2014.07.03
若手は大変な時代を生きているものだと同情申し上げます|未踏事業 統括PM 竹内郁雄

若手は大変な時代を生きているものだと同情申し上げます|未踏事業 統括PM 竹内郁雄

IPA未踏IT人材発掘・育成事業で統括PMを務める竹内郁雄さんへインタビュー。数十年にわたってインフォメーションテクノロジーの第一線で活躍し、後進の育成に携わる彼が、若手エンジニアに贈る言葉とは?

0 0 50 1

未踏PMから若手エンジニアへのメッセージ

竹内郁雄さん

IPA未踏IT人材発掘・育成事業
統括PM 竹内郁雄さん

数十年に渡ってコンピュータサイエンス分野の第一線に立ち続け、世界に名を知られるハッカーは、今を生きる若手エンジニアにどんな言葉を贈るのだろうか?

今回お話を伺ったのは、LISPの世界的権威・ハッカーである竹内郁雄氏。竹内氏が1976年に考案した再帰呼び出しのベンチマークなどで利用される「竹内関数」は世界に名を知られる。現在は、情報処理推進機構(IPA)の「未踏IT人材発掘・育成事業」で統括プロジェクトマネージャーを務め、後進の育成・指導にあたっている。

40年以上にわたって、IT分野の第一線で活躍し、後進の育成にあたってきた同氏が、若手エンジニアに贈る金言とは一体どんなものなのだろうか。

ジェネレーションギャップはあるものだ、という前提で考える。

― 未踏事業の統括プロジェクトマネージャーとして、多くの若手を育成していらっしゃいますよね。業界の未来を担うような20代を中心とする若者と接している中で、彼らに期待していることって、どんなものがありますか?


爺さんはいずれ滅びていきます。これからは若い人の時代なんです。だから若い人にお願いしたいのは、爺さんになんか言われたからって萎縮しないでもらいたい。自分の思うようにやっていただきたいなと。

上の年代が「それはダメだ」と言うのは、多分二通り。ひとつ目のダメは、「お主、技術的スキルとかバックグラウンドがないのに、それ言うのはちょっと無謀だね」というダメさ。あともうひとつのダメは、「俺には分からないからダメだ」というダメですよ。

最初のほうのダメは、もう「クソっ」と思って実力つけてほしいんですけど、もうひとつのほうはチャンスだと思ったらいいです。若い人の感性は我々に分からんわけでして。そんな分からん人から「あれ、そんなんでいくの?」とか言われたら萎縮するんじゃなくて、「爺さんに言われたから、これはチャンスかもしれない」と思っていただきたいですね。


― 育った時代や環境が違うので、ジェネレーションギャップがあるのは当然と捉えながら、考え方や開発のノウハウは学ぶべきことが多々ありますよね。ところで、そういう時代の違いや変化を強く感じられている部分ってありますか?


昔に比べるとソフトやプログラムを作るのは、ライブラリとかツールがあって簡単になったじゃないですか。ゼロから裸一貫でという昔の状況から見ると、便利に何でも作りやすくなってるんですよね。面白いものが、こうサクサクっと、簡単に、って言うと語弊がありますけども、割と短期間に出てくる。

竹内郁雄さん


裏腹に何が起こってるかっていうと、覚えることがやたらと多くなった。とにかくワーッとこう色んなものがあるじゃないですか。我々の頃なんてちょろっと勉強すればね、一人前の研究者とか開発者になれたわけ。今は次々と色んなもの出てくるんで、追われてる感があるんじゃないかな。昔だって、プログラミング言語は雨後の筍のように出てきたんですけど、別にそんなもん使わなきゃ無視していいわけです。でも今は無視できないものが次々と出てくる。

今、20代の若手について話ししていますけど、30代ぐらいの人だと、後ろからひたひたと20代が迫ってくるという危機感もあるんじゃないでしょうかね。そこへいきなり、学生時代に遊びの間に色んなことを覚えた人が入って、パカパカッとやっちゃうじゃないですか。焦りますよね、30代の人は。そのことが、今の若手が30代になった時に繰り返されないとは限らないわけですよ。本当に大変な時代を生きておられるものだと、深くご同情申し上げる次第でございます。何を言いたいかというと、下から追い立てられ続けるということは、やっぱ勉強しとかんといかんってことかな。

自分の手でゼロからサービスを作り切ることで、土地勘をつかむ。

― 常に勉強心を持ってないとついていけない時代ということですが、とはいえ、すべてを学ぶのは不可能です。新しいものに対応していくため、下の世代に負けないためには、何かひとつの軸を持って突き詰めていくことが必要かと思うのですが。


得意なことを深く突っ込んで勉強して、自分がそれを使って満足いくものを作れたという経験が大事だと思っております。人間って経験を栄養に生きるような生き物ですから、ソフトウェアも何かを深くやっておくと、土地勘みたいなものがつかめるのです。何にどれぐらい手間がかかるかとか、どれぐらい難しい仕事かというのが分かる。深くやった経験から、ある程度判断できるわけですね。一種の目利き感があるから、30代・40代になった時にも、会社や社会で活躍していけるはずなんですよ。


― そういう土地勘をつかむような経験が、30代とかもっと上になってから役立つという実感があるわけですね。やっぱり、サービスなりシステムの全体を作った経験があると、その後の活躍が変わりますか。


竹内郁雄さん

例えば未踏の連中は、全員それやってるわけですよね。あるものを着想、設計から始めて、全部自分で作っていく。それでも、プロジェクトマネージャーから「そんなんじゃ全然足りん」とか言われてしまう。ついでに「こんなの独立しても全然ダメだから、ちゃんとどっかにプラグインにしろ」とか言われて、プラグインの仕方を新たに勉強するとかね。

とにかく無我夢中に、8カ月とか9カ月かけてやる。その経験が、仕事のモチベーションとか、向上意欲とか、スピンオフして会社作ってやるぞ的な元気の源になるわけです。ゼロからというか、あるものを全部ひとりで企画して、設計して、コーディングもして、テストもするということをね、どこかで経験したほうが本当はいいんですよね。


― 未踏出身者の方々が活躍している理由のひとつに、おっしゃったような経験があるんですね。かたやで既に就職している人だと、企業によっては全部というのはなかなか難しいですよね。


学生の時はまだ、自由になる時間がいっぱいありますから。小さくてもいいからそういう経験をするチャンスはあるはずです。でもちゃんとした企業なら、そういう経験をさせるところもあるのかな?そうじゃない人はね、シコシコと時間かかってもいいから、合間あいまでも完成させるという経験をやったほうがいいと思いますね。言われるままにサブの仕事ばかり、モジュール作ったり、単体テストして、結合テストしてとかをずっとやっても辛いですよ。どこかで深く全部やならいと。

多分、そういう経験がある人なら、就職や転職の機会に、面接官がどういう才覚を持っているかっていうのを見る時に、「こいつはなんかちゃんと土地勘持ってるな」と思われるんですよね。人を見る目があれば絶対に分かるはずなので。

まあ、そういう経験ができる会社に入れればいいんですけどねぇ。例えばベンチャー企業に入ると、ちゃんと勉強させてもらえますよ。経営者もCTOもね、自分でバリバリやってきた人だから分かってる。もっとも、勉強が足りていない人は、まず入社面接で恥かく可能性がありますが。

今も昔も変わらないノウハウとして、コミュニティ参加のススメ。

― 若手にとって大変な時代であり、生き延びるために必要なことを伺ってきました。ただ、それをなぞるだけでは、全員が活躍できるわけではないと思うんですね。特に私どもが、若手に限らずですけど、話を伺っている中で、やはり将来に不安なり、現状に不満を持っている方が多くいらっしゃるんです。


ずっとその会社に食らいつくのかと言いたくなります。ソフトを書ける人は、まだまだ引く手数多なわけでしょ。「なんでこんなことやってんだろう」とか思うんであれば、それこそエン・ジャパンを見て、他のこと考えたほうがいいんじゃないかと思いますよ(笑)。

まあ、いきなり転職先を探すんじゃなくてもね、勉強会に参加するとか、コミュニティに加わるとかをやるべきです。色んな人に会って話を聞いてると「なんかあっちの水のほうが美味しそうだな」って分かる。「あの会社は自分のスキルだったらやれそうだし、一緒に酒飲んでるこいつがすごい楽しそうにやってるし、俺、行ったらいいかな」とか感じられるのは、コミュニティの絶大な力ですね。不満を鬱々とWEBページにぶつけるんじゃなくて、人と会うことが重要だということです。

繋がろうとしてる人は目に留まるんですよ。「彼は会社で何やってんのか分かんないけども、頑張って休み取って来てんのかな」「なんだか知らないけど、いやあ、元気のいいやつだなあ」とか。目に留まった人はやっぱりね、「今度大学に行きます」とか「某社から僕、グーグルに移りました」など、元気な人が多いんですよ。もちろん、SNSとかネットで友達になってる人は多いと思うんですけど。だけども、フェイス・トゥ・フェイスっていうのは、身についていくものに全然違う効果があるんです。


― コミュニティへの参加は勧める方が多いですが、実際に時代とか世代に関係なく必要なことですよね。この記事を読んだ方々が、少しでも多く外との繋がりを持っていただけるといいなと改めて感じました。貴重なお話をありがとうございました。


[取材] 松尾彰大 [文] 城戸内大介



編集 = 松尾彰大


関連記事

特集記事

お問い合わせ
取材のご依頼やサイトに関する
お問い合わせはこちらから