2019.11.27
僕はコーヒーが苦手だった。LIGHT UP COFFEE がつくる、「知らないを知る」楽しさ

僕はコーヒーが苦手だった。LIGHT UP COFFEE がつくる、「知らないを知る」楽しさ

自家焙煎の苦くないコーヒーを届ける『LIGHT UP COFFEE』。「じつは僕、コーヒーが苦手だったんですよね」と店主の川野優馬さん。川野さんが思う「いい体験」とは?そこには、「知らないことを知る楽しさ」を思い出させてくれるたくさんの仕掛けがありました。

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「コーヒーを知るって、楽しい」|川野優馬

『LIGHT UP COFFEE』

吉祥寺、下北沢、京都出町柳にお店を構える、あざやかなブルーが魅力的な自家焙煎コーヒーショップだ。

店主をつとめる川野優馬さん。「昔はカフェラテしか飲めませんでした」と、笑顔を見せる。

 「カフェでのアルバイトがきっかけでシングルオリジン(単一産地)コーヒーに出会って。びっくりしました。フルーティーで、苦くない。生産地ごとに風味もまったく違って。そこから、どんどんコーヒーにハマっていったんです」

 たしかに、取材先で川野さんが淹れてくれたコーヒーは、全然苦くない。

「なんか、コーヒーのことをもっと知りたくなりました」。ぽろっと私の口からこぼれた言葉に、川野さんは優しくこう言った。

「いままで知らなかった世界に興味が湧くのって、楽しいですよね」

『LIGHT UP COFFEE』が届ける、「いい体験」とは?

階段の「1段目」に登る人を増やしたい

 ――淹れていただいたコーヒー、すごくおいしかったです!ただ味の違いとかは、あまりよくわからず……

いやいや!全然気にしなくていいですよ。

僕もいまでこそ「シングルオリジンっていうのは~」なんて言っていますが、数年前までは本当に何にも知らなくて。

カフェでアルバイトをしていた大学生の頃に、なんとなくコーヒーに興味を持つようになったんです。そこからいろいろ飲んで見て味の好みを知ったり、自分で淹れてみたくなって器具を買ったり。豆の違いや技術を理解してからは、日常的においしいコーヒーを淹れられるようになって。

気づいたら、『LIGHT UP COFFEE』をはじめていた(笑)。

いままで知らなかった面白さに気づいて、どんどん新しい世界が広がっていく。そのことが、純粋にすごく楽しかったんですよね。

だから、「僕のコーヒーを好きになってもらいたい」というよりは、「知らないことを知ることの面白さ」を少しでも多くの人に味わってほしいのかもしれない。新しい世界への階段を、自分の足で登っていくワクワク感を。

そのために僕は、「階段の1段目」になれたらいいと思っています。

こだわりは、なるべく「小さな声」で

――コーヒーへの階段を登りやすくするために、何か気をつけていることは?

そうですね。たとえば、「どの豆にしますか?」ではなく「爽やかなのと、甘いのがあるんですけど、どっちがいいですか?」と聞いたり。スタッフであらかじめ本日のおすすめを決めてしまって、「これがすごくおいしいですよ」と伝えたり。

なるべく小難しい話はしないようにしているかなと思います。

まあ、僕もコーヒー愛が強いから「よかったらこっちも飲んでください」とか「このコーヒーはこんな生産者がつくっていて」とか、つい多くを語ってしまいたくなるんですけどね(笑)。

コーヒー専門店ってちょっと敷居が高いというか、「知らないと楽しめない」みたいな雰囲気があると思うんです。コーヒーに詳しくない人からしたら、「どの豆にしますか」って、その時点で「やばい、自分が来る場所じゃなかったかも…」と不安になってしまいますよね。

もちろん、コーヒーの話をしたい人やLIGHT UP COFFEEに興味を持って来てくれた人にはこだわりや世界観をお伝えする。苦いコーヒーが好きな人もいるので、そこは「生産者さんの個性を消さないよう浅煎りにしているので、うちのコーヒーは苦くないんです」と最初に説明したり。

お客さんのお店への入り方や目線を見ると、知ってて来たのか、知らずにふらっと立ち寄ったのかはすぐに分かるんです。手にスマホを持っていれば、調べて来たんだなとか。

そこは、相手がどんな体験を求めてここに来ているのかを見極めて、出す情報を選んでいます。

「7分の5」にも、「7分の2」にもなる

――noteで、「コーヒーの文化を変えたい」と書かれていましたね。

「文化を変える」と聞くと仰々しいですね(笑)。シンプルにお伝えすると「おいしいコーヒーを、もっと身近に感じてもらいたい」ということかなと。

いまコーヒーって、コンビニなどで買える手軽なコーヒーか、専門店で味わうスペシャルティコーヒーか。その2つ分かれると思っていて。

たとえばコンビニや自販機のコーヒーは、平日に「眠気覚ましの一杯」感覚で消費されることが多い。専門店のコーヒーはその真逆で、休日に「特別な一杯」として消費される。つまり、一週間で見たときに「7分の5の日常」と、「7分の2の非日常」で分断されてしまっているんです。

消費者の目的が違うからそれでいいかもしれない。でもそれを続けていると、いつまでも「おいしいコーヒー」は「おいしいコーヒーを求めている人」にしか届かない。

こんなにおいしくて感動できるコーヒーがあるのに、知っている人だけのものにしておくのはもったいないと思うんです。

だから僕は、そこをなんとかブレイクスルーしたいなって。たとえば最近だと、淹れたてのコーヒーをポットに入れて毎日オフィスに届けるサービスをはじめたんです。1杯100円で、会社にいながらこだわりのコーヒーを楽しめる。LIGHT UP COFFEEが「働くこと」を楽しめるきっかけになれたら、それは最高ですよね。

一方で休日にはセミナーやワークショップ、農園ツアーなどを開催したり。思いっきり「非日常」的な体験を提供する。「おいしいコーヒー」を軸に、いろんな顔を見せられたらいいなって思います。

頭より、心で消費できるように

――最後に、『LIGHT UP COFFEE』の楽しみ方を教えてほしいです。

やっぱり生産地から豆の焙煎、淹れ方、コミュニケーションまで全部こだわっているので、アピールしたいことは山ほどあるんですが……(笑)。

「違いとかわかんないけどおいしい」だったり、「なんか世界観すきかも」だったり。そういう感覚的な「いい」を持ってもらえたら、十分かもしれません。

なんだろう、僕ら20代って、結構そういうものを求めている気がして。

たぶん「選ぶこと」に疲れちゃったんです。インターネットやSNSが当たり前になって、いつも目の前にはモノや情報が溢れている。たとえばランチに行こうと思って検索すると、お店がありすぎてキリがないですよね。

また、行った先で求めていないのに世界観を押し付けられたりすることもある。「選択肢」も「意味のあるもの」も多すぎて、正直もう「意思決定」がきついです。

それに、自己表現にも飽きているんじゃないかなって。どうしたらよく映るか、いいねをもらえるか。そういうのは、もうお腹いっぱいなんだと思います。

頭を使って着飾るんじゃなくて、自分が本当に惹かれるものを心で感じる。直感に素直になる。そんな消費の仕方があってもいい。

こだわりのコーヒーだって、「なんかいい」で楽しんでもらえたらうれしいです。

連載『いい顧客体験って、なんだろう?』
「あなたが思う、いい顧客体験とは?」── 話題のサービスを仕掛けるみなさんに聞きました。「カスタマーエクスペリエンス(CX)」という言葉が注目される時代。ネットで、リアルで、私たちはいかにして心地よさを生み出すか。そのヒントを探ります。
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文 = 田尻亨太
取材 / 編集 = 長谷川純菜


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