PMとして、一人前になるにはどうしたらいい?駆け出しPMに向けてお届けする連載「PM1年目の教科書」。お話を伺ったのは、BASE 神宮司誠仁さん(27歳)。創業期にジョインし、唯一のPMとしてプロダクトを育ててきた。インターネットが大好き、プロダクトが大好き。人一倍つよい「愛」が原動力にあった。
PMになる前から、プロダクトやサービスを見たり触ったりするのが好きだったという神宮司さん。インターネットへのあくなき好奇心は、もしかするとPMにとって大事な素養とも言えるのかもしれない。
昔からあらゆるプロダクトやサービスを日々みたりさわったりするのが趣味で。とくに「インプットする」という意識もなく、息を吸うように最新情報にふれていました。
知り得た情報はすべて社内に共有。自社のプロダクトに置き換えて、なにが活かせるのかという視点もあわせてシェアするように心がけています。
あと、「BASE」というサービス自体もすごく好きなんですよね。エンジニアだったときから「どうしたらサービスがより良くなるのか」を考えて、積極的に意見を伝えたり、提案する動きをとっていました。
そこから少しずつ、ディレクションやQAなど、「サービスのあまり良くないところを見ていってよ」と任せてもらえるようになり。そんな緩い温度感から「プロダクトマネージャー」としての役割を担っていきました。
神宮司さんにも、PM1年目のとき思い悩んだことがある。ぶつかったのは「コミュニケーション」の壁だった。
一番苦労したのがメンバーとの「コミュニケーション」でした。もともとエンジニアで開発チームにいたところから、いきなりアプリの企画チームに異動することになったのですが、自分の思っていることや考えがメンバーにまったく伝わらなかったんです。
最初はメンバーの業務も立場も、何も分からない状態。そんな中で、自分の視点だけで意見を伝えてしまっていた。もともと僕自身がコミュニケーションがあまり得意ではない方というのもあったし...。
まずはメンバーを知ること、そして自分を知ってもらうことをはじめようと思いました。そのためには、コミュニケーションの接点を増やそうと、とにかく全てのチャットにリアクションしはじめました。
直接的にはあまり僕に関係ないコミュニケーションでも、参考になりそうな事例を共有したりスクリーンショットをバーッと送り付けたり。なにか困っていそうなことがあったら、「手伝えることあったらいってください!」とコミットしていく。
ほんとに些細なことだけど、次第に自分の強みを相手に理解してもらえたり、信頼してもらえたりします。
すこし違う観点ですが、プロダクトの成長においても「Slackが活発」であることは大事なことだと思っています。メンバーの投稿に対して、誰からもレスがないと、べつに共有しなくてもいいやって、どんどん投稿の数って減っていくと思うんです。それって機会損失だし、全体的にもテンポが落ちていってしまう。なので、リズムを作り続けるためにも、レスをし続けることは大事なのかなと思います。
なぜ、ポエム?一風変わった取り組みには、PMとしての狙いがある。
新しいプロダクトや新機能をつくりはじめるとき、いつもポエムを書いています。
僕たちが実現したいことはなにか。どんな人を救いたいのか。この体験を届けるとどんな体験が起きるのか。そういったことをダーッと書き出して、まとめたものをメンバーに共有しているんです。
プロダクトのゴールって、数字に落とし込まれがち。でも、「数字を上げたい」というよりも、「こんな世界をつくりたい、こんな体験をつくりたい」とプロダクトのコアを言語化して伝えたほうが、みんなのテンションも上がりやすくブレにくい。
ポエムを書くことによって、自分自身の思考の整理になりますし、目指したい方向性が言語化されることで目標の数字も腹落ちしやすくなる。チーム内で共有すれば、メンバーからコメントをもらえたり、意見を聞けたりする機会もつくれる。だから思い立ったら、ポエムで共有するようにしていますね。
ちなみに深夜に書くと、叙情的に書けるのでオススメです。
デザイナー、エンジニア、経営メンバー、投資家、ユーザー...さまざまな立場から意見とどう向き合う?神宮司さんは、意思決定者としての心構えをこう語る。
僕の中で心掛けているのは、良い話も悪い話も全部、話半分でいったん受け止めること。夜、お風呂に入りながらとかぼーっと考えて、意思決定してます。
全ての意見を聞くことは不可能。「BASEとして何を作らないといけないのか」からブレてしまいます。それに、結構言い訳も作れてしまうというか、あの人がこうやって言っていたから俺はこうしたんだ、ってなっていっちゃうと、結局自分がプロダクトマネジメントしている意味がありません。自分の中でちゃんと咀嚼してから、自分の意見としてアウトプットしないといけないと思っています。
最終の意思決定は自分。だけど、必ずしもPMだからといって自分のアイデアや意見を押し通す必要はありません。
ユーザーさんからすると、別に社内のだれが決めていようが関係ないですよね。だからこそみんなの意見をどんどん聞き、正しそうなものを取り入れて、チームで最適解を見つけにいく。そのほうが、プロダクトの改善スピードとしては早いと思うんです。
意見を拾うために、気軽に改善案を出せる場をつくるのもPMの役割。社内のSlackに「#ダサいぞ」というチャンネルをつくって、全社員がユーザー体験に関することに意見を出せるようにしています。
「ダサいぞ」って、直接的には言いづらいじゃないですか。たとえば、デザイナーがなにかしらデザインを上げてきた時に、「ダサいかもな」って一瞬思ったとしても、「いや、デザイナーが作っているからダサくないんだろうな」って思って言えないのはもったいない。
3年後、5年後、10年後で見た時に、みんなでフィードバックしあって改善し続けるほうが、良いプロダクトができると信じています。
エンジニアとしてキャリアをスタートした神宮司さん。多種多様なPMとしてのスキルや能力をいかに高めていっている?とくに、デザインにおいての彼なりのインプット術を教えてもらった。
自分のプロダクトだけを見ていても、アイデアは出てこないと思っています。だからこそ、他社のアプリ、プロダクトをたくさん見て、自分の中に引き出しを増やことが大切。僕のスマホにはアプリが200個以上入っていて、毎日のアップデートをくまなくチェックしています。
とくに注目してみているのが、アップデートの差分です。アップデート前とあとで、UIがどう変わったのか。それはなぜなのか。自分の中で考えて、結論を出す。そして、また次のアップデートのタイミングでも変わっているのかをチェックする。その繰り返しをしていると、そのプロダクトがいまなにに注力しているのかが見えてきます。
他のプロダクトマネージャーたちが意思決定したものが世の中に出ていると思うので、そのアップデートの差分をずっと見続けることによって、彼らの思考プロセスを追体験ができる。
自分の中でのレパートリーが増えると、デザイナーとの意思疎通もスムーズになるので、ぜひオススメしたいです。
仮説を立て、施策を打ってもなかなか成果につながらない。そんなときでも、神宮司さんは常に前向きだ。きっとよくなると信じて、前に進み続ける。その強さはどこからくるのだろうか?
一朝一夕だと良いプロダクトは作れない、そう思っているからですね。
Instagramとかもできて10年弱。どんなにすごいプロダクトでも、本当に10年20年かかっていますよね。長期的に見たときに、良いプロダクトをつくっていければいい。そんな視点を持っていれば、今目の前の試行錯誤に対してもそこまで落ち込むことじゃないと思うんです。
ただ、じっくりゆっくりプロダクトをつくるということではありません。向こう5年とか10年とかを見据えて、ちゃんと「積み上げ続けて」いく視点は常に持っています。
よく社内で、「未来を信じよう」という言葉を使います。BASEの行動指針の一つにも「Be Hopeful」という言葉があるのですが、たとえ今すぐに受け入れられなくても、一喜一憂することない。未来に先回りしていて、プロダクトをつくろうよと伝えています。
取材 / 文 = 野村愛
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