2020.03.11
創業68年、老舗タオルメーカーのSNS戦略|IKEUCHI ORGANIC

創業68年、老舗タオルメーカーのSNS戦略|IKEUCHI ORGANIC

昔ながらのタオルメーカーがオウンドメディア? しかも、お客さんやパートナーさんまで記事に? 今治タオルの老舗『IKEUCHI ORGANIC』のPRがおもしろい。聞けば「PRはいい商品と接客、そしてファンあってこそ」と広報の牟田口武志(むたぐちたけし)さん。昔ながらのメーカーはどうSNS時代で戦う?

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若い人たちもとりこに。IKEUCHI ORGANICのSNS戦略

今治タオルメーカー『IKEUCHI ORGANIC』が、若い層のファンも増やす。

タオル関連商品をつくり続けて68年。「質」に定評のあったメーカーではあるが、なぜここにきて若年層にもファンが増えたのだろう。

とくに「SNS時代にフィットしたPR」はその一因かもしれない。たとえば、社員のインタビューサイト『イケウチのヒト 』では、タオル職人たちのインタビューを発信。

2019年2月には、もう一つのオウンドメディア『イケウチな人たち。』もスタート。「タオルを購入してくれたファン」や "ミシュラン獲得のレストラン" や "美容院"といった「取引先」など、IKEUCHI ORGANICを愛してくれている人たちを広く巻き込み、「想い」を届けている。

「オウンドメディアのことを注目いただけるのですが、あくまでもPRは、いい商品、いい接客、そして「社員たちの思い」ありきですよね」

こう語ってくれたのが、IKEUCHI ORGANICの広報、牟田口武志(むたぐち・たけし)さんだ。

商品へのこだわり、実店舗での接客、そしてPR。SNS時代をどう生き抜くか。彼らの取り組み、ブランドとして大切にしていることに迫った。

+++お店には、タオルだけで単体約20種類。全て風合いや吸水性、肌触りが違う商品が用意されている。

【IKEUCHI ORGANICとは】
オーガニックコットンと風力発電の風で織るオーガニックタオルのメーカー。「世界で最も安全なファブリック」を提供することを掲げている。トレーサビリティシステムも導入。商品についたQRコードを読み取れば、綿花の産地から紡績場所、生産工程までわかる特徴も。

お店に「300回洗濯されたタオル」を置く理由

ーまず、実店舗に専門資格を持つ「タオルソムリエ」がいることにびっくりしました。「ソムリエ」もまさにだなって。

ありがとうございます。タオルと一言でいっても本当にいろいろあるんですよね。肌ざわりが柔らかいものもあれば、しっかりしたものもある。

洗濯したあとの乾きやすさも商品によって違うんです。なので、タオルソムリエがお客さま一人ひとりの好みに合ったタオルを一緒に選んでいきます。

実際、お客さんには店内のシンクで手を洗ってもらって、タオルで手を拭いてもらう。どのタオルが一番合うか、確かめてもらうようにしています。

ー店舗で働くスタッフも楽しそうですね。「ただタオルを売る役割」ではないので。

そうなんですよね。もちろん販売数は大切です。ただ、お客さんに本当に合うものはなにか。ご自身で使うのか、ご家族で使うのか、大切な人に贈りたいものか。お話を聞き、試してもらいながら、体験して購入いただく。これはスタッフにとってもやりがいになると思います。

ーただ、見方を変えると非効率…なぜ、わざわざ面倒なことを?

タオルって1回使っておわりのものではないですよね。何度も洗って使っていく。風合いと共に育っていく。一緒に暮らしていく。なので、そのタオルのことが好きと思えることが一番大事だと思うんです。

200回、300回と洗濯した状態のタオルをお店に置いているのも、そのため。何回も洗濯したあとにも肌になじむか、ぜひ試してほしいんです。

「はたらく人」と「ファン」がブランドになる

ータオルメーカーがオウンドメディアに力を入れるのもユニークです。どういったきっかけで?

IKEUCHI ORGANICで働く一人ひとり、みんなのキャラクターや、タオルづくりに込めた思いをもっと多くの人に発信できないか?そう思ったのがきっかけです。

ぼく自身、5年前に転職してきたのですが、はじめて今治のタオルづくりの現場に行って。「こんなにたくさんの人がタオルづくりに関わっているのか」とすごく驚いたんです。

職人さんに話を聞くと、全員が誇りを持ってものづくりをしている。自社のプロダクトがすごく好き。それって、すごく大きな強みだし「自社の宝だな」と思って。

職人さん、そしてタオルを販売する人たちのリアルな言葉に心打たれたんですよね。その時に考えたのが、もしかしたら「社員の人格を見られる時代になるのかも」といったことでした。

ものづくりに込められたストーリーだけでなく、そこに関わる人たちの哲学から、メ―カーとしての哲学を伝えられないか?と。

もちろん、1人1人話す言葉は違うし、温度感もそれぞれ。ただ、それでいいんです。自分オリジナルの言葉で語ることで、ブランドがカタチ作られていく。点がつながって1本の線が見えてくるような感覚が今、すごくあるんですよね。

とくに社内の人たちから「毎回読んでるよ」「楽しみにしてるよ」といった声も。「こういうお客さんに大事に使ってもらっているのか。ありがたいね」と感想をいただいたことも。やっていて私自身、嬉しいですよね。

オウンドメディア、noteでの発信によってお客様の層がすごく広がってきたと牟田口さん。「40代~50代の方が多かったですが、20代の方や30代前半の方も増えてきました。とくに都内で人気のある銭湯で扱っていただき、銭湯が好き、サウナが趣味という方にTwitterで取り上げてもらえています」

商品の良さだけでは、なかなか勝ち残れない時代に

ーこれからの時代、自社の商品を買い続けてもらうために大切なことはなんでしょうか?

今、世の中は「良い商品」で溢れていますよね。なので、商品の「質」だけでは、なかなか勝ち残れない時代なのかもしれません。

ものづくり、接客へのこだわり、フォローまで。商品や、そこで働く人たちのことを知ってもらい、好きになってもらう。トータルで「お客さんと歩んでいく」ことが大切なのではないかと考えています。

もちろんぼくらも試行錯誤をしている途中。けっしてうまくいっていることばかりではありません。ただ、目指したいのはものづくり、店舗、接客、PR、それらがトータルにほころびがない状態。より完成されたものに近い状態です。

言い換えると、PRだけうまくてもだめなんですよね。たとえば、SNSで見た時はすごく素敵に見えたのに、お店に行って触ってみてガッカリしてしまったら、むしろマイナスな印象になってしまいます。

また、「販売したらそれで終わり」でもない。とくに長年愛してほしい商品なので、売ったあとの関係もすごく大事にしたいんです。そういった意味だと、オウンドメディアやSNSって、ぼくらとお客さんやパートナーさんが関係していくための「いい言い訳」、接点づくりの手段なのかもしれませんね。

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連載『いい顧客体験って、なんだろう?』
「あなたが思う、いい顧客体験とは?」── 話題のサービスを仕掛けるみなさんに聞きました。「カスタマーエクスペリエンス(CX)」という言葉が注目される時代。ネットで、リアルで、私たちはいかにして心地よさを生み出すか。そのヒントを探ります。
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>>>後編 「心から愛せるもの」と働きたい。IKEUCHI ORGANIC 牟田口武志のキャリア選択


編集 = 白石勝也
写真 = 黒川安莉
取材 / 文 = 平野潤


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