「アジアのリーダー11人」に選ばれたAminaさん。生理や妊娠、更年期など女性の心身につきまとう悩み・課題をテックで解決ーそういったスタートアップへ出資を行なう『fermata Fund 合同会社』を立ち上げた。なぜフェムテック領域だったか。そこには「生物学的女性をとりまく、ウェルネスやセクシャルウェルネスにまつわるタブーをなくし、皆が自分の体の一番の理解者になれる社会にしたい」という志があった。
フェムテック(Femtech)
生理や妊娠、更年期に女性特有疾患まで、テクノロジーの活用によって生物学的女性特有の健康課題解決を目指す動き。ソフトウェア、診断キット等のプロダクトやサービスなどが含まれる。一例をあげると、不妊治療ソリューションや生理周期の予測アプリ。また、セクシャルウェルネスプロダクトや、生殖系の健康管理デバイスなど。全世界でのフェムテック領域への投資額はこの7年間で約60億円から約750億円まで成長しており、今後世界で急成長が期待できる新たな産業とされている。
(*)アジアのリーダー11人(日経アジアンレビュー)
「フェムテック企業の成長を加速させ、多様性ある社会を実現していきたい」
こう語ってくれたのが、『fermata Fund』代表のAminaさん。
2020年1月ーー連続起業家でMistletoe創業者の孫泰蔵さんと『fermata Fund』を共同設立した。その立ち上げ経緯、実現したい未来、そして彼女自身の志に迫った。
ー まず、fermata Fundの概要について伺いたいです。
fermata Fundは、私が共同代表を務める『fermata 株式会社』と、『Mistletoe Japan 合同会社』創業者の孫泰蔵さんが共同出資で設立しました。名前のとおり、フェムテック企業への投資を目的としています。
現在、1億円ほどの資金があり、今秋を目指し25億円を集め、本格始動する計画で動いています。
ー 『fermata Fund』の特徴は?
私たちはアジアで一番といえるくらいフェムテック領域のスタートアップ、プロダクトを見てきました。
現在、世界にあるフェムテック企業318社(fermata 株式会社 調べ)のうち、おおよそ半分とはコネクションがある状態で。このコネクションは私たちの最大の武器です。目利きをしつつ、プロダクトを大きな樹にしていきたいと考えています。
もうひとつの特徴は、ユーザーコミュニティと起業家コミュニティ、両方を持っていることです。
ユーザーコミュニティで言えば、すでに日本で「Femtech fes!」というイベントを何度か開催していて。世界のフェムテック製品に直に触れたり、ユーザーが心身、キャリア、性などの悩みをオープンに話せるコミュニティを形成したりしてきました。そこで得たリアルな声を、製品にフィードバックすることができるんです。
また投資家コミュニティで言えば、日本だけでなくアメリカ、シンガポール、インド、イスラエル…各国のVC・研究機関系のファンドとも話をしていたりもしています。
特徴的な動きとして、まずはエンジェルとして、スタートアップに出資を行なう。そしてそこから事業の種が生まれたら、私たちが連携する起業家コミュニティ、VCへ橋渡しをしていく。こういった流れを考えています。
ただ、当然ですが、初めは「フェムテック」がどれほど求められているのか本当にわからなかった。だから、実験的に進めてきました。
最初のきっかけは、海外の製品を渋谷で展示したイベント。そこに100人以上もの女性が集まってくれて「これはいけるかもしれない」と思えました。
そんな時に、孫泰蔵さんに相談をしたら「自分で仲間を見つけて独立してみたら」と言っていただいて。それが1年くらい前ですね。
今後、たくさんの人にフェムテックの可能性を知ってもらったら、きっと「この分野で起業してみたい」という人も増えていくはず。ただ、その大半は当事者である女性で、起業経験がないと思うんです。その人たちが、アイデアをプロトタイプにできるよう支援したい。そう思ってファンドを立ち上げました。
ー ちなみに現在の出資先でいうと?
現時点で投資させてもらっているのが、サンフランシスコの『Lady Technologies, Inc.』という会社です。彼女たちは、妊活を支援するために、膣の中の環境やおりものの質を測る『Kegg』というデバイスを開発しています。
実は、妊娠できる日って一ヶ月の中でも数日しかないと言われているんですが、膣の環境を見れば妊娠可能性が1週間ほどの幅でわかるようになるんです。そのため欧米のクリニックでは、おりものの質の計測を勧められることが多いようです。
CEOの Kristina Cahojovaはサンフランシスコの最先端企業で働いていたのですが、ある日婦人科で「妊娠したい」と伝えると、「毎日、自分の膣に手を入れて、おりもののネバネバ度をチェックしてください」と言われたそうで。
「車が自動運転になるぐらい世の中の技術は進んでいるのに、女性の身体にまつわるソリューションはアナログすぎる!」とショックを受けて、「それなら私が作る」とプロダクトを開発しています。
ー フェムテックに特化したファンドはアジア初と伺いました。なかなか攻めるのが難しい領域なんでしょうか?
そうですね。決して簡単ではないと思います。
その理由の1つが、「顕在化したニーズがまだない」ということ。
まずは「ユーザー自身が悩みに気づくこと」が必要だと思っています。
というのも、女性は長らく「体や性の悩み・課題を受け入れざるをえない」という状況に置かれてきたと思うんです。不調があっても、それは「女性だから仕方ないこと」だと。まさか改善できる可能性があると思いもしないケースがまだまだ多い。
また、悩みと認識していても、その悩みを話せる場所が非常に少ない。仮に世界のどこかにプロダクトがあったとしても、アクセスできる場がないですよね。壁がいくつもある。
そして2つ目が、フェムテック企業は「投資されにくい対象である」ということ。
実際に、2019年度の投資額をみても、ヘルスケア分野全体のうち、フェムテックはまだ約1.4%ほど。
大きな理由だと考えるのが、投資家の男性比率の高さです。男性だとどうしても「生物学的女性の健康管理」という領域での目利きが難しい。だからフェムテック企業へお金が入りにくい状況が起きていると考えています。
ー フェムテック企業が向き合っていく課題でいうと?
とくに「ジェンダーギャップ」は、医療の世界でも深い溝になっています。たとえば、The U.S. Food & Drug Administration(FDA)、アメリカの食品や化粧品、医薬品、医療機器の安全性・有効性を検査、承認する政府機関で、「女性のデータを使って治験しよう」と言い出したのが1993年。
つまり、それ以前は女性のデータの使用は義務付けられておらず、男性のデータだけで薬を開発することも可能でした。さらに言うと、新薬の開発には10年以上の年月がかかります。要するに今でも、女性の体をもとに治験できた薬はかなり少ないのです。
最近では、女性の医者や研究者、投資家が増え、SHE‐economy(女性による経済圏)が拡大しつつあります。これによって、今まで見えてこなかったことが見えるようになり始めている気がします。
ー テクノロジーが進んでも、肝心な「女性の体や性に対する認識」は、まだまだ発展途上なんですね。
そうなんですよね。製品ひとつとっても、ときに「女性の体にとって良いもの」より「ビジネス」が優先されてしまうこともある。
たとえば生理用品でみると、「ナプキン」や「タンポン」がありますよね。そして、最近になってようやく生理カップが注目を集めています。ただ、生理カップがアメリカで誕生したのは1930年ごろ。タンポンと同じくらいのタイミングです。
にもかからず、世界中に広がったのはタンポンだった。なぜか。それは「使い捨てできる=ビジネスが成立する」からなんです。
ようやく生理カップが注目されたのですが、そのきっかけも女性観点ではなく、環境観点でした。そう考えると、自分たちの周りにあるものが、いかに消費活動やビジネスなどに影響されているかがわかります。
ー そもそものところになってしまうのですが、Aminaさんはフェムテック企業を自ら立ち上げ、今ではファンド運営もしています。それほどまでにフェムテックに踏み込むきっかけは何だったのでしょうか?
私は、幼い頃から長く海外で過ごし、28歳のころ日本で仕事をするようになりました。そこで初めて、「女性だから」と言われる経験をしたんですよね。
「20代のうちに論文を書いておいたほうがいいよ」とか「30代になったら出産だね」とか。限られた選択肢しかないと感じ、そのことに愕然としたんです。
そんな時に「卵巣年齢をチェックできるフェムテック製品」に出会いました。自分の体をちゃんと知ることで、選択肢が増えた気がして。この経験から「一人ひとりが体を知ることで、選択肢を増やせるかもしれない」と思ったんです。
男女問わず、日本ではまだ「体の悩み」をオープンに話すことへの抵抗感が強い。特に、生理やおりもの、妊娠や更年期など、女性の体・性に関して話すことはタブーに近い印象もあります。多分きっと、みんな自分の体を知らなさすぎるんです。その状況を変えたいと思いました。
ー 世の中の認識でも「自分の体を知る」は大事なテーマになりつつあるのでしょうか?
「自分の体を知る」というテーマを考える時、フェミニズムのムーブメントを見ていくといいのかもしれません。
フェミニズムには、3つの波があると言われていて、第1波が1900年頃。女性に選挙権を与える動きが世界で起こりました。そして第2波は、1900年代中ごろ。女性が社会へ進出し、キャリアを築き始めたこと。そして第3波が、今起こっている#Me Tooムーブメントです。
これは、「男性・女性ともに生物学的な性別で人をジャッジするのをやめよう」という動きです。今やアメリカのZ世代の4割が「異性愛者ではない」といい、生物学的性別と、社会学的性別がマッチしなくなってきています。自分を知ることで、「自分らしさ」を基準に生きていこうとする流れが強まっていると感じています。
最近の学生たちに「フェミニズムとは?」と聞くと、おもしろいのが「選択肢があること」と言うんですよね。私も、そのとおりだと思っています。
たとえば、20歳で大学を卒業しようとしている女性が「弁護士としてバリバリ働きたいけど、子どももほしい」と考えたとき、自分の卵巣年齢から今すぐ子どもをつくるか、しばらく働くかの選択ができるようになる。フェムテックが浸透すれば、そういったオプションを増やせるかもしれません。
以前、ファンドを作りたいと孫泰蔵さんに話したとき、「投資先に対して責任を持てるか?最後までやりきれるか?」と聞かれたんです。投資とは、5〜10年単位で投資先企業と二人三脚で走り続けなければならない。「その覚悟はあるのか?」と。始めたばかりのころはすぐに答えられなかった。でも今ならはっきり「YES」と言える。どんなに時間がかかろうともやり続けていくだけだと思っています。
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