パーソナルニュースマガジン《Gunosy》を手掛けるグノシー社は新たに、エンジニアの評価基準と『Gunosy Way』という指針を明示的に設定したという。「数字は神より正しい」「天才の推測よりも答え合わせ」など、グノシーならではの考えが浸透した、エンジニアを“フェア”に評価する制度・指針とは?
技術面で注目を集めるWEB・IT企業は、エンジニアに対してどのような評価基準を設けているのだろうか?
今回伺ったのは、パーソナルニュースマガジン《Gunosy》を手掛けるグノシー社。IPA未踏プログラムに採択された研究事業を継承したこのサービス。精度の高いレコメンドエンジンで、これまでにない体験をユーザーに提供しているのはご承知のとおりだろう。
業界の内外で注目を集める同社は、創業2年目を迎え、新たにエンジニアの評価基準と『Gunosy Way』という指針を明示的に設定したという。
「数字は神より正しい」「天才の推測よりも答え合わせ」など、グノシーならではの考えが浸透した、エンジニアを“フェア”に評価する制度・指針とは?CEOの福島良典さんに話を伺った。
― まず、エンジニアの評価制度や会社の指針を整えた背景から伺えますか?
いま社員数は20名程。半数がエンジニアで、1年前と比べると倍程度にまで増えています。メンバーが一気に増えてくると、これまで通りに、とはいかなくなったんです。
創業メンバー数人でGunosyの開発しているときは、阿吽の呼吸というか。みんなある程度サービスも触っているし、価値観の共有もされていたんですね。
しかし、そうではないメンバーがどんどん入社していていくと、さすがに難しい。であるならば、この時期にきちんとグノシーとはこういう会社である、という基準を明確にしようと。
― 指針だけでなく、評価基準まで設定されたわけは?
「こうすれば評価します」というメッセージが明確ならば、よくも悪くも人間って、その枠組みやルールに従って行動すると思うんです。その方向づけを、会社の向かうベクトル・価値観と早く合わせておきたいなと思ったんです。
評価の仕方としては、個別の具体的な数値目標を設定する一般的なものと、『Gunosy Way』という、グノシーの社員としてあるべき姿を明示化したものがあります。
― Gunosy Wayとは具体的に、どのようなものなのでしょうか?
「Googleが掲げる10の事実」を意識して、10項目設定しています。
その一つが、「数字は神より正しい」というもの。
「数字をしっかり追う」という意味に加え、「数字」を絶対的な判断軸・共通認識としようという意図もあります。
数字を中心にすることで、“政治的な面”、例えば「提案はいいんだけど、この前、失敗したじゃん」ってチャレンジを阻害するようなことをなくしていきたい。人間って評価する人、意思決定者に対して、どうしても都合のいい提案をしちゃうと思うんですね。でも数字に対してどちらが“偉い”とか無いじゃないですか。
評価者も被評価者も対等に、正当にチャレンジできるし、成功も失敗も評価できると。判断軸が明確である分、ビビることなく次のチャレンジができるようになる。歳の離れた人とでも、数字という絶対の基準を持って対等に話せるようになります。いい意味で、同じ土俵で言い合える大人の関係といいますか。そういう企業文化でありたいです。それが一番フェアな仕組みなのかなと。
ただ、数字に現れにくい重要な仕事ってありますよね。例えばシステムの保守やサーバーの管理。数字を上下させないことが価値だったりするものもあります。一度落とすと大きな失敗になり、数字を一定に保ったりする事こそ価値になるような。そこの部分に関してはまた違う見方をしなければいけないと思っています。
あと数字って、短期的には簡単に上げることはできても、長期的にはマイナスに働いてしまう…焼畑農業みたいな仕事もやろうと思えばできちゃうんですね。そういう目先の利益だけ追求して、サービス全体が疲弊していくという事態を避けて、長期的に成長するためにはどうしたらいいか、という点に関しても、経営陣やマネジメント側が「数字」を軸にしっかり配慮しなければいけないと思っています。
― 評価軸・指針を創る上で重要視したことはありますか?
僕が大事にしていることは、圧倒的な専門性の獲得です。得意なものを追求できる、好きでたまらなくて、興味が溢れている。そんな人をメンバーとして会社が抱えることが、プロダクトの成長・仕事の生産性を最も高められる手段だと思っています。
もちろん全体を見れるとか、マネジメント能力などを求められることもあると思うのですが、飛び抜けた専門性があれば、逆説的にジェネラルな能力も身につけられるハズだと思うんですよ。一つのことを深堀りしていくと、違う分野で共通していることってよくあるじゃないですか。プロ野球選手のイチローとサッカー選手の本田圭佑の言葉は本質的に同じことを言っているというか…。
― 逆に、福島さんが考える“評価しないポイント”はありますか?
言い方が難しいですけど…「ミスをしないこと」ですかね…。うーん。ミスにもいろんな質があるので、サーバー落としたりは論外ですけど…(笑)。
エンジニアってサービスを創る人間じゃないですか。サービスを創るには必ず、仮説があって、いろんなテストして細かく検証する…。例えば「こうしたらユーザー数が増える」という仮説を考えた時に、究極それってミスしてもいいわけです。一番最悪なのは何もしないことなんで。それに関しては当然評価しません。
仮説に対するミスは、ミスだと思ってないんですね。確かに外し続けたら当然マイナスになりますが、やればやるほど仮説の精度は基本的に高まるもの。とにかく迷ったら動く。合言葉は「天才の推測よりも答え合わせ」。とにかく答え合わせを早くする。
だからPowerPointで資料作ってる暇があったら、動くもの作って試そうよって。
PowerPointの資料って基本、上長の説得のためのものじゃないですか。でも「こういう仮説があって、こういう数字を検証で見て、損失はこの範囲で収まります」というような最低限それだけあれば判断できるんです。3行でいいんですよね(笑)。GunosyではペライチでテストのGOをだして、コードレビューを入れるだけ。だから早いものだと、提案したその日の夕方にはテストを初めて、3日後には閉じてたりします。
― 以前取材させていただいた際、グノシーでは論文の輪読やデータマイニング、レコメンドエンジンの研究もされていると伺いました。当時と比べるとプロダクトが飛躍的に成長していますが、同様の取り組みはまだ継続されているんですか?
――《Gunosy》開発チームから学ぶ、WEB業界人のための“統計学入門”
以前と変わらず行なっていますね。
スタートアップだと、どうしても即効性のある技術やノウハウの方がが大きく価値認識されがちですが、僕たちは長期的な視点を持って、新旧かかわらず様々な研究を追っています。
自分で言うのもなんですが、グノシーってすごく面白い会社なんです。よくDevOpsと言われていますが、それにResearchという研究開発的な要素が加わるんですね。いろんなテストを繰り返して、『開発の仕組み』を作っている会社はあまりないのかなと思います。
グノシーってデータマイニングのプロじゃないと入れないと思われてる節もあるんですが、実はもうフェーズが変わってきています。自ら動いて仕組みを作っていける、様々なプロフェッショナルな方こそ、いま活躍できると思っています。
― Gunosyならではの指針と評価基準は、多くのテクノロジー企業の参考になるお話だったと思います。ありがとうございました!
(おわり)
[取材・文] 松尾彰大
編集 = 松尾彰大
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