「よい顧客体験」ってなんだろう。そんな問いに、ファッションブランドfoufou(フーフー)のマール・コウサカさんと向き合いました。SNSを中心にひとりふたりとファンを増やし、クラシックな雰囲気を好む女性のハートをがっちり掴むfoufou。「みんなに好きになってもらえなくていい」── そこにあったのは、非合理で一点突破なブランド運営でした。
あの服はかわいいけど高すぎるし、この服は手が届くけど少し物足りない。
私らしいって何だろう。本当に着たい服って、どこにあるんだろう。
foufou(フーフー)は、そんな心の隙間にすっと入り込み、じわじわと気持ちを満たしてくれるブランドなんだと思う。悩ましくてちょっとだけ億劫になってしまった服選びを、もう一度、楽しいものに変えてくれるような。
代表兼デザイナーのマール・コウサカさんは、こう話す。
「ほどよくおしゃれで、そこそこ質が良くて、しかも手頃な価格。そんな服を作っています。ファッションより楽しくて大切なことって、ほかにたくさんあるから。最高になれなくても、最適になれたらいいんです」
2016年にハンドメイドではじまったfoufouは、3年で月間2000万を売り上げるブランドに。追求された「ちょうどいい心地よさ」の先には、誰かにとっての「最高」があるのかもしれない。
身に纏う彼女たちは、何を思っているのだろう。コウサカさんとの対話から、foufouに魅せられた人たちの気持ちを追体験してみたい。
─ ここ1年ほどで、「foufou」をSNSなどで目にする機会が多くなったと思います。とくに固定ファンが多い印象です。
特別なもの、そう思ってもらえるのは、やっぱりすごくうれしいですね。そして僕たち自身も「愛してくれる人」を誰より愛したいと思っています。
よく言われることですが、みんなを幸せにすることはできなくて。「どうしたら好かれるか」を考える前に、「自分たちは誰を幸せにしたいか」を突き詰めていく。
これは僕の主観なんですが、一番foufouを好きでいてくれる人に、一番“得”してほしいんです。得っていうのは価格というより、体験として。
たとえば、うちではセールを一度もやったことがなくて。
セールって、消費者目線で考えると服を安く買える「よい体験」ともとれる。でも、その服が発売されて最初に「欲しい!」って定価で買ってくれた人にとっては、「よくない体験」になると思うんです。
誰だって「安く買えたんだったらそのとき買いたかったわ」って思っちゃいますよね。
「幸せにしたい人を幸せにする」を一点突破でやっていると、「このブランドは顧客を大切にしてくれるブランドなんだな」ってことが伝わるはず。すると「自分もそこに入りたい」と思う人が自然と集まってきてくれる。それって結局みんなハッピーじゃないですか。
foufouには「型落ち」みたいな概念がありません。次の年も普通に同じ価格で同じものを販売する。自分が「かわいいな」と思ったものが廃れていかない感じって、いいですよね。そういう体験こそが、気持ちいいなって思うんです。
─「顧客満足度」を重要指標においていると聞きました。顧客満足度って、数字で測れるものなのでしょうか。
やっぱり数字でバシッと測るのは難しいですよね。ただ、在庫情報が気になっている人や、リピートしてくれる人の数は裏付けになるんじゃないかと思っています。
そのために一つだけ定点で見ている数字は、LINE@の月間登録者数ですかね。売上やSNSのフォロワー数は、一応確認していますが重要視はしていません。
LINE@は今2万人以上の方に登録いただいているのですが、在庫情報や商品情報の配信を目的に行なっています。
LINE@って、登録するのにひと手間かかるんです。最初にQRコードを読み込んだりしないといけなくて。通知も来るので面倒くさいじゃないですか。でもそれを解除していないってことは、好意を持ってくれているんだなって。
なので新しい服を出すときは、たとえば80着作ったとしたら、まずはLINE@の登録者数を80人くらい増やせるようSNSで発信したりしています(笑)
でも勘違いしないでほしいのは、顧客満足度を一番の指標にしているのって、結局は「売上」を伸ばしたいからなんです。売上を伸ばすために、「目の前のお客さんを大切にすること」を選ぶ。なぜかというと、売上を伸ばさないと「顧客満足度を一番大切にできない」から。これはぐるぐると回っていきます。
たとえば今月の客数が1200人だったとしたら、2400人にしようとするんじゃなく、1200の一つひとつを深くする。
foufouでは今年から全国で試着会をやっているんですが、実際にそれで売上も2.5倍くらい伸びたんです。試着して買いたい人も多いんじゃないかなって、お客さんのためにやったことが結果として数字になって返ってきた。
そうやって売上が伸びれば、またお客さんへのサービスにお金を使える。サービスを手厚くできれば、また売上が伸びる。売上と顧客体験って、たぶん切っても切り離せない。もう、これはずっとぐるぐる回っていくべきで、回すことで大きくなっていくんだと思います。
みんな落ち着いてくれよ、10月のラインナップの公開は近日だ!レディースの新作3型と去年の再販も。トレンチコート、、、はやく見せて自慢したいよおお!!!!!!褒められたいよおおお!!!メンズはセットアップがついに解禁です、これも褒められたい。 pic.twitter.com/top8eAMoql
— foufouのマール・コウサカ (@foufou_marl) October 1, 2019
─ コウサカさんといえば、Twitterやインスタの発信にも共感が集まっている印象です。
僕たちは「インターネットコンテンツ」なので、もちろん服作りに向かう姿勢や大義名分を発信することは大事にしています。ただ、一方で「プロダクトありき」だとも思っていて。やっぱり良いものを作らなければ買ってもらえないし、リピートもしてもらえない。
いまってSNSを使ったマーケティング戦略に目がいきがちで、ストーリーがもてはやされる時代ではあるけれど。
どんなにストーリーがよくても、自分の生活に「必要だ」と思えなければ買わないじゃないですか。僕たちは「共感」に慣れ過ぎてしまっている。ストーリーは一瞬でスクロールされ、簡単に消費されていく。そういった感覚があるんです。
foufouの服を買ってくれているお客さんって、単純に「なんかコウサカって人が超かわいい服作ってて、買えないレベルじゃないし、いいな」ってだけなのかなと。
foufouがアパレル業界の中でどのポジションにいるとか、D2Cでこんな戦略を仕掛けているとかって、お客さんにとってはどうでもいい。
なので、SNSなどでもあまり自分の話ばかりしたくないと思っています。ストーリーって「私の話」をするわけだから、自分の話ばかりするやつは、正直つまんないかなと(笑)
それよりも「私とあなたの話」をしたい。私たちの生活のこと、あったらいいなと思うモノのことを、一緒に話すほうが楽しいから。
人間関係と一緒なんですかね。やっぱり聞き上手な人って、モテるし好かれるのかもしれません(笑)
─ 自分のストーリーじゃなく、お客さんのストーリーを大切にするって素敵ですね。それは服作りにおいても同じなんでしょうか。
それが……コミュニケーションにおいて「聞く」姿勢は大事にしていますが、プロダクトづくりでは、お客さんの声ってほとんど聞いていない(笑)
もちろん優しい人間なので、(笑)めちゃくちゃ要望があると作っちゃうときもあるんですが、お客さんの声をそのまま反映することはないですね。
「これがほしかった」ばかりじゃなく、「私、こんなの着れるんだ!」という体験を届けたい。foufouを通して知らない自分を楽しんでもらえたらうれしいんです。
「ほしかったもの」って最初はうれしいけど、繰り返されるとすぐお腹いっぱいになっちゃう。「あ、これ知ってる。はいはい、おいしいよね」って。
たとえば僕は昔からビートルズが好きなんですが、彼らって時期によって表現やスタイルが全然違う。それでも、好きな人はやっぱりずっとついていくんです。相手の求めるままでいては、かっこいい、好きでいたい、って思われ続けるのは難しいんじゃないかなって。
新しいテイストにチャレンジしてみようかなって思ったときに、安心して試せるブランドになりたいですね。「コウサカさんが作るものを見たいし、着てみたい」。僕自身、そう思われる存在であり続けることを目指しています。
─ 最後に……「服より大切なことがたくさんある」というコウサカさんの言葉を聞き、ファッションに対して、いい意味で期待をしていないのかな?と感じました。
そうですね、僕は服が大好きだし、服の力を信じている。でも、だからこそ「しょせん服だ」って思っていないと期待しすぎてしまう気がするんです。気持ちを抑えていないとビジネスの範疇に収まらなくなるし、お客さんとの目線がずれていってしまうと思うから。
それに服はいつか着れなくなるし、飽きられることもある。僕が言うのもおかしいですが……結局、プロダクトって「形のないもの」には敵わない気がします。
無形のもの、たとえば音楽とかはすごい永遠ですよね。
昔働いてたお店で流れていたBGMを聞くと、あのバックヤードのにおいだったり、ロッカーの感じだったり、一緒に働いていた人のことだったりをいっきに思い出す。「誰々さんとあんな話したな」とか、「こんなこと悩んでたな」とか。人生を積み重ねていく中で、そういう体験ってすごく美しいなと思っていて。
どうやったら服でそれができるだろう。そんなことを、いつも考えているのかもしれません。
最近だと、夏限定の赤いワンピースの販売に合わせて、「ザ・なつやすみバンド」さんにオリジナル曲を書き下ろしてもらったんです。ワンピースを買うと、曲がDLできるようになっていて。
何年か先にふと曲を耳にしたときに、foufouの赤いワンピースを着て過ごした夏を思い出してもらえたらうれしい。
服自体は、もう着れなくなっていたっていいんです。
取材 / 文 = 長谷川純菜
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