ココナラの共同創業者・取締役でありプロダクトマネージャー/UIデザイナーの新明智氏とBCG Digital Venturesのエクスペリエンス・デザイナーの坪田朋氏。この二人が語った「経営者に知ってほしいデザイン戦略の真実」とは一体何なのか。セッションの様子をお届けしたい。
経営において「デザイン」の重要性が見直されている。ただ、経営層と現場でデザインへの理解度、捉え方が異なることもあり、衝突が起こることもあるそうだ。
果たして経営者はどのように「デザイン」と関わるべきなのか。そして、より良いプロダクトを世に送り出すためにできることとは?
坪田氏の回答はとても明快だった。
経営者に求められるのは「役割」を見極める事。良いプロダクトを作るためには優れたUIだけではなく、理想のユーザー体験を実現するための「ビジネスパートナーとの交渉」そして「情熱」が必要です。(坪田)
例にあげたのは「Tech in Asia Tokyo 2016」1日目にメインステージに登壇したメルカリだ。今年6月にヤマト運輸と提携。集荷サービス「らくらくメルカリ便」はボタン1つでドライバーが自宅に来てくれて物を届けられる。
(Tech in Asia Tokyo 2016でのメルカリ 山田進太郎さんのトークセッションはこちらから⇒メルカリを真似しても勝てない決定的な理由。山田進太郎が語る「愚直さ」という武器)
情熱を持ってビジネスパートナーと交渉しつづけたから実現できたのではないでしょうか。ビジネスとプロダクト両輪が同じ方向を向く事で、理想的なユーザー体験が実現できるのだと思います。僕らが理想的なインターフェースの実現に情熱を注ぐ、一方で経営者はそれを実現可能にする「交渉」する事でサービスに魂が吹き込まれます。(坪田)
重ねて、坪田氏は経営者とデザイナーの理想の関わり方について言及した。
デザインに関して言えば、経営者の思い描くUIが必ずしも正しいわけではありません。スクラップビルドしながらユーザーに評価してもらう方が健全ですし、ユーザーに受け入れられない場合は、ピボットした方が結果的に叶えたいユーザー体験を実現できる事もあるので、デザイナー、経営者、ユーザーの3者でキャッチボールしながらつくり上げる状況が望ましいんじゃないかと思います。(坪田)
UXデザインと言っても事業戦略にかなり近しいところと、最適なユーザー体験をつくることは別のフェーズなので、事業戦略に近い部分は経営者がしっかりとコミットしてデザイナーをリードする領域だと思います。(新明)
いくらプロダクト側が良いUIを作っても、きちんとどうすればその仕組みが回るのか。ビジネスのロジックを含めてやっていかなければ良いユーザー体験を生むことはできない。経営者が「ユーザー体験」に踏み込み、デザイナー側からもボトムアップで経営者に提案していく。このプロセスを経てることが重要だという。
仮に「デザイン戦略を重視する」と経営者が意思決定した場合、インハウスで行うか、外部に頼るか、2つの選択肢がある。どちらがいいのだろうか。
組織の規模感によって戦略は変わりますが、コアとなるサービスデザインの責任者を社内に置きつつ、外部パートナーの協力を得ながら作り上げていく。これが僕個人的には理想の形だと思います。昨今は技術進化も激しく、ウェブ、アプリ、時にはハードデバイスまで、叶えたい事すべてをインハウスデザイナーが実現するには、ある種のリスクにもなり得ます。育成環境を自社に作るか、適切な外部パートナーを見つけるか。経緯者には難しい判断になってくるので、デザイン責任者か専門家の意見を聞きながら意思決定していくスタイルが良いと思います。(坪田)
一方でココナラの新明さんは基本的にはインハウスを採用しているという。ただし、プロジェクトや案件によって外部のパートナーも活用。基準になるのは「プロダクトのコンテクスト」だ。
どのような考えやビジョンでプロダクトをつくってきたかが重要。施策や展開を経て積み重なってできたプロダクトは外部のパートナーとやるよりも、社内のデザイナーとコンテクストと共有しながらつくっていく方がコミュニケーションコストが低く、より迅速に動けます。(新明)
ただ、例外もあるという。
ただ、アプリでいえば、どういった形でユーザーに出すと刺さるのか、仮説づくりみたいなところから外部のパートナー(※このケースでは Standard Inc)に協力をしてもらって作りました。時間的、リソース的な制約、学習コストなどを鑑みてデザインはインハウスではなく外部のパートナーを選択しました。結果、プロジェクトがうまく立ち上がり、後々の変更もしやすい形で作れたので、使い分けが大事だと思います。(新明)
坪田氏は外部パートナーについてこう補足した。
ただ、優秀なデザイナーファームに依頼したとしても、任せるというスタンスではなく、企業側も一緒に作り上げていく意思が無いと良いプロダクトは絶対に生み出せません。意思決定のレスポンス、そこに掛ける予算、企業のアセットをどう使うか。受注者、発注者という上下関係ではなく、パートナーとしてディスカッションし、判断しながら進めていくべきです。(坪田)
プロダクトと直接関わるデザイナーにはどのような役割が求められるのか?新明氏はこう語る。
UXデザインと言っても事業戦略にかなり近しいところと、現状のプロダクトのユーザー体験をブラッシュアップしていくのは違いがあります。ココナラで言うと、5年後、10年後はこういったユーザー体験ができるプロダクトにしたいというビジョンがあり、いまのユーザーをベースにした最適化に囚われず、大きなトレードオフが生まれることも事業戦略上決めていかないといけません。決めるのはビジョンをもっている経営者がやるべきです。これでいくんだというビジョンや目指すユーザー体験と、いまのユーザーとの距離を矛盾なくつなげていく。それがUXデザインやデザイナーが担う役割なのではないかと思います。(新明)
UXデザインは「デザイナーがやっていくべき」こういった捉え方をされることが多いが、実際にどういった形で関わっていけばいいのか。
組織の規模にもよりますが、立ち上げ期やスタートアップの場合は経営者や社長レベルの人間が、明確なビジョンを打ち出し、デザイナーと共に作り上げていく必要があります。経営者の中には、デザイン = 絵心が必要なアートだと思って、アレルギー反応を起こす人も居ますが、腹を割って話しながら共創する姿勢が大事だと思います。(坪田)
そして、さらに大規模になったときに必要になってくるのは、デザインの責任者と専門部隊。
組織が一定規模を超えてくると、CDO(チーフ・デザイン・オフィサー)など責任者を立て、デザイン体制を整える必要があると考えています。そして「意思決定権」と「予算権限」を現場に委譲していく。前職のDeNAだと、200人ぐらいのデザイン戦略室を見ていたのですが、デザイン部門単体で外部パートナーやツール選定の意思決定を自らできるようになったタイミングから圧倒的にパフォーマンスが上がりました。(坪田)
新明氏はCDOの必要性に同意し、その可能性ついて補足。セッションは幕を閉じた。
信頼できる人を「CDO」という役職に据えて、デザインチームを立ち上げていく、その可能性は広がってくると思います。ココナラでは経営者である自分がデザインチームも兼務して経営戦略とデザインを紐付けるというところを担当しているので例外ですが、予算、意思決定、採用の権限が適切に移譲されてないと良いチームはつくれないと思います。たとえば、ココナラは最初、開発チームが立ち上がりが遅かったのですが、CTOを採用して採用権限や予算の意思決定権を渡したことで立ち上がりの速度やパフォーマンスがあがりました。デザインチームも多分同じなんだろうなと思っています。(新明)
(おわり)
文 = 池田達哉
編集 = CAREER HACK
4月から新社会人となるみなさんに、仕事にとって大切なこと、役立つ体験談などをお届けします。どんなに活躍している人もはじめはみんな新人。新たなスタートラインに立つ時、壁にぶつかったとき、ぜひこれらの記事を参考にしてみてください!
経営者たちの「現在に至るまでの困難=ハードシングス」をテーマにした連載特集。HARD THINGS STORY(リーダーたちの迷いと決断)と題し、経営者たちが経験したさまざまな壁、困難、そして試練に迫ります。
Notionナシでは生きられない!そんなNotionを愛する人々、チームのケースをお届け。