2019.11.28
Webサービスのように「おやつ体験」を売る|スナックミー 服部慎太郎

Webサービスのように「おやつ体験」を売る|スナックミー 服部慎太郎

「おやつのサブスク」snaq.me(スナックミー)。人工添加物、白砂糖、ショートニング不使用のものを8種まとめて、1980円から定期便で届けている。彼らが届けているものは、単なるお菓子ではない。「たくさんの“ハッピー”を詰め込んでいます」。代表の服部慎太郎さんがつくる、「いい体験」とは?

[1]Webサービスのように「おやつ体験」を売る|スナックミー 服部慎太郎
[2]マーケットが無いなら作ればいい。おやつのサブスク「スナックミー」の戦い方

お菓子は「物」で、おやつは「体験」

全国の美味しいお菓子をバイイングして、自社で小分け包装した後に、顧客の好みに合わせて届ける「snaq.me」

社員15名。日本橋は箱崎の倉庫兼オフィスの大部分は、甘いものからしょっぱそうなものまで、お菓子で埋まっていた。

テキパキと立ち働くスタッフたちを目にしながら、代表取締役の服部慎太郎さんと話す。

「お菓子とおやつの違いって、わかりますか?お菓子は「物」で、おやつは「体験」なんですね」

服部さんから伺えたのは、「snaq.me」が提供しようとする価値について。それは、「僕は、何のために、仕事をするのか」という働く根源的な問いにも、触れてくれていたように思う。

「おやつ体験」を、Webサービスのように

──「顧客体験」というキーワード、服部さんは意識されますか。

会社のミッションとして「新しいおやつ体験を作ろう」と伝えています。「お菓子」と「おやつ」は別物だと考えていて、お菓子は「物」で、おやつは「体験」なんですね。

お菓子はコンビニやスーパーに並び、安価に作れる方法もたくさんある。そことは勝負せず、「体験を届けるサービスにしましょう」と繰り返し話しています。

D2Cの文脈だと「ブランド」として強くしていこう、といった発想になりがちですが、少し違って。僕らはWebサービスのように運営する。たとえば、ソーシャルゲームってローンチしてから顧客の反応でイベントを変えていきますよね。snaq.meは最初からベータ版としてリリースして、今でもベータ版といった感じなんです。

ただ、「おやつ体験を売る」ではなく、「ちょっとお菓子寄りになっていた」みたいな時期もあって。ちょうど1年前ぐらいですね。特に「食」の領域は、レシピそのものには著作権が発生しないことから模倣されやすく、「物」だけを強みにするのは難易度が高い。snaq.meは常時100種類あるお菓子から組み合わせを選べることなどをサービス化する方向で考えていきたいな、と。

顧客には「自然な流れ」で行動を促す

──それを実現するために、重視している数値はありますか。

未だ浮力のわかりにくいNPS(Net Promoter Score)を上げることだったりします。チャーンレート(解約率)やLTV(Life Time Value)といった数値は……大事ですが、あまり心が燃えないんですよ(笑)。

チャーンレートを下げる方法って、主に2パターンあります。サービスを改良して既存顧客のロイヤルティーを高めること、解約する顧客を引き止めることです。後者の例としては、退会しそうな人に「翌月無料」のキャンペーンを打つのが最も効きます。短期的に成果が出やすいので、数字だけを追うと実施しそうになってしまう。

ただ、それはサービスの体験価値は変わらない上に、既存顧客が目にすればサービスの価値を落としかねない施策です。たしかに僕らも1年ほど前はチャーンレートを重視したこともありました。ただ、経営陣としては数字の追求に「サービスを良くする」という道義がありますが、社員が増えてくるほどに、その真意が伝わりにくい状況にもなるんです。

こういった状況を避けるために、数値だけに着目して対象を切り出したり、目標にしたりしないようにしています。「SNSでの反響」は顧客体験の指標の一つですが、これだけを上げようと考えると、おかしくなってくる。施策のベースは、体験を通じてハッピーになってもらいたいという思いが前提です。

お客さまが無理せず、自然な流れでサービスを使えることが基本。たとえば、「新しいお菓子が届いたからInstagramにアップしたいけれけど、写真がうまく撮れない」というお客さまに、撮影ガイド付きの見栄えのする背景紙を同梱する。

一方で、「優待ポイントをあげるのでSNSにアップしてください!」と勧める案内を出す。双方の目標は一緒でも、強制的なインセンティブをつけて行動を促すのは、顧客体験の向上とはいえませんよね。

僕らとしては、前者のような手法なら実行すべきだと考えています。ただ、こういった観点が、現在はマーケティング手法として取り込まれているのが気がかりなんです。 

顧客体験の前に「顧客接点」がある

──snaq.meは届く箱のデザインが毎月変わりますよね。いわゆる「マーケティング手法」ではない?

違いますね。以前はデザインを四半期ごとに変えていたのですが、「今回の箱は可愛い!」とお客さまが喜んでいる空気感があったんです。だからこそ、「大変そうだけど、この喜びが毎月になったら、単純に楽しさが4倍になるんじゃない?」と始めてみたんですよね。僕はECの経験があったわけじゃないから、無邪気にできたとも思いますが(笑)。

snaq.meで「ハッピーな瞬間」って、お菓子を食べるときだけじゃないんです。美味しいのは当たり前だから、新しいデザインの箱がポストに入っていて、それを開ける瞬間が一番にハッピーだったりします。

つまり、食べている瞬間ではないところにも大きな楽しさがある。箱のデザインが違えば、ポストに投函されたときと、開封するときと、楽しさを2回提供できる。そんなふうに、顧客体験としては「楽しめるポイント」をいかに差し込めるかが大切だと考えています。

──今、すごく良いキーワードだったと感じました。「いい顧客体験とは楽しいポイントをたくさん設けること」といえそうです。

そうですね! 考え方の一つとして、いい体験とは「楽しみの大きさ×回数」で決まってくると思うんです。店舗なら「お菓子を買う」と「家に帰って食べる」だけの計算式です。でも、ECならば、購入後にメールやLINEを送ったりと、もっと接点を作れます。

顧客体験の前に「顧客接点」がある、とも言えるかもしれません。いい体験には、マイページや登録してくれたLINEでのつながりといった、顧客接点が生きてくる。届いたお菓子が美味しくて、マイページで評価しようとしたら、生まれるまでのストーリーが紹介されていた。その背景を知ったら、もっと興味深く感じていただけるのも一つですね。

創業時から欠かさない電話インタビュー

──お客さまの声は、どのように取り入れているのでしょう。

顧客への電話インタビューがメインですね。「箱のデザインが変わっていると、すごく可愛い」といった声をキャッチして、施策に落としていく感じです。運営の初期から、熱量の高いお客さまとの会話は大切にしてきました。定期的に、僕と取締役がお話を伺っています。 

インタビュー対象に選ぶのは、NPSが高い方が基本。その方がたどっている顧客体験が、僕らにとって模範的な動きになりえるからです。

お聞きするのは「なぜ使っていますか」「どうやって使っていますか」に絞っていますね。なぜなら、「こういうものって欲しいですか?」とか、「どういうサービスがあったら嬉しいですか」と聞かれても、答えるのって難しいじゃないですか。自動車メーカーのフォード創業者が、車が一般的でないときに「顧客に欲しい乗り物を訪ねたら、もっと速い馬が欲しいと答えていただろう」と話したのと同じです。

だからこそ、「ボックスが届いて、食べきるまでのフローを教えてください」と聞いています。その体験のなかで改善できるポイントを知りたい。

たとえば以前、「余ってしまったお菓子を捨てるのがイヤだ」という声を聞いたことがあって。お菓子が余ったら郵送いただいて(送料は弊社持ち)寄付する仕組みを考えました。

実は、この寄付の取り組みを始めてから、チャーンレートも下がったんです。

お聞きする人たちに共通項があったり、面白いポイントがあったりしたら、それを施策に落とし込む。皆さんに「満足度の高い体験」をしてもらうにはどうすればいいかを、いつも考えている感じですね。

>>>[2]マーケットが無いなら作ればいい。おやつのサブスク「スナックミー」の戦い方

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編集 = 白石勝也
取材 / 文 = 長谷川賢人


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