2012.09.21
ソーシャルゲーム再考。あるいは、ソーシャルゲームに「正義」はあるか?

ソーシャルゲーム再考。あるいは、ソーシャルゲームに「正義」はあるか?

その成長性がもてはやされると同時に、過度なマネタイズがたびたび指摘されるなど、“よくも悪くも”注目を集めているソーシャルゲーム。その問題点と可能性を改めて整理すべく、ソーシャルゲームプロバイダー Nubee Tokyo取締役の桑水悠治氏と、芸者東京エンターテインメント代表の田中泰生氏にお話を伺った。

697 87 6 0

ソーシャルゲームは、正義か?

低迷する日本経済において、数少ない成長マーケットと目されるのがフリーミアムモデルのソーシャルゲーム市場。DeNA、GREEといったプラットフォーマーを筆頭に、ビジネス誌などで見出しを飾ることも少なくない。一方で、「コンプガチャ」のように、マネタイズの手法や未成年ユーザーへの高額課金といった問題が表出しているのも事実だ。

ソーシャルゲームは、なぜこれほどまでに普及したのか?ソーシャルゲームの仕組みにはどのような問題があり、またどのような可能性が秘められているのか?その問いの答えを探るべく、『Japan Life』などシンガポールから世界的なヒットタイトルを発信している気鋭のソーシャルアプリケーションプロバイダ《Nubee Tokyo》取締役の桑水悠治氏と、『おみせやさん』で知られる国内随一のタイトルメーカー《芸者東京エンターテインメント》代表の田中泰生氏に、以下“3つの問い”をぶつけてみた。


[問1] なぜ、人はソーシャルゲームにハマるのか?
[問2] ソーシャルゲームは、どのようなメソッドで作られているのか?
[問3] ソーシャルゲームが抱える問題点とは?そして、その「社会的使命」とは?

《Nubee Tokyo》取締役 桑水悠治氏の見解。

[問1] なぜ、人はソーシャルゲームにハマるのか?

kuwamizu01

まずユーザーの行動を中心に組み立てられているゲームである、ということが要因の一つだと思っています。そこはコンソールゲームと全く違うところで。例えばFacebookで自分のコメントに「いいね!」されると嬉しいじゃないですか。ソーシャルゲームが提供しているものって、むしろその感覚に近い。

人間って、テクノロジーが発展する前から、もともとソーシャルな生き物ですよね。必要とされたいとか話したいとか、そういう欲求がもともと備わっています。ソーシャルゲームは、その欲求を満たすような設計で作られている。

というか、ゲームってそもそもソーシャルなものなんです。世界中どの国にも、ボードゲームやカードゲームがありますよね?あれってもちろんゲーム自体の面白さもありますけど、それと同じようにプレイ中のおしゃべりが楽しい。麻雀だって、やったことある方はお分かりいただけると思うのですが、あの“場”がいいわけじゃないですか。麻雀牌つみながら「あの子、誰々のこと気になってるらしいよ…」とか話したり(笑)。ソーシャルゲームは、まさにそういう“場”を作っていると言えると思います。ユーザー同士のコミュニケーションの部分がすごく上手く作られている。

しかもそれを“モバイル”に最適化しているのが大きいです。タバコを吸うついでに、メールを見るついでにプレイできるわけですから。


[問2] ソーシャルゲームは、どのようなメソッドで作られているのか?

kuwamizu_02

僕の場合は、ゲーム云々という以前に「人はどういうときに嬉しさを感じるのか」というところから考えますね。褒められたら嬉しいとか、そういう日常生活の中で当たり前に生まれる「感情の動き」を抽出して、それをゲーム内でどんな仕組みにすれば再現できるのか考えていきます。もちろんソーシャルゲームはそれなりにプレイヤーの数がいないと成立しないので、「テーマ」や「アートワーク」自体も大事です。ただ、肝になるのは「感情の動き」なので、基本的にはその部分の作りこみに時間をかけます。

例えば昔ヒットしたゲームだとか、何か特定のゲームを参考にすることはほとんどないですね。ただAppストアのセールスとか各国のランキングをチェックして、「そのゲームが売れている理由」の分析は片っ端からやっています。ゲームだけじゃなく、FacebookやWEBサービスなんかも参考になりますね。普段使っていて、くすっと笑えたり嬉しい気持ちになったりするたびに、同じ感情をゲームで再現するにはどうすればいいのか考えます。

そういう意味でいうと、僕らの場合は面白いゲームを作ることではなく、ユーザーの感情を動かすことを目的にしていると言えるのかもしれません。ユーザーのことを考えて、「こういう感情を生み出すには、こういうゲームシステムにするべきだろう」と予測をたてて作っている感じですね。


[問3] ソーシャルゲームが抱える問題点とは?そして、その「社会的使命」とは?

kuwamizu_03

当たり前の話かもしれませんが、やっぱり僕ら自身、「ゲームを楽しんでいただいた”対価”としてお金をいただくんだ」という基本的な原則を忘れないようにしないといけない。その原則を超えてお金もうけが先行してしまうと、それが過度なマネタイズとして問題になるわけで。長い目でみると、それって僕ら自身のためにもならないと思うんですよね。焼畑農業と同じで、そのうちソーシャルゲームで商売できなくなって、市場自体がツブれてしまうわけですから。とにかく、ユーザーの方に長く楽しんでいただけるゲームを作ること。今あるゲームを、より長く楽しんでいただけるようにしていくこと。それに尽きると思います。

《芸者東京エンターテインメント》代表 田中泰生氏の見解。

[問1] なぜ、人はソーシャルゲームにハマるのか?

tanaka_01

「非同期でつながれる」「他人と遊べる」「タダでエントリーできる」、この3つが組み合わさったことで爆発的なムーブメントが起こったんだと思います。

特に“非同期”という特徴。これまでオンラインゲームで他人と遊ぼうと思うと、オンライン上の一箇所に、同じ時間にアクセスしなければいけない制約がありました。それが今のソーシャルゲームでは、同じ時間にプレイしなくても、自分のアクションがが誰かに伝わってきちんとリアクションが返ってくる。つまり細切れの時間でも“他人と遊ぶ面白さ”を享受できるわけで、この点はすごく重要だと思います。

コンソールゲームとの違いで言うと、「ひとりで遊ぶことを前提としていない」ことに尽きると思います。出発点が違う。ソーシャルゲームを遊ぶ本質は「人と関わること」なんです。だから極端に言えば、他人と遊べるという条件さえ満たしていれば、ゲームそのものはシンプルでいい。それこそ“じゃんけん”でも。他人と協力したり競争することで勝ち負けが決まって積み重なっていくことって、それだけで面白いと感じるものなんです。

今のソーシャルゲームは、その面白さを突き詰めて作られています。逆に言えば、一人で遊ぶ部分が面白くなくても別にいいよね、という発想です。だから必然的に、「5ボタン連打だけ」のものとか、複雑な操作がなくても成立するゲームが多いんです。カンタンな操作で遊べるから、おじいちゃんやおばあちゃんでも楽しめるわけで、その結果プレイヤーの裾野を上手く広げることができたと、そういうことだと思います。


[問2] ソーシャルゲームは、どのようなメソッドで作られているのか?

tanaka_02

僕がヒントにしているのは「結婚式の二次会」です。よくやるじゃないですか、賞品つきのビンゴゲームとか。知らない人同士が集まっていて、しかもみんな司会の話なんて聞いてないからルールの説明もできない。そういう状況で成立する遊びって、ソーシャルゲームの原型になると思うんですよね。以前参加した二次会を思い出して「あれは面白かったなあ」というものが、僕の場合、ゲームを作る時の出発点になっています。

そもそもゲームって、めんどくさいとプレイしてもらえないんですよ。例えば《ドラゴンクエスト》でいえば、モンスターを倒すと「お金」と「経験値」が両方もらえますよね。ドラクエが優れているのはそこなんです。モンスターを倒すと「お金」がたまって、それで武器や防具を揃えて強くなれる。「経験値」がたまって、レベルアップして強くなれる。強くなったら、また次のモンスターを倒す。こういうふうに「モンスターを倒す → 強くなる → またモンスターを倒す」という、シンプルなループができているんですね。

これが「モンスターを倒すと経験値はもらえるけど、お金はもらえない」「お金をためるには、ひたすら宝箱をみつけて開けなきゃいけない」という設計になっていたとしたら、相当めんどくさいでしょう?ダメなゲームってそうなんですよ。1つのゲームの中で、それぞれベクトルの違う行為をたくさんやらなきゃいけない設計になっているんです。

とはいえ、そういうシンプルなループの中でいかに”オリジナリティ”を出すかが難しいところで。残念ながら今のソーシャルゲームは、そこで一旦カベにぶつかってしまっています。ヘタするとそのシンプルなループが複雑なものになってしまう恐れもあるので、だったら「絵柄で勝負しましょう」とか「人気マンガのキャラクターが出てたら分かりやすいですよね」と、そういう方向で止まってしまっている。僕らも含め、各社が試行錯誤してブレイクスルーを模索しているところです。


[問3] ソーシャルゲームが抱える問題点とは?そして、その「社会的使命」とは?

まず僕が問題だと思っているのは、18歳以下のお子さんが知らないうちに高額なお金を使ってしまっていること。ひいては、そうしたお子さんたちが、ある意味クレジットカードに近い機能を備えた携帯電話を持ってしまっている状況自体が問題だと思うんです。だからこそ僕らの業界が、携帯電話のキャリア企業の方々と一緒になって、きちんとした「制度」を作っていく必要があると思いますね。年齢制限だったり、課金の上限だったり。

ただ大人の方に関しては、あくまで個人的な見解ですが、自分の意思でお金を使っている限りそんなに問題ないんじゃないかと思っています。クルマ好きな方が2000万円のフェラーリを買ったって無駄遣いとは言われないじゃないですか。それなのに「ゲームの中でクルマをカスタマイズするのに10万円かかる」ことを問題視するのはおかしいんじゃないか、と。クルマやブランド品と同じように「価値がある」と感じてもらえた上で「対価」としてお金を払ってもらえている部分に関しては、未成年者に対する課金の問題とは分けて考えるべきじゃないかと思います。

そういう意味でいうと、僕はソーシャルゲームには一つの「経済実験」という側面があると考えているんです。情報社会・ネット社会において人の価値観はどう変わるのか、その実験です。

例えば今、モノが売れない時代ですよね。でも、ソーシャルゲームで10万円のアイテムを購入しようという方はいらっしゃるわけです。それって旧来の価値観からすると「実体のないものにお金を払うなんて、どうかしてるんじゃないか」ということになると思う。でも僕ら運営側がユーザーの方々と接する中で実感しているのは、「それは決しておかしいことじゃなくて、人の価値観のあり方が変わってきているんだ」ということなんです。

「モノを所有している感覚」や「自分のアイデンティティを示すための行為」が、リアルなものでなくても成立するんだということ。デジタルデータに対して所有感覚を持ったり自分の個性を投影できるということの、最も先鋭的な事例がソーシャルゲームだと言えると思うんですね。

tanaka_04

いま残念ながら日本経済は行き詰っていますけど、その《リアル》から《デジタル》への価値観の転換をきっかけに何か変わるんじゃないか。20世紀はモノを作る会社が勝つ時代でしたけど、今は情報を作る会社が勝っている。Appleもそうだし、Amazonもそうですよね。「どうやってみんなが欲しいと思うような情報を作り出すか」というところに、21世紀における経済成長の一つの可能性があるんじゃないかと思います。ソーシャルゲームには、今後100年単位で続くような情報経済への入り口としての意味もあるのかもしれません。

ソーシャルゲーム自体も、これからもっと違った方向で進化を遂げていく可能性もあると思っています。例えばソーシャルゲームを社会問題の解決につなげることもできるかもしれない。ゲーマーの皆さんが頑張ってハイスコアを出そうとすることで、最高に効率のいい発電ができるとか。プレイヤー全員が力をあわせて全国の信号を最適化するゲームとか、十分ありえます。貧困や交通、エネルギーといったでっかい社会問題に集団で取り組むための方法としてソーシャルゲーム的なアプローチをするというのは、すごく面白いと思いますね。

実際、今ヨーロッパで起きている金融危機って、僕らからすると「ソーシャルゲームにおけるポイント流通の量の調整を失敗してるんだろうな」という感じがします。ソーシャルゲームの運営が上手い人に任せたら解決するかも、と(笑)。ゲームとはいえある意味一つの社会を運営しているのと同じなので、そこで出てくる人の協力の仕方とか人との健全な競争の仕方とか、リアルな世界にも通じる部分があると思います。

僕が考えるだけでも、ソーシャルゲームにはこれだけの可能性がある。だから「儲かる」「高額課金者」という側面だけで理解されるのはやっぱり残念で。僕ら自身が考えていることや見ている可能性を、もっと多くの人に知ってもらうための努力も必要だなと感じています。


編集 = CAREER HACK


関連記事

特集記事

リモートワーク時代の戦い方

新型コロナウイルスの影響によって進むリモートワーク。とくにテック企業でいち早く導入され、日々アップデートされている。リモートワークが当たり前となるなかで、いかに働き方を変え、さらに組織として戦っていくか。各社の取り組み、工夫、リモートワークのやり方などに迫ります。

AFTER 2020

時代は平成から令和へ。そして訪れる「2020年以降」の世界。2020年からの「10年」をいかに生きていくか。より具体的に起こすべきアクションのヒントを探る連載企画です。お話を伺うのは、常に時代・社会の変化を捉え、スタートアップと共に"一歩先”を見据えて歩まれてきた投資家のみなさんや、未来を切り拓く有志者のみなさん。それぞれが抱く「これから10年間で現実的に起こり得ること」と「新しい生き方」の思索に

お問い合わせ
取材のご依頼やサイトに関する
お問い合わせはこちらから