2019.09.10
学芸員資格を持たぬ、「ヤバいアート作品」のキュレーター|櫛野展正の企み

学芸員資格を持たぬ、「ヤバいアート作品」のキュレーター|櫛野展正の企み

アウトサイダー・アート(*)に魅せられ、日本唯一の「アウトサイダー・キュレーター」を名乗る櫛野展正さん。大学卒業と同時に就職し、介護福祉士として16年間働いた経歴を持つ。なぜ彼は「表現」を見出す仕事に辿り着いたのか?

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全3回の連載でお送りいたします。
[1]「面白い人がこの世の中にいる」を伝えたい
[2]作家たちが展覧会場で大暴れ
[3]「ヤバい」と「狂ってる」に痺れてしまう

(*)専門的・体系的に「美術」を学んでこなかった人による作品を指す。高齢者、子ども、精神障害者などが作り手のアート作品が挙げられる。

「面白い人がこの世の中にいる」を伝えたい。

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【プロフィール】櫛野展正(くしの・のぶまさ)
日本唯一のアウトサイダー・キュレーター。1976年生まれ。広島県在住。2000年より知的障害者福祉施設で介護福祉士として働きながら、広島県福山市鞆の浦にある「鞆の津ミュージアム」 でキュレーターを担当。2016年4月よりアウトサイダー・アート専門ギャラリー「クシノテラス」オープンのため独立。社会の周縁で表現を行う人たちに焦点を当て、全国各地の取材を続けている。
クシノテラス http://kushiterra.com

僕は学芸員資格も持っていません。いわゆるキュレーターのなかでもアウトサイドにいる、という意味で「アウトサイダー・キュレーター」と名乗っています。だから皆さんも、ちょっと特殊な肩書きを作って、自分で名乗ったほうがいいんじゃないかって思うんです。

そもそも「キュレーション」とは「情報を集めて整理し、新しい価値付けをすること」。その意味からすると僕がやっていることは一般的なキュレーターがやっていることとは程遠い。

ただ、実はキュレーターの語源ってラテン語の「クラーレ」という言葉なのですが、その言葉には「世話をする」という意味もあります。もともと知的障害者の福祉施設で16年間働いてきた僕の仕事はどちらかというと、この「お世話をする」という感覚にすごく近い。

僕は大学で教育学部の特別支援学校教員養成課程を修了し、地元の福祉施設に就職しました。

新人として働き始めてすぐの頃、けっこう反抗的だったかもしれません(笑)

というのも、障害のある入所者の人たちが食事になるとご飯を食べさせてもらったり、お風呂の時間になると身体を洗ってもらったり…なんだか、そこで生活している人たちがとても受け身の生活をしているように見えたんです。

むしろ、そこで生活する彼ら彼女たちが「自分がここにいてもいいんだ」と自己主張できるような機会や場所づくりが必要なんじゃないかって。そこで自分の存在意義を声高に叫べるような活動、具体的には「アート」が必要だと思ってアート活動を施設の中で始めました。こうして関わった入所者の方たちの中から「アーティスト」と呼ばれる人々がたくさん誕生しました。

例えば、ある自閉症的傾向のある人はバーっとすごい勢いで紙に文字を書いていくんです。一見、よくわからないのでほとんどの職員も「何か変なものを書いているな」とか「面白い形だな」くらいにしか思わない。

でも、僕は自閉症的傾向のあるの人が何を書いているのか読んでみたかった。だから、一文字一文字解読していったんです。そうやって研究し続けることで、その施設でたった一人彼の言葉を解読できるようになりました。

他のキュレーターと呼ばれている人の多くは作家に対して、遠くから双眼鏡で眺めているくらいの距離感の関係性だと思う。でも、僕は作り手の常に真横にいる感覚なんですよね。まさに一緒に並走する「伴走者」という感覚ですね。なぜかというと、僕が結局伝えたいのは、作品そのものではなくて、それを作ったのが誰で、どれだけ面白い人がこの世の中にいるかってことだから。僕はその人の魅力を伝えたいんですよ。

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(つづく)

2本目は【9月11日(水)夜】に更新予定です!お楽しみに!

※本記事は、大人のための街のシェアスペース・BUKATSUDOにて開催されている連続講座、「企画でメシを食っていく」(通称・企画メシ)の講義内容をキャリアハックにて再編集したものです。
*「企画メシ」の記事一覧はこちら

撮影:加藤潤


文 = 千葉雄登


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