2014.04.18
SXSWはものづくりマインドと幸福感で溢れていた。|「HACKist」のSXSW2014体験記

SXSWはものづくりマインドと幸福感で溢れていた。|「HACKist」のSXSW2014体験記

先月3月7日~16日にアメリカ テキサス州オースティンにて開催された世界一のクリエイティブ祭典「SXSW2014」。Trade Showにて月面を走るデジタル体験を提供する「Tread The Moon」を発表したハッカーユニット「HACKist」の望月重太郎氏にSXSWの体験記を寄稿いただいた。

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SXSW2014に参加したハッカーユニット「HACKist」

先月3月7日~16日にかけてアメリカ テキサス州オースティンにて開催された世界一のクリエイティブ祭典「SXSW2014」。日本からは、東京大学の学生などが作った100%人力の人型ロボット「Skeletonics」や、手首につけると自分の動きにアプリ動きと音を連動させた新しい遊びの体験ができるスマートトイ「Moff」、プロジェクションマッピングで全く新しいビリヤード体験ができる「OpenPool」などが海外メディアでも取り上げられ、大きな話題になった。


同じく海外メディアから注目が集まったのが、月面を走るデジタル体験を提供するランニングデバイス「Tread The Moon」を発表したハッカーユニット「HACKist」だ。前回に続き、発起人である望月重太朗氏に、SXSWに参加して感じたことを寄稿いただいた。今年は参加できなかったが、来年こそ参加をしてみたいと考えているクリエイターやエンジニアは、本レポートを一読いただければと思う。


望月重太朗氏

世界一クレイジーな街“オースティン”

「Keep Austin Weird(オースティンは変わりものであり続けよう)」これは、オースティンの街のスローガンとして使われている言葉です。


SXSWアジア事務局のオードリー・キムラさんに聞いたところ、テキサス州の大部分は比較的マジメな都市が多い中、オースティンは意識的に変な街であることを貫き、そう見られることを受け入れて、そしてその状況を暮らす人みんなが誇りに思っているとのこと。そういう風土だからこそ、SXSWのような世界でも類を見ないごった煮クリエイティブフェスティバルが、約2週間にわたって開催できるのでしょう。


そのような「変であり続ける街」オースティンに、HACKistで過去に制作してきたアイテムと今回の出展向けに用意した新しいプロダクトを引っさげ、4日間のTrade Showに挑みました。そこで巻き起こった出来事や様々な経験をこの場を借りてレポートしたいと思います。

そもそもTrade Showって何なのか?

実際に入ってみてわかったのですが、Trade Showはデジタル/インタラクティブが関わってるものであれば「何でもあり」の見本市です。スタートアップ系の新しいサービスやプロダクト、企業が提供するコンテンツやアプリなどのブースにはじまり、スマートフォンアクセサリーや高額カメラの物販を行っている場所もあれば、なぜか床屋やマッサージを提供するブースまで…。それらは深く見ていけばその待ち時間にサービスの内容がわかるようになっているのですが、ぱっと見は「え、なんで?」と首を傾げたくなるブースもあったりします。


SXSW-TradeShow

Trade Showのブースで床屋を提供している様子。


また、国ごとにブースエリアが分かれていて、イギリス・ドイツ・オランダなどのヨーロッパ諸国から、日本・シンガポール・韓国などのアジアの国々まで、各地の特色を表すブースがそれぞれに立っており、周辺にその国の企業や出展者が集まっています。また、ミュージックの期間が始まるTrade Show後半には、国ブースのステージでその国出身のアーティストがショートライブを始めたりなど、音楽まで絡んでくる場所なのです。Trade Show行われるホールの中だけ見ても「なんか変」な空気をそこかしこで感じる事ができます。


SXSW-TradeShow

Trade Show3日目にスウェーデンブースでライブしていた
Kristal and Jonny Boy。

準備は4つのポイントから。そして、できるだけ入念に。

そんなTrade Showですが、僕たちの出展目的の中心は「HACKistの活動をSXSWを利用してPRする」ことでした。前回のレポートでも触れたように、広告制作を行うかたわらで活動している僕たちの「部活」的な動きの中から産み出されたプロトタイプたちを、日の目にさらす場所として今回のSXSWに注目し、出展が実現しました。そこに向けて、長ったらしい説明や設定を必要とせずに、ぱっと見で理解できて体験できる作品を中心に、今回の展示アイテムを選びました。実際に作品に触れてもらう中から、僕らが提供する価値として掲げている「生活に足りていないものを、アイデアやテクノロジー、デザインで変化させる」ことが伝わると考えたためです。


ただ、展示自体も初めてですし、様々な国のメディアや職業、立場の方が参加する場所で僕たちの作品がどう受け止められるか、開始のその瞬間まで不安で一杯でした。そのため、失敗の無いようにできるだけの準備を出国前に行い、到着後もセットアップに使える2日間をフルに使ってブース設営とリハーサルを入念に行いました。


SXSW-TradeShow

セットアップ前のブース。想像していたより小さかった。


具体的に、意識した最も大きいものとしては「そもそも、ブースに人が集まらないと意味がない」ということです。そこで、以下の4つのポイントから作品の脇を固める準備を行いました。


(1)ブースの空間演出
ブースを借りる際に、背面のついたてを布かパネルかを選べるのですが、僕たちはパネルを選びました。パネルの方が金額としては高くなるのですが、カスタマイズが色々可能だと考えた為です。
メインプロダクトである「月面を走る」体験のできるランニングマシンが展示の中心にくるので、月面上にいる感覚を少しでも演出するために背面パネルを月面写真の印刷された布で覆い、床のカーペットも月面を感じさせるグレーで統一しました。また、その他の作品を展示するテーブルもむき出しだと格好がつかないので、発色のよい濃いブルーの布にHACKistロゴを印字し、それをテーブルクロスとして使用しました。全体としてはグレー、だけどそこにブルーをバシッと入れる事で、ソリッドな印象となるブースに仕立てました。


SXSW-TradeShow

セットアップ完了後のブース。


(2)チームを統一するユニフォーム
前述のように今回のメインプロダクトは「月面を走る」ものだったので、宇宙開発の現場っぽさを意識してツナギでユニフォームを作り、ロゴを印字したキャップとTシャツも用意しました。ブース自体が硬質な落ち着いたトーンなので、そこに映えるようにツナギをイエローで制作し、ブースと人のコントラストから全体をキワ立たせよう、と考えました。


SXSW-TradeShow

背面には「HACKist」ロゴを。


(3)呼び込みに使えるアイテム群
ロゴの印字してあるTシャツを黄色/濃紺のカラーでそれぞれ50枚ずつ用意しました。また、同時にステッカーも150枚ほど制作しました。実際にこれらのアイテムのおかげで、ブースの呼び込みがかなり楽に行えました。フライヤーについても、Trade Showに来るお客さんは様々なブースを巡る中ですぐに手持ちが一杯になると聞いていたので、ポストカードサイズで制作して少しでも手に取ってもらえるように配慮しました。


(4)事前告知用のWebサイト&コンセプトムービー
Trade Show開始の数日前に、展示の概要が分かるWebサイトとコンセプトムービーを用意しました。メディアに取り上げられる際、URLがあるとそれがそのまま掲載されるので、これはまず必要だと考えました。コンセプトムービーはブースに設営したモニターでも流す事で、説明員の負荷軽減にも繋がります。このような制作物は、あればあるだけ運営時の手助けになってきます。


これらの準備したアイテムのほとんどは、メンバー5人でトランクを振り分け、ほぼ手持ちで日本からアメリカに持ち込みました。万一、配送遅延があって何も用意できない!という事態を避ける為です。そのような、気にしすぎるほどの用意で、Trade Showへ挑むこととなりました。


一目見て理解できるプロダクトが大きな話題に繋がった。

僕たちのプロダクトは「走るだけ」で体験できるものです。裏では回転センサー・心拍センサーからの入力を受けてUNITY側でビジュアルとサウンドを出力し、トータルの走行距離は常に蓄積されて月面上にルートが描かれる……といった様々な処理を行ってはいますが、ユーザーはただバーを握って走るだけ。その割り切りがよかったのでしょう、開始早々からお客さんが次々に体験してくれて、幸いなことに4日間休むこと無く様々な国籍の、子供からご年配に至るあらゆる方々に楽しんでいただけました。


SXSW-TradeShow

この少年は3日間も遊びにきてくれた。



そもそも、室内でただ黙々と走るだけのルームランナーは退屈なものです。風景も代わり映えしないし、走っている間はテレビを見るか、音楽を聴くかだけ。その退屈さを解消する一つの回答として、このプロダクトが受け入れられたことも大きな要因です。体験してくれた皆さんから、走るだけのこのシンプルな体験を通じて驚きや笑顔がこぼれ、口々に「Cool!」「Amaging!」「Oh my god!」と言ってもらえたことは何にも代え難い収穫でした。


SXSW-TradeShow

メディアの取材や撮影も数多くやってきた。


また、ナイフで食材を切ることで音がなるデバイス「Kitchen DJ」や、お湯を注げば三分間だけレコードが回る「Noodle Record」も大人気でした。そのような「ぱっと見で理解でき、体験したら驚きがある」ものを中心に据えたことが成功に繋がったのだと思います。


来年のTrade Showに出展予定の人に伝えたい、10のポイント。

これまで書いたことと重なる部分はありますが、出展を経た上で見えたポイントをまとめてみます。ひとまずここを押さえておけば、準備として大半はカバーできるのでは無いでしょうか。


(1)フライヤーは最大でもポストカードサイズに。
かさばるサイズの紙はあまり手に取ってくれないので、フライヤーは極力小さく、シンプルにまとめましょう。QRコードはアメリカでも浸透しているので、フライヤーに入れこむことをオススメします。


SXSW-TradeShow

表面はプロダクトの説明、裏面はHACKistの活動コンセプトがわかる構成とした。



(2)もらってくれそうなインセンティブは、色々と使える。
今回、体験者へのインセンティブとしてTシャツとステッカーを持って行きましたが、これはかなり使えました。Tシャツを並べてるだけでそれを欲しがるお客さんが勝手にブースにやってくるので、閑散としてきたときに上手いタイミングで出せばそれだけで人が集まってきます。また、「ハッシュタグ付きでツイートしてくれたらあげるよ」も魔法の言葉です。これで何人もの人が呟いてくれました。


(3)特徴的なユニフォームは、色々と使える。
ツナギ型のユニフォームは今回僕たちだけでした。それもあってか、その格好でうろうろしてるだけで「おっ、あそこの月面のブースでしょ?」と言ってくれる人もチラホラと。まだ来場していない人にも、一つのわかりやすい目印になっていました。


あと、チームの連携感とブースとしてのまとまりが演出できるので、ユニフォームはどんな形であれ用意することをオススメします。


(4)ハッシュタグは事前に用意しておく。
拡散して欲しいワードをハッシュタグとして用意しておけば、実際にツイートしてくれている人がどれくらいいるかが即時にわかるので、運営しながら対策が立てやすいです。僕たちは初日、ハッシュタグを用意していなかったのですが、二日目から用意することで(2)にも書いたインセンティブとの絡ませ方がすごく組み立てやすくなりました。


SXSW-TradeShow

2日目に手書きでハッシュタグを用意。
動向を見ながらリアルタイムにブースを変化させていく。



(5)Webサイトとコンセプトムービーは無理してでも事前に用意する。
渡航前の話題作りにも、メディア露出時の際も、URLがあればそこが一つのハブになってくれます。また、2分以内のコンパクトなムービーがあれば目に留めてくれやすく説明も楽になるので、Webとムービーはダブルで用意しておくことをオススメします。


(6)ブースのデコレーションは布がオススメ。
ズバリ「安くて軽い」です。前述のように、テーブルに敷いたりパネルを覆ったりの用途にも使えますし、紙のように折って跡がつくようなこともないので、デコレーション素材としての使い勝手は抜群でした。また、サイズの割りに比較的安価に出力できます。


(7)持ち込めるものは可能なだけ手持ちで。
オードリー・キムラさんに聞いたのですが、配送遅延でTrade Show期間内に大切なものが届かず、パフォーマンスができない状況に陥ったブースが過去にあったようです。そういった事態を避ける為に、極力手持ちで持って行く方が安心です。僕たちもかさばるトレッドミルは開催の三週間ほど前に余裕をもって会場に配送しましたが、その他の機材はほぼ手持ちで持ち込みました。


SXSW-TradeShow

5人で計10個のスーツケースを手持ちで。


(8)ローカル環境で動くような作品に。
会場のwi-fiはとても不安定です。繋がらずにサービスが披露できない……といったことを避けるため、サーバー連動型の作品もTrade Showの為にローカル環境を構築して、そこで動かすことをオススメします。


(9)説明スタッフは最低二人は必要。
これはTrade Showのレギュレーションなのですが、ブースが空になると$1,000の罰金が発生します。最悪、食事行ったりトイレ行ったりも不可能になるので、最低二名体制でブースを回すことをオススメします。


(10)ネーミングはワンワードで。
URLをつくるにも、ハッシュタグを用意するにも、プロダクトの名前がワンワードで表現されていると色々と用意しやすいです。僕たちはチーム名をハッシュタグ化しましたが、「TREAD The Moon」ではそこが難しかったという事情もありました。また、ネーミングが複数の単語で構成されているとサーチしにくい、という弊害も生まれます。


以上、出展の際のチェックリストとして活用してもらえると幸いです。

世界一クレイジーな街で過ごした4日間は、最高に幸福な時間だった。

行ってみるまでは不安だらけでしたが、駆け抜けてみたら心の底から楽しめた4日間でした。そして、周りのブースを見渡して感じたのですが、Trade Showは「世界中のものづくりマインド見本市」でもあるということです。企業から学生に至る、様々なものづくり大好き野郎たちが世界中から集まっています。画期的なサービスやプロダクトがゴロゴロしているSXSWですが、その中でもただ作りたくてやってみた、みたいなブースもチラホラと見受けられ「作って、披露して、あっと言わせたい」そういったマインドで溢れている場所です。そこに、クリエイターとしてプロダクトを持って4日間も参加できたことは、何にも代え難い幸福でした。


勢いで飛び込んでもそれを受け止め包み込んでくれる度量の広さも含めて、「変であり続ける街」オースティンの持つべきパワーなのかもしれません。


SXSW-TradeShow

Trade Show終了後のJAPAN NITEにて、
4日間のデモンストレーションは幕を閉じた。


HACKistが国内初の展示会「DIGITAL SCRAMBLE」を開催!

SXSW-TradeShow


ハッカーユニットHACKistが来週4/25(金)~4/27(日)に神宮前ROCKETにて展示会「DIGITAL SCRAMBLE」を開催する。本展示会では、SXSW Trade Show 2014に出展し好評を博した「TREAD The Moon」、アワード受賞作品を含む8種をはじめ、4種の新作も展示するとのことだ。彼らの作品に少しでも興味を持った方は参加してみてはいかがだろうか。


[日時]
2014年4月25日(金)  12:00~20:00
2014年4月26日(土)  12:00~20:00
2014年4月27日(日)  12:00~18:00

[オープニングパーティー]
2014年4月25日(金)  18:00~20:00

[場所]
ROCKET
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前6-9-6

[入場]
無料

[主催]
博報堂アイ・スタジオ / HACKist

[展示会詳細]
http://hackist.jp/digital_scramble/


編集 = 寄稿


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