2014.02.24
定食屋のおばちゃんに気に入られることも大事!?カイブツ木谷友亮に訊く突き抜けるクリエイターの条件。

定食屋のおばちゃんに気に入られることも大事!?カイブツ木谷友亮に訊く突き抜けるクリエイターの条件。

『井上雄彦 最後のマンガ展』などのアートディレクションで知られるカイブツ。WEB、映像、イベント…更にロボット『クラタス』プロデュースまで活動領域を広げる彼ら。一体どんな思想で作品は生み出されるのか。そしてデジタル全盛の時代、クリエイターとして突き抜けるための条件とは?

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クリエイティブ業界の「怪物」が考える、突き抜けるための条件とは?

テクノロジーの進化やソーシャルメディアの普及により、今までにない「新しい表現」が日々誕生しているインタラクティブデザインの世界。コミュニケーションのあり方が変わり、ダイナミックな変化が、ここ数年で起こっている。

「クリエイティブ」の解釈や役割が変化するなか、時代の先をいくクリエイターは何を考え、何を生み出すのか。こんな問いへのヒントを探るべく、アートディレクター木谷友亮氏が率いる『カイブツ』を訪れた。




カイブツは、カンヌ広告祭銀賞、ロンドン広告賞、NYADC銀賞など数々の広告賞を受賞。海外でも注目されるクリエイティブカンパニーだ。WEBを駆使したインタラクティブコンテンツを生み出したかと思えば、ユーモアが溢れるモニュメントもつくる。更には映像も、イベントも、グラフィックも…表現領域を広げ続ける彼ら。

オンラインゲーム『regame』や、操縦可能ロボット『クラタス』のプロデュースなど、自社プロジェクトも活発だ。

彼らのモノづくりの根底にある思想とは?そして彼らが考える突き抜けるクリエイターの条件とは?カイブツ社を設立したアートディレクターの木谷友亮氏に話を伺った。

「デジタル」の解釈が変わり、提案の幅も広がった。

― いきなりの感想になってしまうのですが、カイブツは本当に表現の幅が広いですよね。なんでもやるというか。


そういった意味では「デジタル」が定着し、解釈が広くなったのかもしれませんね。カイブツが特に得意とする領域は「デジタル」だと思うのですが、オブジェみたいなものでもテクノロジーを使えば、それは「デジタル」だったりもする。イベントで使えばイベントだし。だから結局は何でもやる、ということなんですけど。


ただ、何でもやるとはいえ、クライアントワークなら「WEBやデジタルで何かやりたい」というオーダーが多いですよ。ブリーフがカッチリと決まっていることも多いですし。


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― そういった中で、特に求められているコンテンツの傾向はありますか?


WEBでいえば、すごく刹那的になっている印象はありますね。昔はWEBサイトを作り、数ヶ月間更新しながら少しずつ見てくれる人が増えればいいという時代で。

今だと公開した瞬間にSNSでどれだけ有名になるか。短時間でどれだけスゴイと思わせるか。だから、深く考えるよりも瞬発力が大事だったりします。ただ、何ヶ月も掛けてつくっても、数時間しかもたないコンテンツもあって。

もう、セミみたいですよね(笑)。長いこと土の中にいて、地面に出たらアッという間に死んでしまう。ずっとそれをやり続けるのは疲れるよな、という感覚はあります。

短所は補わず、長所を伸ばす。

― デジタルが進化したことで、求められるクリエイター像も変わっている気がします。これからの時代、クリエイターは何を武器にしていけばいいのでしょうか。


何かに秀でていれば、それでいいのかな、という気はしますけどね。何が出来る人かハッキリとわかっていたほうが仕事を任せてもらいやすいですし、結局はそういう人が生き残っているイメージもあります。

カイブツが大事にしているのは「短所は補わず、長所を伸ばす」ということ。絵が上手い人には、できるだけ絵の仕事を任せて伸ばしてほしいし、写真が上手ければ、その仕事をしてもらう。

ぼくは20代後半から35歳まで「寝ないでも大丈夫」が自分の個性だと思ってたし(笑)。だから、ただひたすら働いた。

ぼくの場合、もともとデザイナーですけど、特にそれが圧倒的な長所とも思いませんでした。企画もやるし、進行の管理とかもやるし、プロデュースみたいなこともやる。自分の長所次第ですよね。まぁ単にお節介が好きだから、何でもやっちゃうっていうのもあるんですけど。

突き抜けるためのセルフプロデュース。



― 今、クリエイティブの業界だとそれなりにスキルがあって、センスもあって…というクリエイターはごまんといますよね。でも、全員が一歩突き抜けて有名になり、大きな仕事ができるわけじゃない。その差はどこにあるのでしょう?


本当は「アイツの絵はマジで凄い」とか、それだけで有名になれたら最高にカッコいいんですけど…正直むずかしい。いるとしても日本に数人いるかどうかの天才じゃないですかね。

だから「自分は何者でどんな存在か」みたいなところをプロデュースするとか、うまく自分を見せなきゃいけないという部分は少なからずあるかもしれません。

…なんて偉そうなこと言っていますが、ぼく自身はセルフプロデュースがかなり苦手ですけどね。


― カイブツの場合、手がけてきた作品の面白さって言う部分で充分アピールできている気はするのですが…。


そう言っていただけるのはうれしいですね。「面白そうなことをやっている」と思われないと、会社としてもただ萎んでいくだけなので。業界全体として「年寄りに頼むよりも若い人に頼もうぜ」みたいな風潮もあって。たとえば、だんだん社員の年齢層があがっても、そこに負けない面白さをカイブツとして出し続ける必要はあると思っています。


― その「面白いことをやる」ためには、何が大事になるのでしょう。


圧倒的に自分が面白いと思えるかどうか。クライアントワークにしても自分の感情が入っていないとつくれないですよ。主観性のないものは相手にも響かない。


― ある種の作家性というか、自分たち発信で面白いことを見つけて、それができるかどうか?ということでしょうか。


広告に限ると作家性がいるのかどうかよくわかりませんが…少なくとも「頼まれる」ということは、何かしらその人、本人のユニークな部分に期待してくれているわけで。だから、ユニークさを持つのはすごく大事だと思います。

もちろん、あまりに一人よがりだと評価はされないから、ぼくは主観と客観のバランスをすごく気にしています。自分が面白いと思うし、みんなも面白いと思うかどうか。絶対にそれをぼくは両立したい。

だからこそ、流行っているものや事例とか凄くよく見ます。あとは自分たちで自分たちを売り出せる仕組みとか、タイミングがつくれれば、もっといいのかもしれませんね。

定食屋のおばちゃんに気に入られる。それも重要な資質。

カイブツ社オフィスでの製作風景

― もう一歩踏み込んで伺いたいのですが、「スキルもセンスもある。面白いものも作れる」その先へいくために必要な資質みたいなものがあれば教えてください。


うーん…ある程度スキルがあるという前提ですけど、チームに入って上手く機能するか。一緒に働いて気持ち良いかどうかじゃないですかね。もの凄く普通なことで逆に申し訳ないですが。


よくあるのが、打合せをしていてネガティブな意見を被せてくるとか凄く嫌いですね。打ち合わせなんてみんなが気持ちよく話せればそれでいいのに。

あと打ち合わせに関していえば、いっぱい事例を知っている人も重宝されますね。ぱぱっと事例が出せて、その組み合わせから新しいアイデアが生まれたり。話の起点とか、盛り上げ役になれる。ただ、事例を知り過ぎていて、なかなか案が出せないジレンマもあるかもしれないけど…。


― 特に駆け出しの頃だとスキルやセンスに目がいきがちですけど、いわゆるソフトスキルというか、その「人」が見られるということかもしれませんね。


そうですね。ありきたりですけど、「人と話せる力」とか「調整能力」とか。それがないと、どんなにいい企画だって、提案さえ出来ない。「あいつは傲慢だ」と思われたらみんな手伝ってくれないじゃないですか。特に会社の枠をこえたチームで仕事するほうが多いわけで。

昔、会社で働いていたころ、「定食屋のおばちゃんから大もりをタダにしてもらえる人間は伸びる」という話を聞きまして。それで、近所の定食屋さんに通いまくった。ついにある日、カニクリームコロッケを無料でつけてもらえるようになりまして。

「クリエイターたる者、つくるもので勝負」というのはありますが、それだけでは戦えないのも現実としてはある。少なくともディレクターの役割も担っていくなら、人との接し方とか、上の人に気に入ってもらうこととか、実はものすごい大事で。

「金持ち喧嘩せず」じゃないですけど、偉い人とか、有名な人に会うと、びっくりするくらい良い人ばっかりなんですよ。腰が低いとか、面倒見がいいとか。まぁ卵が先か鶏が先かわからないですけどね。


(つづく)


▼カイブツ木谷友亮氏のインタビュー第2弾
“「そのものづくりにロマンはあるか」カイブツが操縦可能ロボット『クラタス』をプロデュースするワケ。

[取材・構成]白石勝也 [文]山本翔

編集 = 白石勝也


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