やさしい世界観、UI/UXが高い評価を得るAIジャーナリングアプリ『muute』。淡い色合い、ほっとする言葉、感情アイコン…そっと気持ちに寄り添うコミュニケーションは、どうデザインされている?
頭に思い浮かんだことを、思いつくままに書く。感情アイコンを選ぶ。感情ログの分析、AIからのフィードバックで「自分を知るきっかけ」をくれる『muute』が人気だ。
メンタル・セルフケア/マインドフルネスの手法である「ジャーナリング」を手軽にアプリで体験できる。
(参考)前編:書く瞑想アプリ『muute』開発の裏側|誰ともつながらず、自分だけの「居場所」を持つ価値
とくに高い評価を得ているのがアプリのUI/UX。前編につづき、後編ではとくにいかに「感情分析」の結果を見せるか、ユーザーとコミュニケーションを図るかに注目。引き続き喜多紀正さん、岡橋惇さんに伺った。
全2本立てでお送りいたします。
【前編】Clubhouse、インスタ、Twitter…常時接続に疲れた私たちを癒やす『muute』という居場所
【後編】感情に寄り添う、やさしい世界観の作り方。ジャーナリングアプリ『muute』 の思想
まず『muute』の大きな特徴のひとつが、ログの可視化とフィードバックがもらえること。
1)「Log(ログ)」と「Inspiration(インスピレーション)」過去の投稿からの変動を見える化する「Moodflow(ムードフロー)」や「Feeling(感じていること)」などの機能。
2)「Weekly & Monthly Insight(ウィ―クリー&マンスリーインサイト)」
毎週日曜日と毎月一日にその期間中の投稿内容をもとに分析結果をまとめた「Letter(レター)」や「Data from muute(データ分析結果)」などのフィードバックが届く機能。
ユーザーが心地よく書き続けられ、フィードバックを得るために、『muute』のデザインで注力したのは「人間らしさ」だ。
「既存のライフログ系のアプリでは、ログをそのままテキストやグラフにする見せ方が多い。『muute』では、『人間らしさ』や『温かみ』を感じるフィードバックにするためデザインにこだわりました」
ただ、それだけだと継続してもらえなかった、と振り返る。
「よりこまめに、気づきが得られるきっかけが必要だと思いました。いろいろな角度から振り返りができるように、小さいフックを色んな所に散りばめるようにしました。Moodflowも、ニュートラルより、上のポジティブがずっと続く場合と、時々青になったりする。そこで、「あの時どうだったのかな」と振り返りができます」
「また、“ぷよぷよ”が集合している「Feeling (感じていること)」は、“では、アイコンをタップするとその感情ベースで、自分の投稿が検索できます」
また、「 Inspiration」という機能では、過去一週間や、過去1ヶ月の投稿をもとに自分の状態を把握し、振り返ることができます。いろいろな振り返りの方法に対応できるようにしています」
「ウィークリーインサイト」と併せて、1週間に1回届く「レター」もあたたかみを感じさせてくれる。
まるで自分のことを知ってくれて、労ってくれているかのような手紙も。いったいどのような方法で送られてきているのか。
「AIが自動で文章生成しています。時期、ユーザーの位置情報、投稿内容、感情スコアなどのデータをmuuteのアルゴリズムが分析し、その結果をもとに、パターン文から適切なものを組み合わせることで何千万通りのパーソナライズされた文章生成を可能にしています。
私たちとしては、まるで友達から届く手紙のようなフィードバックを目指していて。パーソナライズされた手紙が、毎週届くような体験にしたいと思っています。手紙をもらった時に感じる喜び、心があたたかくなる感情はみんな嬉しいはず。デジタル上でもそういった感情を引き起こすような機能にしていきたいと考えています」
加えて投稿後にはほっとする一言、偉人たちの言葉が出るなど随所に人間味が感じられる。「寄り添うコミュニケーション」はどうつくられているのか。
「ユーザーの声を深く聞くことをチームとして習慣化しています。この1年間、毎週欠かさず複数名の方にデプスインタビューをやっている、というのは大きいかもしれません」
言語化されている内容も参考にしますが、言葉のウラにあるちょっとした含み、機微のようなようなものも拾い上げる。ユーザーの方に言われて覚えているのが、“感情に良し悪しってないのではないか。ネガティブな感情も別に悪いことじゃないからそれを数値化するのはどうなのか”という言葉、これは大きな気づきでした」
データとして見せがちなものをあえて見せないようにする。曖昧なものを曖昧なままに表現していく。あくまでもユーザー自身が気づく、ということに主眼を置く
「あとはUIデザイナーがとても優秀で心がやさしい人(笑)意外とこれはベースとして大切なところかもしれません(笑)」
人間味、という言葉どおり、『muute』のユニークな取り組みとして「人となり」「ふるまい」の言語化も行なったという。
言語化された『muute』の人となりは、プロダクトをブラさない幹の役割を担う。
「最初から言語化されていたものではなく、メンバーのなかにあった共通認識を途中で言語化していきました。言語化したことによって、より一層全員の共通認識を取りやすくなったと思います。プロダクトのデザインや機能、コピーなど、あらゆる意思決定の拠り所になっています」
そして取材の最後に伺えたのが、『muute』のこれから、中長期的にどういった存在を目指していくのか。
「感情のプラットフォームにしていきたいですね。長期的な話でいえば『muute』のミッションは、誰もが「自分らしさ」を受け入れられる社会を作ること。この「自分らしさ」にカッコがついているのがミソでもあって。よくポジティブな文脈で書かれることが多いと思うんですね。ただ、ネガティブなことも含めて、自分らしさ。“悲しいことも、モヤモヤも、弱みも、全て含めて自分”ということが知れて、受け入れられる社会にしていきたい。
これだけデジタル化が進んだ時代、誰とでも「つながれること」はとても良いこと。ただ、選択肢を増やすものがテクノロジーの本質だとするなら、個人的には“あえてつながらない”選択肢があっても良いと思います。誰もが自分らしさを受け入れられる、そしてみんなに選択肢がある状態をつくる。そんな、心地よいデジタル空間や体験を実現したいですね」
「新型コロナの影響に関わらず、もっと中長期的な流れのなかで出てきているメンタルヘルスやウェルビーイングの課題に対してのアプローチだと捉えています。とくに今はフィジカルからデジタルへのシフトが加速していて。できるだけデジタル側の体験を、フィジカルに変換したり、デジタルならではの新しい価値を出していくという部分に取り組みたいですし、私たちもその一部を担っていると思っています」
画像提供:ミッドナイトブレックファスト社
取材 / 文 = 白石勝也
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