバラバラなんです。だから、それぞれが自分の目的を見つけて、そこに向かっていく。
僕にとって企画って、どんな時にも幸福に向かう「矢印」のようなものだと思っているんです。みんなでその矢印を見つけ、いつかまた再会したときに「いい企画」を報告し合いたい。それがちょっと世の中を良くすることだと思うんです。そのためにもたくさんの学びがある『企画メシ』を2018年も実現できるよう、僕自身も企画をがんばっていきたいと思います(笑)
(おわり)
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