デビューしたばかりのノンフィンション作家 岸田奈美さん。彼女の文章は笑える。そして、なんだか勇気がもらえる。笑いと愛に溢れたエッセイを書く彼女。その強さ、しなやかさはどこから来ているのだろう?
全2本立てでお届けします。
[1]note『弟が万引きを疑われ、そして母は赤べこになった』で、作家人生がはじまっちゃった話
[2]父の突然死、母の下半身麻痺を経て。人生の逆境が私に教えてくれたこと。
以前、編集担当の佐渡島庸平さんが私の書く文章に対してこんなことをいってくれました。
「岸田さんが書く文章は、おもしろいのに、人を傷つけないよね。人を傷つけて笑いを取る方が簡単な今、これがどれだけ稀なことか。でもそれは、岸田さんが、今までたくさん傷ついてきたからだと思う」って。
その言葉を聞いたとき、ものすごい衝撃で思わず涙がこぼれました。目から鱗だった。ときどき誰かから「不幸だ」「お気の毒に」と言われてしまう私の人生と家族の物語は、私にしかない価値なのかもしれないと。
大学生のころ、もともと会社経営をしていた父が突然死してしまって。私が父の意志を継いで、経営者になろうと思っていたのですが、すぐに母が病気で下半身麻痺になってしまった。私には、知的障害のある弟と、高齢の祖母もいる。この時ばかりは、けっこう絶望しました。とんでもないことになったぞ、と。
今だからお話できるのですが、母は車椅子生活が余儀なくされて。あまりに過酷なリハビリに根をあげて「もう死にたい」と泣いて私に打ち明けてくれたことがありました。その時、私も覚悟したんです。「いいよ、死んだっていいよ」って。そしたら私も一緒に死のうと。本気で考えていました。今だからこそ、こうして冷静に話せているけど、ぎりぎりの状態で。ただただ耐えるしかありませんでした。
でも、気づいたらその辛い時期は過ぎていた。自然災害と一緒ですよね。台風とか嵐がきたときに窓閉めてじっと待つ。いつか外に行ける日がくるっていうふうにやってた。本当に前向きに捉えられるまでは、3年ぐらい経ってからかな...。母と私で気が済むまで、とことん底の底まで沈んだから、あとは上がっていくしかないなって。ようやく落ち着いてきた頃、母が「車椅子になってよかった。今のほうが幸せ」って言ってくれた。その言葉で救われた気がしたんです。
【プロフィール】岸田奈美2010年、大学1年生で、株式会社ミライロの創業メンバーとして参画。同社は『NEWSZERO』『ガイアの夜明け』をはじめ200件以上のメデイアに取り上げられるなど広報として活躍。2020年3月に独立し、ノンフィンション作家(コルク所属)として独立。代表作は、note『弟が万引きを疑われ、そして母は赤べこいなった』『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』『冬がはじまるよ~のぞみ64号東京行き4号車で、槇原敬之が聴こえたら~』など。小説現代で『2億パーセント大丈夫』、ほぼ日では『いなくならない父のこと。』を連載中。
たまに私のnoteを見た方から「読んでいて辛い」とメールがくるんです。自分は障害がある姉がいる、とてもそんなふうに思えなった。姉のせいで学校もちゃんと行けなったし、働くこともできなかった。めちゃくちゃ迷惑かけられたから、私は姉を愛せなかった、と。
この気持ちって絶対あるし、本当にその通りだと思っていて。家族のことが愛せない、家族の障害のせいで自分が不幸になった、自分の障害のせいで辛い思いをしている。これは絶対にある。だから、「家族を愛さなければいけない」なんてことも絶対にないと思うんです。私は愛したのが家族だっただけ。ただただ私は好きなことを、好きだから、執筆していているだけなんです。
そして、いい文章は、私をいい場所に連れていってくれる。それをずっと信じているんです。ずっと自分が自信をもって思いを込めて書いた文章は、またそれ以上の体験をさせてくれるはずだ、と。
私はずっと寂しさを持ってきたので、誰かとみんなとワイワイ自分のことをそのままでいいよって言ってくれる人と楽しみたいのかもしれません。そういう場所を増やしたい。居心地のいい場所がどんどん増えて、また新しいことができてそれでまた新しい文章が書ける。
だから作家になりたいわけじゃないんです。「岸田奈美になりたい」というのが、すごくある。もしかたら動画になるかもしれないし、「岸田奈美」っていう人を楽しんでもらえて愛してもらえたら私はそれが一番幸せ。そのための一歩として、今はただただ書いていきたいですね。
>>>前編|note『弟が万引きを疑われ、そして母は赤べこになった』で、作家人生がはじまっちゃった話|岸田奈美
【撮影】
トップ写真 / 幡野広志
本文掲載写真 / キャリアハック編集部
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