カスタマーサポート(以下、CS)業界全体を盛り上げることを目的に、株式会社メルカリが主催して行っているイベント「CS JAM」。6回目の開催となる今回は、多くのユーザーをかかえるネットサービスのCS担当者5人が登壇し、各社の事例をもとにCSに対する持論を展開した。
多くのサービスが生まれては消えていくなか、事業を継続させるためには顧客満足度を向上させることが必要不可欠だろう。そして、ユーザーともっとも近い距離でその一翼を担っているのが、問い合わせに対応するCSだ。
顧客満足度向上のために重要な存在であるCSだが、社内でのプレゼンスを高められなかったり、外部との関わりがなく閉塞的になりがちだったりと、多くの課題を抱えているのも事実だ。
そんな課題を解決して、CS業界全体をレベルアップさせていこうというイベントが、株式会社メルカリが主催する「CS JAM」。東京と仙台で定期的に開催している同イベントは今回が6回目。
参加者50人という最大規模で行われた「TOKYO CS JAM #6」は、「最高のカスタマーサポートの未来を語る!」というテーマで、5人のCS担当者が登壇し、自社の事例とそこから得られた持論を語った。その様子をお届けする。
[登壇者プロフィール]
GMOペパボ株式会社 / カスタマーサービスグループ マネージャー
宇賀神 卓馬
音大中退後、2度のメジャーデビューを含む音楽活動の傍ら、株式会社カービュー、メットライフ生命等でCSのオペレーター業務、リーダー業務を経験。株式会社paperboy&co.(現 GMOペパボ株式会社)EC事業部のCSグループに加入。カラーミーショップの電話サポートを立ち上げ、現在では同部署のマネージャーを務める。
株式会社フンザ / 執行役員 ユーザー管理部 部長
奥田 匡彦
ヤフー、ピットクルー、ミクシィを経て現在は株式会社フンザにて執行役員ユーザー管理部 部長。これまで約200コンテンツのCSと不正対策に関わる。
株式会社マネーフォワード / カスタマーサポート本部 MFクラウドサポート部 部長
高橋 陽一
1977年生まれ 39歳。野球10年、音楽20年、古着販売6年、CS14年、ベンチャー1年を経て、 2015年4月 マネーフォワードに入社。質と量を兼ね備えた少数精鋭のCS構築のため日々奮闘中。
株式会社オズビジョン / ハピタス事業部
端野 一郎
2010年、それまで専任者がいなかった問い合わせ対応業務を一人で担うため株式会社オズビジョンに入社。CSチームを立ち上げ、2011年から全社KGIとして導入されたNPSを現場で運用。2015年、スマートフォンサイトのリニューアルプロジェクトに参加。以降、新規VP開発や事業戦略に携わる。
株式会社メルカリ / CSグループ
小川 直樹
新卒からスターバックスで店舗マネジメントに従事した後、株式会社ロコンドに入社。同社でCSの責任者を務める。2015年8月に株式会社メルカリにジョイン。カスタマーサポート業務を行いながら、CSに特化した勉強会・コミュニティイベント「CS JAM」を立ち上げ、企画運営に携わる。
ひとり目の登壇者は、GMOペパボ株式会社の宇賀神さん。テーマは「他社事例に惑わされないために」だ。
扱うサービスによってCSが目指すべき方向は違います。すべてのCSがAIに注力すべきなのか、自社でツールを開発すべきなのか、一概には言えません。
GMOペパボで扱っているサービスの種類が多岐にわたるため、サービスごとのCSのあり方の違いについて、意識するシーンが多いのだという。宇賀神さんは、各サービスを「ユーザー数」と「LTV(※ ユーザーひとりあたりの収益)」の2軸でマッピングし、CSの方向性を変えている。
ここでは「ユーザー数:少/LTV:高」の場合の例として、カラーミーショップを、「ユーザー数:多/LTV:低」の場合の例としてminneの事例を取り上げて説明していた。
●カラーミーショップの場合
カラーミーショップは、ネットショップの運営サービスで、ユーザーの多くがスモールB、個人や小規模の事業者だという。
カラーミーショップの問い合わせ内容は、ユーザーごとにまったく違うし、複雑なことが多いんです。だから、電話やチャットなど、直接やりとりできるかたちが最適だと思っています。また、ショップ運営のコンサル的なやりとりが求められるので、CSの人材にはスキルの高さや経験の多さが必要です。
●minneの場合
minneは、ハンドメイド作品の売買ができるサービスだ。累計ダウンロード数は約655万(平成28年10月時点)にものぼるという。
ユーザー数が多いほど問い合わせの数も増えます。minneの規模で電話やチャットのサポートを取り入れるのにはリスクがあります。このタイプのサービスはまず問い合わせ数を減らすことが重要です。CSがユーザーの声を開発側に届けることで、ユーザーニーズに合わせてプロダクトの改善を行っています。
実際にUIの改善によってユーザーの痛点を一気に解決できることが多々あるそうだ。とはいえ、ユーザーの声をすべて鵜呑みにして、便利な機能ばかり拡充していくのは危険だという。
ユーザーの声をプロダクトに反映させるというのは、ただユーザーの要望を鵜呑みにするということではありません。細かい機能が増えすぎても、余計使いづらくなってしまいます。ユーザーの声を精査して、本当に必要な機能はなにか考えることは、プロダクト側にすべて任せるのではなく、CSの役割のひとつとしてとらえるべきです。
ユーザーごとに丁寧な対応をすることが満足度につながるサービスもあれば、そもそも問い合わせをしなくていいということが1番に求められるサービスもある。
他社で成功している施策が必ずしも自社のサービスに当てはまるわけではない。CSがそれをきちんと理解していても、経営陣から他社事例の導入を求められることがあるという。宇賀神さんは、必要性がないのならその理由をCSがロジカルに説明できる必要があるのではないかと語った。
次に登壇したのは、チケット売買サービス「チケットキャンプ」を運営している株式会社フンザの奥田さん。奥田さんは、直近で導入したチャットサービスについて、取り入れた機能と効果について語った。
現在、はじめの一歩として「登録時」と「初回購入時」に、部分的にチャットサポートを導入しています。初回の取引体験がうまくいかないと継続につながらないという理由からです。同じページで10秒以上なんのアクションもなかった場合、チャットボタンが表示される機能になっています。
チケットキャンプで導入したチャットサポートは、ユーザーがチャットボタンをクリックするとCS側にそのユーザーのページ遷移や操作履歴が細かく表示される。すると、ユーザーがどこでつまずいたのか、何に困っているのかがひと目でわかるという。
奥田さんによると、これがチャットサポートの大きな利点で、先取りして情報を読み取ることで、従来のメールでのやりとりよりサポートがしやすいそうだ。
今後は、10秒以上アクションがないといった困っているユーザーに、こちらからチャットで話しかけるという施策もはじめてみようかと思っています。また、機械でなく人がCSをやる価値として、くだけた言葉やポジティブな発言の際の顔文字の使用を許可しました。
チャットサポートを導入した結果、会員登録時の問い合わせは70%、初回決済時の問い合わせ数は20%も減少したそうだ。
奥田さんは、この結果を受けて、今後もチャットサポートを活用していきたいという。
つづいて、株式会社マネーフォワードで、会計・請求書・確定申告・給与・経費などのバックオフィス業務を効率化する、ビジネス向けクラウドサービス「MFクラウドシリーズ」を担当している高橋さんが登壇。CSという仕事の本質や求められる資質について語った。
高橋さんは、CSがプロダクトにコミットすることで、KPIの達成や売上の向上、プロダクトの改善に貢献できるという。
事業拡大に対して、自分たちがどんな影響を与えられるのか、CS自身がきちんと考える必要があると思います。CSはユーザーニーズを1番理解している存在なので、プロダクトをつくる部分にコミットすることで、ユーザー満足度の向上、ひいては売上の向上にも貢献できるはずなんです。
実際マネーフォワードでは、プロダクトの新機能をCSが利用して評価する「試食会」が行われているという。
また、普段からCSとプロダクトマネージャーは密にコミュニケーションをとることで、意見を言いやすい環境をつくっているそうだ。
ユーザーに感謝されるべきはプロダクトであって、CSではありません。問い合わせがあること自体を恥じるべきではないかと考えています。それはけっしてプロダクト側の問題だけではなくて、CSの責任でもあるんです。
高橋さんは「CSはユーザーの声の翻訳者でありプロダクトを愚直に磨き続ける職人」だという。そしてその姿勢は、他の職種でもいかせるものだ。キャリアプランの描きにくいCSにとって、自身の市場価値を高めていくために必要な考え方だといえるだろう。
4人目の登壇者は、株式会社オズビジョンの端野さん。「ハピタス」という、ポイント還元サービスでCSを担当している。端野さんは、顧客満足度や継続の意向をはかる指標としてNPSの活用を提案した。
ただ「ハピタス」が顧客満足度やサービスの継続利用を重要視するような戦略の転換を行ったのが今から5年前。当時はポイントサイト業界の中では異色のスタンスだと言われたという。というのも、アフィリエイト収益で成り立っているサービスのため、広告掲載してくれる企業側のことばかり意識してしまう体質があったからだ。
ユーザーと長期的な関係を築くという発想がなかったんです。ひとりが1回使うだけでも収益は得られるので。でも、ユーザーが定着しないとわかると企業側が広告を出そうと思わなくなるんです。たとえばクレジットカードを作ったら1万円というキャンペーンをやったとして、その後一切使用していなければ企業の利益にはつながりません。その構造的な問題に危機感を感じて、継続使用を目的としたサービスに転換したんです。
この転換にともなって、取り入れられたのがNPSだった。NPSとは「あなたはこのサービスを親しい友人や家族にどの程度すすめたいと思いますか? 0〜10点で点数を付けてください」という質問によって、顧客満足度やサービスの継続使用の意向をはかる指標だ。9、10点をつけたユーザーは「推奨者」、7、8点は「中立者」、0〜6点は「批判者」として分類される。
端野さんが提案するNPSの効果的な活用方法は以下の3つ。
1. 他の重要指数との相関関係を見つける
NPS単体で利用するのではなく、ほかの指標と照らし合わせることで相関関係を見つける。たとえば、推奨者ほど客単価が高い、という関係があれば顧客満足度の向上のための施策が、売上の向上につながるといえる。
2. 狙うべきターゲット層を分析する
ユーザーをセグメントしたとき、人数は多くないもののNPSは高いという層があれば、その層をターゲットのした施策を行うことでユーザー数の増加につながる可能性がたかい。
3. 競合サービスとの比較に使用する
サービスの総合評価が数字として出るので、ベンチマークにしている競合サービスと自社サービスを比較する指標として使いやすい。
実際に、顧客満足度や継続率と売上の相関関係が数字として表れると、社内でのCSのプレゼンスが大きくなるという。
またCSに寄せられる問い合わせを「推奨者」「中立者」「批判者」どのユーザーの意見なのか分類することで、拡充すべき機能の優先度がつけやすくなったそうだ。
「推奨者」「中立者」「批判者」すべてに共通するニーズはもちろん最優先です。あとはなるべく「批判者」よりも「推奨者」のニーズを優先しています。また「中立者」を「推奨者」に変えるためにはどうしたらいいのか、という視点からも施策を考えています。
最後に登壇したのは、株式会社メルカリの小川さん。小川さんは「CS JAM」の発起人だ。
CSは仲間をつくってつながることで、もっと楽しい仕事になるんじゃないかと思ったのが「CS JAM」を始めたきっかけです。エンジニアやデザイナー向けのイベントはいろいろなところで開催されてますが、CS向けのイベントってなかなかない。あっても、講義形式のようなものばかりだったのでカジュアルに集まれる場所をつくりたかったんです。
小川さんはイベントを通して得られるバリューについて下記のようなものがあるという。
● スキルアップにつながる
最新のCS施策や他社事例を知り、自身の業務におとしこむことでスキルアップができる。また自社の施策を客観的に判断する基準になる。
● モチベーションが高まる
同じ仕事をしている仲間と交流することでシナジー効果がうまれ、モチベーションが高まる。いろいろなことにチャレンジしようというマインドにつながる。
● 採用につながる
なかなか表に出ないCSの業務について興味を持ってもらうきっかけになり、優秀な人材の採用につながる可能性がある。
小川さんによると「CS JAM」をきっかけに、社内外を問わず自発的な勉強会が開かれるようになったそうだ。それが、日常業務へのモチベーションにつながり、社内全体で表彰されたメンバーもいるという。
仲間をつくることで仕事はもっと楽しくなるはずです。今後も「CS JAM」は定期的に開催していきますし、みなさんにも、どんどんイベント開催に挑戦してほしいと思います。
(おわり)
文 = 近藤世菜
編集 = CAREER HACK
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