「D2C」で、これだけは知っておきたいポイントって? Takram 佐々木康裕さん(新刊『D2C』著者)に解説いただきました。
D2C 「世界観」と「テクノロジー」で勝つブランド戦略 (NewsPicksパブリッシング)
D2Cは、「Direct to Consumer」の略で、消費者に対して商品を直接的に販売する仕組みを指します。Amazonや楽天など既存のプラットフォームを通さずに自社のサイトやチャネルを使って販売する形態です。
「直接販売(中抜き)」にフォーカスされがちですが、D2Cの一つの特徴に過ぎません。D2Cの本質は「世界観」と「テクノロジー」にあります。
ブランドとして「世界観」を作り込んでいく。
テクノロジーを活用しながら、ユーザーと真摯に向き合っていく。
D2Cのあり方は、既存の伝統的なブランドは全く異なるものです。
D2Cは2007年にアメリカで原型が生まれ、2013年~2014年以降、急速に成長を遂げてきました。未上場でありながら企業価値が1,000億円を超えるユニコーンと呼ばれる企業も、D2C業界だけで7社も登場してきています。
メガネやマットレスなど、これまでテクノロジーと程遠い場所にあった商材を扱う新興企業が、AIやデータ分析などの高い技術力を武器にSNSを使ったマーケティングを行い、「世界観」のつくり込みと巧みなストーリーテリングによって、シェアを伸ばしているのです。
実際にD2Cがどのように世界観を築き、テクノロジーを活用しているのか。D2Cの震源地ニューヨークでユニコーン化しているD2Cブランドを事例に解説していきます。
まず、D2Cを語る上で欠かせないブランドが、「Warby Parker(ワ―ビー・パーカー)」です。
2010年に創業された、ニューヨーク発のメガネブランド。現在10億ドル以上の企業価値を持つ、ユニコーン企業へと成長し、「史上もっとも成功したオンラインブランド」と言われています。
いまや多くのD2Cスタートアップが自社の取り組みを説明する際に”Warby Parkerの○○版”と表現しています。
僕自身、「D2C」に興味をもったきっかけがWarby Parkerでした。
2013年にシカゴへ留学していたとき、オンラインのメガネ試着プログラム「Home Try - On(ホームトライオン)」の体験が衝撃的で。当時は結局買わなかったのですが、ブランドのファンになりました。
すべてオンラインで完結するのですが、まるでコンシェルジュに丁寧に接客してもらえるような気分になれた。普通であれば、受注や配送に関する「業務連絡」的なメールですが、品の到着や開封、返送など、それぞれのステージごとに丁寧に手続きが案内されるため、顧客は全く迷わずにオンラインの試着プロセスが完遂できます。
1:試着オーダーの受領確認
2:配送ステータスのお知らせ
3:スタッフが選んだおすすめの1冊
4:到着のお知らせ
5:試着の促しのメール(4の次の日)
6:SNSでのシェアを促すメール(5の2日後)
7:SNSでのシェアを促すメール(6の2日後)
8:迷っているときの連絡先
9:返送の御礼
しかも、すべてのメールにフレンドリーな手書きのイラストや、プロダクトのきれいな写真がはいっていて、「売られている」という感覚を顧客に与えない。メールを送るタイミングも、顧客の悩むタイミングを綿密に考慮されているので、むしろ親切な印象を受けます。
さらにおもしろいのが、「顧客をエヴァンジェリスト化」するアプローチ。顧客の発信や、発信しようとしている顧客を「エンカレッジ(勇気づけ、動機づけ)する」。
「Home Try - On」には、「# warby home try on(ワービーホームトライオン)」Instagramのハッシュタグが存在していて、顧客が気軽にメガネを試着した写真をアップロードを促しています。
投稿すると、このハッシュタグをフォローしている世界中のWarby Parkerの顧客やファンから「何番目のメガネが似合ってる!」とコメントが集まってくるんです。Warby Parkerからも返信が来るがあって、遊び心がまた素敵ですよね。このハッシュタグには、すでに24,000回以上も投稿されています。
D2Cではインフルエンサーではなく「アンバサダー」を活用するところも多いです。日本でモデルとか、女優さんとか、いわゆるインフルエンサーを起用しますが、インフルエンサーは必ずしもブランドのファンではないこともあります。だからどうしても、情報を発信するときに「嘘っぽさ」や「広告臭」がしてしまいますよね。
アンバサダーとは、ブランドのファンであり、一緒に発信してくれる仲間。たとえフォロワーが少なくても、ブランドを心底愛しているファンを巻き込んでいくほうが、ブランド「認知の質」を保証できると捉えているんです。
「Casper」は、2014年にニューヨークで若者5人が創業した、マットレスを販売するスタートアップです。
創業初月に売上1億円、12ヶ月で100億、2年目には200億に。2019年頭にはユニコーンの仲間入りを果たし、ついにはアメリカのマットレス最大手の会社が破産の原因となったと言われるほど業界のシェアを広げた企業です(2020年2月にニューヨーク証券取引所の上場)。
Casperの革新性はいくつもあるのですが、一番のポイントは「顧客体験から逆算してプロダクトをつくった」点にあると思います。
D2Cは、よく「小売りのミレニアル世代化(ミレニアライゼーション・オブ・リテール)」と言われるのですが、ミレニアル世代のライフスタイルにフィットしたカタチでプロダクトをつくったのです。
この写真が示している通り、ミレニアル世代はお金がなく、狭いアパートで暮らしている人が多い。マットレスを買って、いざ搬入しようとすると、階段が曲がれず搬入できず返品しなければならなかった。
そこで、Casperは女性でも、頑張れば1人で抱えて上がれるぐらいの小型冷蔵庫サイズのパッケージを作った。しかもオンラインでカンタンにオーダーが可能で、わざわざ店舗にいく必要もない。100日間は返品無料で、自分に合わなければすぐに返品できる。ミレニアル世代にとって最適な顧客体験となるようにすべてが設計されています。
そのほか、Casperは顧客を「お客様」ではなく、一緒にブランドを育てていく仲間のように扱い、プロダクトの改善に活かしています。
Casperには睡眠データをトラッキングできる15,000人ものモニターユーザーがいて、お客さんをコミュニティ化しているんです。しかも、データのトラッキングだけでなく「これまでの製品と比べてここがだめだ」とフィードバックを送ってくれる。
収集したデータは社内にいる何十人ものR&Dチームがちゃんと製品の改善に生かす。そして、科学的にちゃんと眠りの改善に取り組んでいる。
「データ分析などテクノロジー活用を積極的に行う」のも、成長しているD2Cブランドの共通項のひとつです。さきほど紹介したWarby parker も社員の1割がデータサイエンティスト。社長直轄チームに所属し、経営の意思決定をするためにたくさんデータを活用しています。
最後にご紹介するのは、スーツケースブランド「Away」。2015年創業で、2018年の売上は約150億。2019年はその倍の売上を見込んでいます。
彼らのおもしろさは、プロダクトではなく世界観にあります。まず、自分たちを「スーツケースの会社」じゃなくて「旅の会社」と定義しているんです。つまり、プロダクトを売っているのではなく、「旅をするライフスタイル」を売っている。
スーツケースのお客さんのタッチポイントって荷作りから荷解きまでに対し、Awayは、「旅の会社」とするで旅に行きたい気持ちを換気するところから、旅に行って荷解きした後までもお客さんと接点をもつ。
そのために、さまざまなカタチで顧客とのタッチポイントを設計。たとえばAwayが発行している雑誌『HERE』もその一つ。カタログとしての機能はほとんどなく、旅にまつわるコラムやインタビュー、美しいビジュアルを通じて「旅をするライフスタイル」を顧客に届けています。
ほかにも、Podcastを配信したり、「旅」に絡めてポップアップのホテルをやろうとしたり。旅にまつわる全てをサービス化しようとしています。
プロダクトがコモディティ化し、差別化はできない。Awayのオーナーも自分で言ってますが、サムソナイトがAwayを真似しようとしたら一晩で出来るんですね。でも、Awayが作り上げたブランド、世界観、顧客のコミュニティは絶対に真似できない。
プロダクトではなく、世界観で勝負する。創業者2人は元Warby Parker背景もあり、プロダクトのレベルじゃなくて、ブランドのレイヤーでファンになってもらう重要さに気づいていたのかもしれません。
さらにD2Cを詳しく知れる一冊はこちら
D2C 「世界観」と「テクノロジー」で勝つブランド戦略 (NewsPicksパブリッシング)
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