2020.01.10
「詐欺?」と疑われるくらいヤバいサービスを。山内奏人

「詐欺?」と疑われるくらいヤバいサービスを。山内奏人

月3,980円で、日本全国の映画館、水族館、美術館、博物館が行き放題ーーにわかには信じがたいサービス『PREMY(プレミー)』を仕掛ける山内奏人さん。現在はテスト運用。本当に実現可能か。詳細がベールに包まれているのはなぜか。山内さんは狙いを語ってくれた。

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「どうせ失敗する」と言われるくらいが面白い

『PREMY(プレミー)』ですが、詳細がベールに包まれていることもあり、「どう実現するのか」「詐欺では?」といった声もあります。どう捉えていますか?

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大きなことを言うと叩かれるのですが(笑)じつは狙い通りの反響で、うれしいです。

「ビジネスを何もわかってない」「こんなサービスはうまくいかない」「すぐ破産するんじゃないか」と言われることこそ、やりたいんです。

じつはアメリカでも映画館行き放題のサブスクがあったのですが、破産しています。だからこそ実現したら面白い。「なんでこんなことできちゃうの?」と大きな驚きを与えられる。それって最高にエンターテイメントだと思うんです。

いまの日本って、得体の知れないワクワクするようなプロダクトが少ないと思いませんか?App Storeのランキングも常に同じラインナップ。トップにLINEがいて、次paypay、あとはセブンイレブンとかマクドナルドの公式アプリがある。もちろん便利で必要不可欠な存在です。ただ、正直ワクワクするものか?といえばそうではない。

日常の中に未知との遭遇みたいなものが足りてない。それを意図的に生み出せるプロダクトをつくりたかったんです。

この前、あるユーザーが「PREMY使い始めて、毎日が冒険になった」って、ツイッターでつぶやいてくれて、すごいうれしかったですね。

実現するのはめちゃくちゃハードだし、難易度も高い。毎日どうしたらうまくいくのか試行錯誤しています。

+++「オフライン体験のamazonプライムをつくりたい」と山内さん。大枠の仕組みとしては、映画館・水族館・美術館・博物館のチケット半券を『ONE』で撮影して送信。その写真と引き換えにチケット代金が還元される。現段階では、買取は毎日1回まで可能。同じ日に映画館と水族館に行った場合は1つだけ買い取られる。

観客をあっと驚かせる"一夜城の法則"

もうひとつ「詐欺なんじゃないか」と反響いただけたのは、サービスの詳細をあえて"隠す”ことで生まれたと思っています。

人をあっと驚かすものには、共通項があります。これは僕が勝手に名付けたものなんですけど、「一夜城の法則」だと思うんです。

昔、豊臣秀吉の戦略に「一夜城」があります。敵の陣地に時間をかけてこっそり入り、まるで一夜にしてお城ができたように見せた。すると敵は「昨日まではなかったのに気づいたら城がある!」と怯んで動けなくなる。

(参考)マジックとアップルと一夜城についてのブログ

Appleの発表会も一夜城的な演出ですよね。開催も突然決まるし、内容も自分の期待をはるかに超える。「なんでこんなことできちゃうの?」と見ている側に大きなインパクトがあります。それってマジックみたいだし、エンターテイメントとしても面白い。

+++山内さんといえば、2018年6月にレシート買取アプリ『ONE(ワン)』をリリースして話題になった人物。『ONE』は予想をはるかに超える約8万5000ダウンロードを突破し、公開後わずか16時間でサービス停止に陥った。現在、山内さん率いるWED(旧ワンファイナンシャル)は追加の資金調達を実施し、オフィスを日比谷に移転。新体制のもと『ONE』の運営も順調だという。

ビジネスモデルは、まだ決めません

ー ビジネスモデルはどうなっているのでしょう?

現段階では、ビジネスモデルを決めていません。テストリリースにしているのも、何が最大の価値で、どのビジネスモデルが最適なのかを探っているから。

サービスをゼロから立ち上げる場合、いきなりビジネスモデルを決めてもあまり意味がないと考えています。実際にリリースしてみないと、ユーザーがどう反応するか分からないですよね。

ユーザー属性、利用頻度、行動フローなど、データを収集しながら「こういった収益化の方法がある」と最適なビジネスモデルを模索していく。

先日の僕のツイートも、ひとつのテストだったんです。普通ツイートしてもインターネット界隈の人しか使わないと思うんですけど、350万人にリーチしていろんな属性の人からリアクションがあった。キャズムを超えた感覚も得られましたし、この先数十万人、数百万人ユーザー取りにいった場合にも、同じような割合になるのかな、と予測が立てられました。

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サブスクの本質は、人々の「行動」を変えること。

ーサブスクリプションのサービスが増えてきてますが、山内さんはサブスクの価値をどう捉えていますか?

「サブスク=定額サービス」だと思われがちですけど、僕はそれが本質だとは思いません。定額サービスを何でも一括りにサブスクと呼ぶ風潮に、むしろ違和感があるんですよ。

もしそうなら、特定のお店でしか使えない回数券だってサブスクだし、電車の定期券だってサブスクになってしまう。定額であることは、お金の取り方の話ですよね。

サブスクのサービスを立ち上げれば資金調達しやすい、みたいな安易な経営者もいますけど、それは不健全だなと思う。人の行動がどう変わるのか。どんな価値を生むのかを説明できないとサービスの成功はない。

サブスクの本質は、「人々の行動を変えること」だと思うんです。

たとえば、「Spotify」がやった最大の功績は音楽がより身近になったこと。レコードショップでCDを買う必要も、1曲聴くのに300円払ってダウンロードする必要もなくなった。好きなときに、好きな音楽を聞ける。「Netflix」だってそうですよね。いつでも好きなときに映画を見れるようになった。

僕らもただの映画館行き放題サービスをつくるつもりはありません。『PREMY』で目指しているのは、「文化」をより身近に感じてもらえる世界。「明日はどこにいこうかな」「なんの映画をみようかな」って。そんなふうに、毎朝起きるのが楽しみになるような世界をつくっていく。

「時代の流れだから」とか、「お金の取り方としてサブスクが効率的だし、収益が安定するから」じゃなくて、本当の意味でのサブスクをこれからもつくっていきたいですね。

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(おわり)


文 = 田尻亨太
取材 / 編集 = 野村愛


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