2012.09.11
ニフティ・はてな・GREEを経て、伊藤直也が見据える「エンジニアのキャリア」とは?

ニフティ・はてな・GREEを経て、伊藤直也が見据える「エンジニアのキャリア」とは?

「ニフティ」「はてな」「GREE」を経て、最近フリーのプログラマとして新たなキャリアをスタートさせた伊藤直也さん。スタートアップと大手企業の両方を経験した伊藤さんが考える「理想のキャリア」とは?

エンジニアの理想のキャリアとは?

WEB・IT業界は、できてまだ数十年の若い業界である。第一人者たちが未だ現役ということも少なくはなく、それゆえ業界における理想的なキャリアというものが確立されているわけでは決してない。エンジニア一人ひとりが試行錯誤しつつ、自らのキャリアを模索していかなければならないのが現状だ。だからこそ、見識ある先達たちが自分のキャリアをどのように考え、どういったキャリアを選んでいるのか知ることが重要なのではないだろうか?

そこで今回は、スタートアップと大手企業の両方を経験した伊藤直也さんに、エンジニアにとって理想のキャリアとは何なのか、考えを伺った。

エンジニアが、企業に属するメリットはあるのか?

― 伊藤さんは「ニフティ」「はてな」「GREE」と、「企業の中でモノをつくる」ことを豊富に経験されていますよね。エンジニアが企業に属することのメリットとデメリット、両方をご存知なのではと思うのですが…?

伊藤さん01

良いところか…どうなんでしょう(笑)。まあ難しいところですけど、極論から言えば、本当にモノづくりを楽しみたいのであれば、自分で会社あるいは小さなチームを立ち上げるとか、あるいは会社に所属せずにフリーでやっていくっていうのが一番楽しいのだとは思います。組織あるいは会社に所属していると、自分の意志とは反することを仕事にしなければならないこともありますから。多かれ少なかれ、それは絶対に避けられないことで。

そういう前提がありながら、それでもなお良いことを見つけようとすると、よく言われるような「個人ではできないスケールの仕事ができる」とか「チームでやる喜び」とか、そういう話に行き着きますよね。でも今やもう、特にインターネットでのソフトウェア開発なんて個人あるいは少人数でやろうと会社でやろうと、できることは大して変わらなくなっていますよね。僕自身チーム活動は苦手なほうだし、個人的に企業に属するメリットを見つけづらい部分はあります。ただ、それはあくまでモノ作りという側面だけを見た場合ですけどね。

会社って古くからある仕組みなので、そこにはそれなりに機能があるんだとは思います。毎朝9時半に出社して決められた時間で仕事をするのはイヤだってみんな言いますけど、いざ会社を離れて一人になると、そう規則正しい働き方ってなかなかできないんですよ。毎朝起きて決まった時間コード書くなんて、みんなできないんだから。結局ダラダラして、いざコンピュータの前に座ってもネットばかりやって。何もしない時間を経て自己嫌悪に陥って、それでようやく腰を上げる。そんなもんです(笑)

まあ出社時間なんかは些細な話なのかもしれませんが、そういった「普段そこまで意識しないけれど、仕事をしていくにあたっては便利な機能」のようなものが会社にはたくさん備わっている。だからトータルでみた生産性は会社に属していたほうが高いとは思います。会社って「人間をきちんと仕事させるフレームワーク」になっている側面がありますから。裏を返せば、人を単なる労働力として見てるってことでもありますけどね。自分なりに会社を「道具」として捉えることができれば、会社に属する積極的な意味を見いだすこともできるんじゃないでしょうか。

「ノマド」は夢物語である。

― 最近だと、「ノマドワーカー」も注目されていますよね?

伊藤さん02

そうですね。一方で、特定の働き方だけを変に持ち上げるのには少し冷静になりたいですね。

例えば、ノマド的な働き方ってこれもなかなか続けるのが難しいでしょう。会社を辞めてフリーランスになった知り合いを過去に何人も見てきましたけど、すごくマジメな人たちなのに仕事をコンスタントにこなせる人は意外と少ない。やっぱり仕事って、締め切りのあるタスクを自分に持ってきてくれる人とか、そういう他者との関係性があって初めて成り立つものだと思います。人間、自分で自分を律することは、思っている以上に難しいですよね。

もちろんノマドを全否定するわけではないですけど、今の風潮だとノマドが選択肢の一つとしてではなく、最高の働き方として語られていることもあります。場所や組織に縛られないという考え方が終身雇用へのカウンターだなんて見方もあるようだけど、そもそも終身雇用という考え方自体、ほんの数十年、言ってみれば親の世代だけの価値観だったわけです。終身雇用へのアンチテーゼだからといって、ノマドがベストな働き方だということになるわけがない。

組織や場所に縛られない働き方って、別に昨日今日に発見されたわけでもありません。インターネット環境だとかWEBサービス環境が整って、特にITに関する仕事がそれらを活用することで、ノマド的なものに相性が良くなったというのはあるんでしょうけど。

スタバで仕事している友人に、「それは人によっては迷惑に感じるかもしれないよ」って言っても伝わらなかったりする。「1時間おきにコーヒー買ってるから大丈夫」って返されたりするんですけど、そういう問題じゃないと思うんですよね。自分の活動場所を自分で確保できていないことに対する課題意識というか、自分のいる場所がある意味では公共のスペースだと認識できるモラルというか、そういったものが欠如している感じもしました。それを気にしないって言うならそれでいいけど、オフィスなんていらないよっていうのはやっぱり極端じゃないかなと思います。

普通に会社にいって普通に仕事するということを、変に貶める必要はない。それも一つの選択肢、ノマドワーカーになるのも一つの選択肢、くらいじゃないでしょうか。

給料よりも、人から認められるよりも、エンジニアとして大事なもの。

― 伊藤さんが考える、「エンジニアにとっての幸せなキャリア」とは?

伊藤さん03

シンプルですけど、「集中してモノづくりができる時間を確保できること」が一番幸せだとは思うんです。「満足できる給料」だったり「人から認められる」ということよりも、「自分の信条にあったものを自分の手でちゃんと作っている」状態のほうが幸せという意味では大切なんじゃないかと。

信条というのは人それぞれで、人によって技術的に妥協がないことが大切かもしれないし、社会に影響を与えることが大事かもしれない。娯楽としてのゲームを作りたいならゲームでいいし、僕みたいに「半匿名のインターネットサービス」みたいな抽象的なものでもいい。みんなそれぞれ「自分の作りたいもの」とか「これだったら作ってもいいかな」と思うものがあると思う。

ただ会社に属していると、なかなか思うようなものばかりを作っていられるわけではないので…。難しいところです。流行りとしては「小さなチーム」でやりましょう、というのがありますよね。今はインフラという意味でのクラウド(IaaS/PaaS)があってソーシャルメディアもあるので、アプリケーションを作るにしても、昔に比べて随分ラクになりました。iOSもAndroidもアプリを開発すること自体は比較的簡単だから、そんなにたくさん人がいなくてもできるでしょう?実際にInstagramなんて4人で何百万人というユーザーを集めたわけで。

そういう小さなチームで成功できれば、それは結構な幸せなんだと思います。とはいえリスクもあって、小さなチームってサービスがヒットしないと最悪なんですよ。人間関係がギスギスするし友人も失うし。そこで言うと、大企業の場合は自分の信条にあったものが作れないことも多いぶん、たとえ一つのサービスが失敗してもそこまでシビアにならなくて済むというメリットがありますよね。そこはもう、どちらが良いか悪いかの話ではなく各人がどちらを選ぶかの問題です。

こんな具合で何をやるにしても長所と短所があるので、一概に「これが幸せ」って決め打ちすることは難しいですが、個人的にはやっぱり「作りたいものを作れる環境」に身をおけるというのは、それだけは無条件に幸せだと思います。

企業で生きるエンジニアにとって、カギとなるのは「上司」の存在。

― 企業の中で信条にあったものを作ることが難しいのはなぜなのでしょう?

伊藤さん04

会社の掲げているミッションと自分の思い描いていることが違うと「イヤだな」と思いながら作ることもあると思うし、本当はキレイに仕上げたいのに時間がなくて雑なまま出さなきゃいけないこともあれば、別の仕事に忙殺されてものを作る時間が確保できないこともある。

「チームでディスカッションした結果、自分の意見が取り入れられなかった」ということならいいんですが、本当はユーザーにこういうふうにサービスを提供したいと思っているのに、諸般の事情で機能が削りに削られて、それで妥協しながら作っていかなきゃいけないというのは、エンジニアとして本当に辛いんですよ。

― そのあたりの温度感も、会社によって差があるように思うのですが?

もちろんそうですし、個人的には会社以上に「上司」なのかなとも思いますね。会社がいくら素晴らしいミッションを掲げていたとしても、上司次第で変なソフトウェアを作らなければいけなくなったりすることもあると思います。逆にミッションが粗末でも、良い上司がうまい具合に手綱を引いて面白いゴールを設定してくれてチームが盛り上がるということもよくあるんです。

― 極端な話、企業の中での幸せなキャリアというのは、良い上司に巡り合うことだと?

他力本願で良い上司に巡り合うのを待つか、自分が良い上司になるか。上司なんか関係なく自分がきちんと働ける環境を作るか。繰り返しになりますが、それぞれにリスクとベネフィットがあるので、どれが幸せか断言することはしません。

上司の話に限らず、キャリアも、自分にどういう選択肢が許されているのかすべて認識した上でどれを選ぶかっていうことに尽きるのかもしれません。自分のキャリアパスをすべてフラットにして相対化したうえで、選択できれば一番いいんじゃないでしょうか。

「仕事は週3日、残りは自己投資」という選択肢もあり得る時代。

伊藤さん05

― まずは、今の自分にどんな選択肢があるのか、きちんと整理することが重要ですね。

そうですね。一方で、今の時代、「働く」ということに対する新しい価値観も生まれてきているんじゃないかと思います。

例えば僕が今そうなんですけど、本の印税だったり昔つくったWEBサイトの広告収入といったものがあって、ムダづかいしなければなんとか生活していける。もちろん世間一般の人と同じ消費をすると大赤字なんですけどね。それで、実際これからどんな道を選ぶか、そのとき自分自身に「フルタイムで働かなくてもいい」というオプションがあり得ること自体が昔からすると考えにくかったことだなと思います。その選択肢がある前提で、これからのキャリアを数ある中から選べるということは自分にとってすごく大きかったんです。

高度経済成長期からバブルまで、とにかく世の中にモノが足りない、作るものもまだまだいっぱいあるぞという時代だったから、「ひたすら仕事をする」ことが最上にして社会共通の価値でした。でも今の社会ではその価値観で頑張っても報われないことだってたくさんありますよね。とはいえ、あくせく仕事をしないと全ての人が貧しくなってしまうかというとそんなことはないでしょう。極端に言えば「週3日は仕事をして、残りの4日は自己投資にあてる」とか、今までとは少し違った働き方を選べる人もいるにはいるわけです。そういう可能性も含めて、今の自分がどういった働き方を選ぶことができるのか、一歩引いて見つめてみることも重要なんじゃないかと思います。

(おわり)


編集 = CAREER HACK


関連記事

特集記事

ぼくらの新人時代

「新人時代をどう過ごしていましたか?」テック業界の先パイたちに、こんな質問を投げかけてみる特集企画です。知識もスキルも経験も、なにもない新人時代。彼ら、彼女らは”何者でもない自分”とどう向き合い、どんなスタンスで学んできたのか。そこには「ぼくら」にとって重要な学びが詰まっていたーー。

お問い合わせ
取材のご依頼やサイトに関する
お問い合わせはこちらから