デジタルガレージの「オープンネットワークラボ」から生まれたソーシャルロケーションサービス《Compath.me》。“Next foursquare”を狙い世界に打って出ようとしているこのサービスに焦点をあて、日本のWEBサービスが世界で戦うための方法を探った。
2011年頃から、“SOLOMO”がWEB業界の最も熱いグローバルトレンドになっている。SOLOMOとは“ソーシャル”“ローカル”“モバイル”の頭文字をとった造語。この3つの要素を備えたサービスが今後ヒットするだろうと言われているのだが、それは端的に言えば「foursquareの次にくるロケーションサービスは何なのか?」ということ。その“Next foursquare”の位置を日本から狙っているのが《Compath.me》(コンパス・ミー)だ。
Compath.meは、デジタルガレージが運営するインキュベーションプログラム「オープンネットワークラボ」出身のロケーションサービス。グルメやショッピング、エンターテイメントといったローカル情報を共有・検索することができるサービスで、あらかじめ趣味嗜好の近い人をフォローしておけば、Web検索以上に精度の高いローカル情報を集めることができる。たとえばFacebookでおしゃれなカフェや綺麗な夜景の見える場所が自分のウォールに流れてきたとしても、場所に関する情報は不足しているか、ないことが多い。Compath.meを使えば、次回訪ねるための情報として整理し、いつでも引き出せるようになるわけだ。
Compath.meがほかの日本のWEBサービスと大きく異なる点は、国内より先に海外での展開をスタートしていることだ。はじめから海外を志向するのと、国内で普及したものを海外に展開するのとでは、まずそもそもの設計思想が大きく違ってくる。例えばロゴやサービス全体のトーン&マナー。アニメキャラを使ったSNSが国内で大流行したとしても、それをそのまま欧米に展開して通用する可能性は極めて低い。世界での普及を狙うなら、あらかじめボーダーレスなサービスを設計しておく必要がある。
“世界に通じるサービスを”と意気込むCompath.meチームが、より強烈に世界を意識するようになったのは、アジア最大のテックカンファレンス「Echelon」でのピッチに挑んだことがきっかけだったという。
アジアと冠したカンファレンスながら、日本での予選開催はなし。理由は“日本に優秀なスタートアップがあるかどうか知らない”から。Compath.meチームはわざわざ香港に足を運び、予選に参加したという。そして予選を通過し本戦に進出した日本のスタートアップはわずかにCompath.meのみ。
そこで本戦に名を連ねる香港やシンガポールのスタートアップと接し、“とてつもなく能力の高い人たちが、とてつもない熱量をかけてサービスを作っている”ことに圧倒された。このまま日本でローンチし、海外に順次展開していくやり方では、世界で勝つことはできないと痛感したのだという。
では、Compath.meが肌で感じた「世界で戦うために必要なもの」とは一体どんなものなのだろうか?CEOの安藤拓道さんに、海外のスタートアップの中で成功しているものに共通する3つのポイントを伺った。
1 . 課題解決型のサービスか?
「海外のインキュベーターによく言われるんですが、海外のカンファレンスでは“課題を解決するサービス”でないと通らない。明確な課題があって、それを解決するサービスだから、これだけの市場がある。必ずそういったプレゼンテーションの構成にしなさいといわれます。
先日参加したSXSWでもそうなんですが、事前のメンタリングセッションが必ず設けられていて。そこでまず“プロブレムは何で、ソリューションは何で、自分たちの強みは何なのか?”と聞かれます。それを分かりやすく説明して、かつ説明したことを実現できるチームだから必ず成功しますって、そういうピッチをしなさいと。
日本はそこまで課題解決にこだわっている印象はなくて、逆にバリエーションが広いのかなと考えています。例えばゲームのように単に“おもしろい”という価値も認められるし、ソーシャルメディアでつながりを持つこと自体の価値も認められるわけです。だから投資家の前では“どんなサービスか”に重点を置いてプレゼンすればいい。ただ世界の基準はそうではありません。日本の方法論をそのまま当てはめても、上手くはいかないと思います」
2 . チームのバランスはとれているか?
「もう一つ、海外の投資家が重視しているのが、そのサービスを“どんなチームが作っているのか”という点ですね。確実に見ているのは、各人のバックグラウンド。そもそもそのチームがそのプランをやりきる実行力があるのか。例えば過去にGoogleで働いていたエンジニアがいるとなると、ある程度プロダクトは作れるな、と判断される。一回バイアウトした経験のある人がいるなら、事業のつくり方は分かるよね、と。
あとはチームの構成、バランスですね。例えばエンジニアが5人いますというチームは、あまり評価されない。もちろんスタートアップに限った話ですが、エンジニアとデザイナーと、事業企画・資金調達を担うハスラーとが均等に揃っているチームが理想です」
3 . そのサービスは、お金になるか?
「リリースした日から儲かるサービスなのか?もしそうでないのなら、プラットフォームになり得るのか?単純に、そのどちらかであることが問われます。
あとは“リファレンス”も重視されますね。「誰の紹介だ?」というところ。私たちが海外の投資家と話ができたのも、オープンネットワークラボの所属だというところがあって、最低限のリファレンスがあったわけです。それがなかったとしたら、どこまでいけたのかな…という部分も正直ありますね。それくらい重要だということです」
続いて、サービスを海外展開するうえでその成否を分ける最も重要な要素である“デザイン”について、Compath.meデザイナーのMac Funamizuさんにお話を伺った。海外で通用するサービスに求められるデザインとは、どんなものなのだろうか?
「実は、私自身で“世界の人たちにウケるデザインを”と考えて作ったことはないんです。そもそも現実的に考えて、世界中の人に“どんなデザインが好き?”ってリサーチできるわけじゃないですよね。
あるインタビューで宮崎駿監督が世界で賞賛される映画を作れる理由を尋ねられていたんですが、その答えがすごく明示的で。彼は“もともと世界中で受け入れられるようにという気持ちは持っていない”そうなんです。“毎日、小金井で駅からスタジオジブリまで歩く道で起こっていることは、だいたい世界中でも起こっている。そこを表現できなければ、世界を表現できるわけがない”と。それと同じでデザインに関しても、自分の周りの人に受け入れてもらえれば、世界の人にも受け入れてもらえるんだと思います。
私の場合、出来上がったデザインは、まず子供に見てもらうようにしています。小さい子って、素直な反応を返してくれるじゃないですか。そこで“これなに?”“分かんない”って言葉が返ってきたとすると、それはもうデザインをやり直したほうがいい。
個人的には、装飾的ではなく、必要なものだけで構成されたシンプルなデザインを目指すべきだと思っています。引き算のデザイン。海外のデザイナーは得てして引き算上手ですね」
では、世界に出ていくWEBサービスに携わる上で、エンジニアとしてどんなスキルを身につけておくべきなのだろうか?Compath.meのシステム面を一手に担っている、CTOの桜井祥子さんにお話を伺った。
「海外のエンジニアと話していて感じるのは、エンジニアといってもただのエンジニアではなくて、みんな“ビジネス”が分かる人なんですよね。その部分に関しては私自身も以前から足りないと思っていたことで、いままさに勉強しているところです。
システムのことが分かるだけでなく、そのテクノロジーがビジネスのどういうところに応用できるのか、どういうところに活かせるのか。そこまでを自分で考えて、どんどん取り入れていけるかどうかが、世界で通用する人とそうでない人の一番大きな違いじゃないかと思います。ある意味、ひとつのビジネスをエンジニア一人で自己完結できる、というのが理想ですね。
Compath.meに関しては、サービスローンチはしたもののまだまだ全く落ち着いてはいなくて(笑)。日々システムのブラッシュアップを進めているところです。改善の内容を考えて、なるべく早急にトライして、何がダメで何が良かったのか検証して。そのサイクルをとにかく短く回せるように努めています。もちろんすべて自発的なアクションです。数値を見て自分で考えるのもそうですし、ユーザーへのヒアリングやテストを通して改善案を探るのもそう。新しく情報を得て、そのつど仮説をたてて、実際にシステムに組み込んで…その繰り返しだと思ってます」
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