クリエイティブ・ラボを名乗り、インタラクティブコンテンツからミュージックビデオ、モバイルアプリ、プロダクトデザインなど、多彩な領域で作品を発表するPARTY。第一線で活躍する伊藤直樹氏・中村洋基氏に、クリエイターの教育について聞く。百戦錬磨のクリエイターが見出した育成方法とは。
▼PARTY伊藤直樹氏・中村洋基氏インタビュー第一弾
恥をかけ、挫折せよ|PARTYが考えるクリエイターという存在[1]
「クリエイティブ・ラボ」を標榜し、インタラクティブコンテンツ、ミュージックビデオ、モバイルアプリ、プロダクトデザイン、デジタルインスタレーション、テレビ番組、ロボット…と、境界線のない領域でプロジェクトを立ち上げてきたPARTY。
彼らが「クリエイティブ・ラボ」と呼ぶに相応しいのは、『PARTY そこにない。展』での展示を振り返っても明らかだ。
このスーパークリエイターたちが、同じくクリエイティブ業界の雄:バスキュールと『BAPA』という学校を立ち上げることはCAREER HACKでも取り上げている。
第一線でクリエイティビティを発揮し続けている彼らが、なぜ後進育成に乗り出したのか。クリエイターはどのようにして育てられるものなのか。またクリエイターたちは、どんなキャリアを歩んでいくものなのだろうか。
伊藤氏と中村氏が考える、クリエイターによるクリエイターの育て方に迫る。
― PARTYは、一人ひとりが際立ったクリエイターであり、チームでもある。なぜそのバランスが保てているのでしょうか。
伊藤:昔、先輩に「クリエイターって才能にしか惚れない」と教わったことがあって。その感覚ですよね。
性格が良いとか何かくれたとかじゃなくて、それぞれが個々の才能に惚れているから、一緒にやっていこうと思える。それは上司・部下にも言えて、「君のここに才能を感じる」と思える部分があるし、逆に「伊藤さんのつくるものを尊敬しています」って思えなければ、僕の言うことなんて聞けないですよね。そんな緊張感の中でしか成り立たない関係なんだろうなと思います。
とはいえ、僕はそんなにストレートには言葉にして褒めないんですよ。言葉じゃなくて、才能に触れるとニヤッとしちゃう。そういうニヤッとできるかどうか、ニヤッとさせられる部分って意外と大切なのかな、と。
― お互いの才能を認め合っているということですよね。でも、新たな刺激を求めているというか、後進の育成にも動きだされている。どうクリエイターを育てていこうとお考えですか?
中村:いくつか方法はあると思うんですけど、難しい問題だとも思います。PARTYでいうと社員が約20名いて、全員が細かいところで違う職種なんですね。だからみんな、それぞれ違うところを目指しているはずだと。全員が「中村を超えてやろう」「伊藤を超えてやろう」というんじゃなくて、彼らが目指すべきものがあって、それを僕らが認めて、それを互いに利用し合う状況がいいのかなって思うんですよ。
例えば僕と伊藤では、スキルセットがぜんぜん違う。伊藤はアートみたいなものに造詣が深くて、そこらのアートディレクターよりこだわったモノづくりをしている。僕でいうと、プログラマで、フロント分かるしバックエンドも分かって、WEBに限らずデジタルなアプリケーションは何でも使える器用貧乏タイプ。そんな二人が、同じクリエイティブ・ディレクターという肩書なんです。
マーケティングを知っているクリエイティブ・ディレクターも強いでしょうし、営業センスがある人とか、いつも誰かにサプライズしてあげたくなっちゃう人とか、ガリガリのプログラマとかデザイナーとかだって強みがある。その強みを活かしていくのがいいと思うんです。
― クリエイターとかクリエイティブ・ディレクターとかって、多様なスキルとバックグラウンドの掛け算で成り立っているということですね。中村さんはどのように今のポジションに辿りついたのでしょうか。
中村:電通時代に育ててもらったという気持ちもあって。電通に入った時の僕って別にアートディレクターでもコピーライターでもなくて、何者でもなかったんですよ。プログラムがちょっと書けたというだけで、「じゃあ、この仕事やってみる?」みたいに色々なプロジェクトに参加させてもらえた。普通だったら分厚い壁に阻まれている、世の中に表現を落とすっていう仕事を、フロントに立ってバンバンやらせてもらえたんですね。
適度に支えてくれる人もいて。なんでかわからないけど「お前、カンヌ(広告祭)に行ってこい」って言われて、日本代表として行ってあっという間に負けて帰ってきたことも。でもその悔しさがバネになって、そこで見たすべてからインスパイアを受けてきた。明らかに覚えている「成長させてもらえる瞬間」があるんですよ。
じゃあ下の子にまったく同じ経験を…とやらせてみても意外とダメですね。同じインスパイアを受けて帰ってこなかったりして。もしかしたら「育てる」なんていうのはおこがましいのかもしれない。それぞれの育ち方があって、その「場」をうまい具合に与えてあげる、経験させてあげるコツみたいなものは探していますね。
一方で、BAPAみたいなスーパークリエイターを育成する場で考えると、徒弟制度みたいなのは面白いかもしれないと考えてます。例えば、ひとつのキャンペーンがあったら、すべての作業を後ろで見させる。まったく同じ体験をさせる中で「この人のやり方を盗んで、スリップストリームを利用して超えてやる」と思わせるみたいな(笑)。
寿司職人が板前さんの手さばきを盗んで覚えるカタチが、色々言うより早いんじゃないかと。その先で、どのスキルがどんな風に活かせるかっていうのは、その人次第になってくると思います。
伊藤:みんな、良いものを選ぶ能力はあると思うんです。でも、それを「つくれ!」って言われると、とたんにできなくなる。もちろん、良いモノを見つける嗅覚は必要になりますが、それは訓練で磨いていける物なんですよ。アホになったつもりでアイデアを出し続けていけば、絶対に他人が「いい!」と言ってくれるポイントがわかるようになる。
ショボいアイデアだったら無視されるじゃないですか。日本人ってなかなか「ショボい」って言ってくれない代わりに無視する。それでも出し続けるんですよ。続けていく中で、これは「いい!」と言ってる、これは無視されるんだな、というのが見えてくる。そうやって嗅ぎ分けられるようになるんですよ。
慣れてない若者って意固地になって「これ超良いと思うんですけど!」って鼻息荒く言ってくる(笑)。「徹夜して考えたんで、すごく良いと思います」って言ってくるけど、一蹴しますね。さすがに徹夜してるんで「ショボい」とは言わないですけど、そういう経験が一番の教育になるんじゃないかな。
― 無視されてもアイデアを出し続ける。それが一番育つ方法になるということですね。
伊藤:僕らは裸になるんですよ。恥、つまり裸をたくさん晒してきたし、今でも続けてる。だから「どういうときに俺の裸を褒めてくれるんだろう?」っていうのが分かるようになってきた。裸になり続けたことで、分かるようになってきたんです。
がんばって考えたアイデアを否定されるのって、むちゃくちゃ辛いんですよ。昔はそれで「このクソCD(クリエイティブ・ディレクター)!」とか思ってましたけど(笑)、それでも出し続けた。変なプライドなんか捨てて、どんどん無視された方がいいですよ。
そのうち痛みは感じなくなります。アイデアを出すときに、否定されたら恥ずかしいから嫌だとか思わなくなる。洋基くんとか川村くんとかすごいクリエイターを見てると、ふてぶてしいですよ(笑)。ぜんぜん痛みを感じてない。
― (中村さん)本当は傷ついている?
中村:いや、もちろん(笑)。
伊藤:あれ(笑)?
― コンプレックスや恥ずかしいと思う部分を表現してこそ、作品に説得力がでたり、深みが出たりするということでしょうか。それが「裸」になるということかと。でも、なかなか「裸」になれないですよね、自尊心とかプライドが邪魔して。
伊藤:「俺の前で裸になってみろ!」とか言っても、絶対にならないですよね。美大で教えたりしてるんですけど、恥ずかしいとかプライドが高かったりするケースが多くて。否定されたくないとか、自分の何かをさらけ出してまでモノづくりしたくないって思い込んでみたり、若いうちはガードが固いですよね。自分もそうだったと思うんですが、なかなかさらけ出せるようで出せない。でもそれができたときに、一皮剥けるというか、すごく良いモノをつくれたりするんです。
美大の講義の中で、課題をやってもらった時のことなんですけど。ある女の子が、僕にイラついているというか、大学生活そのものにイラついていたり、モラトリアムで超イライラしてたんですよ。授業来てもふんぞり返って「お前の講義なんて聞かねーよ」みたいな状態で。
2ヶ月くらい経過したときに、個別に途中経過の報告をしてもらったんですよ。するとその女の子は、まっさらな白紙状態。「何も思いつかない」って平気な顔で言ってきたんです。普通だったら「2ヶ月間、何やってたんだ?」って怒ってもいいんですけど、グッと堪えて(笑)。「お前、絶対何かあるよ。見つかるよ」って言って、ずっと気になっていたことをぶつけてみた。
その子、異様なまでに『青』が好きなんで。着ている服、持っている鞄、何から何まで青系統。「何でそんな青いの?」って聞いて、青が好きな理由を書き出そうって言ったんです。でも「理由なんてない」「あんたに言う筋合いはない」みたいに怒ってきて(笑)。
いい加減、カチンときたんですが、そこも堪えて。何かあるだろうと手を変え品を変え続けていったら、次第に氷が溶けるようにその子が話し始めたんです。そして最終的には「青ってこういうものだ!」っていうプロジェクションマッピングの作品をつくってきた。抜群に良かったんですよ。
その時に改めて思いました。「裸になれ!」って強制しても絶対に上手くいかない。「分かりました、脱ぎます」なんてならないんです。必要なのは、裸になれる環境をつくってあげることなんだって。気持よくさせて、裸にするのがポイントですね(笑)。
▼PARTY伊藤直樹氏・中村洋基氏インタビュー第三弾
さらば、名もなきクリエイター|PARTYの視点[3]
[取材・文] 城戸内大介・白石勝也
編集 = 白石勝也
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