公的機関が提供する統計情報などの行政データや、民間事業者や個人が提供する二次利用可能な公共性の高いデータを指す『オープンデータ』。全国の自治体に先駆けて取り組みをスタートしている横浜市に、技術的スキルや経験を有するエンジニアに期待することから、オープンデータの本質と取り組みの狙いを伺った。
最近良く耳にする「オープンデータ」という言葉。具体的には、公的機関が提供する統計情報などの行政データや、民間事業者や個人が提供する二次利用可能な公共性の高いデータを指す。
2012年に政府が策定した「電子行政オープンデータ戦略」をきっかけに、オープンデータを流通させるための基盤整備を目的にした「オープンデータ流通推進コンソーシアム」や、経済活性化を目的にした「DATA METI構想」が生まれるなど、大きな盛り上がりを見せている。
(※総務省HP[オープンデータ戦略の推進])
この影響は国レベルにとどまらない。地方自治体でも独自にオープンデータを提供し、様々な取り組みが始まっている。その最たる例が横浜市だ。他の行政に先駆けてオープンデータを用いたアイデアソンやハッカソンを開催し、民間の力を借りて様々な活用方法を模索している。
ことCAREER HACKの読者であるエンジニア・クリエイターにとって、無視するにはもったいないこのダイナミズムの実情とは?そして、技術的スキルや経験を有するエンジニアは、どんな形で「行政」に寄与することができるのだろうか?
横浜市政策局でオープンデータの取り組みの陣頭指揮をとる関口昌幸氏に、オープンデータの本質と取り組みの狙いを伺った。
― 横浜市が先進的に取り組んでいるオープンデータですが、エンジニア個人としては、どんなアクションが求められるのでしょうか?
取り組みを続けて感じていることですが、エンジニアが個人で活動するには限界があるのではないかと考えています。
横浜市ではこれまで、いくつかのハッカソンイベントやオープンデータの勉強会などを行なってきました。それぞれ単発のイベントとしては成功してきたと思いますが、何より重要なのは、継続性やインパクト。そのためには、個々のエンジニアの方々が連携して、集団として、組織として、行政と協働して頂けることがお互いにとって最も良いのではないかと考えています。
もちろん、エンジニアの方や市民の皆さまに興味を持って頂けるきっかけとして、ハッカソンイベントなどをこれからも開催していきます。そこから、「よりコミットしできる」と感じていただけたら、ぜひ技術者仲間の輪に入り、オープンデータの取り組みに参加していただけたらと思います。
― 組織というのは、エンジニアを抱えるIT企業を指しているのでしょうか?
いえ。以前CAREER HACKでも取り上げていた、Code for Japanのような技術的な専門家で構成された組織です。横浜市からするとCode for Kanagawaの存在になりますね。
そういった有志の非営利団体だけでなく、民間のIT企業、そして企業に属するデジタルクリエイターの方とのコラボレーションなくしてオープンデータの成功はないと思っています。
― なぜ、コラボレーションが必要なのでしょうか?
背景からお伝えすると、行政のデータはこれまでも、その多くが「公開」されてきました。ただ公開されているだけで、民間の方々からすると「活用しづらい」という状況になっていたのも事実です。
オープンデータの真の価値は「活用」されてこそ生まれるものなんですね。それもPDFでアップしていた情報をCSVにしました、という提供形式のレベルに留まるものではありません。
ここでいう活用とは、まずきちんと行政側が数多ある情報を整理することから始まります。恥ずかしながら、横浜市のホームページは14万ページに上りますが、うち10万ページはタグ付けされないため、活用するという視点からすると死んでるページになってしまっている。こうした行政が保有する膨大な公的情報をまずは、整理体系化して、誰もが探しやすくする必要がある。
その次の段階として、市民の方々がいつでも、どこでも行政の情報にアクセスできる環境を整えていく。例えば回覧板や広報誌など、紙やオフラインのみで共有されていた情報をデジタル化し、さらにスマートフォン向けにアプリなどを活用することで、いつでもアクセスすることができるようにする。
ただこれだけでは、オープンデータの目的が十分に達せられたとはいえません。私たちは、オープンデータを活用してビジネスを創出することまで視野に入れています。そこで有志の技術専門団体や民間のWEB・IT企業とのコラボレーションが必要になるのです。
― 行政の持っている情報を活用することで「価値」を生む。その実現のために、エンジニアやIT企業が協力する形を目指すと。
仰るとおりですね。行政の抱える情報は「市場価値の高い宝」なんです。これだけの種類と量を兼ね備えた統計情報は、行政しか持っていません。その宝の山を役所の中に眠らせておくのではなく、民間の方々の視点から評価してもらい、市場に流通させることで、様々なビジネスにどんどん活用してもらう。
― オープンデータの文脈では、「フリー」であることが前提だと思っていたので少し驚きです。
いえ逆なんですよ。そもそも近年のオープンデータと取り組みは、営利、非営利の枠を取っ払ったもの。
コレって一昔前に、行政が保有している公共用地でおこったことと同じなんです。自治体が保有していながら、塩漬けにされていた土地を民間の方々に活用して頂くことで新たな経済活動が生まれました。
いま、その土地に代わるものが情報なんです。情報を整理してビジネスに昇華させる。当然、その目的は市民生活の向上・市民への還元です。
― なるほど。ビジネスの創出の肝となるものは何なのでしょうか?
行政、教育機関、民間、そしてエンジニアなどの専門家集団がそれぞれの役割を果たせるプラットフォームが必要だと考えています。つまりオープンデータを流通させるための『基盤』です。
そのプラットフォームには2つの側面があります。ひとつは一般的なイメージが強い「地域の課題解決」型、もうひとつが「ビジネス創出」型です。こちらは、ぜひ今年度中に形にしたいと思い動いているところです。
エンジニアの皆さんも、ぜひ興味があればオープンデータの取り組みにご協力ください。行政の持っている情報とエンジニアのプロダクトにする技術で、市民の生活がより豊かになるのは間違いありません。
― 横浜市が成功事例となり、全国にオープンデータの取り組みが広がるといいですね!ありがとうございました。
[取材・文] 松尾彰大
編集 = 松尾彰大
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