66の質問に答えると、自分でも気づいていなかった「セクシュアリティ」や「ジェンダー」が分析できる。それが『anone,』だ。バリエーションは2000通り以上。グラデーションを可視化する。このツールに込めた思いとは? 開発者である中西高大さん(23歳)に伺った。
全2本立てでお届けします!
[1]いつか「多様性」を死語に。セクシュアリティ分析ツール『anone,』に込めた思い
[2]その言葉で、ユーザーを傷つけないか? セクシャリティ分析『anone,』のやさしい言葉の選び
「大学時代、友達がセクシュアリティについての悩みを誰にも言えないず、苦しんでいたんです」
『anone,』開発者である中西高大さんはやさしく語ってくれた。
「その友達は、身体的にも、精神的にも苦しんでいた。私は何もしてあげられなくて。本当は自分に素直にいたいのに、大事な人に打ち明けられない。そんなのおかしいなって」
そこにあったのは憤りにも似た気持ち。そして生まれたのが、2000通り以上の組み合わせから、自分に最も近いセクシュアリティが分析できる『anone,』だった。
やり方は簡単。サイトにアクセスし、66の質問に答えるだけだ。
Twitterでは「自分のセクシュアリティに名前がついていることにビックリした」「みんな全然微妙に違うのに、今まで普通だと思って生きてた」など反響を呼んでいる。
「あのね、」こうしてはじまる「性」のやさしいコミュニケーションを。ツールに込められた想いを追った。
ーまずはツールの概要から伺ってもよいでしょうか?
全部で66個の質問に答えるとだいたい2000通り以上ある組み合わせの中から、その人に最も近いセクシュアリティ、ジェンダーアイデンティティ、自分の性別をどう認識しているか。
自分が普段無意識的にでも表現しているような性別ってどんなものなんだろうっていうのが分かるようになってます。
じつは、微妙な差異にも、実は全て名前があるんですよね。
anone,では、66の質問への回答からアルゴリズムで解析し、誰がみても理解できるように解説を付けています。
たとえ同じマジョリティの中でさえ完全に考え方が同じ人なんて存在しない。その理解を促せるようにしていて。以前は理解できなかった身近な人の発言が腑に落ちたり、過去の自分の言動を振り返ったりできる体験をつくっています。
一般的にはセクシュアルマイノリティというとLGBTを想起されますが、心と体の性が一致していて、異性を好きになる人、いわゆるマジョリティとされる人々の間でも、人により考え方は千差万別です。
例えば、一目惚れする人、深く知ってからでないと好きになれない人、好きにはなるけど好きになられるのは怖い人、恋人はいらなくてそばにいてくれるパートナーはほしい人、恋する相手が一人ではない人、友達としての好きと恋人としての好きの区別がない人…
ー『anone,』をさっそく私も試してみたのですが、確かに思いあたることが多くて。とくにハッとしたのが「デミロマンティック(深い信頼関係を恋人に求める)」と分析結果が出たこと。じつは、友だちに「相手のことが好きなのに手とかもつながないとかヘンじゃない?」と話をしていたこともあって。友人を傷つけてしまっていたかもしれないですね…。
私も以前まで、あまり人のセクシュアリティについて気にしていなかったので、同じように知らず知らずのうちに誰かを傷つけてしまっていかもしれません。ただ、大切なのは「傷つけてしまったかもしれない」と自覚をつみ重ねること。その先に「自分はこうしていこう」と考えらえる。なので、まずは「知る」に意味があると思うんです。
ーそれにしても「2000通り以上」というのはすごい数ですね。
もともと『anone,』でやりたかったのが、「誰もが性のマイノリティだと気づいてもらう」ことだったんです。
もし、セクシュアリティにおける「マジョリティ」と「マイノリティ」の二項対立があるなら、両者の距離を1ミリでも近づけたい。両者間でコミュニケーションをとって分かり合えるポイントを見つけられたら、と。
アプローチとして、自分のことを「マジョリティ」と思っている人に、まずは自らのセクシュアリティに対する「考え」を可視化してもらう。
その考えをSNSや身近な人へのシェアする機会を増やす。すると、セクシュアリティに悩みを抱える人たちが「この人になら言えるかもしれない」と思える人と出会える確率が高まると考えました。少しずつですが、差別意識、偏見が和らいでいく。ここを期待しています。
ー実際だと、どのような使われ方を?
家族、パートナー、恋人同士、お互いの価値観、考えをすり合わせてもらうきっかけにも使っていただけています。
印象的だったユーザーさんの声でいうと、家族にカミングアウトできたと。「このサービス、ツイッターではやってるらしいから、ちょっとみんなでやってみようよ」という感じで声をかけたらしいんです。お父さんお母さんと3人でやって、分析結果を共有したら、「当てはまるね~」ってお互いに。
自分の大切な人にセクシュアリティを打ち明けるって、とてもハードルが高い。話すきっかけをつくるのもむずかしいし、言い出しにくい。でも、『anone,』をきっかけにみんなが自分のセクシュアリティについて知るきっかけをつくれることで、お互いの理解も深まると思うんです。
ーそもそも、このツールをつくろうと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
生きづらさを感じている人に多く出会ったことでした。
僕自身は、高校2年生の秋ごろから今まで好きになるのはずっと女の子だったんですけど、男の子が気になりはじめて。
僕自身は幸いにもそれほど悩んだことはなかったのですが、周りに何人かセクシュアリティについて悩む友達がたまたまいて。自分のことを言えず、嘘の自分を演出する。中には、それが原因で精神的に支障がでるケースもありました。
そもそも今の日本だとセクシュアリティについてどう考えているのか、話すことってほとんどない。悩んでいる本人にしてみれば、相手の胸の内が分からないから本当のことを伝えたらガッカリされるのでは、嫌われるのでは…と、とても不安なんです。
打ち明けたい相手のセクシュアリティへの考え方を探るため、会話中にさりげなく「おっさんずラブってみた?」と話題を入れて相手のリアクションを確認する人もいます。でも多くの場合、「もしバレたらどうしよう…」という不安から、それすらハードルに感じているんです。
会社に就職しても、その状況は変わらないかもしれない。人生のほとんどの時間を本当の自分を隠したまま過ごすのかと思うと、結構苦しいですよね。
近頃はメディアではLGBTが取り上げられることは増えてきてはいるものの、リアルな世界ではまだ8割以上の人が「自分の周りにはいない」と思っているんです。
セクシュアリティってその人の生き方そのもの。アイデンティティであるのに、それが理由で生きる環境が制限されたり、差別されるのはおかしい。
多くの人にある「自分の周りにはいない」という思い込みから、いつまでも自分をさらけ出せずに苦しんでいるという負のループを、なんとかしたかったんです。
たとえば、Twitterで身近なフォロワーのセクシュアリティに対する考え方が可視化されれば、「この人になら言えるかもしれない」と、打ち明けることへのハードルを下げられるのではないかと思いました。
[2]その言葉で、ユーザーを傷つけないか? セクシャリティ分析『anone,』のやさしい言葉の選び
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