宮崎でeコマースに特化したサービスを提供する《アラタナ》の代表・濵渦伸次さんへのインタビュー第1弾。『宮崎に1000人の雇用をつくる』というビジョン掲げ、宮崎にこだわりながら事業を成長させ、雇用を生み出すことに執心する理由を探ることで、地方都市で魅力的な働き口が生まれづらい問題の一端を紐解いた。
WEB・IT業界において、地方都市への注目度は年々高まっている。
そんな中で、いまもっとも“アツい”と各所で話題になっているのが、九州の宮崎県に本拠を構え、eコマースに特化したテクノロジーとサービスを提供する《アラタナ》だ。
《CAGOLAB》や《Sketch Page》など、ECサイト作成/運用ツールを順調に拡大させる一方、昨秋には約5億円の資金調達を実施。国内最大級のファッションWEBメディア「honeyee.com」「.fatale」を運営するハニカム社のグループ化が、大きな話題となったのも記憶に新しい。
今回、CAREER HACK編集部が注目した点は、彼らが創業以来掲げているビジョン『宮崎に1000人の雇用をつくる』だ。
地方には、ヒト・モノ・カネが集まりにくいというが通説。事業の急成長、例えばIPOを目指すスタートアップならばなおさら、東京という選択肢を取るのが一般的ではないだろうか?
彼らはなぜ、地元宮崎にこだわりながら事業を成長させ、雇用を生み出すことに執心するのか?その真相をアラタナを率いる代表の濵渦伸次さんに直撃した。
― さっそくですが、『宮崎に1000人の雇用をつくる』というビジョンを創業時から掲げる背景を伺えますか?
アラタナは地元の高専の同級生でもある穗滿と2人で創業したのですが、当時県内に残っていた卒業生は僕たち二人だけでした。つまり、他のみんなは県外に就職していたんですね。
そんな現状を生で見ていると、どんどん地元・宮崎が衰退していくなと本気で思ったんですね。なぜ彼らが県外に出ていくか考えてみると、それは簡単で県内に働き口がないから。
それならば、雇用の受け皿になるような会社を自分たちでつくろう。宮崎からメガベンチャー・上場し得る会社をつくろうと。それが最初の思いです。
自分たちのビジネス領域は、インターネットを主軸としたコマース関連のサービスなのですが、拡大し続けているマーケットです。ここで大きな成長を遂げれば、2020年までには、雇用1000人というのも決して夢のような数字ではないだろうと思っています。
少し話はそれますが、いま宮崎大学の卒業生の半数は公務員志望だそうです。また、市内で上場している会社は銀行以外だと1社もない。県内で見てもたった2社だけ。これは何を意味しているかというと、地元で働きたいと思う人は、どうしても安定した公務員や銀行に入らざるを得ない状況があるんです。
公務員の方には失礼かもしれませんが、やっぱりお金を生み出すチャレンジしていくということを、若者が考えずらいこの状況はすごく問題だなと思っていて。それこそ優秀な人、やる気のある人が、銀行や公務員などの安定した仕事にしか就けてないのは課題だと認識しています。
― なるほど。成長著しいWEB・IT業界ですが、まだまだ話題の中心は東京だと感じます。濵渦さん自身、地方でベンチャー企業・スタートアップが生まれにくい、もしくは成長しにくい理由はなんだとお考えですか?
少しづつ出てきていますが、確かに地方はまだまだ少ないですね。
うーん…。あくまで僕の所感ですが、成功事例の不在が大きな原因ではないかと思います。これを問題と言ってしまっては元も子もない話になってしまいますが…(笑)。東京で当たり前のことでも地方ではまるっきりノウハウがないんです。
まず“資金調達”という概念があまり浸透していませんし、投資元となるベンチャーキャピタルも首都圏ほど地方で存在感があるわけではありません。僕たちの場合は幸運にも、まず地元の地銀のベンチャーキャピタルから出資を受けさせていただき、やっとここまでこれました。
ただ最近では、地方でのピッチイベントも増え、東京に居を構えるVCも地方に目を向け始めている印象ですね。そこで、きっかけをつかめるかどうかはすごく大事。地方にも素晴らしいスタートアップ・人材はたくさんいるので、VCの方にも一層目を向けていただいたらと思います。
― スタートアップ界隈の話題では、昨年から徐々に大きな金額を調達する企業の数も大幅に増えてきていますね。
「バブル」だなんて言われていますが、それくらいでいいんじゃないかと思います。いまは本当に良い環境ですし、正直「いま起業しないでいつするの?」というくらいです。
ただ調達して成功ではないですよね。成功をつかむチャンスが広がったということで、この環境を活かして必ず成功しなくてはいけないと思います。
僕たちは宮崎の雇用を増やすためには、上場企業を作るのが一番手っ取り早く、わかりやすい選択・目標だと思っています。そこを目指す上で、雇用が必ず創出されるし、自分たちがロールモデルとなることで、後進にもいい影響を与えられる存在になりたいと思っています。
― なるほど。エンジニア・デザイナーの方にとっても、地方にも魅力的な働き口があることは、選択肢が増え、自身のキャリアを考える上でもメリットが多くなりそうです。
(つづく)
エンジニアの向かう先に地方はあるか?《アラタナ》濵渦伸次に訊く![後編]
[取材・文] 松尾彰大
編集 = 松尾彰大
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