2020.03.11
僕は「CHIP」でリベンジを誓う|小澤昂大

僕は「CHIP」でリベンジを誓う|小澤昂大

ローンチ直後の好調な滑り出しから一転、1年足らずでクローズしたファンクラブ作成アプリ「CHIP」。しかし、半年後の2020年2月に再リリースを発表。クローズの真相とは?なぜ再チャレンジするのか?どうしても諦めたくないーそこには並々ならぬ決意と覚悟があった。

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やっぱり、もう一度挑戦したい。

日々絶えない、プロダクトローンチのニュース。ただ生き残るものはわずか。

惜しまれながらも、クローズをしていくものもたくさんある。

小澤昂大さん(22歳)が手掛けたアプリもそのひとつ。

クリエイターが自分の好きな活動を続けられるようにしたいー。そんな思いを実現するべく、2018年8月にスマホでカンタンにファンクラブが作成できるアプリ「CHIP」をリリース。

ローンチ直後に登録が殺到。わずか半年で、口コミのみで登録者数は5万人に増加。資金調達も果たした。スタートアップとして順調すぎるスタート、のはずだった。

しかし翌年5月、彼はサービス閉鎖を決断する。

「本来の目的とプロダクトの方向性がずれてしまった。クローズ以外の選択肢しかありませんでした」

約8ヶ月後の2020年2月、彼は「CHIP」の再リリースを発表。

「クローズしてから半年間、別のサービスをトライしたのですが...どれもしっくりこなくて。やっぱりCHIPをもう一度チャレンジしたいと思いました」

消えていく資金、事業アイデアが決まらない焦り。試行錯誤の日々を経て、彼はなぜ「CHIP」に戻ってきたのか。再出発のストーリーをお届けしたい。

+++2020年2月に再スタートを切った『CHIP』。あらゆるクリエイターがカンタンにメンバーシップを提供できるサービス。月額課金制で、コミュニティやサービスをはじめ、会員限定のコンテンツを配信できる。現在招待制で提供中。

順調すぎたローンチ直後

― ユーザーは着実についてきていたにも関わらず、なぜクローズしてしまったのか。まずは、その経緯から教えてください。

いくつかあるのですが、一番大きな反省点としては、「課題設定が甘かった」ことです。クローズを発表した際、noteにも書いたのですが、解決するべき課題が不明瞭である故に、後々の意思決定のブレにつながっていきました。

「CHIP」は、「クリエイターの支援がしたい」がスタート地点。「このアイデアいいじゃん!」「つくろう!」みたいな感じではじめたので、課題設定がとくになかったんです。

ただ、ありがたいことにリリース当初からTwitterで話題になり、多くの方に使っていただけて。おかげで、サービス認知を広げるためのマーケティング費を1円もかけることはなかったし、相乗効果があったのか、資金調達も苦労しませんでした。

ー すごく順調に思えるのですが、"課題設定の甘さ"に気づいたのはいつ頃だったのでしょう?

リリースして、半年たった頃ですね。いままで指数関数的に伸びていたユーザー数が、伸び悩みはじめたんです。

もっと伸ばしていくのはどうしていいのかを考えたとき、意思決定の基盤となる課題設定がないことに気づいたんですね。「プロダクトの存 在意義」がなかった。恥ずかしながら、いままで勢いでやっていたことに気づきました。

リリース直後からしばらくは、CS対応やサービス改善、2人だけで対応していたこともあって、課題を振り返る時間を取れていなかった。本当に目先のこと、目の前のことで精一杯。長期的に何を自分たちは実現していきたいのか、全く見れていませんでした。

「早くグロースさせなきゃ」という焦りもあったと思います。周りと比べてもしょうがないんですけど、同世代の起業家とかサービスをみて焦っていました。

+++

もう“軌道修正”できなくなっていた。

ー クローズをせず、改修して軌道修正していく選択を考えなかったのはなぜでしょう?

改めて課題設定をしなおしたとき、既存のプロダクトでは最適なソリューションにはなっていなかったんですよね。課題に合わせてたプロダクトにしていくには、システムの根本的なところからつくりなおさなければならなかったり、すでにあるプロダクトイメージや使い方から変えていかなくてはならかった。

当時の「CHIP」を続けるにしても、ゼロから作り直すと同じ。1〜2ヶ月ほど時間が必要で、その間、ユーザーは「放置状態のサービス」を使うことになってしまう。中途半端なサービス対応しかできない状態にするのは、ユーザーに不誠実。「CHIP」じゃなくて、むしろ違うサービスを使ってもらったほうがいい。

「だったら、いっそクローズして、ゼロから作り直したほうがいいんじゃないか?」と。クローズに至りました。

クローズ後に訪れた、焦りと悩みに支配される日々

―実際にクローズしたとき、どのような心境だったんですか?

申し訳ない気持ちでいっぱいでしたね...。CHIPを収益源にしていたクリエイターさんに対しても、楽しみにしていたファンに対しても。

「課題設定が甘かったから」という理由は僕らの都合であって、ユーザーにとっては関係ないこと。

「CHIP」を通じて月10〜20万円くらい稼いでいた人もいるので、運営側の都合でクローズすると言われ、3ヶ月ほどで収益が入らなくなるのは困る以外の何物でもない。クローズに対して批判はされませんでしたが、批判したい気持ちは誰かしらが持っていたんじゃないかと思っています。

ークローズ後は、「CHIP」の立て直しを?

いえ、CHIPとは全く違う事業アイデアをひたすら考えてました。

「CHIP」をゼロからつくり直す必要があるのはわかっていたけど、具体的にどうしたらうまくいくのか。成功へのビジョンが全く見えていなかった。

もちろん、全部を見えてからトライするのは遅いと思うのですが、あまりにも見えてなくて...。しかも、どんどんお金もなくなるし、次の調達も考えなきゃいけない。僕たちはもともと「クリエイターを支援するためのサービスをやりたい」と思って起業したけど、それすら見えなくなっちゃうほど焦っていました。

そこから、事業アイデアに迷走する日々がはじまりました。時間だけはたくさんあったので、みんなでブレストしたり、海外の事例を調べまくったり。

どうしてもアイデアがあまりにも浮かばないときは、原宿とか秋葉原とか人が多いところに共同創業者の秋葉と一緒にいって、朝から晩まで人をとにかく観察したこともありました。結局何もわかんなかったんですけど(笑)

半年間で、120個くらいアイデアを考えていたと思います。この時期は精神的にも結構つらかったです。

+++

僕らがやりたいのは、「CHIP」だ。

―2020年2月に、新しいカタチでの「CHIP」をリリースしています。120個ものアイデアを巡った後、原点に戻ったということでしょうか?

旅行系のサービスとかスタートアップの人材マッチングとか、スタートアップ向けのプロダクトをサクッとつくれるSaaS的なものとか。チャットのサービスだったり、ニュースアプリとか。7個くらいは実際につくって自分たちで使ってみたけど、どれもしっくりこなかったんですよね。

それで、一旦立ち止まろうって。「俺たち本当にこれがやりたかったんだっけ?」と、共同創業者と話し合ったんです。

僕はドラムをやっていて、ドラマーとして活動したいと思っていたけど、アーティストとしてやっていくには環境的にも大変だった。共同創業者の秋葉はアニメオタクで、アニメーターたちの労働環境をどうにか改善したいと思っていた。

僕らは、そもそもスタートアップがやりたかったわけじゃない。クリエイターさんが自分らしく活動を続けられることをサポートがしたかった。

とは言え、同じ「CHIP」という名前でスタートすることには、気持ち的にもハードルがありました。「CHIP」には、僕たちの想いが詰まっていました。もう本当に、リリース日のギリギリまでサービス名を考えていて…。起業家仲間や株主にも相談していたなか、フラミンゴの金村容典さんと「サービスを続けることって大切だよ」という話になったんです。

そのお話を受けて、僕らはビジョンを掲げて、自分たちのつくりたい未来を実現していくしかないんだと、気付かされました。現時点で本当に実現できるかどうかは、誰にもわからない。それでも、真っ暗闇の中を試行錯誤しながら、進んでいくしかない。僕らがスタートアップをやる意味を金村さんに教えていただいた気がします。

いつのまにか「CHIP」の名前で再始動することに、完全に腹落ちしていました。僕らには、「CHIP」で実現したい未来があります。これまでの反省点を糧に、必ず実現する、リベンジを誓います。

(おわり)

+++


文 = 福岡夏樹
取材 / 編集 = 野村愛


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