DeNAはクリエイター有志の手で、ある展示会を開催した。なぜ日々の業務と並行して、新たな“創作活動”に取り組むことになったのか。日々の業務に忙殺されてしまっているクリエイターの“これから”を考えるヒントを探るべく、プロジェクトを取り仕切った坪田朋・渡辺孝夫の両氏に話をうかがった。
2014年1月26日~2月1日にかけて原宿にあるデザインフェスタギャラリーEAST101にて『でじたる の あなろぐ展』が開催された。会場内を飾ったのは、絵画やイラスト、立体、映像、さらにはインスタレーションなど、多彩な作品。来場者数は1000名を超え、イベントは大盛況のうちに幕を閉じた。
実は、これらの創作にあたったのが、ソーシャルゲーム業界の“雄”DeNAで働くクリエイターの面々だ。なぜ、DeNAのクリエイターたちは本業とはかけ離れた“創作活動”に挑んだのか。その経緯をUXデザイン部の部長であり、今回のプロジェクトのオーナーである坪田朋氏とデザイナー イラストレーターの渡辺孝夫氏に話をうかがった。
― 「でじたる の あなろぐ展」、大盛況でしたね。あれをDeNAのクリエイターが開催したというのが意外なんですけど、なぜ始めたんですか?
坪田:そもそもの話なんですが、クリエイターって「好きなものをつくりたい生き物」だと思うんです。それに対して、会社としてもっとサポートができるのではないかと考えてスタートしました。弊社の主力サービスであるソーシャルゲームは、日本で5000万人が使ってくれているサービスです。多くの人に誤解無く楽しんでもらうゲームをつくるためには、表現としての一定の制約もある。その中で、クリエイター自身が個性を育てながら成長してもらうために、手段を選ばず、やれることはやっていこうと考えました。
渡辺:業界全体がそういう流れにあっても、「DeNAならいろいろできそうだ」と思って入社してくるクリエイターが多いです。ただ、日々の仕事の中で、トレンドを追ったり成果を求められる中で、「つくりたいもの」よりも「必要とされるもの」をつくることに、意識が傾いてしまうケースもあります。そのため、入社当初と比べ「落ち着いたものをつくってしまう」と感じてしまう社員も出てきました。
坪田:実は、あるクリエイターから「もっと好きなものを作りたいですね。。。」と言われたことがあります。ハッとしましたね。何か手を打たねば、と。
また、マネジメントしている立場としてビジネス的な側面で考えても、“好きなこと”から始めたものが、将来的には“マス”になり得る可能性があるので、その可能性を潰してしまうのはあまりにもったいない。そこで彼らの個性を伸ばす活動をさせてあげられる場をつくることにしたんです。
― “創作活動”を通じて、クリエイターの表現欲求を解放したい、と。
坪田:そうですね。あと、このプロジェクトを通じて「DeNA=Mobage=ゲーム」というイメージを変えたかったのもあります。当社は、ゲーム以外にもWEBやネイティブアプリ、マーケティングからスポーツまで事業を展開しているので、クリエイターが活躍するステージも多岐にわたっているんです。収益の柱はもちろんゲームですが、それだけじゃないぞ、と。
渡辺:僕が転職活動中にDeNAのことを調べたときも、「Mobageの会社」以上の情報を知ることはできなかったですね。でも、入社してからは、こんなこともやっているんだという驚きや発見の連続で。同時に、会社の強みや魅力が発信されていないことに、とてももったいないと感じていたので、このプロジェクトは非常に意味があると思いました。
― いざ始めるぞ、となったとき、参加者はすぐに集まったんですか?
坪田:集まらなかったらどうしよう…という心配もあったんですが(笑)、声をかけてみると20名近くが賛同してくれて。プロジェクト概要を説明してみると、みんな目を輝かせてるんですよ。「そんなことやってもいいんですか!?」って(笑)。
渡辺:有志で集まってくれたメンバーに、ひとつだけ制約を設けたんです。「DeNAという名前は出さないでやろう」と。会社の看板は外して、クリエイターの表現力だけで勝負しようという決意です。同時に、クリエイター自身の名前を売るチャンスになったらいいとも考えていました。作品を見た人が声をかけて、そこからビジネスが生まれる可能性もありますからね。
― 作品づくりで、印象的だったことはありますか?
渡辺:印象的だったのが、皆、本当に楽しそうにしていたこと。日常の業務と並行して進めていくわけで物理的にも大変なはずなのに、仕事では見せないイキイキとした表情をしていたんですよ(笑)。また、お互いの作品が気になるのか、クリエイター同士のコミュニケーションも盛んでした。クリエイターが楽しそうにモノづくりをしているので、他部署から見学にくる社員もいて、注目度が高かったのは本当に良かったですね。
― かなり高いモチベーションで展示会に臨めたんですね。
渡辺:準備までは順調だったのですが…レイアウトが当日まで決まっていなくて。展示会なので、レイアウトは重要ですよね。ところが、さて困ったぞ…というところで日常業務での経験が発揮されたんですよ。「入口付近にインパクトのある作品を展示して目を引かせる」や「中間地点に来場者参加型のインスタレーションを展示して動きを止める」などの意見が出てきて。ソーシャルゲームで培ったUI/UXの知見が見事に活かされました。
レイアウトが上手く決まって、いざ作品の展示となったときも、すごく印象的なことがありまして。すべての展示物に作者のプロフィールと作品の説明を記載したんですが、「名前載せていいんですね!」って大喜びでした。普段携わる業務では名前が出ないことも多いので、やっぱりクリエイターって自分の作品は「自分がつくった!」って言いたいんだなって。
― 展示会を終え、参加したクリエイターの皆さんにどんな変化がありましたか?
渡辺:部署を超えて、皆仲良くなりましたよね(笑)。あと「こんなことをやってもいいんだ!!」っていう雰囲気が強くなりました。
坪田:そうですね(笑)。クリエイター同士、お互い興味を持つようになったわけですから。いいものをつくろうという意識は以前にも増して高まったと思います。モチベーションって、数値化できないじゃないですか。だから、ビジネスとしての“成果”とは言えないかもしれない。でも、モチベーションが高まったのは事実。これを全社に波及していきたいと強く思っています。
「マンガボックス」のエンジニアとソーシャルゲームのイラストレーターが一緒に作品をつくったのですが、今までのようにビジネス上のつながりだけでは、こうした接点は生まれませんでした。この活動から生まれたチームが“化学反応”を起こし、新たなサービスを生み出してくれるんじゃないかと期待をしています。
― 部署の垣根を超えて生まれた“企画”については、どこまで容認するのでしょうか?
坪田:ビジネス上の決裁が必要なものや、ある程度の予算やリソースが必要なものには見極めが必要ですが、基本的には勝手にやってもらっていいですよ(笑)。水面下で新しいサービスのプロトタイプを作って「これ事業化させたいです!」という動きは、大歓迎です!その結果、新たなビジネスが生まれたら、創作活動の“成果”と言えるのかもしれませんね。
― これをきっかけに新しいサービスが生まれると面白いですね。今後については何かお考えですか?
渡辺:
“創作活動”については継続的に行なっていきます。今回やってみたら、あらためて、DeNAのクリエイターが持つ個性や可能性を再認識できました。今後はさらに発展させて、他社のクリエイターとコラボレートした展示会などをやってみたいですね。他社のクリエイターと組めば、シナジー効果でよりインパクトある作品が生まれると思います。
坪田:この記事をご覧になっていて、コラボレーションに興味のあるクリエイターの方は、ぜひお声掛けいただきたいですね!!その次のステップとしては、文化庁など国と一緒になって、“Made in Japan”のクリエイティブを世界中に発信していきたいと思います。
― 普段の業務だけでなく創作活動をすることでクリエイターの個性を伸ばし、それが彼らの生き方に大きな影響を与えるのだということを改めて感じることができました。本日は貴重なお時間をいただきありがとうございました!
(おわり)
[取材] 梁取義宣 [文] 田中嘉人
今回お話を伺ったDeNAでは、UI/UXデザイナーの募集を行なっています。
ゲーム以外にもWEBやネイティブアプリ、マーケティングからスポーツまで幅広い事業を展開しており、活躍するステージは多岐にわたります。また、創作活動を通して、様々な部署のクリエイター・エンジニアと「好きなもの」「つくりたいもの」をつくれる場もあります。
ビジネス、クリエイティブ面両でキャリアを高めたい方は、ぜひチェックしてみてはいかがでしょうか?
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