2020.03.10
note『弟が万引きを疑われ、そして母は赤べこになった』で、作家人生がはじまっちゃった話|岸田奈美

note『弟が万引きを疑われ、そして母は赤べこになった』で、作家人生がはじまっちゃった話|岸田奈美

2020年3月、ほぼ日で新連載『いなくならない父のこと』をスタートさせた岸田奈美さん。下着店での試着エピソード、静まり返った新幹線で槇原敬之の音楽が爆音で流れた話、愛すべき家族のことなど、ユーモアあふれる文体で綴るノンフィンションが人気の作家だ。聞けばつい1ヶ月前まで会社員だった!?

全2本立てでお届けします。
[1]note『弟が万引きを疑われ、そして母は赤べこになった』で、作家人生がはじまっちゃった話
[2]父の突然死、母の下半身麻痺を経て。人生の逆境が私に教えてくれたこと。

誰のことも傷つけない、ユーモアと愛を君に。

彼女の書く文章は、笑える。電車で読んで思わず吹き出しまうことさえある。

ただ、すごく不思議なのが、読み終わったとき、なにげない日常の愛おしさにハッと気付かされることだ。文体には、彼女のやさしさ、しなやかさ、強さがにじみでている。

そこにあるのは、誰のことも傷つけないユーモアと、愛。

もともとは「ただただ好きで書いていた」というnoteをきっかけに、作家として働く道を選んだ岸田さん。

この2020年3月からは、ほぼ日にて『いなくならない父のこと。』という連載もスタートした。彼女の半生、そして作家としての生き方を選ぶまでの道のりを追った。

彼女の名前を一躍有名にしたのが、noteで1万5000以上のスキを獲得した『弟が万引きを疑われ、そして母は赤べこになった』の投稿。糸井重里さんや佐渡島庸平さんなどこぞって有名人が取り上げるなどして話題となった。

+++【プロフィール】岸田奈美2010年、大学1年生で、株式会社ミライロの創業メンバーとして参画。同社は『NEWSZERO』『ガイアの夜明け』をはじめ200件以上のメデイアに取り上げられるなど広報として活躍。2020年3月に独立し、ノンフィンション作家(コルク所属)として独立。代表作は、note『弟が万引きを疑われ、そして母は赤べこになった』『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』『冬がはじまるよ~のぞみ64号東京行き4号車で、槇原敬之が聴こえたら~』など。小説現代で『2億パーセント大丈夫』、ほぼ日では『いなくならない父のこと。』を連載中。

noteをはじめて1ヶ月で「6000スキ」突破

ー そもそもnoteを書き始めたきっかけなんだったのでしょうか?

もともとは、会社員として働きながら、facebookでちょっとした日記みたいなものを書いてたんですよね。それを見た友だちが「めっちゃおもしろい」「外で書いたほうがいいよ」と言ってくれて。

noteって最近流行ってるし、書いてみようかな、くらいの軽いノリだったんです。

一番はじめにすごく見られたのが、下着をテーマにしたnoteで。お母さまがブラジャーのトップ営業担当だったと言う藤野英人さんがシェアをしてくれました。それがさらに800件くらいシェアされて、Twitterでも4万RTくらいいって、びっくりしましたね。

「未来を見通す投資家の藤野さんがおすすめするなら、きっと新進気鋭のすごい書き手だ」と運良く勘違いしてもらえたのかもしれないですね(笑)

ノリは、アメトーーク!

― そこから『弟が万引きを疑われ、そして母は赤べこになった』のnoteにつながっていくと。

そうですね。たしか、noteをはじめて2ヶ月くらいの時に書いたのですが、すごくたくさんの人に見てもらえて。とくに糸井重里さんにも読んでもらえたことが、本当にうれしかったです。

ーなぜ。ここまでの反響を呼んだと?

なかなか自分で分析するのはむずかしいですね(笑)ただただ、私は自分がおもしろいと思っていることを書いているだけなんです。

弟に障害のあることも、母が車椅子であることも、別に同情してほしいわけでも、応援してほしいわけでもない。「家族」をテーマに書こうとさえ思っていない。

弟も母もめちゃくちゃいい人だし、優しいし、憧れだし。おもしろいな、好きだな、と。それを誰かと共有したい。家族に限らず、その気持ちだけなんです。お母さんと、弟の本当の魅力って、どうやったら伝わるだろうって。

たぶん…アメトーーク!みたいなノリですね(笑)すごく好きな番組なんですけど、人が好きなことやをめちゃくちゃ愛情を持ってプレゼンテーションしてるって尊いですよね。やるのも好きだし、聞くのも好きだから。

+++

ー 別に不幸な話を無理やり明るく書いてるわけじゃないんですね。

全然無いです(笑)

昨日大学生に向けて講演したのですが、ある学生から「いじめにあった暗いことを書いてても誰にも読まれないから岸田さんみたいに面白おかしく書きたい」と質問をもらって。

「それ本当に面白かった?」って聞いたんですけど、困っていました。本当に辛かったら面白くなんて書けないですよね。書き手がおもしろい、好きだなという気持ちがあるかどうか。それは読み手にも伝わってくるはず。

特に最近は、Twitterでも、noteでも「読まれることだけ」を狙ってしまって、むりにおもしろおかしく書かなきゃっていう強迫観念みたいなものある気がして。もちろん狙ってバズったらそれはそれでいいと思うんですけど…書いていて辛くならないかなって、思っちゃいますね。

+++

焼肉屋さんで、いちばん最初に「ビビンバください」ってヘンじゃない?

ー 普段からおもしろいこと・ものに、気づくほうですか?

それはあるかもしれないです。先日取材ロケに一緒にいったデザイナーさんから「僕が1個見てるもので岸田さんは10個くらい感想持つ」って言ってくれたんですよね。変化とか、面白いことを面白いと思える解像度が高い…ってむずかしいことを言われました(笑)

思い当たるふしはいくつかあって。例えば、あまりに人の顔が覚えられないんです。2分前に名刺交換した人にもう1回名刺を渡しちゃったこともあって。そうすると、社会人としてダメだって、怒られるじゃないですか。

でも逆に、人の動きとか、仕草、言葉とか、めちゃくちゃ細かいところは観察して描写できるようになっていたのかもしれません。「まるで落語ですね」とコルクの佐渡島庸平さんに言っていただけたので「そうそうそう!それです!」と勝手に使わせてもらっています(笑)

ー そもそものクセとして観察もあるんですね。ちなみにそのおもしろいと思ったことってメモにしてたりするんですか?実際あれば見せていただけないかな、と。

スマホでメモってますね。そうだな…いま見てみると…「初手ビビンバショック」って書いてありますね。なんだこれは。

+++

ああ…思い出してきました。

友だちと焼肉屋に行ったとき、「さあ、肉食べようぜ!」って思ったら、一番はじめなのに「ビビンバください」とその友だちが頼んだんですよね。

私にとってビビンバはシメというか「はじめは肉だろう」と先入観があったので、ある意味、ショックだったし、おもしろ!と。「初手ビビンバショックじゃん!」とメモしていますね。…これ、なんの話だ(笑)

メモにまつわる思い出でいうと、会社員時代も、クライアントとの打ち合わせ中、気になるフレーズがあるとメモしたいから、すぐ衝動的にケータイをいじってしまって上司からよく怒られていました。

愛とリスペクトが持てる「人」が登場するか

ー 書く時に、とくに大切にしていることってありますか?

じつは私自身は無意識だったのですが、文藝春秋デジタルの村井弦さんが解説してくれたことがあるんですよね。「愛とリスペクトを読者が持てる「人」を登場させてる」って。

その人のキャラ、言葉、動きがちゃんと書いてありますよね、それが物語に感情移入できるポイントですよねってベタ褒めしてくれた。「そうそうそうなんです!」と便乗しました(笑)

ただ、ホントに私は書く時に、人もそうだし、物事にしても、そこに愛とリスペクトがあるか、それを文章に入れたいなって思って書いていますね。

ーnoteでの書き方、ポイントにしていることでいうと?

言い回しや表現は、バババッとそのときに思いついてでてくるので、時間をかけて練ることはありません。勢いに任せて書いていて。だいたい2時間くらい。

下手に「おもしろい表現なにかな」って考えると仕組まれた感出ちゃって、サムい文章になってしまう。思い浮かばなかったら、もう書かないですね。

加藤はいねさんのブログとか東村アキコさんとか沙村広明さんの漫画が好きで。彼女たちの「勢いで例えて書くスタイル」に憧れてやってる部分もあるんです。

ほんとありがたい限りなんですけど..最近「岸田さんの文章に憧れて書いてみました」って原稿を送っていただいたとき、本当にその人に合ってる文体なのかな、と違和感があったんです。

たぶんその方は、ものごとを左脳で考えて、論理でガチガチに固めて書くことが得意な人で、でも面白い文章を書けないというコンプレックスを持ってて「岸田さんみたいに面白く書いた」って言うんですけど、でもその人は「分かりにくいことをわかりやすくする」ことができるんです。だから池上彰さんとかオリエンタルラジオの中田さんみたいな、ギャグで笑わせるより、上手に説明した方がおもしろかったりする。

無理して笑わせている感があると面白くないじゃないですか。大事なのってどうやって例え入れるかっていうのじゃなくて、自分が面白って感じる要素は何なのかっていうのをちゃんと考えた上で、じゃあ自分が伝えたいこととその文体って合ってるのかなっていうのを考えたほうがいいかもしれないですね。

+++

「ノリ」がトラブルの元凶であり、ネタの宝庫でもある

ーご自身の特性というか、作家に向いているかも、と思う傾向ってありますか?

うっかり適当なことを言ってしまうこと…でしょうか。

この前も、コピーライターにただ会いに行きたかっただけなのに、ノリでいい加減なことをいったら、どデカいしゃもじをつくることになってしまったんです。意味不明ですよね(笑)

Twitterで一部始終をつぶやいていたら、愉快な方がのっかってきて、また予期せぬ展開になっちゃって。それも記事にしたのでぜひ読んでいただければと…。

もうここまでくると、トラブルを自分から引き寄せに言っているとしか言えなくて。

なぜか警察に捕まりかけてるおばあちゃんが道端にいて、無罪を訴えていて。放っておけないから、話しかけちゃったり。

後先のことを考えず、何でも首突っ込んで、気づいたらとんでもないところに立たされてる。ずっとドタバタで疲れます(笑)社会人としてよくやってこれましたよね。

文章をほめてもらえますが、人生がギャグみたいなのかも。そこをおもしろがってもらえているのかもしれないですね(笑)

+++「私のタイピング、指ひとつしか使わない“一本指打法”なんですよね」と岸田さん。タイピングが速すぎたため、撮影したが、一本指であることさえわからなかった。

5歳になった頃、父は私にパソコンを買い与えた。パソコンの家庭普及率は7%。そのほとんどが、Windowsだった時代に。なぜかAppleの初代iMacだった。「一人だけパソコンできたら、かっこええぞ」「しかもオシャレなiMacやぞ」と、父は自慢げに言った。そういうとこやぞ、と私は思った。ろくに操作方法を教えてもらわないまま、パソコンを我流でたしなむことになった私は、今も人差し指一本でタイピングする癖がある。ちなみにこの一本指打法でタイピングコンテストに挑戦し、10歳で県優勝の成績を納めた。パソコンの野生児とは私のことである。(引用:ほぼ日『いなくならない父のこと。』より)

>>>後編 父の突然死、母の下半身麻痺を経て。人生の逆境が私に教えてくれたこと。


編集 = 野村愛
取材 / 文 = 林玲菜


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