2019年12月に閉鎖された『ひま部』が進化し、生まれた通話コミュニティ『Yay!(イェイ)』。約1年で200万ユーザーを突破へ。その裏側にあった再起をかけたストーリーとはーー。運営するナナメウエ、代表の石濵嵩博さんにお話を伺った。
▼全2本立てでお送りいたします。
【前編】「居場所を奪わないで」ひま部 閉鎖で届いたユーザーの手紙、Yay!での再起を誓った日
【後編】22歳以下がハマる『Yay!』とは? 通話コミュニティで「自分らしくいられる場所」を見つける若者たち
ー『Yay!』の前身となった『ひま部』閉鎖の背景から伺ってもよろしいでしょうか。
いくつか理由はあったのですが、正直にお伝えすると、もっとも大きくあったのはマネタイズの問題でした。当然、ビジネスとして成り立つためには、お金を稼がなくちゃいけない。ただ、『ひま部』のメインユーザーは学生さんたち。彼らからお金を稼ぐのは難しく、かつ安全対策に対してとんでもなくコストがかかってしまう。
サービス運営において、インフラの維持と、ルール整備にかかるコストが、売上よりも圧倒的に高まっていて。どれだけユーザーが増えたとしても、サービスとして継続していくのが難しいことが見えてきてしまった。
また『ひま部』というブランドに、学生向けというイメージが浸透しすぎて、Facebookのように全世代に広げるには難しいと感じてしまった。
ビジネスとして成り立たせていく観点、ブランドの観点から、大きくシフトチェンジする必要があると判断し、クローズするに至りました。
ー どういった思いで閉鎖を決断されたのか、伺ってもいいでしょうか。
たくさんのユーザーさんがいて、熱量の高いコミュニティができていたので、閉鎖するのは本当に苦しかったですね。
正式に閉鎖を発表した直後から、ものすごい数のレビューの書き込みがあったり、オフィスにもたくさんの手紙が届いたんです。
「居場所が無くなってしまう」「奪わないで」という声が自分たちの予想以上に届いて。なかには不登校の子や、リアルの世界に居場所がない子がいたりもして。ひとつひとつのメッセージを読んで、オフィスにいた社員みんなで泣きました。
じつは『Yay!』開発の構想はすでにあって、進んでいたのですが、いろいろな事情もあって、『ひま部』閉鎖の時点では告知できなくて。『Yay!』のことを発表できるようになるまで、すごくしんどかったです。
こういったことを経て『Yay!』が生まれたので、自分たちとしても、もう失敗は絶対にできない。次はない、という覚悟です。いろいろな方にも期待いただいていますし、守っていただいてて。
同時に、世界的にも、日本国内でも、これからSNSを巡って変革の波がくるはず。大きなチャンスだと思っています。
ー 『ひま部』を経て『Yay!』に活かされているところはなにかありますか?
『ひま部』の時から大事にしていたところではあるのですが、安全対策は『Yay!』でも引きつづき注力しています。
まずは不適切なコンテンツを排除するため、24時間・365日のAI及び目視によるパトロール対応をしています。このAIに関してはゼロから開発したので、数億円単位で投資してきました。
安全面でいえば、身分証明書による年齢確認も実施し、年齢が離れたユーザーとの1対1のチャット等を禁止しています。
たとえば、16歳のユーザーが通話グループを立ち上げた時に、そこに20代、30代が入ることがないような設計にしています。同年代、かつペナルティを犯していないユーザーのみアクセスできるよう、アルゴリズムのロジックを構築しています。
もうひとつ、ルール違反した利用者の投稿やコミュニケーションを通報できる機能も設けています。該当者には『Yay!』より注意喚起や警告、アカウントの一時停止処分、凍結など悪用抑止を行なっています。
詳細)Yay!(イェイ)を安心安全に使うために
― ユーザー数が200万人を突破し、さらに若い人もたくさん使っている。サービスが与える社会的な影響もさらに大きくなっていきそうですね。
そうですね。ぼくらとして、人生をプラスにする出会いはつくりたいけど、不適切な目的では利用してほしくない。倫理観、社会性を持ちながら、どうつながりを作っていくか。このバランスは正直すごく難しい。もう何年も考え続けているところです。
そもそも、この時代のSNSは社会にとって何が良いルールで、どういった共通の認識で利用していくのがいいのか。運営側として再定義していかないといけないし、基準をつくっていきたい。
もっといえば、いま国内で利用されているSNSのほとんどが海外から生まれたもの。国民の多くの大切な情報が、そこに溜まってる状態です。
たとえば、トランプ元大統領は、アメリカからTikTokを事実上追い出そうとしました。昔だと、人々はテレビや雑誌の情報をもとに意思決定していたものが、今はSNSの情報を元に意思決定をします。
そういった中で他国が情報をコントロールできるのは、非常に危険だ、ということで上記のような行動がアメリカで起きたと言われています。
日本発で安心安全なプラットフォームを作ることができれば、大きなチャンスがあると思っています。
ー 日本発で安心安全なプラットフォーム、SNSを作っていく。難易度が高く、決して簡単とは言えない領域での勝負だと思うのですが、挑戦されていくと。それは、なぜでしょうか?
これからのビジネスを考えた時に、もうモノのイノベーションはどうしても生まれにくいですよね。たとえば、日々の暮らしのなかで、衣服はユニクロの品質で十分、ご飯は松屋の牛丼も美味しい。テレビにしても8kとか、声で操作できる商品など出てきてますが、そこまで爆発的に使われているわけではない。
もちろん、昨今のD2Cの文脈で、品質ではなく、マーケティングで勝負していく方向性はあるかもしれない。けれど、実質的に「モノ」そのもののクオリティに関しては多くの人がすでに満足しており、そこへの課題は小さいと考えています。
一方で、目に見えないものに関してはまだまだイノベーションの余地があるように感じています。その一番大きいところは「人間関係」だと思うんです。
人生のほとんどが「周りの環境」によって決まります。その中で明らかに運によっていて、設計され尽くしていない領域でもありました。
いろいろな新しいサービスもありますし、ビジネス、事業として考えた時に、僕たちは、AIの会社もやっており、BtoBサービスでも世の中の非効率を正すための事業を行っていますが、ビジョンを達成したいと考えた時、最も社会へのインパクトが大きいのは「コミュニティサービス」だと思っています。
…正直、こういった大それたことを言えるレベルにも達していない。まだまだ全然できてない。偉そうに話してきましたが、もう毎晩「まだまだだな」「悔しいな」の繰り返し。Clubhouseがあれだけ流行ったのも、めちゃくちゃ悔しかったんですよね。もうリアルのつながりから生まれるSNSはないと思っていたので。
ここ5年くらい、『ひま部』で失敗してルール、規範づくりの大切さを学び、『Yay!』で少しずつユーザーを増やせてきただけ。これからグローバルに展開し、もっと社会性があるプロダクトにしていかなきゃいけない。ようやくそのスタートラインに立ったくらい。ここからが勝負ですね。
>>>【後編】22歳以下がハマる『Yay!』とは? 通話コミュニティで「自分らしくいられる場所」を見つける若者たち
画像提供:ナナメウエ, Inc.
取材 / 文 = 白石勝也
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