2020.01.14
「出版業界の絶頂」を知らない世代があげる、反撃の狼煙。青山ブックセンター 山下優

「出版業界の絶頂」を知らない世代があげる、反撃の狼煙。青山ブックセンター 山下優

イベント、SNS、オンラインコミュニティ、出版……書籍販売以外にさまざまな企画を打ち立てる青山ブックセンター(ABC)。書店をめぐる苦境、そこからの脱却を図るのは、店長の山下優さんだ。正解がないこの時代に、山下さんは書店をどう定義し、どうアップデートしようとしているのか。

「出版業界の絶頂」を知らない世代の企み

20年以上にわたり叫ばれ続けている出版不況。

帝国データバンクの「出版関連業者の経営実態調査」(2019年9月26日)によると、出版社、出版取次をはじめ、業界全体で売上高は減少傾向。厳しい現実に直面している。

とくに崖っぷちに立たされているのが、書店だ。

そんな書店をとりまく状況にあらがうかのように、さまざまな企画を仕掛け、注目を集めている書店が、渋谷区神宮前に店舗を構える「青山ブックセンター(通称:ABC)」だ。

ABCでは、従来の書籍販売に加え、イベントや講座、ワークショップの開催、オフィスやマンションのライブラリースペース向けの選書をする「ブックコンサルティング」、さらにSNSでは新刊の告知だけではなく店舗の売上高を発信するなど多角的な展開をしている。

わたしたちの暮らしにおいて「書店」はどういう存在であり、どういう体験ができる場であるべきなのか。そして今後ABCはどこへ向かうのか。

店長の山下優さんに話を聞くと、「正解がない時代の戦い方」が見えてきた。

青山ブックセンターのTwitter活用術

ー「書店」という言葉の枠にとらわれない取り組みをしている印象を受けます。とくにTwitterで売上高の発信がユニークですよね。なぜ発信しようと?本部の方に怒られないんですか?

全然怒られませんよ(笑)。割と自由にやらせてもらっていますね。

きっかけは「出版不況」と言われ続けたことです。猫も杓子も「出版不況、出版不況……」って、「もうわかったよ!」とうんざりで……。でも、実際店の売上は伸び始めていたんです。だったらみんなに知ってもらおうと思って、発信しました。

そうしたら、「おもしろい」とか「同業として励まされる」とか、思った以上の反響があって。前月を上回らなかったときは、「じゃあABC行かなきゃ!」って反応してくれた人がいました。お店の現状をありのままに見せることで、おもしろがってもらえていると思います。

ー書店のTwitterといえば営業案内や新刊入荷の告知などのイメージが強いので、ABCのアカウントはちょっと異質ですよね。運用ではどんなことを意識していますか?

ひとつ目は「おもしろがってもらう」という点ですね。

ぼくらもかつては告知ばかりだったんですが、だんだんとフォロワーが減ってきてしまって。そりゃそうですよね。告知ばかりのアカウントなんて、CMばかりのTV番組と同じ。情報としては役立っていたかもしれないけど、おもしろくはありませんよね。そのあたりは試行錯誤しながら、運用しています。

もうひとつは、「ABCに行きたいと思ってもらう」ことです。このご時世、本の情報との接点の大部分はスマホなので、内容次第で「ABCに行きたい」と思ってもらうことはできるはず。そのためにも極力「中の人」の顔が見える状態にはしたいと思っています。

まぁ、もちろん万人にウケるのは無理だし、文句を言われることもありますし、フォローを外してしまう人もいるんですけどね。少しでも関心を持ってもらい、集客にもつなげたいと思っています。正直、アクセスのいい立地じゃないんですよね。渋谷駅からも、表参道駅からも微妙な距離なので。

「何かあるだろう」という期待感は抱いてもらいつつ、裏切らないようにしたいと思っています。良い売り場を作りつつ、SNSでの発信もセットでしていきたいですね。

「こだわりがない」というこだわり

ー売り場づくりの話も聞かせてください。

前提として、ぼくは働く前までめちゃくちゃ本を読んでいたわけではないんです。アルバイトとして入社して、2018年11月に店長になったんですが、社員や前から働いていたスタッフがどんどん辞めていくなかで、振られた仕事を打ち返していたらいつの間にか……って感じなので。

だから本に対してもフラットで、店の売上を基点に売り場をつくることができました。文芸書も、デザイン書も、人文書も、写真集も...といろんなジャンルを担当していたので、ある特定のジャンル好きに響く売り場よりも、店内ぐるっと一周してもらう方法を考える方が得意というか。

むしろ、ピンポイントでは自分よりお客さんのほうが詳しいと思っています。そんな詳しいお客さんに、どんな作家や作品を読んでもらえたら、楽しんでもらえるのかを想像して、隣に並べたり、フェアなどで提案しています。その売れ方をみて「次はどうするか」というのを繰り返していく感じですね。

売り場をつくることって、すごく時間がかかる地味な作業なんですよ。どれだけ知識があって、ものすごくコンセプチュアルな棚をつくっても、お客さんがつかないと意味がないので。お客さんと並走しつつも、半歩先の提案もできるように意識しています。

ー山下さんにとって「こだわり」とは?

あえて言うなら「こだわりがないこと」ですね。

売り場を提案する人の視野が狭いと、お客さんはもっと狭くなってしまうので。常に興味関心は持ち続けて、どんな本でも、まずはおもしろがりたいですし、色々な事柄も、まずは体験するようにしています。

もう少し具体的に言うと、まずは自分や世の中との接点を見つけるところから始めますね。ここ10年だと『KINFORK』のようなライフスタイルやこんまりさんのようなミニマリストが流行ったときは、「モノがなくなったら世の中は自分自身に関心のベクトルが向かうのでは?」と想像し、「身体」や「食」の本を並べました。

想像するときの手がかりになるのは、家族や友人など自分以外の人たちです。彼ら・彼女らの人格をインストールして、おもしろがってもらう方法を考えています。自分の好き嫌いだけだと限界がありますからね。興味関心のキャパシティを少しずつ広げていくイメージです。

とくにABCはイベントの登壇者から生の意見を聞けたり、SNSでも「こういう話を聞きたい」といった反応があったりするので、気づきがすごく多いんですよね。最近は異業種の方と接する機会が増えたので、視野を広げてもらっています。外からの知見で、本屋のことをすごく考えてくださっていて、とても参考になりますね。

書店がオンラインコミュニティや出版に挑戦する理由

ー異業種との関わりといえば、オンラインコミュニティ「青山ブックコミュニティー」も立ち上げました。コミュニティにはどういう狙いがあるのでしょうか?

ABCのお客さんって感度が高かったり、専門ジャンルに精通していたりと“濃い人”が多いんです。もっと密接につながるためにコミュニティをつくりました。書店と客という関係を越えて、意見を交換しながら、一緒にABCの新しいあり方を考えていきたいです。

ただ、別にコミュニティ事業に舵を取るつもりは全くありません。ベースはあくまでも書店。コミュニティは、イベントやブックコンサルティングと同じレイヤーですね。

ーコミュニティの告知ページには「新事業のABC出版」の文字がありました。これは……?

チャレンジのひとつです。10年この業界、というかABCに身を置いてきて、違うかたちで書店のあり方を示す機会にしたいと思っています。

よく書店は粗利が低いと言われます。だったら、自分たちで本をつくれば粗利は出てくる。加えて、自分たちがつくった本を普通に流通している本と並べたら、ここにしかない棚になるので、それだけでも店舗へと足を運ぶ理由にはなり得ますよね。

もともと江戸時代にさかのぼれば、書店自体は出版社から生まれているんですよね。だから、新しいチャレンジというよりも商売の原点に返ってきている感覚はあります。

ー改めて、すごくいろんなチャレンジをしている印象を受けます。

でも、一般企業だったら、どこも当たり前にやっていますよね。ビジネスとしてやっている以上、いろんなチャレンジや時代にあわせた変化は必然です。もしかしたら、世の中というか書店業界にとって、「本屋は本を売ることだけに専念すべき」みたいな考え方が根付いてしまっているのかもしれませんね。

ぼくがいろいろな策を打っているのは、どんな形であれABCを好きになってもらう可能性を広げていくためです。いろいろ手数を増やして、ABCのどこかを好きになってもらえば結果として書店や本を好きになってもらえる可能性が出てくる。今の時代、正解なんてわからないので、いろいろやるしかないんです。

「出版業界の絶頂」を知らない世代だからこそ

ー山下さんの原動力には何があるのでしょうか?

やっぱり危機感はありますよね。自分自身、本屋へ行くことで救われた経験はたくさんあるので、立ち読みにせよ、本と出会える場所がなくなってはいけないと思っています。

2018年6月にABC六本木店が閉店したときも、SNSで「昔はよく行っていた」や「思い出の書店が残念」といった過去形のコメントはよく見られましたが、それでは厳しいよなと。

出版業界に長くいる人は過去の栄光を知っているから暗くなりがちですが、ぼくはこの世界に飛び込んだときからずっと不況なのであまり今を卑下することはない。それどころか、書店の数も全国に1万店舗もあるんだから、まだまだ大きな可能性はあると思っています。そういう人がひとりでも増えたら嬉しいです。

ありがたいことに、最近はぼくの考え方に賛同してくれる方が増えてきている印象がありますね。ABCを大事だと思ってくれているというか。関わる頻度も増えてきているし、今後関係性がもっと深くなっていく期待はあります。

ー今後、山下さんはどのように?

ずっと今と同じ状態の店長を続けていくかはわからないです。違うことにも挑戦することで、新しい店長像を作っていきたいですし。どういう形かはわからないですけど、ゼロイチで新しい店舗も立ち上げてみたい。

もちろん出版にも力を入れていきます。アイデアはあるので、行動に移していきたいです。ぼくが何をやっても結果的にお店にフィードバックがあると思っているので、常にアップデートし続けていきたいですね。

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写真 = 黒川安莉
取材 / 文 = 田中嘉人


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